人体のメカニズムから学ぶ臨床工学

血液浄化学

血液浄化学

■監修 坂井 瑠実

■編集 八城 正知
小寺 宏尚

定価 6,160円(税込) (本体5,600円+税)
  • B5判  372ページ  2色(一部カラー),イラスト200点,写真50点
  • 2017年3月31日刊行
  • ISBN978-4-7583-1715-3

臨床工学の血液浄化領域について,正常の生理,解剖,病態生理から業務とトラブル対処法までを学べる1冊

本書は臨床工学技士養成校の学生さんを対象としたサブテキストである。
臨床工学の血液浄化領域では機器の理解も重要だが,患者さんがもつさまざまな疾患・病態などの背景を理解する必要がある。本書では,代謝のメカニズムや各臓器の疾患メカニズムをしっかり押さえて血液浄化業務の学習に臨めるように,図版を多数用いて解説している。血液浄化の方法は同じであっても,背景にある病態,さらに患者さん個人個人は異なることがわかり,臨床工学業務を多面的に理解できる一冊である。
また,欄外に「用語アラカルト」や「補足」を設け+αの知識を掲載するとともに,豊富な図表を用いて視覚的にも理解しやすいレイアウトとなっている。さらに,一通り学習した後,きちんと知識を習得できたかどうか確認するための「まとめのチェック」を章末に設けている。
ぜひ,本書を通じて臨床にもつなげられる臨床工学の知識を身につけてほしい。


序文

監修の序

 私が医師になったころ,尿毒症は100%亡くなる病気であった。当時,人工腎臓が治療の現場にもち込まれて,当然のことながら機械,工学に強い人間の協力が不可欠で,毎年行われる医療監視では,あの白衣を着て機械を動かしているのは医師免許をもっているのかと聞かれてお叱りを受けるのが茶飯事であった。身分が保証されていないのに過酷な重労働と責任を押し付けられ,紆余曲折の後,時代の要請として臨床工学技士法が制定され,臨床工学技士の誕生に至ったのが1987年(昭和62)であった。すでに確固とした地位を築きながら20数年経過し,進化する医療現場のさまざまな分野で多くの臨床工学技士が活躍している。
 本書は臨床工学技士を目指して勉強するための教科書である。多彩な内容がイラストを多く使ってわかりやすく解説され,学生が使うものだからこのレベルで良いという妥協がない。資格を取って仕事に従事した直後の実臨床ですぐに役立つだけでなく,将来に種々の疑問が生じたときに見開き,確認しながらステップアップできるよう豊富な内容が盛り込まれている。学生に理解できる平易な書き方をしながら,血液浄化にかかわる医師や他の専門職にも満足できるレベルに仕上がっていると高く評価できる。
 特徴は「人体のメカニズム」から学ぶというコンセプトである。正常なメカニズムが理解できれば,機能が損なわれたとき,どのような病態が引き起こされ,どのような異常が起こり,どのような疾患が誘発されるかを考えるのは容易である。このことが自ら考え,興味をもって先に進む原動力になり,ヒントになる。訳もわからず丸暗記して試験に合格すればよいというレベルの教科書ではない。
 血液浄化の治療現場,特に維持透析では,意識清明な患者が冷静な目で毎日毎日,年余にわたりその治療の一部始終を見ていて,ときにはクレームにもなる特殊な現場である。正確な知識や技術のみならず,資質が問われる過酷な医療現場である。
 最近の医療の進歩は医工学の進歩抜きでは語れず,最前線を担っているのが臨床工学技士であり,その仕事は日常の業務が正確かつ安全に行われるだけでよい分野ではない。臨床工学技士の感性,日常の疑問,患者のクレーム,失敗でさえも進歩につながり,イノベーションとなる非常に面白い分野である。本書に出会う医療従事者が多くなることを願っている。

