発達障害のある
看護職・看護学生支援の基本と実践

発達障害のある看護職・看護学生支援の基本と実践

■編集 北川 明

定価 3,080円(税込) (本体2,800円+税)
  • B5変型判  200ページ  イラスト50点
  • 2020年8月3日刊行
  • ISBN978-4-7583-1808-2

発達障害の特性がみられる看護学生や臨床スタッフへの学修・実習・臨床実務の支援方法を具体的に解説。手順やマニュアル類も充実!

発達障害の特性がみられる看護学生や看護スタッフの学修や臨床実務における困難さへの支援を解説する実践的テキスト。
基礎知識に加え,学校や病院などの現場において,場面ごとに課題につながる障害の特性と関連要因を丁寧にひもとき,どう支援すべきが具体的に理解できる。また発達障害に併存しやすい二次障害の予防やその対応などについても解説し,合理的配慮に基づく支援と評価の手がかりとなる手順やマニュアル類も充実している。


序文

はじめに

 「発達障害」という用語は,1963年にアメリカ合衆国の法律用語として誕生しました。その当時,精神薄弱者といわれていた知的障害者への包括的な支援を目指して作られた法案のなかに,「Developmental Disabilities」という用語が初めて登場します。この用語が使われ始めてから60年も経っておらず,まだまだ新しい概念であるといえるでしょう。わが国においては,2005年に発達障害者支援法が施行され,そこから発達障害の存在と支援の必要性が広く認知されるようになってきました。今では,発達障害に関するたくさんの書籍や雑誌,テレビの特集が組まれ,誰もが一度は発達障害という言葉を耳にしたことがあるのではないかと思います。しかし,発達障害かどうかは見てわかるものではなく,当事者やその家族以外にとっては,“そういう人もいるのだな”という感覚が実際のところではないでしょうか。
 看護の領域においては,特別な支援を必要とする看護学生や看護師が約2.3%いるといわれています。この2.3%という割合は,非常に多くの教育機関や施設で1人以上は存在している可能性があるということです。もちろん,特別な支援を必要とする人のすべてが発達障害というわけではありませんが,発達障害のある人の含まれる割合としては決して小さくはないでしょう。我々看護師の業務は,命にかかわるものが多くあります。そうしたなかで,得意なことと不得意なことの差が大きい発達障害のある人は,皆と同じ業務を皆と同じようにすることが困難なため,患者の命を危険に晒してしまうこともあるかもしれません。こうした危険がないように,発達障害のある人は,自分を知らねばなりませんし,一緒に働いている皆さんは,支援の方法を知らねばなりません。
 本書は,発達障害の基本からその対応の仕方,臨地実習を含む看護教育と看護管理,臨床場面における支援まで網羅しており,この一冊で発達障害のある看護学生と看護職への実践的な援助方法がわかるものとなっています。本書が皆様のお役に立てば幸いです。

2020年7月
北川 明
全文表示する
閉じる

書評

福岡県立大学看護学部 教授
松浦賢長

発達障害を真正面から取り上げたほかに類を見ない書籍

 発達障害を子どもだけに生じる課題だとして注視する時代は終わりました。また同時に,発達障害を看護の対象としてのみみる時代は終わりました。子どもにも大人にも,そして学ぶ人にも働く人にも発達障害の課題が存在していると認識する時代となっています。本書は,看護職として働く発達障害のある方々への支援について,真正面から取り上げたほかに類を見ない書籍となっています。また,発達障害のある看護学生への支援についてもまとめられており,看護管理者だけではなく,学生の対応に当たる教員や臨床指導者にも大変役に立つ内容となっています。

【基本と実践をつなぐ「基本対応」がある】
 基本と実践が両方入っている書籍はよく見かけます。みなさんもそういう“お得な”書籍を手にとったことがあると思いますが,その基本と実践の間にあるギャップに躓いた経験はないでしょうか。なんと本書にはそのギャップを埋める「基本対応」の章があるのです(この章はやさしいタッチで本当によくできています!)。文の合間に「よくある場面」が6つ,かわいいイラストで描かれており,皆さんは思わず「あるある!」と声をあげてしまうことでしょう(私は自分にもあてはまるイラストがいくつかありました)。
 この「基本対応」の章で皆さんはイメージを大きくふくらませ,そのイメージに基づいて次章以降にある「実践支援」編の理解が進むしくみになっています。もう基本と実践のギャップに悩む必要はありません。

【管理者の立場から包括的対応が示されている】
 「実践支援」の章は,主に看護学生への支援と看護職者への支援に分かれて書かれています。どちらも執筆に当たったのは,領域を代表する先生方です。発達障害のある看護学生の支援については,特に実習について課題が多いところですが,臨地実習の合理的配慮や支援ポイントが箇条書きでわかりやすく提示されています。大学側と臨地指導側との調整に役立つことでしょう。
 発達障害のある看護職者への支援ですが,これは看護部長などの管理の立場から,職員の把握,配属先の師長や指導者への助言,仕事を進めるための工夫,二次障害への対応など,執筆者の多くの経験を踏まえてまとめられています。さらには人事考課や配置転換,そして休職・退職についてもカバーされており,他書に類を見ない看護管理の立場からの包括的内容となっています。私は息をするのも忘れてこの気迫の章を読み進めました。
 最後には,編著者である北川明先生が,発達障害について伝えたい3つのメッセージを紹介しており,合理的かつ愛のあるメッセージをもとに本書が組み立てられていることを改めて確認することができました。皆さんにもぜひ手にとっていただきたいと思います。

