一筋縄ではいかない症例の
肺がん治療

一筋縄ではいかない症例の肺がん治療

■編集 倉田 宝保
吉岡 弘鎮

定価 5,280円(税込) (本体4,800円+税)
  • A5判  220ページ  2色(一部カラー),イラスト10点,写真50点
  • 2023年9月28日刊行
  • ISBN978-4-7583-2237-9

手強く悩ましい症例にエキスパートはどう挑む?

“一筋縄ではいかない”肺がんの悩ましい症例でエキスパートがどのように考え,どういった点を注意しているのか,ポイントを押さえてわかりやすく解説。
肺がん罹患者には,高齢患者や合併症をもつ患者が多いが,エビデンスが乏しく,ガイドラインで明記されていない症例も多くみられる。また,まれな組織型例や転移例など,判断の難しい場面も多い。そんな悩ましい症例に対して外科医と内科医の双方の視点から「ここが一筋縄ではいかない」と症例ごとにポイントを整理し,エキスパートがどう考えどう対処・治療しているかを丁寧に解説した。臨床現場の「困った」にずばり応えた1冊!


序文



 悪性新生物のなかで最も多くの患者が死亡しているのが肺がんであり,20世紀においては予後不良ながん腫の代表でもあった。肺がんは以前より組織型によって小細胞肺がん(SCLC)とそれ以外の非小細胞肺がん(NSCLC;腺がん,扁平上皮がんなどを含む)の2つに分けて治療方針が決められていたが,近年はペメトレキセドやベバシズマブの開発により,NSCLC がさらに扁平上皮がん(Sq)とそれ以外の非扁平上皮がん(Non Sq)に分類されるようになった。
 SCLCは転移スピードが早く,早期のステージから外科切除の適応がほとんどなく,一方で化学療法や放射線治療に感受性が良好である。限局型では化学療法と放射線治療の併用療法が,進展型では化学療法が標準的治療として行われている。
 一方でNSCLCは,SCLCと比較して化学療法の感受性が不良で,早期ステージに対する手術のみが治癒のできる唯一の方法であった。細胞傷害性抗がん剤が中心であった1990年代は進行期NSCLCの治療成績は不良そのものであった。
 21世紀に入り,肺がんの治療成績は飛躍的に向上した。分子生物学の発展による肺がんの発生・増殖・転移に深く関わる遺伝子変異の発見と,その阻害薬である分子標的薬の開発,およびがんの免疫逃避のメカニズムの解明とそれに伴う免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の導入が肺がん症例の長期生存を可能にした。現在では5年生存率が進行期症例でも20〜30%にまで改善し,以前の予後不良ながん腫からの脱却が図られつつある。
 また,分子標的薬やICIは周術期治療においても良好な予後改善効果を示しており,NSCLC のすべてのステージに組み込まれるようになった。
 本書ではSCLCとNSCLC,そして現在の標準的治療および実地医療での治療体系について概説する。

2023年9月
関西医科大学附属病院呼吸器腫瘍内科教授
倉田宝保
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目次

