リハ実践テクニック
脳卒中
[Web動画付]
第4版
定価 6,160円(税込) (本体5,600円+税)
- B5変型判 400ページ オールカラー,イラスト150点,写真350点
- 2024年12月2日刊行
- ISBN978-4-7583-2259-1
電子版
序文
第4版 監修の序
日本の総人口は,2008年に1億2,810万人でピークを迎え,すでに人口減少社会に入っている。しかしこれは生産年齢人口の減少幅が大きいことが影響している。高齢者に限れば,2025年に団塊の世代全員が後期高齢者となる。そのため2026年以降は後期高齢者の増加率が低下し,多くの地域では高齢者数は減少するが,首都圏では増加し続ける。全体として高齢者数は,年間で20〜30万人程度増加し,2042年に3,935万人となりピークを迎える。
大学を辞めて臨床の場に身を移してから10年以上経つが,脳卒中患者も高齢化が確実に進み,併存疾患が多いことを実感している。すなわち従来と同じようなやり方ではリハビリテーションの成果が得られにくくなっている。高齢化に伴い,社会保障給付費も毎年増額の一途をたどっており,国は上昇幅を少しでも抑えようとしている。回復期リハビリテーション病棟では,2016年の診療報酬改定でリハビリテーション実績指数が導入され,リハビリテーション医療においてアウトカムが求められるようになった。すなわち短い入院期間でいかに最大効果を上げるかがリハビリテーションの現場で命題となっている。
そのような状況のなか,脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに全面改定され,2021〔改訂2023〕年版が発行された。今回の改定では2015年版と異なり,エビデンスレベルだけでなく,利益と不利益のバランスや実施のためのコストなどを考慮して推奨度が判定されている。運動障害に対しては,課題に特化した訓練が推奨され,歩行障害に関しては,歩行補助具や物理機器,装具を使用した報告が多く紹介された。上肢機能障害に関しては,ロボットを用いた訓練,視覚刺激や運動イメージを早期に用いた訓練が推奨された。ADL障害に対しては,姿勢保持能力や下肢運動機能の改善を目的とした訓練,さまざまは上肢訓練,反復経頭蓋磁気刺激療法や経頭蓋直流電気刺激療法,電気刺激療法など複数の方法が推奨された。多くのニューロリハビリテーションに関する研究成果が,脳卒中治療ガイドラインに強く影響していることが伺い知れる。本書の改訂においても,ニューロリハビリテーションの内容を新しく取り入れ,求められる変化に即したものとなっている。
私が30年以上前にリハビリテーション医学を学び始めた頃,先輩医師に脳卒中のリハビリテーションで何か良い本はないかと尋ねた。当時は今ほどリハビリテーション関係の書籍は多くなかったが,そこで紹介されたのが二木先生と上田先生の書かれた『脳卒中の早期リハビリテーション』(医学書院,1987.)であった。すでに絶版となっているが,評価や予後予測,チームワークのことなど,今でもその本から学んだことは記憶に残っている。本書の各章からは,それぞれの執筆者自身が実際に脳卒中患者を診てきた経験の裏付けが感じられる。脳卒中リハビリテーションの実践テクニックを学びたいと思って,本書を手に取る学生や若い医療従事者の記憶に残る一冊となることを願っている。
最後に本書の出版にあたっては,間宮卓治氏ほか,メジカルビュー社の方々に多大なご尽力をいただいた。心から謝意を表する。
2024年11月
岩田 学
-------------------
第4版 編集の序
エビデンスレベルの高い手法を収載した『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』に代表されるように,脳卒中治療・検査には格段の進歩があり,めざましいものがある。これを受けて脳卒中リハビリテーションの関連書籍が数多く刊行されるなか,2006年に初版が上梓された本書が18年以上継続して,この度第4版を刊行する運びになったのは,大変喜ばしいことである。医師やセラピストに加え,重要な役割を担う看護師目線からもまとめられている点が希少であると自負している。リハビリテーション関連職種の専門的な役割紹介とチームの協力性,治療現場での経験と専門知識を融合・駆使した「実践力」を,惜しみなく本書に執筆いただいていることも継続理由の一つであろうが,これを実現に導かれたのは,初版から第3版の編集を担当された千田富義先生の,脳卒中リハビリテーションでの治療や検査での真実を伝える眼,多大なる尽力によるものといっても過言ではないだろう。
