OGS NOW basic 11
広汎子宮全摘術と
広汎子宮頸部摘出術
[Web動画付]
安全に行うために
定価 11,000円(税込) (本体10,000円+税)
- A4判 200ページ オールカラー,イラスト42点,写真172点
- 2022年8月1日刊行
- ISBN978-4-7583-1991-1
序文
広汎子宮全摘術は婦人科腫瘍専門医を目指す産婦人科医にとって,ある意味,到達目標となる術式ですが,時代の変遷とともにその内容は大きく進歩してきました。病巣に過剰なマージンを付けて拡大切除をし,再発さえしなければ神経因性膀胱,リンパ浮腫・リンパ嚢胞が起きても仕方がないという時代は終わりを告げ,現在は病巣の拡がりに応じた適切な根治性が求められます。特に,子宮頸部限局の初期子宮頸癌病巣であれば,排尿関連神経温存術が多くの施設で施行され,保険収載はまだですが,センチネルノードナビゲーションサージャリーも臨床試験として複数の施設で試みられています。このような初期症例には,保険適用の腹腔鏡下手術や保険未収載の臨床試験としてロボット手術も行われますが,それらが縮小手術であるからと言って骨盤深部の解剖に対する知識が不要というわけではありません。骨盤底までの詳細な解剖を知ることによって初めて,適切な神経温存手術ができ,浅層の術野で完遂させる鏡視下手術が安全にできるわけです。本書のような,臨床解剖学と根治性の異なる各種広汎全摘術をわかりやすく併記した手術書の有用性はそこにあります。
開腹広汎子宮全摘術を先輩から学ぶ際に,手技を説明されても出血が溜まった骨盤底で操作が行われるためイメージできず,直視できないままに子宮が摘出されてくるという名人芸を見せられる時代は終わりを告げ,今はエナジーデバイスを駆使したドライな術野のもと,“ 層や膜” を見せてもらいながらリアルタイムに手技を理解していく時代となりました。何度も骨盤底に指を送り,細い手術糸で丹念かつ繊細な結紮を繰り返しながら手術を進めた時代が,エナジーデバイス全盛期を迎えて助手たちの糸結びの腕前が落ちたことは否めませんが,これも患者さんに最大のベネフィットを与えるという大命題のもとでは致し方ありません。むしろ,エナジーデバイスの種類と使い方を熟知することが今は大事となりましたので,本書ではその章を設けました。
また本書ではMIS(Minimally Invasive Surgery)が発展してきた背景を受けて,腹腔鏡とロボットによる広汎子宮全摘術についても詳述しています。助手でも術野が見にくかった腹式手術の時代に比し,鏡視下手術のクリアな術野画像は後輩への手術手技の伝承に大きく貢献しています。本書はQRコードで容易にそのショートムービーが視聴できるという画期的な手術書ですが,それでも内視鏡カメラの画像から得られる術野は,開腹で行う超広汎子宮全摘術や骨盤除臓術などの拡大術式の術野より浅層に終始するので,見えている術野の奥にどのような解剖が隠れているのかは本書のイラストで学ぶしかありません。このような学習方略は今後,開腹子宮全摘術が減っていくなか,より一層重要となってくるでしょう。
将来の妊娠を希望する子宮頸癌患者に対する腹式広汎子宮頸部摘出術の臨床試験に筆者が取り組んだのは2005 年で,当時は国内2施設しかこの手術を行っていませんでした。この手術の目的は子宮頸癌が再発しないことはもちろん,術後妊娠・分娩し,患者さんに生児を得ていただくことにあるので,筆者らは各県でこの手術から出産まで完結できる国内の医療提供体制を作るべく,長年,本術式の普及に努めてきました。“ 代理母”が法的に認められないわが国において,この術式は急速に普及し,現在は国内どのエリアでもこの完結型医療が提供できるようになりました。ガイドラインにも掲載される術式となった現状を受けて,本書では開腹のみならず,腟式,腹腔鏡下およびロボット支援下の広汎子宮頸部摘出術についても詳細に解説しました。
今から執刀を目指す若手医師をターゲットとしたOGS NOW basic の内容としては,難易度の高い術式になりますが,既刊のOGS NOWよりは初心者向けに書かれています。本書を読んだ後にそれぞれの術式に該当するOGS NOWの章を読んでいただくと,さらに広汎子宮全摘術と広汎子宮頸部摘出術に対する理解が深まると思います。本書を手に取られた先生方が両術式の理解を深めることにより,手術を受ける患者さんへより多くの恩恵を届けて頂くことを切に願います。
2022年7月
小林裕明