(看護管理 Vol.30, No.11 2020.より引用)
全文表示する
閉じる

目次

1 章  基礎知識
1. 発達障害とは   北川 明
 ①発達障害の概念とあゆみ
   発達障害の概念/概念の歴史的変遷
 ②発達障害の特徴
   発達障害の重複/境界の不明瞭さ/発達障害の原因と治療
 ③発達障害における社会的状況
   発達障害のある人の数/大人の発達障害・グレーゾーン
2. 発達障害の分類と基礎   北川 明
 ①ASD(自閉スペクトラム症)の基礎
   ASD の概念/診断基準からよみとく ASD/ASD の実態
 ②ADHD(注意欠如・多動症)の基礎
   ADHD の概念/診断基準からよみとく ADHD/ADHD の実態
 ③SLD(限局性学習症)の基礎
   SLD の概念/SLD の医学的診断/診断基準からよみとくSLD/SLD の実態
 ④DCD(発達性協調運動症)の基礎
   DCD の概念/診断基準からよみとく DCD/DCD の実態
3. 見た目からとらえる発達障害の特徴   北川 明
 ①特性と外見の関連
   外見上の特徴/行動の特徴/発達障害の外見上の特徴は特有のものではない

2 章  併存症
1. 二次障害  小室葉月,北川 明
 ①二次障害とは
   二次障害の概念/二次障害の悪循環/2 つに分類される二次障害
 ②発達障害による二次障害の割合
   発達障害と二次障害
 ③内在化障害
   適応障害/うつ病/不安障害/依存症
 ④外在化障害
   反抗挑戦症と素行症/ADHD から反社会性パーソナリティ障害への進行
2. パーソナリティ障害   岸本久美子,北川 明
 ①パーソナリティ障害とは
   パーソナリティ障害の診断と分類/パーソナリティ障害の病因
   発達障害との鑑別
 ②パーソナリティ障害タイプ別の特徴
   A 群(オッドタイプ)/B 群(ドラマティックタイプ)/C 群(アンクシャスタイプ)
 ③パーソナリティ障害への対応と予防
   パーソナリティ障害と発達障害

3 章  基本対応
1. 課題別にひもとく発達障害の特性と対応   北川 明
 ①優先順位を判断できない/マルチタスクに対応できない
   対応の基本/優先順位を判断できないことへの対応(ASD の場合)
   優先順位を判断できないことへの対応(ADHD の場合)/マルチタスクに対応できないことへの対応
 ②約束忘れや忘れ物,なくし物が多い
 ③指示されたことができない
   指示されたことができないときの対応(ASD の場合)/指示されたことができないときの対応(ADHD の場合)
 ④報告・連絡・相談ができない
   報告・連絡・相談ができないときの対応(ASD の場合)/報告・連絡・相談ができないときの対応(ADHD の場合)
 ⑤話を聞く態度が悪くみえる/謝罪の言葉が言えない
   話を聞く態度が悪くみえる/謝罪の言葉が言えないときの対応(ASD の場合)/話を聞く態度が悪くみえる/謝罪の言葉が言えないときの対応(ADHD の場合)
 ⑥発達障害の人への対応まとめ

4 章  実践支援 
1. 当事者目線での想像,対話と合理的配慮   西村優紀美
 ①当事者は努力し続けている
 ②学生の語りを通して当事者の視点を想像する
   新奇場面への不安想像性の障害,こだわり当事者の思いと感情
 ③障害者差別解消法と合理的配慮
   障害のある学生への合理的配慮発達障害のある学生への特有の配慮支援に有効な「問題の外在化」という考え方セルフアドボカシーの考え方
 ④障害の尊重とチームでかかわる視点
 ⑤障害者支援に携わる支援者のケア
   カサンドラ症候群
2. 学内教育・臨地実習・評価での応用   西村優紀美
 ①初等中等教育から高等教育機関への移行
 ②新入生との接し方と注意点
 ③自己管理指導と生活指導・介入
   自己管理/実行を支える支援
 ④進級・卒業時における接し方と注意点
 ⑤就職活動
 ⑥臨地実習
   臨地実習前の注意点/臨地実習における合理的配慮/臨地実習での支援のポイント
 ⑦ルーブリックによる評価の可視化
   ルーブリックによる評価方法
   発達障害とルーブリック評価の有効性
3. 臨床実務・現任教育・看護管理での応用   角田直枝
 ①採用・部署配属・新人教育における判断と支援
   採用における判断/配属部署選択に関する判断/新人教育での支援
 ②部署における支援
   発達障害のある職員の把握/配属部署の師長や指導者への指導や助言/仕事をスムーズに進めるための工夫/業務における問題への対応/抑うつ状態や適応障害,身体症状など二次障害への対応
 ③トップマネジャーの役割と環境づくり
   発達障害のある職員との協業に向けた取り組み/発達障害のある職員の支援体制づくり/教育機関・医療機関・支援施設との連携/人事考課における配慮/休職・退職に関する相談への対応
4. 職場内教育   北川 明
 ①発達障害支援に関する職場でのコンセンサス
   理解を促す目的/発達障害について伝えたいメッセージ
全文表示する
閉じる

関連する
オススメ書籍

会員登録されている方

メールアドレスとパスワードを入力してログインしてください。

注)共有パソコンの方はチェックを外してください。

会員登録されていない方

会員登録されると次回からお客様情報をご入力いただく必要がありません。
また,購入履歴の確認ができる便利な機能がご利用いただけます。

個人情報の取り扱いについてはこちら