発達OTが考える
子どもセラピィの思考プロセス
あなたのセラピィを構築するためのいくつかのヒント
- サンプルページ
どなたでもご覧いただけます
定価 4,400円(税込) (本体4,000円+税)
- B5判 256ページ 2色,イラスト50点,写真80点
- 2016年2月1日刊行
- ISBN978-4-7583-1697-2
序文
監修の序
お待たせしました! やっと誕生しました。
現場で「子ども」に真剣に向かい合い,子どもに今より少しでも上質のquality of life(生活の質)を体験してもらえるよう奮闘している作業療法士(OT)同志は日々自らの臨床力を磨こうと努めているでしょう。今日のセラピィを少しでも上回る明日のセラピィを目指しさまざまな資源を求めることもあるでしょう。巷には参考本が溢れています。一見理解しやすいhow-toモノに従い試してみたところ,思うような効果が得られず肩を落としたこともあるでしょう。「Clinical evidenceがなければ科学的アプローチとはいえない」との主張に萎縮し,科学性を謳うモノを手にしてはみたけど,臨床への応用にそぐわない「えせ科学」にふりまわされ戸惑いを感じたこともあるでしょう。
お待たせしました。現場での成果を大切にしたいとの想いを胸に抱き実践OTを目指す仲間に,必ず実践的臨床力を高めるための手がかりを与えてくれる本書が誕生しました。エビデンスは数字の上にだけあるものではない。というより,クライエントや周辺の養育者が認めてくれる「効果(変化)」,現象として確認できる「効果(変化)」もエビデンスであると考えてみましょう。それらが「学者さんたち」に認めてもらえないのは私たちだけの責任ではありません。それらを数量化し可視化する処理方法を一日でも早く今の研究者に見出してもらえるよう願っています。
名人芸を一朝一夕のうちに身につけようとの想いは,あのドンキホーテの見果てぬ夢に通じる儚さにつながるところがあります。しかし,専門職として仕事をするからには「職人芸」を磨き高めることは欠かせぬ責務だといえるでしょう。「作業療法はartでありscienceである」という金言があります。作業療法が成立するためにはartも欠かせぬ要素となります。art and therapyであって,art or therapyではありません。筆者はこのartが「芸」に相当すると解釈しています。芸なき科学,科学なき芸では作業療法は成立しません。
こうした考え,姿勢を共有する仲間がこの本の誕生に携わっています。「芸」を磨くことの困難さは,科学を芸に統合する作法の困難さにあると小松氏が謳っています。そしてその困難さを解決する手立てとして,非常に示唆に富む内容を本書にちりばめてくれています。
「〜細やかな思考プロセスを〜わかっていこう」「学習し〜自分の運動能力に変換」しようと,誘ってくれています。臨床例を挙げ,臨床場面に沿って解説されています。
さあ,この誘いに従って進んでみてください,皆さんの臨床力は,きっと,今日より明日,明日から明後日とステップアップするでしょう。
2015年12月
小西紀一
-----------------------------------------------------------
はじめに
「今日のセラピィはどうでしたか?」
子どもとの関わりが上手いセラピストに出会うと気持ちがいい。そこには卓越した子どもへの洞察と知識と経験により裏付けられた確実なテクニックが存在している。それは子どもセラピィを実践する者であれば誰もが憧れる名人芸だ。しかし,誰もが名人になれるわけではい。ましてや巷にあふれる“How to 本”を読んでも,その域には達しないというのが現状だが,筆者は名人にはなれないが誰もが“職人には近づける”と思っている。もっと現実的なことをいうと「職人には近づこうとすることはできる」と考えているので,その手を緩めることなく日々精進している。そしてそのスピリットは日々の子どもとのやりとりのなかで筆者自身を奮い立たせてくれる。やはり大事なことは上手いセラピィを見よう見まねするだけではなく,「どのようにこのセラピィが思考され,組み立てられるに至ったか」である。
本書は子どものセラピィに関わる人々がセラピィを構築するうえで必要となる思考のプロセスをやさしく解説していく。この思考プロセスの基盤は,発達OTネットワーク@ASI.(以下HON)という筆者らの研究会が実施している実践型の研修会「セラピスト養成講座」(以下,講座)のなかで行われている研修内容がベースになっている。これまでの発達障害領域のセラピィの解説書は「〇〇という疾患群にはこのようなアプローチが必要」というものが多かったが,本書は,
・セラピストがどのようにセラピィの対象である子どもを見立てるか