開腹広汎子宮全摘術を先輩から学ぶ際に,手技を説明されても出血が溜まった骨盤底で操作が行われるためイメージできず,直視できないままに子宮が摘出されてくるという名人芸を見せられる時代は終わりを告げ,今はエナジーデバイスを駆使したドライな術野のもと,“ 層や膜” を見せてもらいながらリアルタイムに手技を理解していく時代となりました。何度も骨盤底に指を送り,細い手術糸で丹念かつ繊細な結紮を繰り返しながら手術を進めた時代が,エナジーデバイス全盛期を迎えて助手たちの糸結びの腕前が落ちたことは否めませんが,これも患者さんに最大のベネフィットを与えるという大命題のもとでは致し方ありません。むしろ,エナジーデバイスの種類と使い方を熟知することが今は大事となりましたので,本書ではその章を設けました。
また本書ではMIS(Minimally Invasive Surgery)が発展してきた背景を受けて,腹腔鏡とロボットによる広汎子宮全摘術についても詳述しています。助手でも術野が見にくかった腹式手術の時代に比し,鏡視下手術のクリアな術野画像は後輩への手術手技の伝承に大きく貢献しています。本書はQRコードで容易にそのショートムービーが視聴できるという画期的な手術書ですが,それでも内視鏡カメラの画像から得られる術野は,開腹で行う超広汎子宮全摘術や骨盤除臓術などの拡大術式の術野より浅層に終始するので,見えている術野の奥にどのような解剖が隠れているのかは本書のイラストで学ぶしかありません。このような学習方略は今後,開腹子宮全摘術が減っていくなか,より一層重要となってくるでしょう。
将来の妊娠を希望する子宮頸癌患者に対する腹式広汎子宮頸部摘出術の臨床試験に筆者が取り組んだのは2005 年で,当時は国内2施設しかこの手術を行っていませんでした。この手術の目的は子宮頸癌が再発しないことはもちろん,術後妊娠・分娩し,患者さんに生児を得ていただくことにあるので,筆者らは各県でこの手術から出産まで完結できる国内の医療提供体制を作るべく,長年,本術式の普及に努めてきました。“ 代理母”が法的に認められないわが国において,この術式は急速に普及し,現在は国内どのエリアでもこの完結型医療が提供できるようになりました。ガイドラインにも掲載される術式となった現状を受けて,本書では開腹のみならず,腟式,腹腔鏡下およびロボット支援下の広汎子宮頸部摘出術についても詳細に解説しました。
今から執刀を目指す若手医師をターゲットとしたOGS NOW basic の内容としては,難易度の高い術式になりますが,既刊のOGS NOWよりは初心者向けに書かれています。本書を読んだ後にそれぞれの術式に該当するOGS NOWの章を読んでいただくと,さらに広汎子宮全摘術と広汎子宮頸部摘出術に対する理解が深まると思います。本書を手に取られた先生方が両術式の理解を深めることにより,手術を受ける患者さんへより多くの恩恵を届けて頂くことを切に願います。
2022年7月
小林裕明
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目次
広汎子宮全摘術に必要な解剖知識 [関山健太郎]
エナジーデバイスの解説 [太田啓明ほか]
ステージごとの対応フローチャート [簗詰伸太郎ほか]
広汎子宮全摘術の周術期管理 [黒田高史]
広汎子宮全摘術
開 腹 [加藤友康]
腹腔鏡 [安藤正明ほか]
ロボット [ 横山良仁]
広汎子宮全摘術に伴う合併症の予防と治療 [ 奥川 馨ほか]
広汎子宮頸部摘出術
開 腹 [田中京子ほか]
腟 式 [玉手雅人ほか]
腹腔鏡 [谷川輝美ほか ]
ロボット [小林裕明]
ノンテクニカルスキルを学ぶチームビルディング [平松祐司]
エナジーデバイスの解説 [太田啓明ほか]
ステージごとの対応フローチャート [簗詰伸太郎ほか]
広汎子宮全摘術の周術期管理 [黒田高史]
広汎子宮全摘術
開 腹 [加藤友康]
腹腔鏡 [安藤正明ほか]
ロボット [ 横山良仁]
広汎子宮全摘術に伴う合併症の予防と治療 [ 奥川 馨ほか]
広汎子宮頸部摘出術
開 腹 [田中京子ほか]
腟 式 [玉手雅人ほか]
腹腔鏡 [谷川輝美ほか ]
ロボット [小林裕明]
ノンテクニカルスキルを学ぶチームビルディング [平松祐司]
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術式解説に加え,手術に必要な解剖やエナジーデバイスの解説,stageごとの対応表も掲載
若手産婦人科医を対象に「基本的に身につけなければならない手技」を解説し,“十分な理解に基づく手術”をマスターできる実践的シリーズ。緻密で美しいイラストにより読むだけで手術をシミュレートできるビジュアル重視の紙面に加え,スマートフォン等でアクセスできる本文とリンクした動画をストリーミング配信。解説は簡潔かつ初心者フレンドリーで,今さら聞けないような事柄についても丁寧に記載し,助手などの補助的な立場の手術参加者にもより役立つ作りとしている。
第11巻では腹腔鏡・ロボット・開腹による広汎子宮全摘術,腹腔鏡・ロボット・開腹・腟式による広汎子宮頸部摘出術を解説。手術に必要な解剖やエナジーデバイスの解説,stageごとの対応表も掲載。