残念ながら第4版刊行前に千田先生は逝去されたが,これまでさまざまに指導いただいたなかでも心に残っているものを挙げると,一つは「臨床研究で出た結果は,自身の仮説と異なっても,恣意的に自分に有利な意見を抽出したり考えを歪曲させずに,改善しなかったもの,有意差が出てないものにも焦点を当ててきちんと考察しなさい。それらの結果は,臨床現場での真実でもあるわけだから」と言われたこと。もう一つは「覚えた知識や技術,臨床研究で得た結果を報告,学会などで発表するのは当然のこと,それを患者に再度実行してみて,検証することが大切である。それこそが,実践するということ」。本書の命題でもある“実践”テクニックは,そこに真髄があると考える。
また,千田先生は「何か臨床で困ったとき,サッと目を通して即応できるものが手引き書として望ましい」と常々述べられていた。「初学者の教科書になるのだから,多少堅くても根拠ある確実性のあるものを採用し掲載する」スタンスは本書の特徴でもある。堅実性,現実性,その意志も継ぎながら,今回の第4版では『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』を主軸に多くの写真・図表や,とりわけ具体的治療の紹介では動画を取り入れ,わかりやすく,目で見て覚えていただく形式とした。今や誰もが所持しているスマートフォンからQRコードで容易にアクセスし動画が見られるようになっている。日常の診療で大いに役立つものを作成しているので,多くのリハビリテーションスタッフに手を取っていただきたい。
最後に,撮影に協力いただいた当事者の方々に感謝いたします。また,監修を引き受けていただいた岩田 学先生をはじめ,新規に協力いただいた,弘前脳卒中・リハビリテーションセンターのスタッフ,初版から執筆いただいた先生方,新規依頼を快く引き受けていただいた先生方,動画作成に関わった方々に謝意を表すとともに,本書完成に協力していただいた間宮卓治氏はじめメジカルビュー社スタッフの方々に心より感謝申し上げる。
2024年11月
髙見彰淑
日本の総人口は,2008年に1億2,810万人でピークを迎え,すでに人口減少社会に入っている。しかしこれは生産年齢人口の減少幅が大きいことが影響している。高齢者に限れば,2025年に団塊の世代全員が後期高齢者となる。そのため2026年以降は後期高齢者の増加率が低下し,多くの地域では高齢者数は減少するが,首都圏では増加し続ける。全体として高齢者数は,年間で20〜30万人程度増加し,2042年に3,935万人となりピークを迎える。
大学を辞めて臨床の場に身を移してから10年以上経つが,脳卒中患者も高齢化が確実に進み,併存疾患が多いことを実感している。すなわち従来と同じようなやり方ではリハビリテーションの成果が得られにくくなっている。高齢化に伴い,社会保障給付費も毎年増額の一途をたどっており,国は上昇幅を少しでも抑えようとしている。回復期リハビリテーション病棟では,2016年の診療報酬改定でリハビリテーション実績指数が導入され,リハビリテーション医療においてアウトカムが求められるようになった。すなわち短い入院期間でいかに最大効果を上げるかがリハビリテーションの現場で命題となっている。
そのような状況のなか,脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに全面改定され,2021〔改訂2023〕年版が発行された。今回の改定では2015年版と異なり,エビデンスレベルだけでなく,利益と不利益のバランスや実施のためのコストなどを考慮して推奨度が判定されている。運動障害に対しては,課題に特化した訓練が推奨され,歩行障害に関しては,歩行補助具や物理機器,装具を使用した報告が多く紹介された。上肢機能障害に関しては,ロボットを用いた訓練,視覚刺激や運動イメージを早期に用いた訓練が推奨された。ADL障害に対しては,姿勢保持能力や下肢運動機能の改善を目的とした訓練,さまざまは上肢訓練,反復経頭蓋磁気刺激療法や経頭蓋直流電気刺激療法,電気刺激療法など複数の方法が推奨された。多くのニューロリハビリテーションに関する研究成果が,脳卒中治療ガイドラインに強く影響していることが伺い知れる。本書の改訂においても,ニューロリハビリテーションの内容を新しく取り入れ,求められる変化に即したものとなっている。
