認知障害作業療法ケースブック
重度別の認知症と作業療法
ADL/IADL能力の獲得に向けて
定価 4,180円(税込) (本体3,800円+税)
- B5判 184ページ 2色(一部カラー),イラスト30点,写真50点
- 2021年4月1日刊行
- ISBN978-4-7583-1946-1
序文
本書は,メジカルビュー社発刊の『認知障害作業療法ケースブック 疾患別にみる認知症と作業療法』のシリーズ第2弾として刊行に至った。
認知症のケアにおいて介護者が対応に苦慮するのは行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)であることが多いが,認知症にかかった本人にとって最も困るのは,認知症の進行に伴い,日常の生活行為がうまくできなくなってくる戸惑いだろう。
認知症のリハビリテーションは実際に生活する場面を念頭に置きつつ,保たれている認知機能などの能力をしっかり見極め,これを最大限に活かしながら,日常生活活動(activities of daily living:ADL,食事,排泄など)や手段的日常生活活動(instrumental ADL:IADL,掃除,趣味活動,社会参加など)を自立し継続することである(2015新オレンジプランより)。
認知症医療において,認知症を治すことは人類の悲願の一つである。しかし,進行を緩めることはできても完全に止めることが難しい現状では,認知症による認知機能障害が残っても,自分が望む生活を維持できる,もしくは自分の役割を継続できる,ということは認知症とともに生きていくうえで,とても大切なことである。例えば,認知機能テストの記憶テストで「大根」「にんじん」「豚肉」は覚えられなくても,目の前に実物があり,手順を想い出すことができれば,簡単な豚汁はできる。日によって,豚汁が豚味噌煮込みになるかもしれないが,できる能力を大切にして,「私はまだまだ料理ができる」と本人が実感でき,医療者・介護者にとってもそのような支援が当たり前になることを願っている。
認知症と診断された後,病気によって障害される可能性のある生活行為に対し,早期から自立の継続に向けたアプローチを行い,いつまでも自分の生活が自分の方法で続けられるようにすることが,作業療法の最も大切な役割であろう。
本書は,「人は作業をすることで健康になれる」という,日本作業療法士協会が提案する作業療法の在り方を広く知ってもらうとともに,病気や障害をもっても大丈夫,いろいろな工夫や仕方を取り入れることによって,自分のしたい生活が維持できる,ということを当事者の方々に提案するきっかけになることを期待している。
また,全国の作業療法士が事例の取り組みからヒントを得て,認知症の方々へのADLやIADLの取り組みを促す一冊となり,そのような事例が広がっていくことになれば望外の喜びである。
2021年3月
村井千賀
池田 学
認知症のケアにおいて介護者が対応に苦慮するのは行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)であることが多いが,認知症にかかった本人にとって最も困るのは,認知症の進行に伴い,日常の生活行為がうまくできなくなってくる戸惑いだろう。
認知症のリハビリテーションは実際に生活する場面を念頭に置きつつ,保たれている認知機能などの能力をしっかり見極め,これを最大限に活かしながら,日常生活活動(activities of daily living:ADL,食事,排泄など)や手段的日常生活活動(instrumental ADL:IADL,掃除,趣味活動,社会参加など)を自立し継続することである(2015新オレンジプランより)。
認知症医療において,認知症を治すことは人類の悲願の一つである。しかし,進行を緩めることはできても完全に止めることが難しい現状では,認知症による認知機能障害が残っても,自分が望む生活を維持できる,もしくは自分の役割を継続できる,ということは認知症とともに生きていくうえで,とても大切なことである。例えば,認知機能テストの記憶テストで「大根」「にんじん」「豚肉」は覚えられなくても,目の前に実物があり,手順を想い出すことができれば,簡単な豚汁はできる。日によって,豚汁が豚味噌煮込みになるかもしれないが,できる能力を大切にして,「私はまだまだ料理ができる」と本人が実感でき,医療者・介護者にとってもそのような支援が当たり前になることを願っている。
認知症と診断された後,病気によって障害される可能性のある生活行為に対し,早期から自立の継続に向けたアプローチを行い,いつまでも自分の生活が自分の方法で続けられるようにすることが,作業療法の最も大切な役割であろう。
本書は,「人は作業をすることで健康になれる」という,日本作業療法士協会が提案する作業療法の在り方を広く知ってもらうとともに,病気や障害をもっても大丈夫,いろいろな工夫や仕方を取り入れることによって,自分のしたい生活が維持できる,ということを当事者の方々に提案するきっかけになることを期待している。
また,全国の作業療法士が事例の取り組みからヒントを得て,認知症の方々へのADLやIADLの取り組みを促す一冊となり,そのような事例が広がっていくことになれば望外の喜びである。
2021年3月
村井千賀
池田 学
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目次
序章 認知機能障害と生活行為障害 村井千賀
Ⅰ章 重度別の認知症とADL/IADL
軽度者,中高度者におけるADL/IADL 田平隆行
ⅠI章 作業療法の特徴と留意点
軽度者,中高度者に対する作業療法 田中寛之
Ⅲ章 作業療法ケーススタディ
1.軽度者に対する作業療法知症
