セラピストのための
脳卒中評価指標の解釈と活用
定価 4,950円(税込) (本体4,500円+税)
- B5判 280ページ 2色,イラスト120点
- 2020年3月2日刊行
- ISBN978-4-7583-2018-4
電子版
序文
編集の序
脳卒中評価指標は,機能障害や活動(ADL)などのさまざまな分野で,適切に選択され実施されている。しかし,表れた結果について十分な解釈に至らず,ただルーティンワークとして施行しているセラピストは少なくない。臨床現場では時間もとれず情報も少ない状況であり,とても活用されているとは言い難い。
評価指標の意義の一つである数値のもつ意味に関して,目標とするADL との関係性から考えてみる。例えば歩行自立を,包括的バランス指標のカットオフ値で判定できれば,意思決定に繋がっていく。難しいとされる予後予測の一助として,所属施設のデータベースから,多変量解析による予測式作成へ展開できるようになれば有益である。また,数多く存在する問題点がどのようにかかわるのか,それを基準値から判別できれば,客観性の面でも望ましい。しかし,カットオフ値を知ることだけではまだ不十分である。精神状態もしくは認知症のスクリーニングである改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,20点が認知症を疑う境界域である。従って,18点のケースも10点のケースも,同じように認知症疑いで一括処理しがちではないだろうか。目的によって,それが阻害になるかならないかは,それぞれのねらいや価値によって異なる。
脳卒中上肢機能検査(MFT)でも,そのスコアが80点以上になれば,日常生活上は使用可能なレベルということは周知の事実である。しかし,65点も70点も一律に日常生活で使用できないかというと,それは間違いである。65点ではコップで水を飲めるレベル,70点では茶碗を持って食べられるレベルという報告がある。一方,80点以上では日常に支障がないかというと,書字が可能になるには88点程度の高い能力が必要とされている。このように,より細やかな解析がその評価指標の活用価値を高める結果となる。
また,妥当性をもとにADL 指標等で紐付けておけば,複数課題の関連性から確度の高い評価結果を得られる。歩行速度と包括的バランス指標は関連が強い。歩行速度がバランスレベルに比べ速すぎる場合,「協調運動障害」を予見できる。一方が過剰に逸脱する点数だった場合,再評価を促す機会となる。
臨床現場では,実践的に活用できることが大切になる。それは研究データ収集においても同じである。さらに目安となる基準値を知ることで,参考文献に出てきたデータを理解しやすくなる。
本書では,脳卒中リハビリテーションの現場で,使用頻度の高い評価指標を厳選した。その抽出された評価指標自体の実施マニュアルではなく,検査結果からその数値のもつ意味合いやADLとの相互関係にターゲットを絞り,予後予測,問題点抽出,本当の意味での効果判定に使用できるように,また,臨床現場で自らが解釈できるよう解説している。また特徴として,冒頭に各著者の「結論/おすすめポイント」,さらにフローチャートを掲載した。フローチャートは,原則ADL 自立度を導き出すべく構成されているが,一部評価手順について述べている。
執筆は脳卒中リハビリテーションで活躍する諸氏にお願いした。また,本書作成に当たり尽力いただいた,髙橋祐太朗氏,間宮卓治氏はじめメジカルビュー社の方々に感謝申し上げる。
2020年1月
髙見彰淑
脳卒中評価指標は,機能障害や活動(ADL)などのさまざまな分野で,適切に選択され実施されている。しかし,表れた結果について十分な解釈に至らず,ただルーティンワークとして施行しているセラピストは少なくない。臨床現場では時間もとれず情報も少ない状況であり,とても活用されているとは言い難い。
