動作分析 臨床活用講座
バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践
定価 6,160円(税込) (本体5,600円+税)
- B5判 256ページ オールカラー,イラスト250点,写真300点
- 2013年9月24日刊行
- ISBN978-4-7583-1474-9
電子版
序文
患者の動作障害の原因を分析し,治療戦略を立案する一連の臨床意思決定のプロセスは,理学療法や作業療法の根幹と言ってよい。学生や若手療法士の臨床教育において,動作分析の修得に非常に多くの時間が費やされる。動作分析に対し高い関心が持たれるのは,動作分析の質が臨床成績の良し悪しに直結するということを多くの療法士が実感しているからに他ならない。
しかしその一方で,動作分析の理論や方法について明確な体系が整備されているとは言えない。一般的には個人個人の経験則に基づいた判断によって動作分析が行われているのが現状である。理学療法や作業療法の中核を成す動作分析が,経験則による判断の上に成り立っているという現状に戸惑いを感じる学生や療法士も少なくないだろう。
筆者は理学療法士を養成する教育現場に十数年間携わってきた。その教育経験の中で最も頭を痛めてきたのが,「学生や若手の療法士に動作分析をどのように教育するか?」ということである。彼らには,経験則を基にした判断はできない。経験則の無い初心者が,正しく臨床意思決定をするには,そのプロセスを明確にした理論が示されていなくてはならない。しかしながら,動作分析に関して,そのような体系化された理論や教科書は見当たらず,養成校における動作分析の講義では,科目担当の教員が自らの経験則を基に,まさに手探りで教えているのが実情である。
学生教育に携わった歳月でわかったことがある。それは,“学生は常に優れた教科書を求めている” ということだ。講義で学んだ知識を整理し理解していくためには,講義の後の事後学習が重要となる。動作分析に関する優れた教科書がまったく無いわけではない。優れた理論とエビデンスによって体系化されたものも少なからず出版されている。しかし,それらの教科書は高度に専門性に特化し,ある程度の経験則を持ち合わせていなければ使いこなせない内容のものが多い。教育現場にいて感じることは,初学者にはミニマムスタンダードな内容を出来得る限り普遍性の高い理論で解説した教科書が必要だということである。
本書はこうしたニーズに応えるために出版された初学者向けの教科書である。理論の背景には,普遍性の高いバイオメカニクスを用いた。ヒトが動くためのメカニズムを基に,異常動作のメカニズムと分析のためのノウハウを解説した。本書が教育現場や若手の療法士のニーズに応えられるものと期待している。
執筆にあたっては,想像を遥かに超える困難さがあり,当初の予定を大幅に超える時間を要してしまった。その間,粘り強く編集を担当してくれたメジカルビュー社の小松朋寛氏のご尽力に心から感謝したい。
2013年8 月
神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 リハビリテーション学科
石井慎一郎
しかしその一方で,動作分析の理論や方法について明確な体系が整備されているとは言えない。一般的には個人個人の経験則に基づいた判断によって動作分析が行われているのが現状である。理学療法や作業療法の中核を成す動作分析が,経験則による判断の上に成り立っているという現状に戸惑いを感じる学生や療法士も少なくないだろう。
筆者は理学療法士を養成する教育現場に十数年間携わってきた。その教育経験の中で最も頭を痛めてきたのが,「学生や若手の療法士に動作分析をどのように教育するか?」ということである。彼らには,経験則を基にした判断はできない。経験則の無い初心者が,正しく臨床意思決定をするには,そのプロセスを明確にした理論が示されていなくてはならない。しかしながら,動作分析に関して,そのような体系化された理論や教科書は見当たらず,養成校における動作分析の講義では,科目担当の教員が自らの経験則を基に,まさに手探りで教えているのが実情である。
学生教育に携わった歳月でわかったことがある。それは,“学生は常に優れた教科書を求めている” ということだ。講義で学んだ知識を整理し理解していくためには,講義の後の事後学習が重要となる。動作分析に関する優れた教科書がまったく無いわけではない。優れた理論とエビデンスによって体系化されたものも少なからず出版されている。しかし,それらの教科書は高度に専門性に特化し,ある程度の経験則を持ち合わせていなければ使いこなせない内容のものが多い。教育現場にいて感じることは,初学者にはミニマムスタンダードな内容を出来得る限り普遍性の高い理論で解説した教科書が必要だということである。
本書はこうしたニーズに応えるために出版された初学者向けの教科書である。理論の背景には,普遍性の高いバイオメカニクスを用いた。ヒトが動くためのメカニズムを基に,異常動作のメカニズムと分析のためのノウハウを解説した。本書が教育現場や若手の療法士のニーズに応えられるものと期待している。
執筆にあたっては,想像を遥かに超える困難さがあり,当初の予定を大幅に超える時間を要してしまった。その間,粘り強く編集を担当してくれたメジカルビュー社の小松朋寛氏のご尽力に心から感謝したい。
2013年8 月
