脳機能の基礎知識と
神経症候ケーススタディ
症例から学ぶリハビリテーション臨床思考
改訂第2版
定価 6,380円(税込) (本体5,800円+税)
- B5判 320ページ オールカラー,イラスト300点,写真150点
- 2022年9月29日刊行
- ISBN978-4-7583-2040-5
電子版
序文
改訂第2版 編集の序
多彩な神経症候を症例ベースで徹底的に読み解き, リハビリテーションの臨床現場で活かせる実践書として,2017年に本書が刊行されてから約6年が経過した。これまでに本書は,多くのリハビリテーション専門職の方々に手に取っていただき「脳損傷例の神経学的および神経心理学的所見のみならず,画像所見やその経過,多彩なコラムの記載などがあり,臨床上大変参考になる」などの好評を得てきた。
読者の理解をさらに深めるため,改訂第2版では,脳機能とリハビリテーション研究会に書籍出版部を新たに立ち上げ,章立てや構成のレベルから本書籍の全面的な改訂を行った。「Ⅰ.脳の構造」の章では,神経症候が生じるメカニズムをより深く理解するために必要な基礎知識について記載した。「Ⅱ.脳の機能と障害」の章では,各々の脳領域の機能についての基礎知識と,それに関連する症例報告を一つの節にまとめた。このような整理により,例えば,脳画像所見から担当症例の損傷領域を同定した後に,該当する脳領域の節を参照することで,損傷領域に関する基礎的な知識と,それに類似した先行症例に関する具体的な知識を包括的に得られるようにした。また改訂第2版では,視床や大脳基底核,小脳損傷など,学生や新人療法士が頻繁に遭遇するであろう症例を大幅に追加した。なお,追加した症例報告に関しては,初版と同様に,学術雑誌などにて発表済みであり,信頼性が高いと考えられる報告を厳選して収載した。
本書は,運動開始困難や運動無視など,聞き慣れない神経症候も多く取り扱っている。これらの症例は一見レアケースとして受け取られるが,日常の臨床において頻繁に遭遇しているにもかかわらず,評価者がその存在を見落としている場合が多いように思われる。神経症候の見落としは,最良なアプローチ方法の立案の妨げとなるため,可能な限り正確に症状を評価することが重要である。例えば,運動開始困難や運動無視の症例は運動の実施が困難であるため,重度運動麻痺の症例として評価を進めるかもしれない。しかし,運動麻痺とは異なり,運動開始困難はいったん運動が開始されれば,直進歩行などの自動運動が可能であり,一方,運動無視は自動運動が困難であるが,声かけなどにより四肢に注意が向けば随意運動が可能である。すなわち,運動困難の背景を考察することにより,担当症例が呈する症候の特徴を活かした代償的なアプローチ方法の提案などにつながることがある。本書に収載された多数の症例報告は,このような評価の見落としを防ぐうえで,大変役立つ資料になるだろう。
本書は,内容の充実を図るために,今後もさらなるブラッシュアップを重ねていく。掲載する症例は,主に脳機能とリハビリテーション研究会の学術雑誌・学術集会・勉強会にて発表された症例報告を中心に検討していく。是非,皆様の貴重な臨床経験を情報共有していただき,本書の拡充にご協力を願いたい。本書が読者のより一層の神経症候の理解に寄与し,その知見が臨床現場に広く還元されることを祈念する。
2022年8月
脳機能とリハビリテーション研究会 書籍出版部 一同
多彩な神経症候を症例ベースで徹底的に読み解き, リハビリテーションの臨床現場で活かせる実践書として,2017年に本書が刊行されてから約6年が経過した。これまでに本書は,多くのリハビリテーション専門職の方々に手に取っていただき「脳損傷例の神経学的および神経心理学的所見のみならず,画像所見やその経過,多彩なコラムの記載などがあり,臨床上大変参考になる」などの好評を得てきた。
読者の理解をさらに深めるため,改訂第2版では,脳機能とリハビリテーション研究会に書籍出版部を新たに立ち上げ,章立てや構成のレベルから本書籍の全面的な改訂を行った。「Ⅰ.脳の構造」の章では,神経症候が生じるメカニズムをより深く理解するために必要な基礎知識について記載した。「Ⅱ.脳の機能と障害」の章では,各々の脳領域の機能についての基礎知識と,それに関連する症例報告を一つの節にまとめた。このような整理により,例えば,脳画像所見から担当症例の損傷領域を同定した後に,該当する脳領域の節を参照することで,損傷領域に関する基礎的な知識と,それに類似した先行症例に関する具体的な知識を包括的に得られるようにした。また改訂第2版では,視床や大脳基底核,小脳損傷など,学生や新人療法士が頻繁に遭遇するであろう症例を大幅に追加した。なお,追加した症例報告に関しては,初版と同様に,学術雑誌などにて発表済みであり,信頼性が高いと考えられる報告を厳選して収載した。
