スイスイ書ける 医療文書

　研修に慣れてくると，カルテの記載やオーダのほかに，さまざまな医療文書を書く機会が増えてくる。多くの場合，指導医や上級医の真似をするところからスタートする。ところが私の経験では，これらの書類を初めて書く場合には，大変苦戦し，ときには予想以上の長時間を要する。医療文書は数多くあるが，本巻では，医療文書の種類や位置づけを始めとして，入院治療計画書，退院診療計画書，手術や麻酔などの各種記録，退院時サマリー，死亡診断書（死体検案書），保険書類，介護保険主治医意見書など，研修時代に比較的頻回に書く機会がある医療文書に絞って，執筆者が長年かけて身につけた具体的な書き方の極意を伝授する。
　これら書類のうち，例えば入院治療計画書は所定の内容を含むことが要求され，入院後1週間以内の作成が義務づけられている。一方，入院証明書は，患者さんにとって保険を請求する大切な書類であるため，適切かつ迅速に記載する必要がある。また，退院時サマリーは，診療報酬上の要件として2週間以内の作成が義務づけられているだけでなく，紹介先の医療機関や外来スタッフと情報を共有するための内容が求められる。このような決まり事はしっかり頭に入れてほしい。なにより，医療文書の多くは公文書であり，病院を代表して書くので，指導医の承認を受ける必要があることを忘れてはならない。
　重篤な合併症を集中治療で乗り切った受け持ち患者さんの退院時サマリーを過不足なく作成できれば，かなりの自信になり，指導医の評価も大いに上がる。さらに，これらの書類を実際に書いてみると，問診や診察などの日ごろのカルテ記載を振り返るよい機会にもなる。本巻を参考にして，各種医療文書に積極的にチャレンジしてもらいたい。
　本巻を手にした読者諸君が，さまざまな医療文書を文字どおり「スイスイ」と，適切かつ効率よく作成できるようになることを，大いに期待している。

2011年2月
岩手県立中部病院院長
北村道彦