評価指標の意義の一つである数値のもつ意味に関して,目標とするADL との関係性から考えてみる。例えば歩行自立を,包括的バランス指標のカットオフ値で判定できれば,意思決定に繋がっていく。難しいとされる予後予測の一助として,所属施設のデータベースから,多変量解析による予測式作成へ展開できるようになれば有益である。また,数多く存在する問題点がどのようにかかわるのか,それを基準値から判別できれば,客観性の面でも望ましい。しかし,カットオフ値を知ることだけではまだ不十分である。精神状態もしくは認知症のスクリーニングである改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,20点が認知症を疑う境界域である。従って,18点のケースも10点のケースも,同じように認知症疑いで一括処理しがちではないだろうか。目的によって,それが阻害になるかならないかは,それぞれのねらいや価値によって異なる。
脳卒中上肢機能検査(MFT)でも,そのスコアが80点以上になれば,日常生活上は使用可能なレベルということは周知の事実である。しかし,65点も70点も一律に日常生活で使用できないかというと,それは間違いである。65点ではコップで水を飲めるレベル,70点では茶碗を持って食べられるレベルという報告がある。一方,80点以上では日常に支障がないかというと,書字が可能になるには88点程度の高い能力が必要とされている。このように,より細やかな解析がその評価指標の活用価値を高める結果となる。
また,妥当性をもとにADL 指標等で紐付けておけば,複数課題の関連性から確度の高い評価結果を得られる。歩行速度と包括的バランス指標は関連が強い。歩行速度がバランスレベルに比べ速すぎる場合,「協調運動障害」を予見できる。一方が過剰に逸脱する点数だった場合,再評価を促す機会となる。
臨床現場では,実践的に活用できることが大切になる。それは研究データ収集においても同じである。さらに目安となる基準値を知ることで,参考文献に出てきたデータを理解しやすくなる。
本書では,脳卒中リハビリテーションの現場で,使用頻度の高い評価指標を厳選した。その抽出された評価指標自体の実施マニュアルではなく,検査結果からその数値のもつ意味合いやADLとの相互関係にターゲットを絞り,予後予測,問題点抽出,本当の意味での効果判定に使用できるように,また,臨床現場で自らが解釈できるよう解説している。また特徴として,冒頭に各著者の「結論/おすすめポイント」,さらにフローチャートを掲載した。フローチャートは,原則ADL 自立度を導き出すべく構成されているが,一部評価手順について述べている。
執筆は脳卒中リハビリテーションで活躍する諸氏にお願いした。また,本書作成に当たり尽力いただいた,髙橋祐太朗氏,間宮卓治氏はじめメジカルビュー社の方々に感謝申し上げる。
2020年1月
髙見彰淑
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目次
Ⅰ章 ADL,セルフケア等
① 基礎ADL・活動
1 Barthel index(BI) 髙見彰淑
2 機能的自立度評価法(FIM) 永井将太
3 modified Rankin scale(mRS) 藤野雄次
Ⅱ章 包括的評価指標
① 総合的神経症状
1 National Institutes of Health stroke scale(NIHSS) 藤野雄次
② 総合的身体機能
1 Fugl-Meyer assessment(FMA) 藤田俊文,佐藤ちひろ
2 脳卒中機能障害評価セット(SIAS) 永井将太
Ⅲ章 精神・認知機能
① 意識覚醒
1 Japan coma scale(JCS) 髙見彰淑
2 Glasgow coma scale(GCS) 髙見彰淑
② 鎮静鎮痛
1 リッチモンド不穏・鎮静スケール(RASS) 髙見彰淑
③ 精神状態
1 mini-mental state examination(MMSE) 加藤拓彦
2 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) 佐藤ちひろ
④ 意欲発動性
1 標準意欲評価法(CAS) 加藤拓彦
⑤ 注意機能
1 標準注意検査法(CAT) 髙木大輔
2 trail making test(TMT) part A,part B 髙木大輔
⑥ 半側空間無視
1 行動性無視検査(BIT) 酒井 浩
2 Catherine Bergego scale(CBS) 木元裕介
⑦ 記憶機能
1 ウエクスラー記憶検査(WMS™-R) 小山内隆生
2 リバーミード行動記憶検査(RBMT) 小山内隆生
⑧ 精神運動機能
1 標準高次動作性検査(SPTA) 酒井 浩,酒井希代江
⑨ 視知覚
