- 新刊
- 循環器内科
From Basic to Advanced EPS
カンファレンスで学ぶ
心臓電気生理のすべて
基礎から実践へ

- サンプルページ
どなたでもご覧いただけます
定価 8,800円(税込) (本体8,000円+税)
- B5判 416ページ 2色
- 2025年10月2日刊行
- ISBN978-4-7583-2219-5
電子版
序文
心臓電気生理学(electrophysiology study;EPS)は,不整脈診療の根幹をなす学問です。臨床現場でわれわれが日々直面する不整脈の診断・治療は,すべてこの学問を基盤としています。しかしその複雑性ゆえに,若手医師にとっては難解で,敬遠されがちな領域であることもまた事実です。編者自身,若手時代に初めてこの世界に触れたとき,その奥深さと難しさに圧倒され,どこから理解を始めればよいのか途方に暮れた経験を忘れることはできません。
この二十余年で,EPSは飛躍的な進歩を遂げました。3Dマッピングシステムに代表される診断技術の進化や,カテーテルアブレーションの確立・普及は,不整脈診療の風景を一変させています。今やアブレーション施行件数はPCIを凌駕する勢いで増加し,専門領域の枠を超えて広く浸透しつつあります。こうした発展は,われわれに新たな治療戦略を与え,多くの患者の予後を改善してきました。
しかしその便利さと効率性の影に隠れて,電気生理学の基礎を深く学び,心内心電図を理論的に読み解く機会が減ってきていることは否めません。特に心房細動のように標準化された治療戦略が成果を上げる領域では,若手医師が「電気生理的に考える」という本質的な訓練を十分に受けられないまま診療に携わっている現状があります。臨床の現場では,手技や経験だけでは立ち向かえない複雑で多様な不整脈に必ず遭遇します。そのときわれわれを支えるのは,最新の機器でも派手なテクニックでもなく,基礎に根差した電気生理学的思考力にほかなりません。
わが国のEPSは,多くの先達の情熱と探究心によって支えられ,発展を重ねてきました。時代ごとに新たな理論が築かれ,数々の症例経験が蓄積され,無数のカンファレンスや議論が繰り返されることで,その理解は深化してきました。われわれはその歴史に敬意を払い,そして「学びを次世代に受け渡す」使命を担っていると考えます。
その思いを込めて編んだのが,本書『From Basic to Advanced EPS―カンファレンスで学ぶ心臓電気生理のすべて―』です。全三部構成とし,まず基礎編で不可欠な理論を噛み砕いて解説しました。続く応用編では,症例提示をもとにカンファレンス形式で議論を展開し,診断・治療の思考過程を臨場感をもって体験できるようにしました。そしてUnknownEPでは,読者自身がクイズ形式で学びを試し,知識を実践に結びつけられる構成としています。これは単なる知識の集積ではなく,「議論を通じて理解を深め,経験を積み重ねて実力を磨く」という臨床教育のエッセンスを体現したものです。
本書の使命は明確です。それは「基礎と臨床をつなぐ架け橋」となること。若手医師にとって心内心電図を読み解く第一歩となり,経験豊富な医師や臨床工学技士にとっても学び直しの機会となることです。すべてのページに込めたのは,「症例の積み重ねこそが学びの最短距離である」という信念です。
最後に,本書の刊行にあたり,多くの先生方が執筆にご協力くださいました。その熱意と経験が結集して初めて,本書は完成いたしました。心臓電気生理の臨床と研究に多大な貢献を続けておられる先生方に,ここに深甚なる敬意と感謝を表します。先生方が築かれた理論と情熱に支えられて学びを進めることができることに,改めて厚く御礼申し上げます。また,企画段階から尽力いただいたメジカルビュー社編集部の皆様にも,心より感謝申し上げます。本書はわれわれ編者の力だけでは決して生まれえなかったものです。
本書が,次世代を担う読者にとって「心臓電気生理の学びを深める伴走者」となり,不整脈診療をさらに進化させる礎となることを願ってやみません。
2025年9月
編者一同
