消化器外科　画像は手術の設計図

序

　「手術は術前から始まっている！」――先輩外科医から教わってきたものの，最近になってその真意が少し，わかってきたような気がする。
　これまでは，術前評価として主に，①病巣部の評価（悪性腫瘍ではTNM分類，炎症病変では重症度分類），②耐術能の評価，を行ってきた。これまでに出版した「消化器癌のひろがり診断スキル（メジカルビュー社）」や「消化器外科 周術期合併症のminimal requirements（メジカルビュー社）」は，若き外科医たちとこれらについて学んだことをまとめたものである。一方，近年の画像診断の発展は著しく，従来の検査では見えなかった解剖学的構造物が，観察できるようになってきた。なかでも，CT検査の発展には目を見張るものがあり，術前評価として，①②とともに読み解くべきことがあることに気がつく。
　外科医は組織の扱い方のプロフェッショナルである。言い換えると，組織の愛護的取り扱いができる能力が問われている。このような外科医に，術前画像検査としてのCT画像は，個々の解剖学的特徴を教えてくれる。すなわち，「術前画像（CT画像）は手術の設計図」となるのである。たとえば，術前CT画像から，脈管の分岐形態や分岐位置，臓器との位置関係や距離など，緻密な検討を行うことによって，安全な手術をイメージすることが可能となり，手術操作を仮想空間で考えることが容易となる。さらに，この設計図を手術チームで共有することにより，手術チームのスキル向上を実現し，その結果，術中偶発症や術後合併症の発症率を減少させることが可能となると考えられる。
　近年，症例ごとの手術をシミュレーションするという試みがなされている。近い将来，AIに言語能力が実現すれば，術中にAIと相談しながら手術を進める時代がくるのかもしれない。いずれにしても，考える手術は楽しいし，個々の解剖学的知見が基本になることにかわりはない。
　頻度の高い消化器外科手術の標準化が進められているものの，個々の症例に対する術前画像診断のどこに着目して解析すれば安全な手術がイメージできるかを示した書籍はこれまでに出版されていない。本書「術前に見ておきたい 消化器外科 画像は手術の設計図」は，術前画像から手術の設計図を作成するための着眼点を術式ごとに体系づけたものである。エキスパートの外科医の先生方からみると着眼点が不十分かもしれないが，本書が少しでもお役に立てれば望外の喜びである。
　最後に，本書の趣旨をご理解いただき，お忙しい中，ともに勉強し執筆してくれた仲間たちに心から感謝申し上げます。また，本書の作成にご理解をいただき，本書を出版していただいたメジカルビュー社編集部の宮澤進氏，小澤祥子氏に心から感謝申し上げます。　

令和5年3月

編者　
白石憲男
藤島　紀
鈴木浩輔