2017年2月
坂井瑠実クリニック
坂井瑠実
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編集の序

 臨床工学技士が誕生し,はや30年近くになる。その間に血液透析をはじめとした血液浄化療法は,医学や医療技術の発展に伴い腎不全だけでなく,代謝や感染症,血液などのあらゆる疾患に対応し,血液中にある原因物質を除去できる時代となった。これからも治療デバイスの開発によりさらに対象疾患が増えることが期待されている。
 臨床工学技士の業務のなかでも重点的に関わりの多い血液浄化療法は血漿交換や敗血症性ショックへの吸着など集中治療領域も含めている。体外循環である血液浄化装置を安全に使用し,患者の生命維持・回復に向け最大限に効果が発揮されるよう,医師をはじめとする医療者に提案すると同時に,医療機器および関連設備の安全管理においてリーダーシップをとる存在として臨床工学技士の重要性は非常に高い。この分野に関わる臨床工学技士には各種疾患に対する病態生理を確実に理解し,それに対応する治療法を明確に行う必要性がある。
 本書は血液浄化が対象となる臓器について解剖・生理を学び,恒常性の維持の崩壊からくる各種病態や疾患を理解し,その原因が何であるか,それを浄化するにはどのようなデバイスや治療法があるかをわかりやすく学習に臨めるように,図版を多数用いて,各種疾患に精通した経験豊富な先生方に執筆いただいた。基礎医学の知識があってこそ病態の理解が可能であり,治療へ結びつく一冊である。本書が臨床工学技士を目指す学生のみならず血液浄化領域に関わる医学生や研修医ならびに医療スタッフに広く活用いただき,バイブル的存在となれば幸いである。
 最後に本書の執筆・編集にあたり常に惜しみなく協力をいただいたメジカルビュー社の野口真一氏に深く感謝の意を表する。

2017年2月
姫路獨協大学 医療保健学部 臨床工学科
八城正知,小寺宏尚
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目次

Chapter 1 人体のメカニズム
01 人体のメカニズム
 さまざまな環境に対する人体の安定性
  自然災害に対する人体の安定性
  社会現象に対する人体の安定性
  病気に対する人体の安定性
 恒常性の維持機構
  体温の恒常性維持
  浸透圧の恒常性維持
  水素イオン濃度の恒常性維持
  体液量と血圧の恒常性維持
  血糖の恒常性維持
 まとめのチェック
 病気の誘因と恒常性との関連
 体液の調節と酸塩基平衡
  体液
  体液の調節
  酸塩基平衡
 まとめのチェック
 中枢神経系と末梢神経系
  中枢神経系
  末梢神経系
 まとめのチェック
 生体の防御機構(免疫応答)
  免疫の時間的経過
  自然免疫
  獲得免疫
  抗体
  主要組織適合遺伝子複合体(MHC)
  補体の働き
  自然免疫と獲得免疫の比較
  獲得免疫反応の特徴
  免疫のまとめ
 まとめのチェック

Chapter 2 血液浄化療法の概念と基本業務指針
01 血液浄化療法の概念
 血液浄化療法の定義と概念
  血液浄化の原理
 まとめのチェック
  血液浄化法の実際
 まとめのチェック

02 血液浄化療法の歴史と現状
 血液浄化療法の歴史
  透析の黎明から慢性維持透析の開始
  慢性維持透析開始後〜主にわが国の透析療法の歴史
 まとめのチェック
 血液浄化療法の現状
  日本透析医学会による調査
  2014年末の現況
  治療方法
  性別,年齢別分布
  原疾患分布
  死亡率と生存率
 まとめのチェック

03 血液浄化領域の基本業務指針
 血液浄化領域の基本業務指針
  臨床工学技士業務に関する法令とその解釈
  臨床工学技士業務指針の経緯
  「臨床工学技士基本業務指針2010」の前文について
  業務全般に関する留意事項
  医師の指示に関する事項
  個別業務に関する事項
  血液浄化業務の時系列的概要
  業務別業務指針「血液浄化業務指針」について
  透析液清浄化関連業務
  まとめのチェック