神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 リハビリテーション学科
石井慎一郎
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目次
Ⅰ 序論
1 臨床における動作分析
●臨床における動作分析の目的
●動作分析の着目点と動作のメカニズム
●動作のメカニズムの分析
●仮説の立案と検証
●逸脱運動
●代償運動
2 動作障害に関与する機能障害
●筋の機能不全
●関節可動域の異常
●知覚障害
●疼痛
●大脳辺緑系(情動的な原因)
Ⅱ 姿勢制御のバイオメカニクス
1 基本動作の姿勢制御
●身体重心の制御
2 静止姿勢のバイオメカニズム
●身体に働く力と姿勢制御
3 アライメントの変化と身体重心の制御
●支持基底面と身体重心
4 身体重心を移動させるためのバイオメカニクス
●床反力と身体重心の移動
5 重心制御と股関節の両側性活動
●エンジンとしての股関節の役割
Ⅲ 寝返り動作の分析
1 寝返り動作の概要
●寝返り動作の運動パターンの普遍的特性
●寝返り動作における伸展回旋パターンと屈曲回旋パターン
●動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●頭頸部のコントロール
●肩甲骨の前方突出と上肢のリーチ
●体軸内回旋
●体重移動
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
●頭頸部のコントロールの評価
●上側の肩甲帯の前方突出とリーチの評価
●体軸内回旋の誘導
●体重移動の誘導
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
●頭頸部のコントロールが不良な場合
●肩甲骨の前方突出,上肢のリーチが不良な場合
●体軸内回旋が不良な場合
●股関節の両側性活動の評価
Ⅳ 起き上がり動作の分析
1 起き上がり動作の概要
●起き上がり動作の運動パターンの普遍的特性
●起き上がり動作に用いられる運動パターンの特性
●動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●on elbow を可能にするメカニズム
●肩甲帯の安定化
●手根-前腕-上腕-肩甲骨-胸郭の連結
●体重移動
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
● on elbowを可能にするメカニズムの誘導
●手根-前腕-上腕-肩甲骨-胸郭の連結と体重移動
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
● on elbowになることが困難な場合
●上肢で床面を押してon elbowから長座位になれない場合
Ⅴ 起立・着座動作の分析
1 起立・着座動作の概要
●起立・着座動作の運動パターンの普遍的特性
●起立・着座動作に用いられる運動パターンの特性
●起立動作のシークエンス
●着座動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●起立動作
●着座動作
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
●身体重心の前方への加速と殿部離床のメカニズムの評価
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
●骨盤の前傾が不良な場合
●殿部離床が困難な場合
●殿部離床後に身体重心を足部で作られる支持基底面に入れられない場合
Ⅵ 歩行の分析
1 歩行の概要
●歩行の運動パターンの普遍的特性
●動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●3つの回転軸
●歩行の各期におけるメカニズム
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
●初期接地のアライメントの評価
●初期接地から全足底接地の足部と下腿部の適切な配列の評価
●全足底接地から立脚中期の膝関節伸展の評価
●立脚中期における膝関節の内反角度の中立位化の評価
●全足底接地から立脚中期までの膝関節のスクリューホームムーブメントの評価
●立脚中期以降のコントロールされた足関節背屈と股関節の伸展の評価
●立脚後期の踵離地とforefoot rocker の形成の評価
●踵離地の際の反対側への重心移動の評価
●遊脚期の評価
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
●初期接地の膝関節が伸展位にアライメントできない場合
●heel rockerの際に足関節を背屈0°に配列できない場合
●初期接地の際に,仙骨と腸骨の位置関係が「締まりの位置」に配列されない場合
●下肢のアライメントが荷重応答のための理想配列から逸脱する場合
●荷重応答期に足関節と膝関節による衝撃吸収が不十分な場合
●全足底接地から立脚中期にかけて,膝関節が十分に伸展できない場合
●立脚中期に膝関節が内反したままで,下肢を鉛直配列にできない場合
●立脚後期の股関節の伸展が不十分な場合
1 臨床における動作分析
●臨床における動作分析の目的
●動作分析の着目点と動作のメカニズム
●動作のメカニズムの分析
●仮説の立案と検証