・どのように養育者と話をするか
・どのように治療構造を考えるか
・どのようにアプローチを組み立ててアクティビティをひねり出すか
・どのように臨床で実践していくのか
という「思考のプロセス」について綿密にまとめることを試みた。ここでいうところの「セラピスト」や「実践家」,「臨床家」という言葉は何も作業療法士や,病院などの医療機関に勤めている人たちだけに限定しているわけではない。子どもセラピィに関わっている方すべてに対して,ご一読いただくことで明日からの子どもとの関わりの一助になることを願っている。
第1章「この本が生まれたわけ」では,本書がなぜ書かれたかについて解説する。さまざまな発達障害領域のあるなかで,なぜ「思考プロセス」に特化した本を書くことになったのか。また思考プロセスをまとめていくことによって,明日からそれぞれのセラピストの臨床がどのように変わっていかなければならないのか,について述べる。
第2章「臨床力とは何か」は,最近の発達障害領域の作業療法および,子どもの発達支援に関する動向に触れながら,セラピストが身に着けておかなければならない臨床における能力について解説する。また個々のセラピストがどのように支援とセラピィモデルをとらえていくかという観点より,支援のモデルとしての生活支援と発達支援,セラピィモデルとしての遅滞モデルと欠損モデルという用語を用いて臨床力の必要性について述べる。
第3章「子どもが来てから帰るまでの40〜60分で行うこと」では,実際の臨床場面に子どもが来た場合にどのような思考過程を経てセラピィを組み立てていくのかを1〜6項目に分け,順序立てて述べている。「1:お子さんが来る前に」では,子どもがセラピストに出会うまでにどのようなことをイメージしておかなければならないかについて述べる。また,セラピィを始める前に何を中心に置いて考えていくかについてもまとめている。「2:臨床における面接」では,子どもや養育者のニーズをつかむための方法について述べる。子どもセラピィの臨床では,養育者との面接が治療方針を決める重要な機会となる。これは「主訴」とよばれ,発達課題であったり,生活上の課題であったりすることがほとんどである。セラピストが養育者と話す場合にどのようなことを考えながら,どこに焦点をあてて,どのように話していくかについて情報ツリーという概念を用いて述べる。「3:行動分析に関すること」では,子どもの行動分析について述べる。2015年現在の作業療法現場の対象児は,行動・学習・コミュニケーションに課題がある子どもたちが多くなった。またこの子どもたちは身体障害系の子どもに比べて動きが多く,着眼しなければならない軸が多彩である。ここでは子どもの行動に着目し,どのような視点から行動を観察,分析するかについて述べる。「4:主訴と問題点の整理」では面接・行動分析などの情報をどのように整理していくかについて主訴(行動特性),問題点(認知特性)の観点からの整理の仕方について述べる。子どもの困り度は,運動障害であれば運動学を軸に分析を行い,治療構造を構築することができるが,認知・行動障害系の子どもたちに関してはさまざまな軸が存在するため,ひとつの視点だけを中心にして子どもの困り度を整理することはできない。また行動の背景に隠されている本当の理由こそが治療すべき核になることが多いため,それを導き出すためにはどのようなテクニックが必要なのかについても述べていく。「5:お子さんの解釈と治療の考え方」では治療の組み立て方について解説していく。ここではどのように子どもへのセラピィを構築するか,という考え方を述べている。子どものセラピィを構築するために必要な治療構造を解説し,その結果,どのような治療戦略を立てるかということを実際のケースを通じて述べていく。「6:フィードバックに必要な思考プロセス」では,セラピィ中における思考の整理と解釈,セラピィを通じて得られた結果をどのように生活障害と関連づけられるかについて述べる。さらにそこでセラピストが思考した内容をどのように養育者に説明していくかというテクニックについても述べていく。ここは非常に重要なパートであり,日々の臨床場面ではおろそかになってしまいがちなところである。セラピィは,限られた時間内での関わりになるため,必ずしもうまくいくときばかりではない。しかし,ここで考えなければならないことは実施したことをどのように分析し,養育者にわかるように説明できるかである。現場の臨床の速度は早まるばかりで次から次へとたくさんのお子さんに向き合わなければならず,その流れに乗ってしまうとセラピィを振り返ることもできないし,ましてや養育者にその内容をきちんと説明できていないことが多い。筆者はこれを「セラピィのセラピィだおれ」と呼んでいるが,やりっぱなしで終わらずに自分の仕事を他者に説明するためには何が必要かということもあわせて述べていく。