Part A 肺がん治療体系概略  [倉田宝保]
 1. 小細胞肺がん(SCLC)の治療体系
 2. 非小細胞肺がん(NSCLC)の治療体系
Part B 肺がん治療,どうする?
 PS 不良  [青景圭樹]
  Point① PS と手術
  Point② PS と手術リスクフローのみでは語れない患者背景
  Point③ 本人と家族との関係
 PS 不良  [立石晶子,ほか]
  Point① PS 不良でも高い効果が期待でき,有害事象が少ない薬剤は投与する価値がある
  Point② PS 不良ががんによるものか否かを判断する
  Point③ 治療のリスクを患者,家族が許容できるかを判断する
 超高齢者  [見前隆洋]
  Point① 高齢者や超高齢者の定義
  Point② 高齢者におけるfitかvulnerableかの判断基準
  Point③ vulnerable な高齢者における術式選択
  Point④ fit な高齢者における術式選択
 超高齢者  [津端由佳里]
  Point① 意思決定能力,認知機能低下を評価する
  Point② 分子標的薬はMCI の有無を確認してから投与を検討する
  Point③ ICI は毒性管理に十分注意する
  Point④ PS 良好患者であっても,積極的治療を行う前に高齢者機能評価を実施する
 化学放射線療法ができない症例  [中村聡明]
  Point① 放射線肺臓炎に対する考え方
  Point② 放射線関連心疾患に対する考え方
  Point③ 放射線脊髄炎に対する考え方
  Point④ 放射線食道炎に対する考え方
Part C 一筋縄ではいかない合併症例,どうする?
 間質性肺炎合併  [津谷康大]
  Point① 術後間質性肺炎急性増悪,術後慢性呼吸不全,高悪性度肺がんを合併しやすい
  Point② 肺葉切除か縮小手術か
  Point③ 根治的化学放射線療法か手術か
 間質性肺炎合併  [岩間映二]
  Point① 間質性肺炎の診断と治療
  Point② がん薬物療法:細胞傷害性抗がん剤
  Point③ がん薬物療法:ニンテダニブ
  Point④ がん薬物療法:ICI
 肺気腫・重症呼吸不全・呼吸器疾患合併  [服部有俊]
  Point① 低肺機能,肺気腫合併例に対する肺切除
  Point② 呼吸機能にみるMI の定義とは?
  Point③ 術式の選択:肺葉切除か縮小切除か?
  Point④ SBRT 後の局所再発に対するサルベージ手術
 肺気腫・重症呼吸不全・呼吸器疾患合併  [大利亮太,ほか]
  Point① 重症COPD 患者でも,PS が保たれていれば細胞傷害性抗がん剤を検討するが,レジメンの選択には注意
  Point② COPD 患者ではICI の有効性が高い可能性があるが,肺臓炎とのリスク・ベネフィットを踏まえて慎重に
  Point③ COPD の治療を忘れずに
  Point④ ICI 投与の際は常に結核発症のリスクを念頭に
  Point⑤ 結核治療中は肺がん治療を続けるか,中止するか
  Point⑥ リファンピシンとの相互作用に注意
 肝障害合併  [宮澤知行,ほか]
  Point① 肝不全患者は手術合併症や周術期管理に注意
  Point② 肝不全患者では出血量増加や組織の脆弱性が予想されるため,術中出血を防ぐ工夫が必要
  Point③ HCV 陽性であることを踏まえた術前検査や医療者の対応
 肝障害合併  [角 俊行]
  Point① 既存の肝障害合併時は化学療法の用量調節が必要
  Point② 化学療法による肝障害に対する治療と,その後の化学療法
  Point③ 小細胞肺がんによる多発肝転移による肝機能障害
 腎障害・透析合併  [中嶋 隆]
  Point① 複数の併存疾患合併例が多いため,心血管系をはじめ,術前リスク評価が重要である
  Point② 術後合併症予防のため,術中・術後は体液量を管理する
  Point③ AKI と腎障害の進行を予防するため,術後は尿量・体重をモニタリングする
  Point④ 薬剤の代謝経路・副作用を理解して,使用薬剤と使用量を選択する
  Point⑤ AKI 発症を予防し,CKD の悪化を防ぐ
 腎障害・透析合併  [峯岸裕司]
  Point① がん患者の適切な腎機能評価方法は何か
  Point② 腎機能低下時に用量調整や投与回避が必要な抗がん剤
  Point③ 血液透析患者に対するがん薬物療法はメリットがあるのか
 循環器疾患合併  [塩野知志]
  Point① 生活習慣病の併発を把握し,緻密な周術期診療・管理を行う
  Point② 薬剤の休止など,各科横断的なアプローチが必要
  Point③ 手術術式をどうするか検討する
  Point④ 周術期のリスクを回避する
 循環器疾患・重度高血圧合併  [金田裕靖]
  Point① 労作時呼吸苦の原因は?
  Point② 左室駆出率(LVEF)が低下した心不全の薬物療法
  Point③ 心血管合併症の評価
  Point④ 肺がん治療薬の選択について
 糖尿病合併  [上田琢也,ほか]
  Point① 第一に肺がん治療,次に血糖コントロール
  Point② 併存症に優先順位をつけて術後管理を行う
  Point③ 迷ったら断端被覆を
 糖尿病合併  [二宮貴一朗]
  Point① 肺がん診療(内科)における糖尿病治療の考え方
  Point② 細胞傷害性抗がん剤投与時の血糖上昇
  Point③ ICI による1型糖尿病の発症
  Point④ 分子標的薬による耐糖能異常