●逸脱運動
●代償運動
2 動作障害に関与する機能障害
●筋の機能不全
●関節可動域の異常
●知覚障害
●疼痛
●大脳辺緑系(情動的な原因)
Ⅱ 姿勢制御のバイオメカニクス
1 基本動作の姿勢制御
●身体重心の制御
2 静止姿勢のバイオメカニズム
●身体に働く力と姿勢制御
3 アライメントの変化と身体重心の制御
●支持基底面と身体重心
4 身体重心を移動させるためのバイオメカニクス
●床反力と身体重心の移動
5 重心制御と股関節の両側性活動
●エンジンとしての股関節の役割
Ⅲ 寝返り動作の分析
1 寝返り動作の概要
●寝返り動作の運動パターンの普遍的特性
●寝返り動作における伸展回旋パターンと屈曲回旋パターン
●動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●頭頸部のコントロール
●肩甲骨の前方突出と上肢のリーチ
●体軸内回旋
●体重移動
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
●頭頸部のコントロールの評価
●上側の肩甲帯の前方突出とリーチの評価
●体軸内回旋の誘導
●体重移動の誘導
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
●頭頸部のコントロールが不良な場合
●肩甲骨の前方突出,上肢のリーチが不良な場合
●体軸内回旋が不良な場合
●股関節の両側性活動の評価
Ⅳ 起き上がり動作の分析
1 起き上がり動作の概要
●起き上がり動作の運動パターンの普遍的特性
●起き上がり動作に用いられる運動パターンの特性
●動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●on elbow を可能にするメカニズム
●肩甲帯の安定化
●手根-前腕-上腕-肩甲骨-胸郭の連結
●体重移動
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
● on elbowを可能にするメカニズムの誘導
●手根-前腕-上腕-肩甲骨-胸郭の連結と体重移動
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
● on elbowになることが困難な場合
●上肢で床面を押してon elbowから長座位になれない場合
Ⅴ 起立・着座動作の分析
1 起立・着座動作の概要
●起立・着座動作の運動パターンの普遍的特性
●起立・着座動作に用いられる運動パターンの特性
●起立動作のシークエンス
●着座動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●起立動作
●着座動作
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
●身体重心の前方への加速と殿部離床のメカニズムの評価
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
●骨盤の前傾が不良な場合
●殿部離床が困難な場合
●殿部離床後に身体重心を足部で作られる支持基底面に入れられない場合
Ⅵ 歩行の分析
1 歩行の概要
●歩行の運動パターンの普遍的特性
●動作のシークエンス
2 動作を可能にするメカニズム
●3つの回転軸
●歩行の各期におけるメカニズム
3 目視による動作分析
●動作の全体的な特徴の観察
●正常パターンからの逸脱所見の解釈と推論
4 動作のメカニズムの評価
●初期接地のアライメントの評価
●初期接地から全足底接地の足部と下腿部の適切な配列の評価
●全足底接地から立脚中期の膝関節伸展の評価
●立脚中期における膝関節の内反角度の中立位化の評価
●全足底接地から立脚中期までの膝関節のスクリューホームムーブメントの評価
●立脚中期以降のコントロールされた足関節背屈と股関節の伸展の評価
●立脚後期の踵離地とforefoot rocker の形成の評価
●踵離地の際の反対側への重心移動の評価
●遊脚期の評価
5 動作のメカニズムを阻害する原因を推論するための評価
●初期接地の膝関節が伸展位にアライメントできない場合
●heel rockerの際に足関節を背屈0°に配列できない場合
●初期接地の際に,仙骨と腸骨の位置関係が「締まりの位置」に配列されない場合
●下肢のアライメントが荷重応答のための理想配列から逸脱する場合
●荷重応答期に足関節と膝関節による衝撃吸収が不十分な場合
●全足底接地から立脚中期にかけて,膝関節が十分に伸展できない場合
●立脚中期に膝関節が内反したままで,下肢を鉛直配列にできない場合
●立脚後期の股関節の伸展が不十分な場合
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動作分析の基礎から臨床における活用法までを学ぶのに最適な1冊!
患者の動作遂行能力を調べる「動作分析」。臨床の場で欠かせない重要な評価法であるが,「どこを見るか」「どのように解釈するか」「どのように治療プログラム立案につなげるか」といった点が難しく,修得するのは容易ではない。
本書は基本動作である「寝返り」「起き上がり」「起立・着座」「歩行」を掲載。写真やイラストを豊富に用いて動作メカニズムを詳細に解説するとともに,分析で得られた情報をもとに動作障害の要因を探る臨床推論についても記載している。