この二十余年で,EPSは飛躍的な進歩を遂げました。3Dマッピングシステムに代表される診断技術の進化や,カテーテルアブレーションの確立・普及は,不整脈診療の風景を一変させています。今やアブレーション施行件数はPCIを凌駕する勢いで増加し,専門領域の枠を超えて広く浸透しつつあります。こうした発展は,われわれに新たな治療戦略を与え,多くの患者の予後を改善してきました。
しかしその便利さと効率性の影に隠れて,電気生理学の基礎を深く学び,心内心電図を理論的に読み解く機会が減ってきていることは否めません。特に心房細動のように標準化された治療戦略が成果を上げる領域では,若手医師が「電気生理的に考える」という本質的な訓練を十分に受けられないまま診療に携わっている現状があります。臨床の現場では,手技や経験だけでは立ち向かえない複雑で多様な不整脈に必ず遭遇します。そのときわれわれを支えるのは,最新の機器でも派手なテクニックでもなく,基礎に根差した電気生理学的思考力にほかなりません。
わが国のEPSは,多くの先達の情熱と探究心によって支えられ,発展を重ねてきました。時代ごとに新たな理論が築かれ,数々の症例経験が蓄積され,無数のカンファレンスや議論が繰り返されることで,その理解は深化してきました。われわれはその歴史に敬意を払い,そして「学びを次世代に受け渡す」使命を担っていると考えます。
その思いを込めて編んだのが,本書『From Basic to Advanced EPS―カンファレンスで学ぶ心臓電気生理のすべて―』です。全三部構成とし,まず基礎編で不可欠な理論を噛み砕いて解説しました。続く応用編では,症例提示をもとにカンファレンス形式で議論を展開し,診断・治療の思考過程を臨場感をもって体験できるようにしました。そしてUnknownEPでは,読者自身がクイズ形式で学びを試し,知識を実践に結びつけられる構成としています。これは単なる知識の集積ではなく,「議論を通じて理解を深め,経験を積み重ねて実力を磨く」という臨床教育のエッセンスを体現したものです。
本書の使命は明確です。それは「基礎と臨床をつなぐ架け橋」となること。若手医師にとって心内心電図を読み解く第一歩となり,経験豊富な医師や臨床工学技士にとっても学び直しの機会となることです。すべてのページに込めたのは,「症例の積み重ねこそが学びの最短距離である」という信念です。
最後に,本書の刊行にあたり,多くの先生方が執筆にご協力くださいました。その熱意と経験が結集して初めて,本書は完成いたしました。心臓電気生理の臨床と研究に多大な貢献を続けておられる先生方に,ここに深甚なる敬意と感謝を表します。先生方が築かれた理論と情熱に支えられて学びを進めることができることに,改めて厚く御礼申し上げます。また,企画段階から尽力いただいたメジカルビュー社編集部の皆様にも,心より感謝申し上げます。本書はわれわれ編者の力だけでは決して生まれえなかったものです。
本書が,次世代を担う読者にとって「心臓電気生理の学びを深める伴走者」となり,不整脈診療をさらに進化させる礎となることを願ってやみません。
2025年9月
編者一同
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目次
Ⅰ 基礎編 心臓電気生理の基本
1)総説
心内電位と電気生理学的検査(EPS)の基本的な流れ 中村啓二郎
2)実際の電気生理手法
①房室伝導と室房伝導 福永真人
②心房刺激 水上 暁
③心室刺激 西内 英
④エントレインメント現象・ペーシングの際の注意点 松永泰治
3)不整脈の機序
①リエントリーの基本 中村洋範
②頻脈性不整脈の3つの発生機序とその鑑別 谷本耕司郎,谷本陽子
4)電気生理学的所見と鑑別法
①古典的なSVTの鑑別手法の概念 松井優子
②Long RP頻拍の電気生理的診断法 入江忠信
③Atypical AVNRTとATP感受性ATとの鑑別 久佐茂樹
④VAブロックを伴うSVTの鑑別 道下俊希,稲葉 理
⑤AVNRTとNV,NFの鑑別における特殊なEPS手法 樋口 諭
⑥副伝導路症候群・斜走・減衰伝導特性をもつ副伝導路 中村紘規
⑦特殊な副伝導路の鑑別 中谷洋介
⑧Purkinje関連不整脈の鑑別 小松雄樹