第4章「アクティビティを紡ぎだすために」では,セラピィにおけるアクティビティ,つまり子どもとの遊びをどのようにセラピストが発想していけばよいかについて述べていく。講座のなかでもたびたび話題になるが,ただ単純に他者が行ったアクティビティを踏襲するだけではセラピィは成立しないし,「この子にはこの遊び」と決めつけると子どもにはただのトレーニングになってしまいお互いに楽しくない。また,そうなるとセラピストと子どもの間に生じる相互作用がなくなり,セラピィは止まってしまう。今,まさに目の前に子どもがいて,楽しく遊んでいるけど「次の遊び」が出てこなかったり,「この遊びをいつまで続ければいいんだろうか」とか,「どう展開したらいいのだろう」と頭の中が真っ白になる場面は誰しも経験する。ここでは遊び方をHow toのように羅列せず,セラピストがアクティビティを発想するための思考,セルフトレーニングについて解説する。
第5章「お子さんに関わってくださる方にどのように伝えていくのか?」では養育者やほかの療育者に伝えていくためのコツについて述べる。第3章5,6のところはセラピィ中とその直後の思考の仕方と伝え方,フィードバックの方法について述べたが,ここではセラピィ終了後に,セラピィで得られた結果と主訴と問題点の分析とを合わせて,書面で養育者やほかの職種に伝えていくときの方法論について述べていく。報告書の作成は,現場では日々行われていることではあるが,保育園や学校の先生,他機関への診療情報提供書などの具体的なレポートを作成する際にどのような点に留意しておくべきかについて解説していく。
第6章「子どもセラピィに必要なこと:手当て論,手入れ論と遊びについて」では子どものセラピィを行っていくうえで,子どもの発達をどのように考えておけばよいかについて“手入れ,手当て”の観点より述べていく。私たちは,子どものセラピィを行っており,その対象者は障がいがある子どもたちであることが多い。また近年,診断名がつかなくても集団のなかで不都合な生きにくさを呈している子どもに対して,支援を行うことが増えている。そして障がいがあるということの前に子どもは“発達する存在”であり一人の人間であるわけで,「障がい児」ではなく「子どもに障がいがある」と考え,いつも「子ども」というかけがえのない存在が前提であることを念頭に置きたい。そうすると私たちは何かしら「子ども論」を個々にもっておかなければ,子どもセラピィはできない。子どもをみることなく,障がいをみているだけでは,子どもセラピィは成立しない。この手入れ論は,日々子どもにどのように良いことをしていくかという日常のケアであり,手当て論とは子どもに突発的に何か起こったときに,すぐに対処しなければならないことを説明している。この2つの論を対比させて語ることでそれぞれのセラピストが子ども論を構築するときの参考として,日々のセラピィに活かしていただけたらと思う。
そして最後のまとめ「これからの子どもセラピスト論」では,大阪発達総合療育センター作業療法士の黒澤淳二氏とともに今後の子どもセラピィをどのように考えていけばよいかを本文を振り返りながら述べていく。
2015年12月
小松則登
お待たせしました! やっと誕生しました。
現場で「子ども」に真剣に向かい合い,子どもに今より少しでも上質のquality of life(生活の質)を体験してもらえるよう奮闘している作業療法士(OT)同志は日々自らの臨床力を磨こうと努めているでしょう。今日のセラピィを少しでも上回る明日のセラピィを目指しさまざまな資源を求めることもあるでしょう。巷には参考本が溢れています。一見理解しやすいhow-toモノに従い試してみたところ,思うような効果が得られず肩を落としたこともあるでしょう。「Clinical evidenceがなければ科学的アプローチとはいえない」との主張に萎縮し,科学性を謳うモノを手にしてはみたけど,臨床への応用にそぐわない「えせ科学」にふりまわされ戸惑いを感じたこともあるでしょう。
お待たせしました。現場での成果を大切にしたいとの想いを胸に抱き実践OTを目指す仲間に,必ず実践的臨床力を高めるための手がかりを与えてくれる本書が誕生しました。エビデンスは数字の上にだけあるものではない。というより,クライエントや周辺の養育者が認めてくれる「効果(変化)」,現象として確認できる「効果(変化)」もエビデンスであると考えてみましょう。それらが「学者さんたち」に認めてもらえないのは私たちだけの責任ではありません。それらを数量化し可視化する処理方法を一日でも早く今の研究者に見出してもらえるよう願っています。
