動作練習 臨床活用講座
動作メカニズムの再獲得と統合
定価 6,160円(税込) (本体5,600円+税)
- B5判 244ページ オールカラー,イラスト350点,写真300点
- 2021年3月29日刊行
- ISBN978-4-7583-2017-7
電子版
序文
序文
人が日常生活の中で用いる様々な動作は,寝返り,起き上がり,起立・着座,歩行という要素的動作によって構成される。これらの要素的動作を基本動作とよぶ。基本動作は,日常生活の中で用いられる様々な動作を遂行するための根本的な能力である。
基本動作には,その動作を遂行するために必要不可欠ないくつかの運動要素が存在している。本書では,この運動要素を「動作のメカニズム」とよぶ。動作障害は,「動作のメカニズム」に問題が生じることで引き起こされる。動作練習の本質は,その動作を可能にする「動作のメカニズム」を一つ一つ再獲得することである。
動作練習において,多くのセラピストが経験するのは,患者の動作パターンを修正することが決して容易ではないという現実であろう。動作を介助しながら,ただ反復練習を行うだけでは動作障害は改善しないし,筋力や可動域制限を改善すれば,直ちに動作が可能になるというものでもない。動作障害を改善するためには,一つ一つの「動作のメカニズム」の再獲得を目指し,「動作のメカニズム」を阻害する機能障害の改善を図る必要がある。そのうえで,「動作のメカニズム」を連続するよう順序づけ,連続した1 つの動作として統合するように練習する必要がある。
動作能力の再獲得のプロセスは,患者の動作障害の原因を分析し,どの「動作のメカニズム」に問題があるのかを明確化することからはじまる。このことについては,本書の前編にあたる『動作分析 臨床活用講座−バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践−』(以下,動作分析)に詳細を記した。『動作分析』に記した方法によって,問題のあるメカニズムを特定したら,そのメカニズムを改善するための練習を行い動作能力の再獲得を目指すことになる。『動作分析』の刊行から7 年半の歳月を経て,ようやく本書『動作練習 臨床活用講座−動作メカニズムの再獲得と統合−』を刊行することができた。本書では,『動作分析』で記した動作の基本を簡単に振り返ったうえで,その次のステップにあたる動作メカニズムの再獲得に向けた実践方法について解説することを目的とした。
動作障害の病態は千差万別であり,疾患固有の特性もあれば,同一疾患であっても症例によって異なった病態を示す。動作障害に対する理学療法は,症例の個別性に則した理学療法プログラムが立案されるべきであり,画一的なプログラムなど存在するはずもない。この点に関して,本書の立ち位置は明確であり,決して動作障害の理学療法プログラムを提示しようというものではない。実際の理学療法プログラムは,あくまでも症例の個別性によってオーダーメイドされなくてはならない。「こういう障害には,このプログラムを行うとよい」というマニュアルを本書で提示するものではない。しかし一方で,動作を可能にするメカニズムは,疾患や症例の個別性によらず普遍的要素として存在しており,動作を可能にするために必要なメカニズムを向上させるための練習方法の基本を提示することには,一定の意義があると考える。
本書が日々の臨床の場で活用され,動作改善に向けたリハビリテーションの実践に役立てていただければ幸いである。
2021年2月
石井慎一郎
人が日常生活の中で用いる様々な動作は,寝返り,起き上がり,起立・着座,歩行という要素的動作によって構成される。これらの要素的動作を基本動作とよぶ。基本動作は,日常生活の中で用いられる様々な動作を遂行するための根本的な能力である。
基本動作には,その動作を遂行するために必要不可欠ないくつかの運動要素が存在している。本書では,この運動要素を「動作のメカニズム」とよぶ。動作障害は,「動作のメカニズム」に問題が生じることで引き起こされる。動作練習の本質は,その動作を可能にする「動作のメカニズム」を一つ一つ再獲得することである。
動作練習において,多くのセラピストが経験するのは,患者の動作パターンを修正することが決して容易ではないという現実であろう。動作を介助しながら,ただ反復練習を行うだけでは動作障害は改善しないし,筋力や可動域制限を改善すれば,直ちに動作が可能になるというものでもない。動作障害を改善するためには,一つ一つの「動作のメカニズム」の再獲得を目指し,「動作のメカニズム」を阻害する機能障害の改善を図る必要がある。そのうえで,「動作のメカニズム」を連続するよう順序づけ,連続した1 つの動作として統合するように練習する必要がある。
