高次脳機能障害を解きほぐす 臨床推論と理学療法介入

高次脳機能障害を解きほぐす 臨床推論と理学療法介入

■執筆 渡辺 学

定価 4,400円(税込) (本体4,000円+税)
  • B5判  176ページ  2色(一部カラー),イラスト53点,写真158点
  • 2018年3月26日刊行
  • ISBN978-4-7583-1926-3

複雑に絡み合う高次脳機能障害に取り組むための糸口

高次脳機能障害は症状・背景ともに数多くの要素が絡み合っているため,リハビリテーション医療のなかでも特に難解とされている。本書は高次脳機能障害の理学療法場面において,多彩な症状をどう評価すればよいのか,どのように介入すればよいのかを整理し簡潔に示している。
「リーチがずれる」「左側に気づかない」など臨床症状に基づく構成とし,それぞれ関連する高次脳機能障害を挙げて,鑑別方法,理学療法評価,治療介入を示している。特に治療介入については「文献的エビデンス」で科学的根拠を充実させている。また,認知機能よりもさらに低次レベルからの介入として「視機能からの介入」も記述している。


序文

 私が養成校に在学していた頃,高次脳機能障害の授業は聞きなれない専門用語と想像もつかない症状の連続で,学生の間は丸暗記以外には学べないのではと感じていた。養成校を卒業して臨床に出始めた頃も,脳卒中の患者は運動麻痺しか注目できず,認知症の異常を目にしても意識障害程度にしか考えが及ばなかった。
 数年が経ち,恩師である首都大学東京の網本和先生に再会し(実は養成校時代に高次脳機能障害を教えていただいた),研究室で学びながら高次脳機能障害を改めて勉強し直し始めたときでも,専門学会に参加しても理学療法士はごく少数しかいなかった。
 しかしそれからさらに数年が経ち,世の中において脳科学研究が盛んになり,ニューロ・リハビリテーションという言葉が出始めてからは,高次脳機能障害に対する関心が急速に理学療法士の間に広がっていった。現在では専門学会でも多数の理学療法士が参加するようになり,理学療法士の学会においても高次脳機能障害をテーマとするものが多く出てくるようになった。
 しかし,これだけ学術的な領域で盛んになってきたにもかかわらず,ほとんどの理学療法士にとって,高次脳機能障害を臨床場面ではどのように評価したらよいか,理学療法としてどのように治療すればよいのかが整理できておらず,いまだ混沌としており,暗中模索の状況が続いているように思われる。
 理学療法士養成校では高次脳機能障害に関する授業が行われているが,そこで用いられる教科書は,医師による診断中心の内容が多いようである。それらはあくまで医師の視点で診断的に解釈するものであり,理学療法の視点に立ったものではない。リハビリテーションのアプローチ方法についてはわずかに記載されているものの,理学療法における評価や治療まで記載したものは数少ない。
 医師による診断は,神経心理学的検査と脳画像による病巣診断を基本にしたものである。それらを中心とした教科書で学んだ学生は,高次脳機能障害を理学療法とは切り離された領域と感じ,自分とは関係ない,もしくは理解が難しいものと捉えているのではないだろうか。
 そこで,初学者がまずは高次脳機能障害を臨床でどのように捉えていけばいいのかを学ぶために,理学療法においてどのように評価し,治療を行えばいいのかを,簡潔に紹介することを目的として本書を企画した。実際に高次脳機能障害を詳細に検討していくには,多くの知識と経験によるアセスメントが必要になってくるが,その前段階として高次脳機能障害にまずは取り組めるように配慮した。臨床的な症状に関連する高次脳機能障害を列挙し,まずはスクリーニング検査を行い,運動麻痺に対する理学療法の傍ら,高次脳機能障害にも治療を加えられるように構成した。
 Ⅰ章では,高次脳機能障害の概略と理学療法との関連性,後述する視機能の概略と高次脳機能障害との関連性を説明した。Ⅱ章では,高次脳機能障害のうち行為に関するものを挙げ,Ⅲ章では認知に関するものを挙げた。いずれも高次脳機能障害の名称からではなく,臨床症状から紐解いていくように項目を掲げている。
 また本書の特徴として,視機能からのアプローチを取り上げたことが挙げられる。視機能とは眼球運動から脳内の視覚情報処理,および運動との連関を含めた視覚機能をさす。視覚が感覚情報として,またヒトの行動を決定するのに重要な要素であることは周知されているにもかかわらず,本邦では視機能に関する十分な評価や治療が理学療法に組み込まれていないように感じている。
 高次脳機能障害においても,視覚情報からの認知処理を基盤とすることが多く,低次から高次までのレベルで視機能から治療介入をすることで,症状の改善をもたらすことができる可能性がある。高次脳機能障害の治療は,認知からの意識的な介入がほとんどであるが,その多くは効果に限界がある。より低次のレベルから介入することで,脳内の認知処理が変容しやすいのではないかと考えている。
 理学療法では高次脳機能障害を直接的に考えることが難しい。そのため,興味はあっても臨床で戸惑う場面が多い。まずは理学療法との関連性を考えながら,高次脳機能障害に取り掛かることに,本書が貢献できることを期待している。