私が30年以上前にリハビリテーション医学を学び始めた頃,先輩医師に脳卒中のリハビリテーションで何か良い本はないかと尋ねた。当時は今ほどリハビリテーション関係の書籍は多くなかったが,そこで紹介されたのが二木先生と上田先生の書かれた『脳卒中の早期リハビリテーション』(医学書院,1987.)であった。すでに絶版となっているが,評価や予後予測,チームワークのことなど,今でもその本から学んだことは記憶に残っている。本書の各章からは,それぞれの執筆者自身が実際に脳卒中患者を診てきた経験の裏付けが感じられる。脳卒中リハビリテーションの実践テクニックを学びたいと思って,本書を手に取る学生や若い医療従事者の記憶に残る一冊となることを願っている。
最後に本書の出版にあたっては,間宮卓治氏ほか,メジカルビュー社の方々に多大なご尽力をいただいた。心から謝意を表する。
2024年11月
岩田 学
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第4版 編集の序
エビデンスレベルの高い手法を収載した『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』に代表されるように,脳卒中治療・検査には格段の進歩があり,めざましいものがある。これを受けて脳卒中リハビリテーションの関連書籍が数多く刊行されるなか,2006年に初版が上梓された本書が18年以上継続して,この度第4版を刊行する運びになったのは,大変喜ばしいことである。医師やセラピストに加え,重要な役割を担う看護師目線からもまとめられている点が希少であると自負している。リハビリテーション関連職種の専門的な役割紹介とチームの協力性,治療現場での経験と専門知識を融合・駆使した「実践力」を,惜しみなく本書に執筆いただいていることも継続理由の一つであろうが,これを実現に導かれたのは,初版から第3版の編集を担当された千田富義先生の,脳卒中リハビリテーションでの治療や検査での真実を伝える眼,多大なる尽力によるものといっても過言ではないだろう。
残念ながら第4版刊行前に千田先生は逝去されたが,これまでさまざまに指導いただいたなかでも心に残っているものを挙げると,一つは「臨床研究で出た結果は,自身の仮説と異なっても,恣意的に自分に有利な意見を抽出したり考えを歪曲させずに,改善しなかったもの,有意差が出てないものにも焦点を当ててきちんと考察しなさい。それらの結果は,臨床現場での真実でもあるわけだから」と言われたこと。もう一つは「覚えた知識や技術,臨床研究で得た結果を報告,学会などで発表するのは当然のこと,それを患者に再度実行してみて,検証することが大切である。それこそが,実践するということ」。本書の命題でもある“実践”テクニックは,そこに真髄があると考える。
また,千田先生は「何か臨床で困ったとき,サッと目を通して即応できるものが手引き書として望ましい」と常々述べられていた。「初学者の教科書になるのだから,多少堅くても根拠ある確実性のあるものを採用し掲載する」スタンスは本書の特徴でもある。堅実性,現実性,その意志も継ぎながら,今回の第4版では『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』を主軸に多くの写真・図表や,とりわけ具体的治療の紹介では動画を取り入れ,わかりやすく,目で見て覚えていただく形式とした。今や誰もが所持しているスマートフォンからQRコードで容易にアクセスし動画が見られるようになっている。日常の診療で大いに役立つものを作成しているので,多くのリハビリテーションスタッフに手を取っていただきたい。
最後に,撮影に協力いただいた当事者の方々に感謝いたします。また,監修を引き受けていただいた岩田 学先生をはじめ,新規に協力いただいた,弘前脳卒中・リハビリテーションセンターのスタッフ,初版から執筆いただいた先生方,新規依頼を快く引き受けていただいた先生方,動画作成に関わった方々に謝意を表すとともに,本書完成に協力していただいた間宮卓治氏はじめメジカルビュー社スタッフの方々に心より感謝申し上げる。
2024年11月
髙見彰淑
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目次
Ⅰ 脳卒中リハビリテーションの概要
疾患の特徴とリハビリテーションでの注意点 横山絵里子
各時期のリハビリテーション 横山絵里子
脳卒中リハビリテーションでのチームアプローチ 佐山一郎
Ⅱ 診察と運動・動作評価
リハビリテーションで行う問診と診察 岩田 学
神経学的検査 岩田 学
整形外科的診療法 岩田 学
心理検査 上村佐知子
運動・動作障害の評価 髙見彰淑
Ⅲ リハビリテーションの実際
A 運動・動作障害の治療介入
リハビリテーション時のリスク管理 髙見彰淑
関節可動域維持・拡大 髙見彰淑
姿勢バランス・起居動作指導 須藤恵理子
歩行練習 須藤恵理子
上肢・手動作 髙見美貴
反復性経頭蓋磁気刺激/経頭蓋直流電気刺激装置 髙橋純平