1 標準高次視知覚検査(VPTA) 酒井 浩,酒井希代江
⑩ うつ評価
1 自己評価式抑うつ性尺度(SDS) 上村佐知子
2 ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D) 上村佐知子
⑪ 遂行機能
1 遂行機能障害症候群の行動評価 日本版(BADS) 髙見美貴
Ⅳ章 運動機能
① 関節可動性
1 関節可動域測定法(ROM) 髙見彰淑
② 随意運動制御
1 ブルンストロームの片麻痺回復段階指標(BRS) 牧野美里
2 上田式片麻痺機能テスト(12段階片麻痺機能法) 牧野美里
③ 筋緊張機能
1 modified Tardieu scale(MTS) 竹内伸行
④ 運動失調
1 scale for the assessment and rating of ataxia(SARA) 髙橋純平
Ⅴ章 コミュニケーション
① 実用会話能力
1 実用コミュニケーション能力検査(CADL) 浅田一彦
② 失語症
1 標準失語症検査(SLTA) 浅田一彦
Ⅵ章 バランス
① 姿勢・バランス
1 体幹コントロールテスト(TCT) 松嶋美正
2 脳卒中姿勢評価スケール(PASS) 松嶋美正
3 機能的バランス指標(BBS,FBS) 髙見彰淑
4 timed "up and go" test(TUG) 村上賢一
5 modified motor assessment scale(MMAS) 藤田俊文
② pusher現象
1 Burke lateropulsion scale(BLS) 木元裕介
Ⅶ章 移動動作
① 歩行
1 10m最大歩行速度(10m MWS) 相馬正之
2 6分間歩行テスト(6 MWT) 髙橋純平
3 動的歩行指数テスト(DGI) 相馬正之
Ⅷ章 上肢動作・巧緻性
① 手と腕の使用
1 脳卒中上肢機能検査(MFT) 髙見美貴
2 簡易上肢機能検査(STEF) 竹内健太
3 action research arm test(ARAT) 竹内健太
4 motor activity log(MAL) 竹林 崇
5 Wolf motor function test(WMFT) 竹林 崇
Ⅸ章 生活関連
① 手段的ADL
1 Frenchay activities index(FAI) 村上賢一
② 自動車運転
1 脳卒中ドライバーのスクリーニング評価 日本語版(SDSA) 外舘洸平
Ⅹ章 QOL
① 健康関連
1 medical outcome study short-form 36-item health survey(SF-36®) 泉 良太
② 脳卒中特異的
1 stroke specific QOL scale(SS-QOL) 泉 良太
③ QOL経済
1 EuroQol-5 dimensions-5 levels(EQ-5D-5L) 泉 良太
Ⅺ章 家族・介護
① 介護力
1 在宅介護スコア(HCS) 村上正和
② 介護負担
1 Zarit介護負担尺度 日本語版
(J-ZB) 村上正和
① 基礎ADL・活動
1 Barthel index(BI) 髙見彰淑
2 機能的自立度評価法(FIM) 永井将太
3 modified Rankin scale(mRS) 藤野雄次
Ⅱ章 包括的評価指標
① 総合的神経症状
1 National Institutes of Health stroke scale(NIHSS) 藤野雄次
② 総合的身体機能
1 Fugl-Meyer assessment(FMA) 藤田俊文,佐藤ちひろ
2 脳卒中機能障害評価セット(SIAS) 永井将太
Ⅲ章 精神・認知機能
① 意識覚醒
1 Japan coma scale(JCS) 髙見彰淑
2 Glasgow coma scale(GCS) 髙見彰淑
② 鎮静鎮痛
1 リッチモンド不穏・鎮静スケール(RASS) 髙見彰淑
③ 精神状態
1 mini-mental state examination(MMSE) 加藤拓彦
2 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) 佐藤ちひろ
④ 意欲発動性
1 標準意欲評価法(CAS) 加藤拓彦
⑤ 注意機能
1 標準注意検査法(CAT) 髙木大輔
2 trail making test(TMT) part A,part B 髙木大輔