名人芸を一朝一夕のうちに身につけようとの想いは,あのドンキホーテの見果てぬ夢に通じる儚さにつながるところがあります。しかし,専門職として仕事をするからには「職人芸」を磨き高めることは欠かせぬ責務だといえるでしょう。「作業療法はartでありscienceである」という金言があります。作業療法が成立するためにはartも欠かせぬ要素となります。art and therapyであって,art or therapyではありません。筆者はこのartが「芸」に相当すると解釈しています。芸なき科学,科学なき芸では作業療法は成立しません。
こうした考え,姿勢を共有する仲間がこの本の誕生に携わっています。「芸」を磨くことの困難さは,科学を芸に統合する作法の困難さにあると小松氏が謳っています。そしてその困難さを解決する手立てとして,非常に示唆に富む内容を本書にちりばめてくれています。
「〜細やかな思考プロセスを〜わかっていこう」「学習し〜自分の運動能力に変換」しようと,誘ってくれています。臨床例を挙げ,臨床場面に沿って解説されています。
さあ,この誘いに従って進んでみてください,皆さんの臨床力は,きっと,今日より明日,明日から明後日とステップアップするでしょう。
2015年12月
小西紀一
-----------------------------------------------------------
はじめに
「今日のセラピィはどうでしたか?」
子どもとの関わりが上手いセラピストに出会うと気持ちがいい。そこには卓越した子どもへの洞察と知識と経験により裏付けられた確実なテクニックが存在している。それは子どもセラピィを実践する者であれば誰もが憧れる名人芸だ。しかし,誰もが名人になれるわけではい。ましてや巷にあふれる“How to 本”を読んでも,その域には達しないというのが現状だが,筆者は名人にはなれないが誰もが“職人には近づける”と思っている。もっと現実的なことをいうと「職人には近づこうとすることはできる」と考えているので,その手を緩めることなく日々精進している。そしてそのスピリットは日々の子どもとのやりとりのなかで筆者自身を奮い立たせてくれる。やはり大事なことは上手いセラピィを見よう見まねするだけではなく,「どのようにこのセラピィが思考され,組み立てられるに至ったか」である。
本書は子どものセラピィに関わる人々がセラピィを構築するうえで必要となる思考のプロセスをやさしく解説していく。この思考プロセスの基盤は,発達OTネットワーク@ASI.(以下HON)という筆者らの研究会が実施している実践型の研修会「セラピスト養成講座」(以下,講座)のなかで行われている研修内容がベースになっている。これまでの発達障害領域のセラピィの解説書は「〇〇という疾患群にはこのようなアプローチが必要」というものが多かったが,本書は,
・セラピストがどのようにセラピィの対象である子どもを見立てるか
・どのように養育者と話をするか
・どのように治療構造を考えるか
・どのようにアプローチを組み立ててアクティビティをひねり出すか
・どのように臨床で実践していくのか
という「思考のプロセス」について綿密にまとめることを試みた。ここでいうところの「セラピスト」や「実践家」,「臨床家」という言葉は何も作業療法士や,病院などの医療機関に勤めている人たちだけに限定しているわけではない。子どもセラピィに関わっている方すべてに対して,ご一読いただくことで明日からの子どもとの関わりの一助になることを願っている。
第1章「この本が生まれたわけ」では,本書がなぜ書かれたかについて解説する。さまざまな発達障害領域のあるなかで,なぜ「思考プロセス」に特化した本を書くことになったのか。また思考プロセスをまとめていくことによって,明日からそれぞれのセラピストの臨床がどのように変わっていかなければならないのか,について述べる。
第2章「臨床力とは何か」は,最近の発達障害領域の作業療法および,子どもの発達支援に関する動向に触れながら,セラピストが身に着けておかなければならない臨床における能力について解説する。また個々のセラピストがどのように支援とセラピィモデルをとらえていくかという観点より,支援のモデルとしての生活支援と発達支援,セラピィモデルとしての遅滞モデルと欠損モデルという用語を用いて臨床力の必要性について述べる。