5)Legendから学ぶ電気生理学
①Differential atrial pacing / last entrainment sequence 丸山光紀
②Para-Hisianペーシング 白井康大,平尾見三
③Entrainment 奥村 謙
④AVNRT 金古善明
⑤ATP感受性AT 山部浩茂
⑥特殊な副伝導路 沖重 薫
⑦ILVT−ILVTについていまだ不明な点とその展望 野上昭彦
⑧脚枝間リエントリー心室頻拍・束枝間心室頻拍 深水誠二
Ⅱ 応用編 EPS実践カンファレンス
症例1 AVNRT left variant 木全 啓,黒木健志
症例2 Atypical ILVT(上部中隔型など) 榎本善成
症例3 Mahaim典型例 神崎泰範
症例4 ATP感受性AT 高橋正雄
症例5 Superior slow を伴うAVNRT 田村峻太郎
症例6 心室二重応答(DVR/DVRT)中川和也
症例7 Junctional tachycardia 深谷英平,中村洋範
症例8 Concealed NF 平田 脩
症例9 Slow bystander concealed NVを伴うAVNRT 関原孝之
症例10 脚枝間リエントリー 鈴木 篤
症例11 虚血性心筋症のVTに対するDEEP mapping 西村卓郎,水上 暁
症例12 Antidromic AVRTとVTの鑑別症例 林 達哉
症例13 Upper common pathwayを有するAVNRT 蜂谷 仁
症例14 Lower common pathwayを有するAVNRT 伊藤太平
症例15 第1 度房室ブロックを伴うslow/fast AVNRT 山内康照
症例16 冠静脈洞内筋束電位がalternansするORT 大西克実
Ⅲ Unknown EP 心内心電図を読み解く
Q1 ParaHisian or pure Hisian or A capture 前田真吾
Q2 Last entrainment sequence 湯澤ひとみ
Q3 ILVT(upper septal type)鑑別 北村 健
Q4 JT鑑別 松永泰治
Q5 Concealed NV 森 仁
Q6 ATP sensitive AT anti or orthodromic capture 北條林太郎
Q7 心室連続刺激後のVAAV sequenceのメカニズムは? 阪井諭史
Q8 VT entrain entrance or exit or Critical isthmus 上田明子
Q9 The number of pacing stimuli needed to entrain(NNE), total pacing prematurity(TPP) 木下利雄
Q10 Orthodromic capture with AT Yamabe method 栁下敦彦
Q11 VA block SVT termination / Q2 VAAV response Q3 nest step 大塚崇之
Q12 Wide QRS頻拍の1例 倉田征昭
Q13 Transition Zone 分析とHis orthodromic capture 河村岩成
Q14 Legendからの問題 山内康照
Q15 Legendからの問題 小貫孔明,永嶋孝一
1)総説
心内電位と電気生理学的検査(EPS)の基本的な流れ 中村啓二郎
2)実際の電気生理手法
①房室伝導と室房伝導 福永真人
②心房刺激 水上 暁
③心室刺激 西内 英
④エントレインメント現象・ペーシングの際の注意点 松永泰治
3)不整脈の機序
①リエントリーの基本 中村洋範
②頻脈性不整脈の3つの発生機序とその鑑別 谷本耕司郎,谷本陽子
4)電気生理学的所見と鑑別法
①古典的なSVTの鑑別手法の概念 松井優子
②Long RP頻拍の電気生理的診断法 入江忠信
③Atypical AVNRTとATP感受性ATとの鑑別 久佐茂樹
④VAブロックを伴うSVTの鑑別 道下俊希,稲葉 理
⑤AVNRTとNV,NFの鑑別における特殊なEPS手法 樋口 諭
⑥副伝導路症候群・斜走・減衰伝導特性をもつ副伝導路 中村紘規
⑦特殊な副伝導路の鑑別 中谷洋介