  Point⑤ 肺がんによるシックデイや悪液質への対処
 血液疾患合併  [岡 直幸,ほか]
  Point① 血小板減少による出血リスク
  Point② 治療抵抗性の血小板減少への対応
  Point③ 術後出血に対する早期対応を心がけた術後管理
 血液疾患合併  [加藤有加]
  Point① 血液疾患合併の有無の鑑別
  Point② 肺がんと合併疾患のいずれの治療を先行するか
  Point③ 合併疾患によって適切な肺がん治療薬の選択
  Point④ 肺がん症例に合併する血液疾患についても治療法を理解する
 喀血がある症例  [村川知弘]
  Point① 喀血制御の選択肢
  Point② 術中の他肺葉の血液流入からの保護
 喀血がある症例  [丹羽 崇]
  Point① 肺がんに伴う血痰・喀血の重症度判断
  Point② 実施すべき検査
  Point③ 肺がんによる血痰や喀血に対する内科的治療
 重複がん・多発がん  [三浦 理]
  Point① 多発がん・多重がんに関する疫学と危険因子
  Point② 同時多発肺がん(MPLC)の診断
  Point③ 同時多発肺がん(MPLC)の治療
 上大静脈症候群合併  [朝比奈 肇]
  Point① 前・中縦隔の腫瘍の診療では,初診時からSVC 症候群への進展の可能性を考慮する
  Point② 薬物療法のみでSVC 症候群の治療が可能な組織型かどうかの見極めが重要である
  Point③ 気管ステント,SVC ステントの両方の挿入が必要な場合もある
 ICI 時代の腫瘍随伴症候群合併  [赤松弘朗]
  Point① PNS の診断には,自己抗体の検出が有用である
  Point② PNS に対するICI は慎重な管理のもとであれば使用可能と考えられる
 胸水・心嚢水がある症例  [伊藤 佑,ほか]
  Point① 無症候性の胸水貯留は全身治療,症候性の胸水貯留は胸腔ドレナージと胸膜癒着を行う
  Point② 胸水貯留を伴う肺がんに対する適切な化学療法のレジメン
  Point③ 心嚢水貯留に対する適切なマネジメント
 てんかんなどの脳転移症状がある症例  [佐藤悠城,ほか]
  Point① 肺がん患者の痙攣をみた場合の鑑別ポイント
  Point② てんかんの病型について
  Point③ 抗てんかん薬の適応を判断する
  Point④ 鎮痙後の治療適応について判断する
  Point⑤ 治療すべきかせざるべきか,悩むケースが多い
Part D まれな組織型例,どうする?
 肺大細胞神経内分泌がん  [森田芽生子,ほか]
  Point① 病理学的には非小細胞肺がん(NSCLC),臨床的特徴はSCLC
  Point② Stage Ⅰ,Ⅱ,切除可能Ⅲ期の場合
  Point③ 切除不能stage Ⅲ期の場合
  Point④ Stage Ⅳ期の場合
  Point⑤ 分子生物学的サブタイプ
 多形がん  [板橋耕太]
  Point① 急速進行性であり,早期の治療介入が必要である
  Point② 細胞傷害性抗がん剤の効果が低い
  Point③ ほかのNSCLC と同様に,ゲノム解析が重要である
  Point④ ICI を軸とした治療を行う
 赤芽球癆あるいは重症筋無力症を合併した胸腺腫  [小澤雄一]
  Point① 第一選択は胸腺切除。重症筋無力症合併例ではどう考える?
  Point② 胸腺切除術前の重症筋無力症治療はどうすべきか
  Point③ 胸腺切除ができない場合どうするか:抗がん剤投与や重症筋無力症治療の意義は?
  Point④ 赤芽球癆合併胸腺腫への対応:限られたデータからどう考えるか?
 SMARCA4 欠損肺がん  [國政 啓]
  Point① SMARCA4 欠損肺がんとSMARCA4‒DUT は異なる
  Point② SMARCA4 欠損肺がんの診断方法
  Point③ SMARCA4‒DUT は臨床的特徴がある
  Point④ SMARCA4‒DUT 診断におけるピットフォール
  Point⑤ 進行期SMARCA4 欠損肺がんの治療法
  Point⑥ SMARCA4‒DUT 手術症例における注意点
Part E 転移例,どうする?
 脳転移  [秦 明登]
  Point① 10 個を超える多発脳転移
  Point② がん性髄膜炎
  Point③ 限局型小細胞肺がんでのPCI
  Point④ 進展型小細胞肺がん脳転移に対する定位照射
 骨転移  [横山俊秀]
  Point① 骨転移の有無や進展などを把握する
  Point② 症状の有無や病的骨折のリスク,脊髄圧迫の有無などで治療方針を検討する
  Point③ 骨転移の疼痛緩和を行う
 オリゴ転移  [宮脇太一]
  Point① オリゴ転移に基準はあるのか?
  Point② オリゴ転移に対する局所治療はどのタイミングで行うのが有効か?
  Point③ オリゴ転移に対する局所治療の選択はどうする?
  Point④ オリゴ転移に対するICI を含む集学的治療
Part F 一筋縄ではいかない重篤な副作用
 サイトカイン放出症候群  [金村宙昌,ほか]
  Point① サイトカイン放出症候群(CRS)とは?
  Point② 二重特異性T 細胞誘導抗体・CAR‒T 細胞療法とCRS
  Point③ ICI とCRS
  Point④ CRS の鑑別診断
  Point⑤ CRS の重症度
  Point⑥ CRS のマネジメントはステロイドパルス療法+広域抗菌薬
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