心電図マイスターを目指す
基礎力grade up講座

推薦の序

　この本は，心電図判読をテーマとしたテキストのなかでも，特に心電図検定試験合格を明確な目標に定めています。そして，この心電図検定試験が，いまや隠れた大ブームです！ 医師，看護師，臨床工学技士，臨床検査技師を含むすべての医療従事者，医学部生にまで及ぶ受験者数は，あれよあれよと毎年増加。試験を実施している日本不整脈心電学会は，開始時にこのブームを予想していませんでした。古典的で，曖昧な解釈というイメージが付きまとう「12誘導心電図検査」の判読は，かって遠い道のり…。心電図検定試験は，このアンニュイな心電図判読における明確な目標を提示したからこそ，多くの若者を惹きつけたのでしょう。
　そして，本書の著者は，そのような若者代表の一人です。彼は，2013年大学卒業後，研修を経て，2018年から2021年まで3年間，私が所長を務めていた心臓血管研究所付属病院で不整脈を専門とするレジデントとして勤めています。この若きホープは，在職中の2019年に，当時日本に30名ほどしかいなかった心電図検定試験マイスターとして見事合格！ 本書を読んで，心臓血管研究所における判読のコツが数多くちりばめられていることに気づくと同時に，心電図教育に動画が用いられる今の時代，特にYouTube世代の彼が“マイスター”として，古典的な心電図教科書を一歩前進させる，若者に向けたテキストとして自信をもって推薦したいと思います。
　本書は，前半は講義，後半は模擬試験という二部構成です。講義編は，タイパ重視の現代版，最短時間で心電図判読のエッセンスが学べることでしょう。むしろ，心電図検定試験を目指す多くの読者は，問題編（“Hard”）からトライしてもよいかもしれません。間違った点や自分に知識が足りないと思った点があれば，前半の講義編のページに振り返って学習するというのもアリです。実際，心電図判読の力は私の時代からそうやって培ってきました。本書では，各設問の回答に講義編のページが示されているので，この昔からの勉強法をもちろんサポートしてくれています。
　若者による，若者のための心電図テキスト。これを新時代の道しるべとして，数多くの若き心電図検定試験合格者が生まれることでしょう。そんな新しい時代の芽吹きを感じさせる絶賛本です！

2023年8月
心臓血管研究所名誉所長
山下武志