⑥ 半側空間無視
1 行動性無視検査(BIT) 酒井 浩
2 Catherine Bergego scale(CBS) 木元裕介
⑦ 記憶機能
1 ウエクスラー記憶検査(WMS™-R) 小山内隆生
2 リバーミード行動記憶検査(RBMT) 小山内隆生
⑧ 精神運動機能
1 標準高次動作性検査(SPTA) 酒井 浩,酒井希代江
⑨ 視知覚
1 標準高次視知覚検査(VPTA) 酒井 浩,酒井希代江
⑩ うつ評価
1 自己評価式抑うつ性尺度(SDS) 上村佐知子
2 ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D) 上村佐知子
⑪ 遂行機能
1 遂行機能障害症候群の行動評価 日本版(BADS) 髙見美貴
Ⅳ章 運動機能
① 関節可動性
1 関節可動域測定法(ROM) 髙見彰淑
② 随意運動制御
1 ブルンストロームの片麻痺回復段階指標(BRS) 牧野美里
2 上田式片麻痺機能テスト(12段階片麻痺機能法) 牧野美里
③ 筋緊張機能
1 modified Tardieu scale(MTS) 竹内伸行
④ 運動失調
1 scale for the assessment and rating of ataxia(SARA) 髙橋純平
Ⅴ章 コミュニケーション
① 実用会話能力
1 実用コミュニケーション能力検査(CADL) 浅田一彦
② 失語症
1 標準失語症検査(SLTA) 浅田一彦
Ⅵ章 バランス
① 姿勢・バランス
1 体幹コントロールテスト(TCT) 松嶋美正
2 脳卒中姿勢評価スケール(PASS) 松嶋美正
3 機能的バランス指標(BBS,FBS) 髙見彰淑
4 timed "up and go" test(TUG) 村上賢一
5 modified motor assessment scale(MMAS) 藤田俊文
② pusher現象
1 Burke lateropulsion scale(BLS) 木元裕介
Ⅶ章 移動動作
① 歩行
1 10m最大歩行速度(10m MWS) 相馬正之
2 6分間歩行テスト(6 MWT) 髙橋純平
3 動的歩行指数テスト(DGI) 相馬正之
Ⅷ章 上肢動作・巧緻性
① 手と腕の使用
1 脳卒中上肢機能検査(MFT) 髙見美貴
2 簡易上肢機能検査(STEF) 竹内健太
3 action research arm test(ARAT) 竹内健太
4 motor activity log(MAL) 竹林 崇
5 Wolf motor function test(WMFT) 竹林 崇
Ⅸ章 生活関連
① 手段的ADL
1 Frenchay activities index(FAI) 村上賢一
② 自動車運転
1 脳卒中ドライバーのスクリーニング評価 日本語版(SDSA) 外舘洸平
Ⅹ章 QOL
① 健康関連
1 medical outcome study short-form 36-item health survey(SF-36®) 泉 良太
② 脳卒中特異的
1 stroke specific QOL scale(SS-QOL) 泉 良太
③ QOL経済
1 EuroQol-5 dimensions-5 levels(EQ-5D-5L) 泉 良太
Ⅺ章 家族・介護
① 介護力
1 在宅介護スコア(HCS) 村上正和
② 介護負担
1 Zarit介護負担尺度 日本語版
(J-ZB) 村上正和
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脳卒中のリハビリテーションに用いる評価指標の検査結果の解釈や活用法に焦点を当てた,これまでにない書籍
脳卒中のリハビリテーションに用いる各種の評価指標のうち,臨床で使用頻度の高いものを網羅し,検査結果をどう解釈し,どのように活用するかを解説。1つ1つの評価指標の検査結果が示す意味の解説はもちろん,複数の評価指標の検査結果を組み合わせると何がわかるかについても,可能な限り実例を用いて記載している。
最初の見開きで「結論/おすすめポイント」「検査・測定のポイント」「評価上のポイント」「各評価施行・解釈のフローチャート」がまとめられ全体が理解しやすい構成となっているので,臨床現場での活用はもちろん,学生のサブテキストとしてもお薦め。