新・基礎臨床技能シリーズ
診療録の記載と
プレゼンテーションのコツ
定価 3,080円(税込) (本体2,800円+税)
- B5判 152ページ 2色
- 2009年2月27日刊行
- ISBN978-4-7583-0077-3
電子版
序文
臨床実習では,患者さんを診察して所見を診療録に記入し,要点を指導医にプレゼンテーションすることが課題です。ところが,4年生までに疾患の知識を十分習得したはずなのに,臨床実習ではうまくいかないと悩む学生がたくさんいます。本や講義で得た知識は,ある平均的なモデルであって,その羅列的な知識のみで多様な病態を示す患者さんの一人一人を個別に理解することはできません。初めの一カ月間くらいは五里霧中の状態で,うまくいかないのも止むを得ないかもしれません。患者さんの多様性に直接触れて,経験を通して自らの知識を応用範囲の広いものにつくり変えていくのが臨床実習の一つの目的でもあるからです。そして数カ月後には,ばらばらであった知識が整理され,成長した自分を実感することになるでしょう。
さて,この成長の速度を決定付ける要因は三つあります。
一つは積極的態度です。問診や身体所見に疑問があれば何度も患者さんにお願いして診察をすること,関連する疾患についていくつもの教科書にあたり,それでも不明なことがあれば指導医に聞くという積極性が大切です。
二つ目は,診療録を丁寧に記載することです。
診療録には定まった形式があります。この形式に従って記載していくと,たとえ初心者であっても,患者さんの状態やおかれた立場を漏れなく汲みとり,問題点を整理し,問題解決に向かうことができます。つまり,診療録記載の要領を早く身につけてしまうことが,臨床実習を実りあるものにする最も早い近道なのです。
三つ目はプレゼンテーションをうまくやることです。
指導教官はプレゼンテーションを聞いた瞬間に「ああこの学生はよくできるな」,「いや,まったくわかっていないな」とわかります。このことは臨床研修医を指導するときにも同じで,下手なプレゼンテーションに出会うと質問すらできなくなってしまうのです。
このとき診療録が要領よく丁寧に書かれていることは必須の要件で,記録無しで良いプレゼンテーションにつながることはありません。しかし,診療録を書いて読み上げるだけではプレゼンテーションはうまくいきません。限られた時間の中に全てを凝縮させる技術が必要になります。
まず,「表現するもの」と「省くもの」が適切でないと短時間で終わりません。細かすぎて相手が理解するのをあきらめてしまうこともあれば,大切なことが省かれて全体像が誤まって理解されてしまうこともあります。場面に応じた話し速度,相手の理解を確かめる感受性,プレゼンテーション内容の微調整など高度な技術は,実際に何度も行って始めて身につくものです。そういう意味で,プレゼンテーションには積極的な取り組みと隠れた練習が必要です。
現代はチーム医療が基本です。チームは常に情報を共有する必要に迫られています。電子カルテが多くの病院で使われ,急速に広まっているのも情報共有を重視していることの表れです。どの職種にもわかりやすい,共通の用語で書かれた診療録がますます求められることになります。しかし一方では,電子化された情報の危険性,患者さんのナイーブな情報が外部に漏洩して人権が侵害されるという危険性についても正しく理解しておかなければ,チームの一員としての資格がありません。個人情報保護は実習の基本的な約束事です。
本書『新 基礎臨床技能シリーズ 診療録の記載とプレゼンテーションのコツ』は,「電子カルテ」と「個人情報保護」が臨床実習の中でも極めて重要な位置を占める時代となったことを受け止め,旧版にこの2点を新たに章立てしたことを特に強調したいと思います。
本書に述べたことは,学生のみならず臨床研修医にとっても,そして若手の医師にとっても常に課題とされることであり,本書で述べた基本的な知識と技術を学び,身につけ,優れた臨床能力を持つ医師に育っていただけることを願います。
2009年2月
編者を代表して 酒巻哲夫
さて,この成長の速度を決定付ける要因は三つあります。
一つは積極的態度です。問診や身体所見に疑問があれば何度も患者さんにお願いして診察をすること,関連する疾患についていくつもの教科書にあたり,それでも不明なことがあれば指導医に聞くという積極性が大切です。
二つ目は,診療録を丁寧に記載することです。
診療録には定まった形式があります。この形式に従って記載していくと,たとえ初心者であっても,患者さんの状態やおかれた立場を漏れなく汲みとり,問題点を整理し,問題解決に向かうことができます。つまり,診療録記載の要領を早く身につけてしまうことが,臨床実習を実りあるものにする最も早い近道なのです。