第3章「子どもが来てから帰るまでの40〜60分で行うこと」では,実際の臨床場面に子どもが来た場合にどのような思考過程を経てセラピィを組み立てていくのかを1〜6項目に分け,順序立てて述べている。「1:お子さんが来る前に」では,子どもがセラピストに出会うまでにどのようなことをイメージしておかなければならないかについて述べる。また,セラピィを始める前に何を中心に置いて考えていくかについてもまとめている。「2:臨床における面接」では,子どもや養育者のニーズをつかむための方法について述べる。子どもセラピィの臨床では,養育者との面接が治療方針を決める重要な機会となる。これは「主訴」とよばれ,発達課題であったり,生活上の課題であったりすることがほとんどである。セラピストが養育者と話す場合にどのようなことを考えながら,どこに焦点をあてて,どのように話していくかについて情報ツリーという概念を用いて述べる。「3:行動分析に関すること」では,子どもの行動分析について述べる。2015年現在の作業療法現場の対象児は,行動・学習・コミュニケーションに課題がある子どもたちが多くなった。またこの子どもたちは身体障害系の子どもに比べて動きが多く,着眼しなければならない軸が多彩である。ここでは子どもの行動に着目し,どのような視点から行動を観察,分析するかについて述べる。「4:主訴と問題点の整理」では面接・行動分析などの情報をどのように整理していくかについて主訴(行動特性),問題点(認知特性)の観点からの整理の仕方について述べる。子どもの困り度は,運動障害であれば運動学を軸に分析を行い,治療構造を構築することができるが,認知・行動障害系の子どもたちに関してはさまざまな軸が存在するため,ひとつの視点だけを中心にして子どもの困り度を整理することはできない。また行動の背景に隠されている本当の理由こそが治療すべき核になることが多いため,それを導き出すためにはどのようなテクニックが必要なのかについても述べていく。「5:お子さんの解釈と治療の考え方」では治療の組み立て方について解説していく。ここではどのように子どもへのセラピィを構築するか,という考え方を述べている。子どものセラピィを構築するために必要な治療構造を解説し,その結果,どのような治療戦略を立てるかということを実際のケースを通じて述べていく。「6:フィードバックに必要な思考プロセス」では,セラピィ中における思考の整理と解釈,セラピィを通じて得られた結果をどのように生活障害と関連づけられるかについて述べる。さらにそこでセラピストが思考した内容をどのように養育者に説明していくかというテクニックについても述べていく。ここは非常に重要なパートであり,日々の臨床場面ではおろそかになってしまいがちなところである。セラピィは,限られた時間内での関わりになるため,必ずしもうまくいくときばかりではない。しかし,ここで考えなければならないことは実施したことをどのように分析し,養育者にわかるように説明できるかである。現場の臨床の速度は早まるばかりで次から次へとたくさんのお子さんに向き合わなければならず,その流れに乗ってしまうとセラピィを振り返ることもできないし,ましてや養育者にその内容をきちんと説明できていないことが多い。筆者はこれを「セラピィのセラピィだおれ」と呼んでいるが,やりっぱなしで終わらずに自分の仕事を他者に説明するためには何が必要かということもあわせて述べていく。
第4章「アクティビティを紡ぎだすために」では,セラピィにおけるアクティビティ,つまり子どもとの遊びをどのようにセラピストが発想していけばよいかについて述べていく。講座のなかでもたびたび話題になるが,ただ単純に他者が行ったアクティビティを踏襲するだけではセラピィは成立しないし,「この子にはこの遊び」と決めつけると子どもにはただのトレーニングになってしまいお互いに楽しくない。また,そうなるとセラピストと子どもの間に生じる相互作用がなくなり,セラピィは止まってしまう。今,まさに目の前に子どもがいて,楽しく遊んでいるけど「次の遊び」が出てこなかったり,「この遊びをいつまで続ければいいんだろうか」とか,「どう展開したらいいのだろう」と頭の中が真っ白になる場面は誰しも経験する。ここでは遊び方をHow toのように羅列せず,セラピストがアクティビティを発想するための思考,セルフトレーニングについて解説する。
第5章「お子さんに関わってくださる方にどのように伝えていくのか?」では養育者やほかの療育者に伝えていくためのコツについて述べる。第3章5,6のところはセラピィ中とその直後の思考の仕方と伝え方,フィードバックの方法について述べたが,ここではセラピィ終了後に,セラピィで得られた結果と主訴と問題点の分析とを合わせて,書面で養育者やほかの職種に伝えていくときの方法論について述べていく。報告書の作成は,現場では日々行われていることではあるが,保育園や学校の先生,他機関への診療情報提供書などの具体的なレポートを作成する際にどのような点に留意しておくべきかについて解説していく。
