腹部の連想画像診断

画像に見えないものを診る

腹部の連想画像診断

■編著 田中 宏

定価 5,500円(税込) (本体5,000円+税)
  • B5変型判  196ページ  2色,写真250点
  • 2015年2月2日刊行
  • ISBN978-4-7583-1583-8

不思議満載の画像ワールド! 教科書から飛び出して,自分の頭で考えてみよう!

読影に臨む研修医・技師と指導医の軽妙でユーモアあふれる問答により,腹部領域の疾患の画像診断についてわかりやすく解説。症例画像や図版を豊富に盛り込み,症例画像の単なる絵合わせだけでなく,診断に至る論理なども病態生理を基に解明する。
疾患はもとよりCT・MRIとは何か,そもそも腹部領域の画像診断とは何なのかを,画像診断に臨む際の心理にも踏み込んで執筆。放射線科医の診断の醍醐味を軽快にそして奥深く追求した書籍。


序文

はじめに

 私が放射線科医になったのは35年前,昭和53年のことです。病んだ患者さんを治療し,良くなって笑顔で返すという医師としての最大の喜びを捨てて,放射線科医になった理由はきわめて単純なことでした。臨床実習で放射線科の先生方がとてもかっこ良かったからです。たった一枚の単純レントゲン写真から多くの情報を引き出し,的確に診断される姿に憧れたからです。
 私が入局した時代の主な仕事は単純写真の読影でした。これは私が想像していた以上に難しいものでした。いま思い出しても気が滅入ってきます。先輩達の病変を見つける鋭さ,診断への華麗な論理,すべて私には名人芸,いや芸術にしか思えませんでした。“ここがおかしいだろう!”とフィルムの一点をさされても私には正常にしか見えないセンスのなさを嘆く日々が続いていました。
 しかし,CTがこんな私を救ってくれました。横断像による重なりのない明確な解剖,そして正常部と病変の小さな濃度の違いを鮮明に示してくれました。このようにはっきり見えればセンスがなくてもじっくり考えることができます。私はCTにより診断は見える,見えない,感じる,感じられないというアートの世界からはっきり見えるものをじっくりと分析,解明していくサイエンスに変わったと思いました。
 いままで見えなかったものが見えるようになり,いろいろ不思議なことも出てきました。血管の中の血液はそれほど濃度が高くないのに頭蓋内で出血すると明瞭な高濃度になります。しかしなぜ腹部では出血しても高濃度にならないんだろう?なんで腫瘍は低濃度に見えるんだろう?などなど。不思議はたまる一方でしたが仕事と遊びに忙しくてあっという間に時は流れていきました。
 そしてMRIの出現です。いままでとまったく違った理論,画像構成などで放射線科全体が混乱していたように思います。次々に現れる新しい撮像法,理論。いったい誰に聞けばいいんだ? 何を勉強すればいいんだ? という世界でした。何しろ造影剤を使わずに血管像がつくれたり,パラメーターを少し変えるだけでまったく違った画像が出てきたのです。原理の理解は大変ですが,それを理解できればパラメーターを工夫することによって自分が欲しい情報を強調する画像がつくれるということです。
 CTでは精密な画像を分析する世界でしたが,MRIの出現で分析するだけではなく自分の欲しい画像をつくれる世界になったのです。現在は優れた教科書がたくさんあり,勉強するのに困難はありません。ぜひ原理を勉強し,自分の考えたシークエンスで有用な情報を強調する画像をつくってみてください。画像診断がもっともっと楽しく,魅力的になることは保証します。そしてこのためには読影室で送られてくる画像を待っているだけではいけません。忙しいのは承知していますが,できる限り撮影している現場へ顔を出して下さい。そして撮影している技師さんは撮影中に見つけた異常所見を医師に報告し,より優れた撮像法を相談してください。これからは医師と技師がより密接な関係をもって,検査自体をより価値あるものにつくり上げていかなければならないと考えています。
 私がこれまでに画像診断を経験してきて,読影,検査を行うときに必要なこと,重要なこと,役に立つと思うこと,現在の職場で工夫していることを私見に基づき,若い医師,技師に向けてできるだけわかりやすく書きました。皆さんの興味を引く部分もあると思います。そして少し変だなと思う部分もあると思います。不思議満載の医学の世界では絶対に正しいということはほんの少ししかないと考えています。教科書に書いてあることを行うだけでは進歩や新しい発見はできません。私たち自身でいろいろ考え,それを述べていくことが重要です。この本をきっかけとして画像診断をより楽しんでいただければ私にとってこれ以上の幸せはありません。