三つ目はプレゼンテーションをうまくやることです。
指導教官はプレゼンテーションを聞いた瞬間に「ああこの学生はよくできるな」,「いや,まったくわかっていないな」とわかります。このことは臨床研修医を指導するときにも同じで,下手なプレゼンテーションに出会うと質問すらできなくなってしまうのです。
このとき診療録が要領よく丁寧に書かれていることは必須の要件で,記録無しで良いプレゼンテーションにつながることはありません。しかし,診療録を書いて読み上げるだけではプレゼンテーションはうまくいきません。限られた時間の中に全てを凝縮させる技術が必要になります。
まず,「表現するもの」と「省くもの」が適切でないと短時間で終わりません。細かすぎて相手が理解するのをあきらめてしまうこともあれば,大切なことが省かれて全体像が誤まって理解されてしまうこともあります。場面に応じた話し速度,相手の理解を確かめる感受性,プレゼンテーション内容の微調整など高度な技術は,実際に何度も行って始めて身につくものです。そういう意味で,プレゼンテーションには積極的な取り組みと隠れた練習が必要です。
現代はチーム医療が基本です。チームは常に情報を共有する必要に迫られています。電子カルテが多くの病院で使われ,急速に広まっているのも情報共有を重視していることの表れです。どの職種にもわかりやすい,共通の用語で書かれた診療録がますます求められることになります。しかし一方では,電子化された情報の危険性,患者さんのナイーブな情報が外部に漏洩して人権が侵害されるという危険性についても正しく理解しておかなければ,チームの一員としての資格がありません。個人情報保護は実習の基本的な約束事です。
本書『新 基礎臨床技能シリーズ 診療録の記載とプレゼンテーションのコツ』は,「電子カルテ」と「個人情報保護」が臨床実習の中でも極めて重要な位置を占める時代となったことを受け止め,旧版にこの2点を新たに章立てしたことを特に強調したいと思います。
本書に述べたことは,学生のみならず臨床研修医にとっても,そして若手の医師にとっても常に課題とされることであり,本書で述べた基本的な知識と技術を学び,身につけ,優れた臨床能力を持つ医師に育っていただけることを願います。
2009年2月
編者を代表して 酒巻哲夫
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目次
I 診療録とは 酒巻哲夫
■診療録は何のために書くのか
診療録の管理について
診療録の表紙作成は管理の第一歩 /日々の診療と管理について /保管と貸し出しについて
わかりやすく信頼性のある診療録,質の高い診療
記録の質について/診療録を書くことは診療のプロセスを助け,質の高い診療につながる
診療録はどのように活用されるか
チーム医療/インフォームド・コンセントと診療録の開示 /臨床研究の資料としての診療録
■診療録には何を書くのか
診療録表紙にある患者さんの基本情報
患者さんを特定するための情報:氏名,性別,年齢,生年月日,住所/連絡先を特定するための基本情報:自宅の電話番号,職場の電話番号/保険診療に必要な情報:医療保険と公費負担/傷病名:開始日,終了日と転帰
診療の記録はどのようなものか
記載されたことのみが患者さんに提供された医療と判断される
書いてはならないことはあるか
■これからの診療録はどうなるか
診療録の変化の道程
これから問題となること
カルテ開示に耐える記録/保存期間の延長と記録の内容/記載者の変化
■電子カルテの使い方,書き方
急速に普及する電子カルテ
ログインとログアウト,利用の基本
記事の登録,訂正と真正性
電子カルテの範囲,医師法24 条(記載の義務,保存の義務)
日々記録は簡略でも,折々にしっかりした要約(サマリー)を
データに対する注意義務
チーム医療としての意識
不要不急の患者情報へのアクセスは禁止
患者情報の個人的保有についての問題
コンピュータ・ウイルスに対する注意義務
外来での診療態度
■診療録と法律
なぜ診療録を書かなければならないのか
医師の義務と診療録
守秘義務と診療録開示
証拠保全
■診療録と情報開示
診療録の開示とは
診療録開示の手順
開示の申請者について
開示において注意すべきこと
開示請求を受け付けることについての広報
診療録記載についての教育
レセプトの開示とは
インフォームド・コンセントとの関係
診療録を共有しながらの医療
■この章のまとめ
II 個人情報保護法を知る 阿部好文
■個人情報保護法とは
個人情報保護法ができるまで
個人情報保護法制の全体像
