Key論文を紐解き,理解する
消化管癌に対する
外科治療選択のPlatform
定価 8,250円(税込) (本体7,500円+税)
- B5判 312ページ オールカラー,イラスト35点,写真85点
- 2019年12月27日刊行
- ISBN978-4-7583-1538-8
電子版
序文
臨床判断に臨床研究は欠かせない。しかしながら,エビデンスレベルの高い研究は,それほど多くはない。それゆえ,医師の経験や裁量権も必要である。
ご存知のように,臨床研究が盛んに始められたのは,20世紀の後半である。「患者本位の医療」,「インフォームドコンセント」,「根拠に基づいた医療」などが提唱され,患者視線に立つ多くの研究がなされてきた。臨床研究においても,研究のバイアスを除くため,多施設での無作為化比較試験やメタアナリシスなどの数々の手法が取り入れられている。その結果,これらの研究成果に基づいて,1990年代以降,多くの領域で「ガイドライン」が出版されてきた。驚くことに,我々に関連する「消化器」関連領域だけでも,150種類以上のガイドラインが存在している。
ガイドラインは,その領域における医療水準を確認するという意味で,実臨床に役立つものである。しかしながら,ガイドラインのもとになる論文を読まず,ガイドラインの記載を過剰に偏重し,盲信している若き臨床家も多いように思う。研究目的は時代背景や学問背景から生じたものであり,その研究対象も除外症例を設けるなど厳しく制限されている。その点,時代の変化とともに実臨床にそぐわない状況も存在する。それゆえ,今一度,消化器外科関連のガイドラインのKey論文を皆で再吟味する勉強会を始めた。研究背景にある社会のニーズや研究担当の医師たちの思いを振り返ってみたいと考えたからである。
勉強会では,消化器外科の診療(化学療法は最小限とする)に直接関係するガイドラインをとりあげ,その中の比較的エビデンスレベルの高い項目の引用文献を抽出した。その結果,目次で示されるように,①治療手技選択,②外科的切除範囲,③リンパ節郭清,④術後補助化学療法などに関するものが多くなった。それぞれの研究の意義とともに,研究の負の側面を明確にすることこそが,次の臨床研究に繋がるものと信じている。本書「Key論文を紐解き,理解する消化管癌に対する外科治療選択のPlatform」を通じ,ガイドラインを支える研究論文に興味を持っていただき,これまでの研究者たちが,どのようなことを臨床現場で考え,どのような医療を夢みていたかを少しでも共有できれば幸いである。また,論文を紐解くきっかけになれば幸いである。なお,抽出論文に関して不十分な点があれば,ご容赦いただきたい。
最後に,情熱を失わず,ともに勉強してきた17名の若き外科医の執筆者たちに心から感謝いたします。また,事務業務やイラスト描きを手伝ってくれた教室秘書の中島里奈さんにも心から感謝いたします。本書の作成にご理解をいただき,本書を出版していただいたメジカルビュー社編集部の吉田富生氏,宮澤進氏,長沢慎吾氏,小澤祥子氏に心から感謝申し上げます。
令和元年12月
編集
白石憲男
二宮繁生
嵯峨邦裕
ご存知のように,臨床研究が盛んに始められたのは,20世紀の後半である。「患者本位の医療」,「インフォームドコンセント」,「根拠に基づいた医療」などが提唱され,患者視線に立つ多くの研究がなされてきた。臨床研究においても,研究のバイアスを除くため,多施設での無作為化比較試験やメタアナリシスなどの数々の手法が取り入れられている。その結果,これらの研究成果に基づいて,1990年代以降,多くの領域で「ガイドライン」が出版されてきた。驚くことに,我々に関連する「消化器」関連領域だけでも,150種類以上のガイドラインが存在している。
ガイドラインは,その領域における医療水準を確認するという意味で,実臨床に役立つものである。しかしながら,ガイドラインのもとになる論文を読まず,ガイドラインの記載を過剰に偏重し,盲信している若き臨床家も多いように思う。研究目的は時代背景や学問背景から生じたものであり,その研究対象も除外症例を設けるなど厳しく制限されている。その点,時代の変化とともに実臨床にそぐわない状況も存在する。それゆえ,今一度,消化器外科関連のガイドラインのKey論文を皆で再吟味する勉強会を始めた。研究背景にある社会のニーズや研究担当の医師たちの思いを振り返ってみたいと考えたからである。
勉強会では,消化器外科の診療(化学療法は最小限とする)に直接関係するガイドラインをとりあげ,その中の比較的エビデンスレベルの高い項目の引用文献を抽出した。その結果,目次で示されるように,①治療手技選択,②外科的切除範囲,③リンパ節郭清,④術後補助化学療法などに関するものが多くなった。それぞれの研究の意義とともに,研究の負の側面を明確にすることこそが,次の臨床研究に繋がるものと信じている。本書「Key論文を紐解き,理解する消化管癌に対する外科治療選択のPlatform」を通じ,ガイドラインを支える研究論文に興味を持っていただき,これまでの研究者たちが,どのようなことを臨床現場で考え,どのような医療を夢みていたかを少しでも共有できれば幸いである。また,論文を紐解くきっかけになれば幸いである。なお,抽出論文に関して不十分な点があれば,ご容赦いただきたい。
最後に,情熱を失わず,ともに勉強してきた17名の若き外科医の執筆者たちに心から感謝いたします。また,事務業務やイラスト描きを手伝ってくれた教室秘書の中島里奈さんにも心から感謝いたします。本書の作成にご理解をいただき,本書を出版していただいたメジカルビュー社編集部の吉田富生氏,宮澤進氏,長沢慎吾氏,小澤祥子氏に心から感謝申し上げます。
令和元年12月
編集
白石憲男
二宮繁生
嵯峨邦裕
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目次