Chapter 3 血液浄化の対象となる各種疾患とその病態に対する浄化療法
01 腎臓
 腎臓の構造
  位置と大きさ
  皮質と髄質
  腎臓の血管系
  ネフロンとは
  まとめのチェック
 腎臓の機能
  体液量の調節と排泄物の除去機能
  内分泌機能
  まとめのチェック
 腎臓の機能が悪くなると
  腎不全へとつながる各種腎臓疾患の原因と病態
  まとめのチェック
 血液浄化が必要な腎臓疾患
  急性腎不全
  慢性腎不全
 腎不全における透析療法
  透析療法の導入基準
  腹膜透析か血液透析か
  抗凝固剤
  ダイアライザ
  透析液
  血液濾過(HF)
  血液透析濾過(HDF)
  ECUM法(体外限外濾過法)
  血液透析での合併症
  まとめのチェック
 血液浄化中における主なトラブルと対処法
  透析中の抜針や血液回路の逸脱
  透析中の低血圧
  透析中のこむらがえり
  ダイアライザ・血液回路の凝血塊
  ダイアライザのバースト
  透析中トイレに行くための離脱
  停電時の対応

02 肝臓
 肝臓の構造
  肝臓とは
  肉眼的構造
  肝臓の組織学的構造
 まとめのチェック
 肝臓の役割
  タンパク代謝
  糖質代謝
  脂質代謝
  肝臓における栄養素の貯蔵と代謝
  ビリルビン代謝
  胆汁の生成
  解毒機能
 まとめのチェック
 肝臓の機能が悪くなると
  肝機能検査
  低栄養
  黄疸
  腹水
  肝性脳症
 まとめのチェック
 血液浄化が必要な疾患
  急性肝不全
  肝内胆汁うっ滞
  薬物中毒
 まとめのチェック
 血液浄化の主なトラブルと対処法
  血漿交換(PE)
  血液透析濾過(HDF)
  ビリルビン吸着(bilirubin absorption)
  直接血液灌流(DHP)
 まとめのチェック

03 血液
 血液成分の種類
 血液成分の役割
  赤血球
  白血球
  血小板
 凝固・線溶系
 血液の役割が悪くなると
  貧血
  血小板減少による止血困難
  白血球機能異常
 血液疾患に対する血漿交換療法
  単純血漿交換(PE)
  二重膜濾過血漿交換(DFPP)
  クライオフィルトレーション(cryofiltration)
 血液浄化が必要な血液疾患
  多発性骨髄腫
  原発性マクログロブリン血症
  血栓性微小血管症(TMA)
  特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
 まとめのチェック

04 免疫
 免疫とは「疫(病気)から免れる」機能である
  免疫細胞といわれる細胞
  それぞれの細胞について
  食細胞
 まとめのチェック
 免疫応答のバランス
  自然免疫
  獲得免疫
  液性免疫
  細胞性免疫
  リンパ球の分化・成熟における自己寛容(自己抗原に反応しない機序)
 まとめのチェック
 アレルギー反応
  アレルギーと自己免疫疾患
  アレルギーの種類
 自己抗体とは
 まとめのチェック
 自己免疫関連疾患や神経筋疾患に対する血液浄化療法の概念
  自己免疫疾患と神経筋疾患とは
  治療方法
 まとめのチェック
 血液浄化の必要な免疫関連疾患
  全身性エリテマトーデス(SLE)
  関節リウマチ
  悪性関節リウマチ
 まとめのチェック
 血液浄化の必要な神経関連疾患
  ギラン・バレー症候群
  重症筋無力症
  多発性硬化症
 まとめのチェック
 移植時における免疫除去を目的とした血液浄化療法
  移植とは
  移植における免疫応答
  臓器移植の種類と特徴
  造血幹細胞移植
  移植時・移植後に必要となる対象疾患と血液浄化療法(血液型不適合の腎移植など)
 まとめのチェック
 血液浄化(アフェレシス療法)中の主なトラブルと対処方法