本書は,運動開始困難や運動無視など,聞き慣れない神経症候も多く取り扱っている。これらの症例は一見レアケースとして受け取られるが,日常の臨床において頻繁に遭遇しているにもかかわらず,評価者がその存在を見落としている場合が多いように思われる。神経症候の見落としは,最良なアプローチ方法の立案の妨げとなるため,可能な限り正確に症状を評価することが重要である。例えば,運動開始困難や運動無視の症例は運動の実施が困難であるため,重度運動麻痺の症例として評価を進めるかもしれない。しかし,運動麻痺とは異なり,運動開始困難はいったん運動が開始されれば,直進歩行などの自動運動が可能であり,一方,運動無視は自動運動が困難であるが,声かけなどにより四肢に注意が向けば随意運動が可能である。すなわち,運動困難の背景を考察することにより,担当症例が呈する症候の特徴を活かした代償的なアプローチ方法の提案などにつながることがある。本書に収載された多数の症例報告は,このような評価の見落としを防ぐうえで,大変役立つ資料になるだろう。
本書は,内容の充実を図るために,今後もさらなるブラッシュアップを重ねていく。掲載する症例は,主に脳機能とリハビリテーション研究会の学術雑誌・学術集会・勉強会にて発表された症例報告を中心に検討していく。是非,皆様の貴重な臨床経験を情報共有していただき,本書の拡充にご協力を願いたい。本書が読者のより一層の神経症候の理解に寄与し,その知見が臨床現場に広く還元されることを祈念する。
2022年8月
脳機能とリハビリテーション研究会 書籍出版部 一同
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目次
Ⅰ 脳の構造
1 基本的な解剖学 [脳機能とリハビリテーション研究会]]
2 機能的階層性:情報の流れ [脳機能とリハビリテーション研究会]]
Ⅱ 脳の機能と障害
1 前頭葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】純粋運動単麻痺(pure motor monoparesis) [河野 豊]
下肢優位の運動麻痺 [岡本 善敬]
運動開始困難 [村山 尊司]
運動無視 [揚戸 薫]
本能性把握反応と道具の強迫的使用 [高杉 潤]
利用行動,模倣行動 [松澤 和洋,高杉 潤]
拮抗失行 [遠藤 博]
【COLUMN】 脳梁の血管 [遠藤 博]
自発性の低下,akinetic mutism [若旅 正弘]
夜尿症 [加藤 將暉,高杉 潤]
2 頭頂葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
症例提示 肢節運動失行 [戸坂 友也]
Ataxie optique [村山 尊司]
自己身体定位障害,距離判断障害 [若旅 正弘]
左半側空間無視 [山本 竜也]
【COLUMN】 脳梗塞・脳出血による左半側空間無視 [小和板 仁]
右半側空間無視 [大塚 裕之]
【COLUMN】 知覚転位(allesthesia) [高杉 潤]
3 側頭葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】発達性相貌失認 [栗田 幸平]
【COLUMN】 相貌失認の概要と発達性相貌失認の特徴 [栗田 幸平]
街並失認 [内田 武正]
道順障害 [揚戸 薫]
4 後頭葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】皮質盲 [梅原 裕樹]
純粋失読 [高杉 潤]
5 辺縁系 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】逆向性健忘 [元木 雄一朗]
Klüver Bucy症候群 [若林 俊夫]
島皮質損傷による多彩な症状 [飯川 雄]
6 皮質下構造 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】視床性運動失調 [北郷 仁彦]
体性感覚障害,右同名半盲,自発性の低下,健忘失語 [太田 隆之,山本 竜也]
【COLUMN】 脳血管性パーキンソニズム [太田 隆之,山本 竜也]
視床性失立症 [山本 哲]
【COLUMN】 両側視床梗塞 [山本 哲]
記憶障害と情動障害 [山本 哲]
被殻出血の血腫量と運動麻痺の関係 [大西 斉,宮坂 裕之]
被殻出血と高次脳機能障害 [渡邉 誠]
7 小脳 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】小脳性運動失調 [井上 桂輔]
小脳損傷による認知・情動障害 [若旅 正弘]