第6章「子どもセラピィに必要なこと:手当て論,手入れ論と遊びについて」では子どものセラピィを行っていくうえで,子どもの発達をどのように考えておけばよいかについて“手入れ,手当て”の観点より述べていく。私たちは,子どものセラピィを行っており,その対象者は障がいがある子どもたちであることが多い。また近年,診断名がつかなくても集団のなかで不都合な生きにくさを呈している子どもに対して,支援を行うことが増えている。そして障がいがあるということの前に子どもは“発達する存在”であり一人の人間であるわけで,「障がい児」ではなく「子どもに障がいがある」と考え,いつも「子ども」というかけがえのない存在が前提であることを念頭に置きたい。そうすると私たちは何かしら「子ども論」を個々にもっておかなければ,子どもセラピィはできない。子どもをみることなく,障がいをみているだけでは,子どもセラピィは成立しない。この手入れ論は,日々子どもにどのように良いことをしていくかという日常のケアであり,手当て論とは子どもに突発的に何か起こったときに,すぐに対処しなければならないことを説明している。この2つの論を対比させて語ることでそれぞれのセラピストが子ども論を構築するときの参考として,日々のセラピィに活かしていただけたらと思う。
そして最後のまとめ「これからの子どもセラピスト論」では,大阪発達総合療育センター作業療法士の黒澤淳二氏とともに今後の子どもセラピィをどのように考えていけばよいかを本文を振り返りながら述べていく。
2015年12月
小松則登
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目次
1章 この本が生まれたわけ
1 わかりにくい作業療法
2 練習の先にあるものを伸ばす
3 名人芸に隠された根拠
4 知恵を思考プロセスとして,ひも解く
5 実践から紡ぎだす
2章 臨床力とは何か?
1 はじめに:1対1で40分!
2 セラピィを取り巻く環境の変化:医療モデルから福祉・教育モデルへ
3 発達支援と生活支援
4 なぜ,セラピィなのか。セラピィができるようになりたいのか:「臨床力とは何か」の最後に
3章 子どもが来てから帰るまでの40〜60分で行うこと
1 お子さんが来る前に
1 はじめに
2 お子さんが来る前に
3 「困り度」および「困り感」とは何か
2 臨床における面接
1 はじめに
2 面接とは
3 面接の目的
4 面接に必要な技術
5 面接の進め方
3 行動分析に関すること
1 はじめに
2 そもそも“行動”とは何かという視点と発達との関係
3 行動分析の練習
4 実際の行動分析
5 行動分析のまとめ
4-1 主訴と問題点の整理:その理論
1 主訴と問題点論
2 セラピストが考える主訴と問題点の整理とその思考過程
4-2 主訴と問題点の整理:具体的な方法
1 フローチャート図とは
2 セラピィ場面の情報を言語化する
3 分析
4 フローチャート図の解釈
5 お子さんの解釈と治療の考え方:治療論
1 はじめに
2 発達障害領域のOTに必要な“治療”という思考
3 治療構造について
4 治療戦略について
5 実際の治療場面を通じて治療を考える
6 まとめ
6 フィードバックに必要な思考プロセス
1 フィードバックとは
2 フィードバックをする内容
3 子どもや養育者へフィードバックをする場合に考慮すべき点
4 まとめ
4章 アクティビティを紡ぎだすために
1 はじめに
2 作業療法とアクティビティ,そしてセラピィ
3 日々のアクティビティについて考え直してみる
4 アクティビティを言語化する試み:フレームと段階づけ
5 ケースを通じたフレームと段階づけ
6 アクティビティを発想するためのセルフトレーニング
7 まとめ
5章 お子さんに関わってくださる方にどのように伝えていくのか?:口頭説明や報告書作成のエッセンス
1 はじめに
2 セラピィ場面と生活場面をつなげる
3 わかりやすく伝えるコツ
4 口頭説明(話すこと)
5 報告書作成(書くこと)
6 まとめ
6章 子どものセラピィに必要なこと:手当て論,手入れ論と遊びについて
1 はじめに
2 子どもセラピィと大人セラピィ
3 手当て論について
4 手入れ論について
5 OTあるいは子ども支援の担い手として,手当てと手入れをどのように考えるのか?
6 手入れと遊び
7章 まとめ:これからの子どもセラピスト論
1 重症心身障害の子どもへの作業療法から見えてくるもの
2 子どものセラピィの本質,セラピストの意識
3 セラピィの効果判定,昨今のエビデンス論
4 今までセラピィをしてきた人,これからやっていく人に伝えておきたいこと
1 わかりにくい作業療法
2 練習の先にあるものを伸ばす
3 名人芸に隠された根拠
4 知恵を思考プロセスとして,ひも解く
5 実践から紡ぎだす
2章 臨床力とは何か?