B 高次脳機能障害の治療介入
検査・介入方法の概要 髙見美貴
症状・介入方法の留意点 算用子暁美
C その他,主な障害別治療介入
パーキンソン症候群 横山絵里子
小脳症状に対するアプローチ(主に運動失調について) 髙見彰淑
血管性認知症 下村辰雄
姿勢(空間)定位障害:Pusher現象およびlateropulsion,重心後方偏位 髙見彰淑
嚥下障害 中澤 操
言語障害 武石香里
排泄障害 長岡正範
痙縮 長岡正範
中枢性疼痛 長岡正範
体力低下(フィットネス) 鈴木文歌
D 動画・画像で見る具体的な治療法
CI療法 髙見彰淑
ロボット治療(1)HAL® 武田 超
ロボット治療(2)ReoGo-J 渡部清寛
促通反復療法 吉田悟己
VR・AR活用 田口 惇
電気刺激療法 山本賢雅
長下肢装具を用いた理学療法アプローチ 佐藤元哉
E 日常生活活動(ADL)制限
ADL検査の概念 髙見美貴
ADL評価 髙見美貴,髙見彰淑
健康関連QOL評価 髙見彰淑
治療(1)標準ADL 髙見美貴
治療(2)手段的ADL 川野辺 穣
職業前評価・指導 川野辺 穣
自動車運転 川野辺 穣
自助具 川野辺 穣
下肢装具,歩行補助具,アームスリング 佐竹将宏
F リハビリテーション看護の実例
リハビリテーション看護の実例 堀川美貴子,佐藤亜希子
G リハビリテーション医療における在宅支援
在宅支援の進め方と地域医療連携 牧野美里
家屋評価と住宅改修 須藤恵理子
福祉用具の紹介 藤田俊文
疾患の特徴とリハビリテーションでの注意点 横山絵里子
各時期のリハビリテーション 横山絵里子
脳卒中リハビリテーションでのチームアプローチ 佐山一郎
Ⅱ 診察と運動・動作評価
リハビリテーションで行う問診と診察 岩田 学
神経学的検査 岩田 学
整形外科的診療法 岩田 学
心理検査 上村佐知子
運動・動作障害の評価 髙見彰淑
Ⅲ リハビリテーションの実際
A 運動・動作障害の治療介入
リハビリテーション時のリスク管理 髙見彰淑
関節可動域維持・拡大 髙見彰淑
姿勢バランス・起居動作指導 須藤恵理子
歩行練習 須藤恵理子
上肢・手動作 髙見美貴
反復性経頭蓋磁気刺激/経頭蓋直流電気刺激装置 髙橋純平
B 高次脳機能障害の治療介入
検査・介入方法の概要 髙見美貴
症状・介入方法の留意点 算用子暁美
C その他,主な障害別治療介入
パーキンソン症候群 横山絵里子
小脳症状に対するアプローチ(主に運動失調について) 髙見彰淑
血管性認知症 下村辰雄
姿勢(空間)定位障害:Pusher現象およびlateropulsion,重心後方偏位 髙見彰淑
嚥下障害 中澤 操
言語障害 武石香里
排泄障害 長岡正範
痙縮 長岡正範
中枢性疼痛 長岡正範
体力低下(フィットネス) 鈴木文歌
D 動画・画像で見る具体的な治療法
CI療法 髙見彰淑
ロボット治療(1)HAL® 武田 超
ロボット治療(2)ReoGo-J 渡部清寛
促通反復療法 吉田悟己
VR・AR活用 田口 惇
電気刺激療法 山本賢雅
長下肢装具を用いた理学療法アプローチ 佐藤元哉
E 日常生活活動(ADL)制限
ADL検査の概念 髙見美貴
ADL評価 髙見美貴,髙見彰淑
健康関連QOL評価 髙見彰淑
治療(1)標準ADL 髙見美貴
治療(2)手段的ADL 川野辺 穣
職業前評価・指導 川野辺 穣
自動車運転 川野辺 穣
自助具 川野辺 穣
下肢装具,歩行補助具,アームスリング 佐竹将宏
F リハビリテーション看護の実例
リハビリテーション看護の実例 堀川美貴子,佐藤亜希子
G リハビリテーション医療における在宅支援
在宅支援の進め方と地域医療連携 牧野美里
家屋評価と住宅改修 須藤恵理子
福祉用具の紹介 藤田俊文
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リハの現場で必須となる評価法や技術を,動画とカラー写真とを多用して解説。即,実践に役立つ!
脳卒中はその原疾患,病期によってアプローチが異なり,治療と並行して訓練を進めていく。治療・訓練には医師だけではなく,看護師,理学療法士,作業療法士をはじめ様々なスタッフが関わり,チームとして医療を行わなければならない。
本書では,脳卒中のリハビリテーションについて,その概要から,評価,リハの実際,また看護までを経験豊富なスタッフが解説する。特にリハの現場で必須となる評価法と技術を,実際の脳卒中患者の協力によるストリーミング動画とカラー写真とを多用してわかりやすく解説し,即,実践に役立つ内容になっている。
脳卒中治療ガイドラインや関連法規の改定にも対応し,脳卒中リハビリテーションの臨床で求められる知識と技術をまとめた1冊である。