人体のメカニズムから学ぶ

放射線生物学

放射線生物学

■編集 松本 義久

定価 6,160円(税込) (本体5,600円+税)
  • B5判  328ページ  2色,イラスト300点,写真50点
  • 2017年2月3日刊行
  • ISBN978-4-7583-1725-2

難解な内容を発生機序を絡めてわかりやすく解説! 放射線学の核となる「放射線生物学」の知識がしっかり身につく講義用テキスト!

診療放射線技師養成校の学生さんを対象としたテキスト。
近年では,医療機器の進歩に伴い,診療放射線技師に求められる知識や技能も高度化している。本書ではこのような現状を踏まえ,疾病や体内で起こる異常の原因,発生機序といった深い知識をわかりやすく解説。放射線の生物に対する作用や人体への影響,放射線によるがん治療といった内容はもちろん,近年着目されている放射線防護や安全管理についても網羅している。
また,欄外に「用語アラカルト」や「補足」を設け+αの知識を掲載するとともに,豊富な図表を用いて視覚的にも理解しやすいレイアウトとなっている。さらに,一通り学習した後,きちんと知識を習得できたかどうか確認するための「まとめのチェック」を章末に設けている。
放射線学を学ぶにあたり核となる「放射線生物学」の知識を,本書を通じて身につけてほしい。


序文

編集の序
 メジカルビュー社から最初にお話を頂いて約1年半,多くの方々のご協力により,『人体のメカニズムから学ぶ 放射線生物学』を刊行することができました。本書は診療放射線技師養成校の学生の皆さんを対象とした,今までにない新しいテキストをということで企画されました。私自身は,診療放射線技師養成校ではなく,東京工業大学で原子核・原子力工学の分野の教育に携わってきました。しかし,本書の目指すところは,私がこれまで10年にわたって講義を行ってきて,「こういうテキストがほしい」あるいは「作りたい」と思っていたものでした。
 本書の最大の特色はタイトルにもあります「人体のメカニズムから学ぶ」という言葉に凝縮されています。放射線は私たちの体のいろいろな組織にさまざまな影響を及ぼします。その影響が現れる線量や時期もさまざまです。さらに,放射線の種類や,生体が置かれた状況や環境によって影響は異なります。一言で言えば,覚えることがたくさんあります。しかし,生体を構成する分子,細胞の成り立ちや振舞いの基礎に戻って学ぶことにより,さまざまな事柄を相互に関連づけながら,体系的に理解することができます。そこで,本書では,人体を構成する細胞,分子に1章を割り当てました。また,放射線に対する生体応答については,新しい知見も含めて分子メカニズムを詳述し,さらに中心的な役割を担う分子について解説する独立した節を設けています。
 本書におけるそれぞれの章,節の執筆は,診療放射線技師養成校での教育に携わられている先生の中で,それぞれの内容に関する最先端の研究をされている気鋭の先生方にお願いしました。全体を通して,より理解しやすいよう,図表を豊富に用いて視覚的にわかりやすい紙面とすることを心がけました。また,やや難しいと思われる専門用語の解説や,意欲的な皆さんのためのプラスαの知識として,「用語アラカルト」や「補足」などの囲み記事を随所に掲載しています。さらに,一通り学習した後,知識を習得できたか確認できるよう,「まとめのチェック」を各章末に設けています。
 最後に,教育・研究などに大変お忙しい中にも関わらず,本書の趣旨にご賛同頂き,ご執筆頂きました著者の先生方,また,編集にご協力頂きましたメジカルビュー社のスタッフの方々に心から感謝申し上げます。

2016年12月
松本義久
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目次

1章 放射線・放射性物質の基礎
 1 原子の構造
  はじめに
  原子の大きさと構造
  陽子,中性子,電子の性質
  原子番号
  質量数
  元素と元素記号
  核種,同位体
  安定同位体と放射性同位体(放射性同位元素)
  
 2 放射線の発生① 放射性同位元素の壊変
  はじめに
  α壊変
  β−壊変
  β+壊変
  軌道電子捕獲
  γ線の放出
  放射能
  半減期
  
 3 放射線の発生② 放射線発生装置,中性子源
  はじめに
  特性X線と制動X線
  X線発生装置とスペクトル
  中性子線
  中性子源
  熱中性子,熱外中性子,高速中性子(速中性子)
  