2015年1月
田中 宏
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目次

実践編基礎
●画像の基本
 われわれは科学者の一員
 なぜ?が大切
 細胞のお話し
 原始,分子,アボガドロ数?
 水の量と分布:大人と子ども,細胞内と細胞外
 生卵とゆで卵,水と氷
 脂肪のお話し
 石灰化:CTにおまかせ
 放射線(X線)による画像
 撮像と読影はお互いに協力し,刺激し合わなければならない!
 画像で見ているレベル
 画像における動きの影響
 見ることは信じること?:錯視
 部分容積効果に注意!:部分容積効果とスライス面
 病理と画像
 知っておきたい被ばく線量,MRIの禁忌
●CT
 CTで見ているのは原始密度の違い
 血液の画像所見: MRIで血腫の時期が,CTで貧血がわかる!?
 悪性腫瘍はCTでどのようにみえるかな?
 造影効果:血管と細胞,間質の状態
●MRI
 MRIの基本:何を見ているのでしょうか?
 強調像の意味(復習)
 T1強調像:信号強度の回復力
 T2強調像:信号の持続力
 MRIで水の緩和時間の違いをチェック!まずは高分子との関係
 拡散強調像は理想の撮像法
 役に立つMRIシークエンス:①液体の違いを示せ! ②邪魔者は消せ!
 Low b DWI:病変の発見に必須のシークエンス
 磁化率効果
●Topics
 仮説をたてよう!
 私の仮説①:TE200で腫瘍の良悪を鑑別
 私の仮説②:拡散強調像ではブラウン運動は抑制できない
 私の仮説③:おなかではありませんが,正常圧水頭症はモンロー孔の狭窄
 私の仮説④:膿瘍T2強調像では高信号,拡散強調像では?

実践編応用
●腹部
 T2-shine-throughに気をつけろ!
 T2 dark-through:ADC画像,黒い部分にも注意しろ!
 おなかが痛い!痛いところが病変の部位?
 急性炎症は水浸し
 感染症:寄生虫,心筋,細菌,ウイルス
●消化管
 イレウスの検査とチェックポイント
 急性腹症:激しい腹痛
 消化管腫瘍:CT,MRIもすごいぞ!
 腹痛,まず虫垂のチェック!
 大腸の慢性炎症性疾患:潰瘍性大腸炎とCrohn病
 門脈に空気! 異常な空気は重要所見
●肝臓・胆嚢
 正常肝臓
 正常肝臓の占拠性病変:転移性腫瘍のチェックは入念に!
 肝臓の基本的な検査法:ダイナミックCT
 MRIの標準的撮像方法
 肝実質の濃度の変化:実質濃度低下,濃度上昇
 肝細胞癌の特徴:中・低分化肝細胞癌
 肝細胞癌?なんか違うな
 Adenoma-carcinoma sequence vs de novo
 海綿状血管腫は個性あふれる良性腫瘍
 ちょっと変わった血管腫
 びまん性肝疾患
 胆嚢炎,ポリープと胆嚢癌,腺筋腫症,胆石
●膵臓・脾臓
 正常膵臓 サイズの個人差が大きいな
 急性膵炎:急激な腹痛
 膵嚢胞性病変
 浸潤性膵管癌
 脾臓は大きなリンパ節!?
●腎臓・泌尿器
 画像で見る腎皮質と髄質
 腎臓の標準的検査法:CT,MRI
 腎血管筋脂肪腫
 腎細胞癌
 腎嚢胞性疾患
 副腎腫瘍
 血尿は尿路疾患発見のきっかけ
 前立腺の正常構造,加齢による変化
 前立腺癌はT2低信号?癌は高信号じゃないの?
 移行域の前立腺癌は診断できるの?
●婦人科疾患
 正常女性骨盤と標準的撮像法:MRI
 境界悪性?
 卵巣成熟奇形腫
 卵巣腫瘍の鑑別:嚢胞成分+充実部分は悪性腫瘍!
 子宮筋腫の多彩な表情に注意
 子宮筋層T2低信号:腺筋症と収縮
 子宮頸部の嚢胞性病変
●腫瘍
 腫瘍とは細胞の過剰な増殖,癌は自立的に無限に増殖する
 典型的な悪性腫瘍は思っているほど多くありません
 悪性腫瘍の血管
 乏血性腫瘍:血流が少ないのに悪性腫瘍?
 平滑筋腫瘍:悪性度は難しい
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