【COLUMN】 慢性期の小脳損傷例の認知・情動障害 [若旅 正弘]
8 脳幹 脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】Kernohan切痕による病巣側の麻痺 [大村 優慈]
四肢近位筋の筋力低下 [岡本 善敬]
余剰幻肢 [山本 竜也]
lateropulsion [岡本 善敬]
【COLUMN】 lateropulsionに関するその他の神経回路 [岡本 善敬]
延髄外側症候群 [加藤 將暉,高杉 潤]
延髄内側症候群 [迫 力太郎,山本 哲]
1 基本的な解剖学 [脳機能とリハビリテーション研究会]]
2 機能的階層性:情報の流れ [脳機能とリハビリテーション研究会]]
Ⅱ 脳の機能と障害
1 前頭葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】純粋運動単麻痺(pure motor monoparesis) [河野 豊]
下肢優位の運動麻痺 [岡本 善敬]
運動開始困難 [村山 尊司]
運動無視 [揚戸 薫]
本能性把握反応と道具の強迫的使用 [高杉 潤]
利用行動,模倣行動 [松澤 和洋,高杉 潤]
拮抗失行 [遠藤 博]
【COLUMN】 脳梁の血管 [遠藤 博]
自発性の低下,akinetic mutism [若旅 正弘]
夜尿症 [加藤 將暉,高杉 潤]
2 頭頂葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
症例提示 肢節運動失行 [戸坂 友也]
Ataxie optique [村山 尊司]
自己身体定位障害,距離判断障害 [若旅 正弘]
左半側空間無視 [山本 竜也]
【COLUMN】 脳梗塞・脳出血による左半側空間無視 [小和板 仁]
右半側空間無視 [大塚 裕之]
【COLUMN】 知覚転位(allesthesia) [高杉 潤]
3 側頭葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】発達性相貌失認 [栗田 幸平]
【COLUMN】 相貌失認の概要と発達性相貌失認の特徴 [栗田 幸平]
街並失認 [内田 武正]
道順障害 [揚戸 薫]
4 後頭葉 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】皮質盲 [梅原 裕樹]
純粋失読 [高杉 潤]
5 辺縁系 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】逆向性健忘 [元木 雄一朗]
Klüver Bucy症候群 [若林 俊夫]
島皮質損傷による多彩な症状 [飯川 雄]
6 皮質下構造 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】視床性運動失調 [北郷 仁彦]
体性感覚障害,右同名半盲,自発性の低下,健忘失語 [太田 隆之,山本 竜也]
【COLUMN】 脳血管性パーキンソニズム [太田 隆之,山本 竜也]
視床性失立症 [山本 哲]
【COLUMN】 両側視床梗塞 [山本 哲]
記憶障害と情動障害 [山本 哲]
被殻出血の血腫量と運動麻痺の関係 [大西 斉,宮坂 裕之]
被殻出血と高次脳機能障害 [渡邉 誠]
7 小脳 [脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】小脳性運動失調 [井上 桂輔]
小脳損傷による認知・情動障害 [若旅 正弘]
【COLUMN】 慢性期の小脳損傷例の認知・情動障害 [若旅 正弘]
8 脳幹 脳機能とリハビリテーション研究会]
【症例提示】Kernohan切痕による病巣側の麻痺 [大村 優慈]
四肢近位筋の筋力低下 [岡本 善敬]
余剰幻肢 [山本 竜也]
lateropulsion [岡本 善敬]
【COLUMN】 lateropulsionに関するその他の神経回路 [岡本 善敬]
延髄外側症候群 [加藤 將暉,高杉 潤]
延髄内側症候群 [迫 力太郎,山本 哲]
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脳損傷後にみられる神経症候を脳解剖,脳機能の基礎から解説し,部位ごとの機能とそれぞれの障害に起因するさまざまな神経症候のメカニズムを症例ベースで解き明かす。脳画像に基づく正確な病巣の把握,神経学的検査と評価,メカニズムの解説から,これらの知見をどのようにリハビリテーションの臨床に活かせばよいかまでを網羅した実践書。
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