2018年2月
渡辺 学
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目次

Ⅰ 概論
 1 高次脳機能障害とは
  認知機能とは
  認知機能と高次脳機能との違い
  認知心理過程
  神経機能的認知処理過程
  高次脳機能障害
  階層的高次脳機能障害
 2 高次脳機能障害と理学療法
  感覚運動統合
  環境適応のための行動要素
  高次脳機能障害の評価における理学療法の役割
  高次脳機能障害の治療における理学療法の役割
 3 視機能と高次脳機能障害
  視覚は現実か
  視覚の脳内処理
  視覚認知障害
  視覚と視機能
  視機能の障害
 4 視機能と視覚認知
  視野と視力
  立体視と両眼視機能
  大脳における階層的視覚処理
  視覚性注意と恒常性
 5 視機能と運動
  眼と手の協調
  視空間認知能力
  眼球運動と姿勢
  視覚と姿勢バランス
  視覚と歩行
  視覚的イメージと身体
  他者の動きの知覚
  一人称的イメージと三人称的イメージ
  眼球運動の神経機構
 6 視機能からの理学療法
  眼球運動トレーニング
  眼と身体の協応トレーニング
  イメージ・トレーニング
  メンタル・リハーサル
  動作の言語誘導
  動作の視線誘導
 
Ⅱ 行為の障害
 1 リーチがずれる 主に頭頂葉損傷に由来するリーチ障害
 2 握り方が不自然 主に頭頂葉損傷に由来するpreshaping 障害
 3 物品を扱うのが拙劣 主に道具の使用障害
 4 動作をマネできない 主に模倣障害
 5 動作の手順がおかしい 主に系列的操作の障害
 6 左右の手で反する行為をする 主に脳梁離断症候群
 7 社会生活に適応できない 主に遂行機能障害
 8 半身を動かそうとしない 主に運動無視
 9 なかなか動き出さない 主に運動開始困難
 10 同じことを繰り返す 主に運動性保続
 11 勝手に行動を起こす 主に道具の強迫的使用
 12 握って離さない 主に把握現象
 
Ⅲ 認知の障害
 1 左側に気づかない 主に半側空間無視
 2 左手を自分のものと思わない 主に半側身体失認
 3 病識に乏しい 主に病態失認
 4 椅子やベッドに不適切な姿勢をとる 主に頭頂葉損傷による空間定位障害
 5 姿勢矯正に抵抗する 主にpusher 症候群
 6 壁にぶつかる 主に視覚性注意障害
 7 衣服を着るのが不適切 主に着衣障害
 8 左右を間違える 主にゲルストマン症候群
 9 物を探し出すことができない 主に視覚性失認
 10 道に迷う 主に地誌的失見当識
 11 周囲のものが気になる 主に注意障害
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