動作能力の再獲得のプロセスは,患者の動作障害の原因を分析し,どの「動作のメカニズム」に問題があるのかを明確化することからはじまる。このことについては,本書の前編にあたる『動作分析 臨床活用講座−バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践−』(以下,動作分析)に詳細を記した。『動作分析』に記した方法によって,問題のあるメカニズムを特定したら,そのメカニズムを改善するための練習を行い動作能力の再獲得を目指すことになる。『動作分析』の刊行から7 年半の歳月を経て,ようやく本書『動作練習 臨床活用講座−動作メカニズムの再獲得と統合−』を刊行することができた。本書では,『動作分析』で記した動作の基本を簡単に振り返ったうえで,その次のステップにあたる動作メカニズムの再獲得に向けた実践方法について解説することを目的とした。
動作障害の病態は千差万別であり,疾患固有の特性もあれば,同一疾患であっても症例によって異なった病態を示す。動作障害に対する理学療法は,症例の個別性に則した理学療法プログラムが立案されるべきであり,画一的なプログラムなど存在するはずもない。この点に関して,本書の立ち位置は明確であり,決して動作障害の理学療法プログラムを提示しようというものではない。実際の理学療法プログラムは,あくまでも症例の個別性によってオーダーメイドされなくてはならない。「こういう障害には,このプログラムを行うとよい」というマニュアルを本書で提示するものではない。しかし一方で,動作を可能にするメカニズムは,疾患や症例の個別性によらず普遍的要素として存在しており,動作を可能にするために必要なメカニズムを向上させるための練習方法の基本を提示することには,一定の意義があると考える。
本書が日々の臨床の場で活用され,動作改善に向けたリハビリテーションの実践に役立てていただければ幸いである。
2021年2月
石井慎一郎
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目次
Ⅰ 動作練習の基本的概念
1 動作練習の基本的概念
動作練習の本質的課題
動作のメカニズム
動作練習の進め方
代償動作
2 機能改善のための介入技術の理論的背景
筋活動の促通
筋緊張の適正化
Ⅱ 寝返り動作の練習
1 寝返り動作の概要
2 寝返り動作を可能にするメカニズム
頭頸部のコントロール
肩甲骨の前方突出と上肢のリーチ
体軸内回旋
体重移動
3 寝返り動作練習のポイント
上肢のリーチを誘導して,頭尾方向の回旋運動の連動を再獲得する
リーチ動作に必要な上肢の協調制御
4 動作練習の実際
頭頸部のコントロールに対する介入
上肢のリーチのための準備
リーチングの練習
リーチング動作を使った動作練習
体軸内回旋に対する練習
股関節の両側性活動による体重移動の練習
代償的な寝返り動作の指導
Ⅲ 起き上がり動作の練習
1 起き上がり動作の概要
2 起き上がり動作を可能にするメカニズム
on elbow を可能にするメカニズム
肩甲帯の安定化
3 起き上がり動作練習のポイント
4 動作練習の実際
on elbow を可能にするメカニズムの誘導
肩甲帯の安定化
体軸内回旋の可動性の改善
上肢の伸展を使ったon elbow から長座位への練習
ハムストリングスの伸張性の改善
代償的な起き上がり動作の指導
Ⅳ 起立・着座動作の練習
①起立動作
1 起立動作の概要
2 起立動作を可能にするメカニズム
身体重心の前方への加速のメカニズム
殿部離床のメカニズム
身体重心の上昇のメカニズム
3 起立動作の練習のポイント
動作の開始姿勢である機能的な座位姿勢を再獲得する
相反方向の腰椎−骨盤運動リズムによる重心の前方移動を可能にする
下肢の抗重力伸展活動を高められるようにトレーニングを行い,殿部離床を可能にする
足部で作られた支持基底面内における身体重心の上方移動
4 動作練習の実際
機能的な座位姿勢の再獲得
相反方向の腰椎−骨盤運動リズムによる重心の前方移動
下肢の抗重力伸展活動を高め,殿部離床を可能にするトレーニング
足部で作られた支持基底面内における身体重心の上方移動
②着座動作
1 着座動作の概要
2 着座動作のメカニズム
足関節底屈筋の制御と膝関節の屈曲
足関節背屈と骨盤前傾の連動
相反方向性腰椎−骨盤運動リズム
3 着座動作練習のポイント
立位姿勢から脊柱と下肢のvertical extensionを可能にする
足関節底屈筋を緩めて脛骨を前傾させ,膝関節の前方移動を可能にする
4 動作練習の実際
立位で股関節の動的安定化と脊柱のvertical extensionとを結合させるトレーニング