05 高脂血症と末梢循環不全
 脂質代謝
  脂質の輸送(運搬)
  リポタンパクの種類
  リポタンパク代謝
 まとめのチェック
 脂質異常症(高脂血症)と動脈硬化の関係性
  脂質異常症(高脂血症)と動脈硬化
  CKDにおける心血管疾患リスク
  脂質異常症と心血管合併症との関連
  動脈硬化・血管石灰化の臨床的評価
  動脈硬化と脈波伝搬速度
 脂質異常症(高脂血症)に対する血液浄化療法の概念
  脂質異常症(高脂血症)の三要素
  脂質異常症(高脂血症)の診断に有用な臨床検査
  脂質異常症の診断基準およびリスク区分別脂質管理目標値
  脂質異常症(高脂血症)の治療法
 まとめのチェック
 血液浄化が必要な高脂血症と動脈硬化
  高脂血症の表現型分類
  原発性高脂血症の分類
  家族性高コレステロール血症
  家族性複合型高脂血症
  家族Ⅲ型高脂血症
  閉塞性動脈硬化症
 まとめのチェック
 高脂血症における血液浄化療法
  LDL吸着療法
 まとめのチェック

06 炎症性腸疾患に対する血球成分除去療法
 炎症と白血球
  炎症とは
  炎症の3大徴候
  自然免疫と獲得免疫
 まとめのチェック
 炎症性腸疾患に対する血球成分除去療法の概念
  治療の概念
 血球成分除去療法適応の炎症性腸疾患
  炎症性腸疾患
  潰瘍性大腸炎
  クローン病
 血球成分除去療法の効果
  臨床効果
  効果の作用機序
 まとめのチェック
 血球成分除去療法の方法
  治療の種類と方法
 実施における注意点と問題点
  ブラッドアクセスの確保
  抗凝固剤の使用
  血球成分除去療法の実施回数
  副作用
 まとめのチェック

07 内分泌
 内分泌機能とは
  ホルモンとは
  主な内分泌腺
  内分泌ホルモンとその作用機序
  受容体とは
 まとめのチェック
 視床下部と下垂体の構成
  下垂体とは
  下垂体の働き
 甲状腺
  甲状腺とは
  甲状腺ホルモンの種類
  傍濾胞細胞
  甲状腺ホルモンの作用
  カルシトニンの作用
 副甲状腺(上皮小体)
  副甲状腺とは
  副甲状腺の作用
 副腎
  副腎とは
 膵ランゲルハンス島の構造とホルモン
  分泌細胞とホルモン
  ホルモンの作用
 まとめのチェック
 ホルモン過剰状態と病態
 まとめのチェック
 甲状腺と自己抗体(バセドウ病・橋本病)
 血液浄化が必要な内分泌疾患
  甲状腺クリーゼ
  悪性眼球突出症
 内分泌疾患における血液浄化療法
  血漿交換療法
 まとめのチェック
 血液浄化中の主なトラブルと対処方法
 まとめのチェック

08 皮膚
 自己抗体と皮膚疾患
  天疱瘡
  類天疱瘡
 薬剤や感染症から発症する皮膚疾患
 まとめのチェック
 血液浄化が必要な皮膚疾患
  天疱瘡
  類天疱瘡(水疱症)
  中毒性表皮壊死症(TEN)
  スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
 まとめのチェック
 皮膚疾患における血液浄化療法
  血液浄化療法の保険適用
  血漿交換療法
 まとめのチェック

09 集中治療領域の疾患
 集中治療や救命救急で血液浄化を必要とされる病態
 血液浄化が必要な集中治療領域の疾患
  敗血症
  急性腎不全
  重症肝不全
  重症急性膵炎
  多臓器不全
 まとめのチェック
 集中治療や救命救急における血液浄化療法
  急性血液浄化療法の種類
 血液浄化中の主なトラブルと対処方法
  CBPにおけるアラーム内容と対処法
 まとめのチェック
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