1 はじめに:1対1で40分!
2 セラピィを取り巻く環境の変化:医療モデルから福祉・教育モデルへ
3 発達支援と生活支援
4 なぜ,セラピィなのか。セラピィができるようになりたいのか:「臨床力とは何か」の最後に
3章 子どもが来てから帰るまでの40〜60分で行うこと
1 お子さんが来る前に
1 はじめに
2 お子さんが来る前に
3 「困り度」および「困り感」とは何か
2 臨床における面接
1 はじめに
2 面接とは
3 面接の目的
4 面接に必要な技術
5 面接の進め方
3 行動分析に関すること
1 はじめに
2 そもそも“行動”とは何かという視点と発達との関係
3 行動分析の練習
4 実際の行動分析
5 行動分析のまとめ
4-1 主訴と問題点の整理:その理論
1 主訴と問題点論
2 セラピストが考える主訴と問題点の整理とその思考過程
4-2 主訴と問題点の整理:具体的な方法
1 フローチャート図とは
2 セラピィ場面の情報を言語化する
3 分析
4 フローチャート図の解釈
5 お子さんの解釈と治療の考え方:治療論
1 はじめに
2 発達障害領域のOTに必要な“治療”という思考
3 治療構造について
4 治療戦略について
5 実際の治療場面を通じて治療を考える
6 まとめ
6 フィードバックに必要な思考プロセス
1 フィードバックとは
2 フィードバックをする内容
3 子どもや養育者へフィードバックをする場合に考慮すべき点
4 まとめ
4章 アクティビティを紡ぎだすために
1 はじめに
2 作業療法とアクティビティ,そしてセラピィ
3 日々のアクティビティについて考え直してみる
4 アクティビティを言語化する試み:フレームと段階づけ
5 ケースを通じたフレームと段階づけ
6 アクティビティを発想するためのセルフトレーニング
7 まとめ
5章 お子さんに関わってくださる方にどのように伝えていくのか?:口頭説明や報告書作成のエッセンス
1 はじめに
2 セラピィ場面と生活場面をつなげる
3 わかりやすく伝えるコツ
4 口頭説明(話すこと)
5 報告書作成(書くこと)
6 まとめ
6章 子どものセラピィに必要なこと:手当て論,手入れ論と遊びについて
1 はじめに
2 子どもセラピィと大人セラピィ
3 手当て論について
4 手入れ論について
5 OTあるいは子ども支援の担い手として,手当てと手入れをどのように考えるのか?
6 手入れと遊び
7章 まとめ:これからの子どもセラピスト論
1 重症心身障害の子どもへの作業療法から見えてくるもの
2 子どものセラピィの本質,セラピストの意識
3 セラピィの効果判定,昨今のエビデンス論
4 今までセラピィをしてきた人,これからやっていく人に伝えておきたいこと
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一読すれば,子どもの見方が変わります! 子どものセラピィを客観的に突き詰めて考えるために
発達障害の治療にたずさわる作業療法士が,日常の臨床で考えている「臨床に向かう前」のことから「子どもの行動への洞察と分析」「治療の構造と戦略」さらには「発達論」「子どもを取り巻く環境」「子育て観」まで,余すことなく語り尽くした1冊。論調は軽妙,平易な文章で,専門用語も控え,これから発達障害作業療法を始めたい初学者から,子どもの治療や支援に関わる方々にも気軽に読んでいただけるように工夫した。
子どもの行動をありのままにとらえて,治療につなげていくセラピィの原点に立ちつつ,難解な課題をどのように解決していくか,仮説と検証の思考プロセスで突き詰めていく。一人ひとりの子をしっかりみていくスタンスで,発達障害の困難から子どもと養育者をよりよい方向に導いていくための実践の書である。
これから子どもに臨む前に是非とも一読してほしい。