 4 放射線の種類と性質
  はじめに
  放射線の定義
  電離
  励起
  直接電離放射線と間接電離放射線
  β−線,電子線と物質の相互作用
  β+線と物質の相互作用
  陽子,α線,重粒子線などと物質の相互作用
  γ線,X線と物質の相互作用
  光電効果
  コンプトン効果(コンプトン散乱)
  電子対生成
  中性子と物質の相互作用
  
 5 放射線量と単位
  はじめに
  物理量,防護量,実用量
  照射線量
  吸収線量
  等価線量
  実効線量
  線量率
  預託等価線量と預託実効線量
  
 6 天然放射性核種
  はじめに
  系列を作る天然放射性核種
  系列を作らない天然放射性核種
  
 7 人工放射性核種
  はじめに
  核分裂
  核分裂によりどんな核種が生成されるのか
  系列を作る人工放射性核種
  代表的な人工放射性核種とその特徴
  
 8 自然放射線被ばく
  はじめに
  土壌からの被ばく
  大気からの被ばく
  食べ物からの被ばく
  宇宙線からの被ばく
  
 9 人工放射線被ばく
  はじめに
  医療被ばくの考え方
  医療被ばくの最適化と診断参考レベル
  核実験による人工放射性核種のフォールアウト
  福島第一原子力発電所の事故による放射線の影響
  
  まとめのチェック
  
2章 人体を構成する細胞,分子
 1 細胞の基本構造と細胞内小器官
  はじめに
  細胞膜
  核
  ミトコンドリア
  小胞体
  ゴルジ装置
  リソソーム
  ペルオキシソーム
  
 2 生体を構成する分子
  はじめに
  タンパク質
  脂質
  糖質
  核酸
  
 3 核酸(DNA,RNA)の構造
  はじめに
  塩基
  DNAの二重らせん構造
  ヌクレオソーム
  RNAの種類と構造
  
 4 タンパク質の構造
  はじめに
  一次構造
  二次構造
  三次構造
  四次構造
  Da
  
 5 DNAからRNA,タンパク質へ(転写,翻訳)
  はじめに
  DNAからRNAへ
  DNAとRNAの違い
  RNAからタンパク質へ
  
 6 遺伝子発現の調節機構,転写制御とタンパク質分解
  はじめに
  細胞内における染色体DNAの構造
  ヘテロクロマチンとユークロマチン
  RNAポリメラーゼによる転写の制御機構
  プロモーターによる制御
  ターミネーターによる転写の終了
  転写因子による制御
  タンパク質の分解
  タンパク質のユビキチン化
  
 7 細胞増殖,細胞分裂,細胞周期
  はじめに
  細胞増殖とがん化
  細胞周期
  DNA複製
  細胞分裂
  細胞周期の時間
  G0期
  細胞周期にかかわるタンパク質
  
 8 細胞骨格と細胞運動
  はじめに
  微小管
  中間径フィラメント
  アクチンフィラメント
  
 9 エネルギー代謝
  はじめに
  生体のエネルギー通貨:ATP
  解糖系
  クエン酸(TCA)回路
  電子伝達系
  
 10 細胞外からのシグナル
  はじめに
  ホルモン
  サイトカイン
  
 11 細胞内情報伝達
  はじめに
  ホルモンおよびサイトカインの受容
  Gタンパク質共役型受容体からのシグナル伝達
  チロシンキナーゼ型受容体からのシグナル伝達
  ストレス応答シグナル伝達
  
 12 幹細胞,細胞分化
  はじめに
  幹細胞
  対称分裂と非対称分裂
  ES細胞
  iPS細胞
  幹細胞ニッチ
  幹細胞と分化した細胞の放射線感受性
  幹細胞におけるDNA修復
  
 13 細胞死
  はじめに
  プログラム細胞死
  プログラム細胞死とアポトーシス
  アポトーシスとネクローシス
  
  >>まとめのチェック
  
3章 分子・細胞レベルでの放射線影響
 1 直接作用と間接作用
  直接作用と間接作用
  物理的過程・化学的過程・生物学的過程
  
 2 フリーラジカル① 生成
  水分子の励起と電離
  フリーラジカル
  活性酸素種
  ルイス構造式
  
 3 フリーラジカル② ラジカルスカベンジャーなどの効果
  ラジカルスカベンジャー
  生体の抗酸化機能
  間接作用の特徴
  
 4 放射線によるDNA損傷
  はじめに
  塩基損傷
  塩基の遊離
  DNA架橋
  DNA鎖切断
  紫外線によるDNA損傷
  DNA損傷の検出法
  蛍光免疫染色法
  パルスフィールドゲル電気泳動法
  コメットアッセイ法
  