Case1 新たな家事の方法を習得したことで,再度役割を得られた軽度認知症事例 荻野大樹
Case2 生活範囲の拡大を目標に軽度認知障害の患者へ訪問支援を行った事例 村田美希
Case3 エピソード記憶残存時期に道順と手順の習慣化により就労活動を継続しえた一例 村井千賀
Case4 「日付の理解や確認ができる」肯定的側面を活かした軽度アルツハイマー病患者の服薬管理の支援事例 堀田 牧
Case5 言語障害と相貌認知の障害を呈した右側頭葉優位の意味性認知症患者に対する在宅生活支援の一例 堀田 牧
Case6 日時の見当識への支援とミシンによる縫製作業の継続により在宅生活を維持しえた事例 村井千賀
Case7 家族の強い想いが本人の易怒性につながっていた事例 ―穏やかな在宅生活の継続を目指した関わり― 山口智晴
Case8 見当識や記憶の低下からくる不安の訴えを「もの盗られ妄想」とされていた女性 山口智晴
Case9 介護保険サービス利用に至らない若年性認知症患者に対するオンラインミーティングツールによる在宅生活支援の一例 堀田 牧
2.中高度者に対する作業療法
Case1 趣味活動と家事の再開により生活習慣を再構築し,退院後の生活が安定した事例 荻野大樹
Case2 興奮症状の背景にある患者要因と介護者要因に対してアプローチした中等度認知症の一例 ―予定がわからない不安と介護者の否定的な態度に着目して― 石丸大貴
Case3 買い物手順の残存能力と単一課題の遂行能力に着目し支援した事例 ―不慣れな環境でも,本人らしい生活を目指して― 小田部麻理,富田慶子
Case4 アルコール依存症を伴った混合型認知症者に対し,行動・心理症状を改善し園芸センターでの役割を再獲得できた事例 山口和美
Case5 残存能力を引き出す環境調整・家族支援を行った事例 千葉亜紀
Case6 仮性作業に対して興味ある作業によって改善した事例 村井千賀
Case7 排泄間隔の調整と通所介護によりトイレ動作,介護負担感の改善が得られた一例 村井千賀
Case8 もの盗られ妄想のある女性に対する穏やかな在宅生活の継続を目指した困り事解決 山口智晴
Case9 信頼関係を構築しながら本人の特性を理解し,適切な役割を提供することによって行動・心理症状の改善に至った重度のアルツハイマー型認知症者の事例 吉岡哲郎, 亀ヶ谷忠彦
Ⅰ章 重度別の認知症とADL/IADL
軽度者,中高度者におけるADL/IADL 田平隆行
ⅠI章 作業療法の特徴と留意点
軽度者,中高度者に対する作業療法 田中寛之
Ⅲ章 作業療法ケーススタディ
1.軽度者に対する作業療法知症
Case1 新たな家事の方法を習得したことで,再度役割を得られた軽度認知症事例 荻野大樹
Case2 生活範囲の拡大を目標に軽度認知障害の患者へ訪問支援を行った事例 村田美希
Case3 エピソード記憶残存時期に道順と手順の習慣化により就労活動を継続しえた一例 村井千賀
Case4 「日付の理解や確認ができる」肯定的側面を活かした軽度アルツハイマー病患者の服薬管理の支援事例 堀田 牧
Case5 言語障害と相貌認知の障害を呈した右側頭葉優位の意味性認知症患者に対する在宅生活支援の一例 堀田 牧
Case6 日時の見当識への支援とミシンによる縫製作業の継続により在宅生活を維持しえた事例 村井千賀
Case7 家族の強い想いが本人の易怒性につながっていた事例 ―穏やかな在宅生活の継続を目指した関わり― 山口智晴
Case8 見当識や記憶の低下からくる不安の訴えを「もの盗られ妄想」とされていた女性 山口智晴
Case9 介護保険サービス利用に至らない若年性認知症患者に対するオンラインミーティングツールによる在宅生活支援の一例 堀田 牧
2.中高度者に対する作業療法
Case1 趣味活動と家事の再開により生活習慣を再構築し,退院後の生活が安定した事例 荻野大樹
Case2 興奮症状の背景にある患者要因と介護者要因に対してアプローチした中等度認知症の一例 ―予定がわからない不安と介護者の否定的な態度に着目して― 石丸大貴
Case3 買い物手順の残存能力と単一課題の遂行能力に着目し支援した事例 ―不慣れな環境でも,本人らしい生活を目指して― 小田部麻理,富田慶子
Case4 アルコール依存症を伴った混合型認知症者に対し,行動・心理症状を改善し園芸センターでの役割を再獲得できた事例 山口和美
Case5 残存能力を引き出す環境調整・家族支援を行った事例 千葉亜紀
Case6 仮性作業に対して興味ある作業によって改善した事例 村井千賀
Case7 排泄間隔の調整と通所介護によりトイレ動作,介護負担感の改善が得られた一例 村井千賀
Case8 もの盗られ妄想のある女性に対する穏やかな在宅生活の継続を目指した困り事解決 山口智晴
Case9 信頼関係を構築しながら本人の特性を理解し,適切な役割を提供することによって行動・心理症状の改善に至った重度のアルツハイマー型認知症者の事例 吉岡哲郎, 亀ヶ谷忠彦
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認知症者の残存能力を評価し,重度別にADL/IADLの改善につなげる対応法を解説
作業療法士が関わる認知障害を取り上げ,症例を通してより実践的な内容が理解できるシリーズ。
本書では認知症を軽度と中高度に分けてそれぞれの日常生活活動(ADL)/手段的IADLの対応を中心に具体的に解説。認知症者の残存能力を各種評価より見出し,訓練や環境調整によりできる限り自立して生活する方法を示し,認知症の方の支援を行う作業療法士が明日からの実践に使えるような内容となっている。
多数の症例がそれぞれへの対応法とともに掲載されており,実臨床ではもちろん,養成校での実習にも有用な1冊。