上肢のリーチを使った着座動作練習
より実践的な日常生活動作練習
Ⅴ 歩行の練習
1 歩行の概要
2 歩行を可能にするメカニズム
初期接地時の関節の配列と剛性制御
荷重応答期の衝撃吸収
荷重応答期の関節の動的安定化
重心の上前方への推進
立脚後期の股関節の伸展
遊脚
3 歩行練習のポイント
姿勢の直立化に対する体幹の抗重力伸展活動のトレーニング
姿勢の直立化に対する下肢の抗重力伸展活動のトレーニング
歩行動作のメカニズムに対するトレーニング
4 動作練習の実際
初期接地時の関節の配列と剛性制御
荷重応答期の衝撃吸収
荷重応答期の関節の動的安定化
全足底接地から立脚中期の重心の上前方への推進
立脚後期の股関節の伸展
足部の機能的ユニット
股関節両側性活動による重心の側方移動の制御
動作の統合的学習
1 動作練習の基本的概念
動作練習の本質的課題
動作のメカニズム
動作練習の進め方
代償動作
2 機能改善のための介入技術の理論的背景
筋活動の促通
筋緊張の適正化
Ⅱ 寝返り動作の練習
1 寝返り動作の概要
2 寝返り動作を可能にするメカニズム
頭頸部のコントロール
肩甲骨の前方突出と上肢のリーチ
体軸内回旋
体重移動
3 寝返り動作練習のポイント
上肢のリーチを誘導して,頭尾方向の回旋運動の連動を再獲得する
リーチ動作に必要な上肢の協調制御
4 動作練習の実際
頭頸部のコントロールに対する介入
上肢のリーチのための準備
リーチングの練習
リーチング動作を使った動作練習
体軸内回旋に対する練習
股関節の両側性活動による体重移動の練習
代償的な寝返り動作の指導
Ⅲ 起き上がり動作の練習
1 起き上がり動作の概要
2 起き上がり動作を可能にするメカニズム
on elbow を可能にするメカニズム
肩甲帯の安定化
3 起き上がり動作練習のポイント
4 動作練習の実際
on elbow を可能にするメカニズムの誘導
肩甲帯の安定化
体軸内回旋の可動性の改善
上肢の伸展を使ったon elbow から長座位への練習
ハムストリングスの伸張性の改善
代償的な起き上がり動作の指導
Ⅳ 起立・着座動作の練習
①起立動作
1 起立動作の概要
2 起立動作を可能にするメカニズム
身体重心の前方への加速のメカニズム
殿部離床のメカニズム
身体重心の上昇のメカニズム
3 起立動作の練習のポイント
動作の開始姿勢である機能的な座位姿勢を再獲得する
相反方向の腰椎−骨盤運動リズムによる重心の前方移動を可能にする
下肢の抗重力伸展活動を高められるようにトレーニングを行い,殿部離床を可能にする
足部で作られた支持基底面内における身体重心の上方移動
4 動作練習の実際
機能的な座位姿勢の再獲得
相反方向の腰椎−骨盤運動リズムによる重心の前方移動
下肢の抗重力伸展活動を高め,殿部離床を可能にするトレーニング
足部で作られた支持基底面内における身体重心の上方移動
②着座動作
1 着座動作の概要
2 着座動作のメカニズム
足関節底屈筋の制御と膝関節の屈曲
足関節背屈と骨盤前傾の連動
相反方向性腰椎−骨盤運動リズム
3 着座動作練習のポイント
立位姿勢から脊柱と下肢のvertical extensionを可能にする
足関節底屈筋を緩めて脛骨を前傾させ,膝関節の前方移動を可能にする
4 動作練習の実際
立位で股関節の動的安定化と脊柱のvertical extensionとを結合させるトレーニング
上肢のリーチを使った着座動作練習
より実践的な日常生活動作練習
Ⅴ 歩行の練習
1 歩行の概要
2 歩行を可能にするメカニズム
初期接地時の関節の配列と剛性制御
荷重応答期の衝撃吸収
荷重応答期の関節の動的安定化
重心の上前方への推進
立脚後期の股関節の伸展
遊脚
3 歩行練習のポイント
姿勢の直立化に対する体幹の抗重力伸展活動のトレーニング
姿勢の直立化に対する下肢の抗重力伸展活動のトレーニング
歩行動作のメカニズムに対するトレーニング
4 動作練習の実際
初期接地時の関節の配列と剛性制御
荷重応答期の衝撃吸収
荷重応答期の関節の動的安定化
全足底接地から立脚中期の重心の上前方への推進
立脚後期の股関節の伸展
足部の機能的ユニット
股関節両側性活動による重心の側方移動の制御
動作の統合的学習
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ロングセラー『動作分析 臨床活用講座』の続編が登場!
『動作分析』での評価を踏まえて,基本動作である「寝返り」「起き上がり」「起立・着座」「歩行」をどのように治療するかを解説。基本動作を遂行するために必要なメカニズムを解説した後に,動作メカニズムの再獲得に向けた練習法を豊富なイラストと写真を用いて具体的に紹介する。