 5 突然変異
  はじめに
  遺伝子突然変異の発生原因
  遺伝子突然変異の分類
  遺伝子突然変異と線量・線質・線量率との関係
  
 6 染色体突然変異(染色体異常)
  はじめに
  染色体の数の異常と構造上の異常
  染色体突然変異(染色体異常)と線量・線質・線量率効果
  染色体異常の検出方法
  
 7 放射線による細胞死
  はじめに
  コロニー形成法における「細胞死」の評価
  コロニー形成法の実際
  コロニー形成法における細胞死の定義
  放射線による細胞死
  放射線生物学分野における細胞死分類
  細胞生物学分野における細胞死分類
  
 8 生存率曲線とモデル
  はじめに
  ヒット・標的理論
  
 9 亜致死損傷回復と潜在的致死損傷回復
  はじめに
  亜致死損傷回復(SLDR)
  SLDRと放射線の線質との関係
  潜在的致死損傷回復(PLDR)
  PLDRと放射線の線質との関係
  低線量率照射との関係
  
  >>まとめのチェック
  
4章 組織・個体レベルでの放射線影響
 1 放射線のさまざまな影響と分類
  はじめに
  外部被ばくと内部被ばく
  全身被ばくと局所被ばく
  確率的影響と確定的影響
  組織の放射線感受性
  急性障害と晩発性障害
  
 2 急性放射線症候群
  急性放射線症候群
  臓器・組織の放射線感受性
  半致死線量(LD50)
  急性放射線症候群による個体死
  
 3 造血系・免疫系への影響
  造血機能の解剖
  年齢による造血組織の移動
  血球細胞の分化・成熟
  血球の種類と機能
  高線量率被ばくによる造血への影響
  放射線誘発白血病のリスク
  
 4 消化器系への影響
  はじめに
  口腔・咽頭
  食道
  胃
  小腸
  大腸
  唾液腺
  肝臓
  膵臓
  
 5 脳・中枢神経系への影響
  脳神経の解剖
  神経の情報伝達
  高線量率被ばくによる脳・中枢神経系への影響
  
 6 生殖器系への影響
  はじめに
  精巣の構造
  被ばくによる精巣への影響
  卵巣の構造
  被ばくによる卵巣への影響
  
 7 皮膚への影響
  皮膚の解剖
  高線量率被ばくによる皮膚症状と発症時期
  
 8 眼・水晶体への影響
  眼・水晶体の構造
  被ばくによる眼・水晶体への影響
  
 9 胎児の発育段階と放射線の影響
  はじめに
  胎児の発生
  放射線の胎児への影響
  胎児期被ばくと奇形
  胎児期被ばくと精神発達遅滞
  小児への影響
  
 10 放射線発がん① 事例
  はじめに
  職業に関連した被ばくによる発がんの事例
  医療に関連した被ばくによる発がんの事例
  原爆・水爆,原子力事故に関連した発がんの事例
  
 11 放射線発がん② 線量とリスクの関係
  はじめに
  がんリスクとその表現
  相対リスクと過剰相対リスク
  過剰絶対リスク
  広島・長崎原爆被爆生存者の固形腫瘍リスク
  広島・長崎原爆被爆生存者の白血病リスク
  
 12 放射線発がん③ 低線量域でのリスクについての考え方
  はじめに
  疫学研究の特色と限界
  低線量域での線量-効果関係についてのモデル
  線量・線量率効果係数(DDREF)
  
 13 遺伝性影響
  はじめに
  動物実験における遺伝性影響①
  動物実験における遺伝性影響②
  ヒトにおける遺伝性影響
  生殖細胞と放射線感受性
  ヒト遺伝性影響リスクの推定
  
  >>まとめのチェック
  
5章 放射線影響から生体を守る仕組み
 1 DNA修復① 塩基損傷,一本鎖切断の修復
  はじめに
  DNA損傷の原因
  DNA一本鎖切断および塩基損傷の修復
  
 2 DNA修復② 二本鎖切断の修復
  はじめに
  相同組換え修復
  非相同末端結合修復
  二本鎖切断修復の分子システム
  
 3 細胞周期チェックポイント
  はじめに
  細胞周期チェックポイント
  
 4 アポトーシス
  はじめに
  内因性アポトーシスと外因性アポトーシス
  ミトコンドリア経路
  ミトコンドリアに至る放射線誘発アポトーシス経路
  
 5 放射線への細胞応答における重要分子① DNA-PK,ATM,ATR
  はじめに
  DNA-PK,ATM,ATRとは?
  DNA-PK,ATM,ATRはタンパク質リン酸化酵素
  DNA-PKcs,ATM,ATRはDNA損傷部位に呼び込まれる
  放射線治療への応用
  