⑧Purkinje関連不整脈の鑑別 小松雄樹
5)Legendから学ぶ電気生理学
①Differential atrial pacing / last entrainment sequence 丸山光紀
②Para-Hisianペーシング 白井康大,平尾見三
③Entrainment 奥村 謙
④AVNRT 金古善明
⑤ATP感受性AT 山部浩茂
⑥特殊な副伝導路 沖重 薫
⑦ILVT−ILVTについていまだ不明な点とその展望 野上昭彦
⑧脚枝間リエントリー心室頻拍・束枝間心室頻拍 深水誠二
Ⅱ 応用編 EPS実践カンファレンス
症例1 AVNRT left variant 木全 啓,黒木健志
症例2 Atypical ILVT(上部中隔型など) 榎本善成
症例3 Mahaim典型例 神崎泰範
症例4 ATP感受性AT 高橋正雄
症例5 Superior slow を伴うAVNRT 田村峻太郎
症例6 心室二重応答(DVR/DVRT)中川和也
症例7 Junctional tachycardia 深谷英平,中村洋範
症例8 Concealed NF 平田 脩
症例9 Slow bystander concealed NVを伴うAVNRT 関原孝之
症例10 脚枝間リエントリー 鈴木 篤
症例11 虚血性心筋症のVTに対するDEEP mapping 西村卓郎,水上 暁
症例12 Antidromic AVRTとVTの鑑別症例 林 達哉
症例13 Upper common pathwayを有するAVNRT 蜂谷 仁
症例14 Lower common pathwayを有するAVNRT 伊藤太平
症例15 第1 度房室ブロックを伴うslow/fast AVNRT 山内康照
症例16 冠静脈洞内筋束電位がalternansするORT 大西克実
Ⅲ Unknown EP 心内心電図を読み解く
Q1 ParaHisian or pure Hisian or A capture 前田真吾
Q2 Last entrainment sequence 湯澤ひとみ
Q3 ILVT(upper septal type)鑑別 北村 健
Q4 JT鑑別 松永泰治
Q5 Concealed NV 森 仁
Q6 ATP sensitive AT anti or orthodromic capture 北條林太郎
Q7 心室連続刺激後のVAAV sequenceのメカニズムは? 阪井諭史
Q8 VT entrain entrance or exit or Critical isthmus 上田明子
Q9 The number of pacing stimuli needed to entrain(NNE), total pacing prematurity(TPP) 木下利雄
Q10 Orthodromic capture with AT Yamabe method 栁下敦彦
Q11 VA block SVT termination / Q2 VAAV response Q3 nest step 大塚崇之
Q12 Wide QRS頻拍の1例 倉田征昭
Q13 Transition Zone 分析とHis orthodromic capture 河村岩成
Q14 Legendからの問題 山内康照
Q15 Legendからの問題 小貫孔明,永嶋孝一
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EPSの叡智,ここに集結
心臓電気生理学(EPS)を「使える知」へ橋渡しするテキスト。基礎/応用/Unknown EPの三部構成で,基礎編では必須理論と波形の読みどころを明快に整理。応用編では症例提示+カンファレンス形式の解説で,診断と治療の思考過程を臨場感をもって追体験できる。仕上げに,Unknown EPでは紙上で腕試しを重ね,臨床に直結する読解力の鍛錬へ。第一線のエキスパートから不整脈界のレジェンドまで,豪華執筆陣の知見を結集し,確かな思考を育てる。
若手医師にとっては心内心電図を読み解く第一歩として,ベテラン医師や臨床工学技士にとっては学び直しの機会に最適な1冊。