食道癌
内視鏡治療
1. 食道表在癌(T1)に対する治療方針
三領域リンパ節郭清
2. 食道癌根治術における頸部リンパ節郭清の意義
周術期化学療法
3. 食道癌に対する周術期化学療法
食道胃接合部癌に対する手術
4. 食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清:組織型と郭清範囲
5. 食道胃接合部癌に対する至適リンパ節郭清と胃切除の範囲
胃癌
内視鏡治療
1. 早期胃癌に対する内視鏡治療の適応
早期癌に対する手術
2. 胃上部早期癌に対する手術
3. 早期胃癌に対する幽門保存胃切除術(PPG)の適応
進行癌に対するリンパ節郭清
4. 進行胃癌に対する至適リンパ節郭清
5. 胃上部進行癌に対する拡大リンパ節郭清:脾摘の意義
6. 進行胃癌に対する拡大リンパ節郭清:予防的大動脈周囲リンパ節郭清の意義
食道胃接合部癌へのアプローチ
7. 食道胃接合部癌に対する外科的アプローチ
腹腔鏡下手術
8. 早期癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の評価
9. 進行癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の評価
根治手術不能な胃癌に対する手術
10. 非治癒切除因子を有する胃癌に対する癌の減量手術
周術期化学療法
11. 胃癌に対する術後補助化学療法
大腸癌
大腸癌に対する内視鏡治療
1. 大腸癌に対する内視鏡治療後の追加切除
結腸癌に対するリンパ節郭清
2. 結腸癌に対する全結腸間膜切除(CME)の意義
3. 結腸癌に対する手術術式:日本のD3 リンパ節郭清と欧州のCME + CVL の比較
結腸癌に対する腹腔鏡下手術
4. 結腸癌に対する腹腔鏡下手術の有用性
結腸癌に対する術後補助化学療法
5. 結腸癌に対する術後補助化学療法(1)
6. 結腸癌に対する術後補助化学療法(2)
直腸癌に対する肛門側切離断端長
7. 直腸癌手術における肛門側切離マージン
直腸癌に対するリンパ節郭清
8. 直腸癌に対するtotal mesorectal excision(TME)
9. 直腸癌に対する側方リンパ節郭清の意義
直腸癌に対する腹腔鏡下手術
10. 直腸癌に対する腹腔鏡下手術の有用性
直腸癌に対する周術期化学放射線療法
11. 局所進行直腸癌に対する術前化学放射線療法
根治手術不能な大腸癌に対する手術
12. 遠隔転移を有する大腸癌に対する原発腫瘍切除の意義
内視鏡治療
1. 食道表在癌(T1)に対する治療方針
三領域リンパ節郭清
2. 食道癌根治術における頸部リンパ節郭清の意義
周術期化学療法
3. 食道癌に対する周術期化学療法
食道胃接合部癌に対する手術
4. 食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清:組織型と郭清範囲
5. 食道胃接合部癌に対する至適リンパ節郭清と胃切除の範囲
胃癌
内視鏡治療
1. 早期胃癌に対する内視鏡治療の適応
早期癌に対する手術
2. 胃上部早期癌に対する手術
3. 早期胃癌に対する幽門保存胃切除術(PPG)の適応
進行癌に対するリンパ節郭清
4. 進行胃癌に対する至適リンパ節郭清
5. 胃上部進行癌に対する拡大リンパ節郭清:脾摘の意義
6. 進行胃癌に対する拡大リンパ節郭清:予防的大動脈周囲リンパ節郭清の意義
食道胃接合部癌へのアプローチ
7. 食道胃接合部癌に対する外科的アプローチ
腹腔鏡下手術
8. 早期癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の評価
9. 進行癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の評価
根治手術不能な胃癌に対する手術
10. 非治癒切除因子を有する胃癌に対する癌の減量手術
周術期化学療法
11. 胃癌に対する術後補助化学療法
大腸癌
大腸癌に対する内視鏡治療
1. 大腸癌に対する内視鏡治療後の追加切除
結腸癌に対するリンパ節郭清
2. 結腸癌に対する全結腸間膜切除(CME)の意義
3. 結腸癌に対する手術術式:日本のD3 リンパ節郭清と欧州のCME + CVL の比較
結腸癌に対する腹腔鏡下手術
4. 結腸癌に対する腹腔鏡下手術の有用性
結腸癌に対する術後補助化学療法
5. 結腸癌に対する術後補助化学療法(1)
6. 結腸癌に対する術後補助化学療法(2)
直腸癌に対する肛門側切離断端長
7. 直腸癌手術における肛門側切離マージン
直腸癌に対するリンパ節郭清
8. 直腸癌に対するtotal mesorectal excision(TME)
9. 直腸癌に対する側方リンパ節郭清の意義
直腸癌に対する腹腔鏡下手術
10. 直腸癌に対する腹腔鏡下手術の有用性
直腸癌に対する周術期化学放射線療法
11. 局所進行直腸癌に対する術前化学放射線療法
根治手術不能な大腸癌に対する手術
12. 遠隔転移を有する大腸癌に対する原発腫瘍切除の意義
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消化管癌の外科治療に関連するガイドラインの作成に影響を与えた論文のうち,特にエビデンスレベルの高い論文(Key論文)について「研究背景」「研究目的」「対象」「結論」などの要点を簡潔にまとめ,難しい内容を丁寧に説明。項目の始めと終わりに内容に対するQuestionを載せ,読者の臨床判断力や知識を自己評価できる構成となっている。さらに,それぞれのKey論文がガイドラインやその他の論文に与えた影響や,読んでおきたい関連論文なども紹介することで,周辺知識も身に付けられるので,消化器外科専門医試験の筆記試験にも役立つ内容となっている。