 6 放射線への細胞応答における重要分子② p53
  はじめに
  p53発見のあらまし
  機能獲得型の性質を示すp53変異
  がん抑制因子として働くp53の機能
  
 7 放射線高感受性遺伝病
  はじめに
  毛細血管拡張性運動失調症
  ナイミーヘン症候群
  AT様疾患
  セッケル症候群
  ファンコニ貧血
  Ligase Ⅳ症候群
  紫外線高感受性遺伝病
  ヘリカーゼタンパク質異常の遺伝病
  複合免疫失調マウス(SCIDスキッドマウス)
  放射線高感受性遺伝病とそれらの原因遺伝子の役割の関係
  
  >>まとめのチェック
  
6章 放射線影響を修飾する要因
 1 細胞周期と放射線感受性の関係
  はじめに
  細胞周期の同調
  細胞周期による放射線感受性の違い
  
 2 分割照射と線量率の効果
  はじめに
  分割照射の効果
  線量率効果
  分割照射のタイミングと生物効果
  
 3 線エネルギー付与(LET)と生物学的効果比(RBE)
  はじめに
  線エネルギー付与(LET)
  LETが異なる放射線の作用
  生物学的効果比(RBE)
  RBEを左右する因子
  LETとRBEの関係
  
 4 酸素効果
  はじめに
  酸素効果
  酸素効果のメカニズム
  酸素増感比(OER)
  LET,RBE,OERの関係
  低酸素細胞
  再酸素化
  
 5 放射線増感剤
  はじめに
  ハロゲン化ピリミジン
  低酸素細胞増感剤
  DNA修復酵素阻害剤
  その他
  
 6 放射線防護剤
  はじめに
  放射線防護剤の役割,および開発の歴史
  アミフォスチンの開発とその臨床応用
  その他の放射線防護剤
  
  >>まとめのチェック
  
7章 放射線によるがん治療
 1 腫瘍細胞の生物学的特徴
  はじめに
  がん抑制遺伝子p53
  腫瘍内微小環境と血管新生
  腫瘍内微小環境と低酸素応答
  腫瘍内微小環境とがん幹細胞
  
 2 腫瘍組織と正常組織の放射線感受性
  放射線感受性
  細胞動態による組織の放射線感受性分類
  正常組織障害と耐容線量
  腫瘍の放射線感受性
  至適線量と治療可能比
  
 3 治療における分割照射
  はじめに
  分割照射の放射線生物学的説明
  
 4 4つのR
  はじめに
  回復(Recovery)
  再分布(同調,Redistribution)
  再増殖(Repopulation)
  再酸素化(Reoxygenation)
  
 5 陽子線・重粒子線によるがん治療
  粒子線治療
  ブラッグ・ピーク
  陽子線・重粒子線の生物学的特徴
  
 6 中性子によるがん治療
  速中性子線によるがん治療
  ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)
  ホウ素中性子捕捉療法に用いられる化合物
  
 7 抗がん剤
  化学療法と抗がん剤
  DNA損傷を誘発する抗がん剤
  DNA合成を阻害する抗がん剤(代謝拮抗剤)
  微小管重合・脱重合を阻害する抗がん剤
 
 8 分子標的(治療)薬
  分子標的(治療)薬
  低分子化合物型の分子標的薬
  抗体型の分子標的薬
  合成致死
  
 9 温熱療法
  温熱療法(hyperthermia)
  温熱療法の特徴
  温熱療法と放射線治療,抗がん剤治療の組み合わせ
  熱ショックタンパク質(HSP)
  温熱耐性
  
  >>まとめのチェック
  
8章 放射線防護と安全管理
 1 放射線障害防止に関する国際機関と国内法令
  放射線防護の歴史とICRPの設立
  放射線防護の国際的枠組み
  ICRP勧告と国内法令
  
 2 放射線防護体系
  はじめに
  被ばく状況の区分による放射線防護体系
  放射線防護の基本原則
  
 3 線量限度,線量拘束値,診断参考レベル
  はじめに
  被ばく管理
  
 4 放射線管理区域
  はじめに
  管理区域と被ばく形態
  
 5 放射線業務従事者の管理
  はじめに
  教育訓練
  健康診断
  
 6 外部被ばく,内部被ばくからの防護
  はじめに
  外部被ばくの防護
  内部被ばくの防護
  
  >>まとめのチェック
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