個人情報の定義
個人情報取扱事業者とは
個人情報とプライバシーの関係
■個人情報保護法と医療機関のとるべき対応
個人情報保護法の適用範囲
事業者の範囲/事業者の義務事項と努力事項
医療機関が実施すべきこと
■個人情報保護法と診療録記載・プレゼンテーション
診療録のあつかい
プレゼンテーションでの注意点
症例を学会で発表するとき
患者・利用者の個人情報を研究に利用する場合
■この章のまとめ
III 診療録を記載する 坂本浩之助
■主訴を記載しよう
主訴とは
主訴を書こう
■現病歴を記載しよう
現病歴とは
現病歴を書こう
実際にはどのように記載するのか
■既往歴を記載しよう
既往歴を書こう
■家族歴を記載しよう
家族歴とは
家系図を書こう
■社会歴を記載しよう
社会歴を書こう
■システムレビューを活用しよう
システムレビューとは
システムレビューを行う
■身体所見を記載しよう
身体所見の記載とは
身体所見を記載しよう
■この章のまとめ
IV POMRを使いこなそう 阿部好文
■POMRのどこが優れているのか
POMR の生い立ちと現状
POMR の基本精神
診断の過程を明確にするPOMR
医学生の教育に有効なPOMR
■問題(プロブレム)をたてよう
何が問題(プロブレム)になるか
1つの疾患の症状を複数の問題に分けることもある
プロブレム・リストができたらauditを受ける
問題の番号と日付のつけかたには決まりがある
問題は一度決めたらそれで終わり,ではない
既往歴が全部非活動性問題(inactive problem)ではない
一時的プロブレム・リストをうまく使おう
プロブレム・リストは毎日点検する
■初期計画を書こう
■毎日の記録はSOAPで書こう
SOAP 形式とは
プロブレム・リストに対応させて書く
SOAP 形式を工夫する
経過一覧表
■退院時要約はとても重要だ
■この章のまとめ
V 病名をつける 阿部好文
■病名をつける
病名とは
病名の記載
病名の変更
国際疾病分類(疾病および関連保健問題の国際統計分類)ICD
VI 上手なプレゼンテーションを身につけよう 阿部好文
■なぜプレゼンテーションが大切なのか
■症例検討会で用いる正式なプレゼンテーション(formal case presentation)の仕方
主訴/現病歴/システムレビュー/既往歴・常用薬・アレルギー/家族歴/社会歴と嗜好/身体所見/検査所見/まとめと考察
■チーム回診で使う短いプレゼンテーション
■セミナーでのプレゼンテーション
プレゼンテーションの準備
プレゼンテーションの全体像
わかりやすいスライドの作成法
プレゼンテーションの仕方
まとめ
■トレーニング法
■プレゼンテーションベからず集
早口にならないようにする
単調にならないように,メリハリをつけて
発音は明瞭に
途中で遮られることを恐れない
無意味に長いプレゼンテーションをしない
省略できるものまで言わない
明らかでないことはそのまま述べる
プレゼンテーションの目的を忘れるな
■この章のまとめ
英文カルテで使用される略語
索引
■診療録は何のために書くのか
診療録の管理について
診療録の表紙作成は管理の第一歩 /日々の診療と管理について /保管と貸し出しについて
わかりやすく信頼性のある診療録,質の高い診療
記録の質について/診療録を書くことは診療のプロセスを助け,質の高い診療につながる
診療録はどのように活用されるか
チーム医療/インフォームド・コンセントと診療録の開示 /臨床研究の資料としての診療録
■診療録には何を書くのか
診療録表紙にある患者さんの基本情報
患者さんを特定するための情報:氏名,性別,年齢,生年月日,住所/連絡先を特定するための基本情報:自宅の電話番号,職場の電話番号/保険診療に必要な情報:医療保険と公費負担/傷病名:開始日,終了日と転帰
診療の記録はどのようなものか
記載されたことのみが患者さんに提供された医療と判断される
書いてはならないことはあるか
■これからの診療録はどうなるか
診療録の変化の道程
これから問題となること
カルテ開示に耐える記録/保存期間の延長と記録の内容/記載者の変化
■電子カルテの使い方,書き方
急速に普及する電子カルテ
ログインとログアウト,利用の基本
記事の登録,訂正と真正性
電子カルテの範囲,医師法24 条(記載の義務,保存の義務)
日々記録は簡略でも,折々にしっかりした要約(サマリー)を
データに対する注意義務
チーム医療としての意識
不要不急の患者情報へのアクセスは禁止
患者情報の個人的保有についての問題
コンピュータ・ウイルスに対する注意義務
外来での診療態度
■診療録と法律
なぜ診療録を書かなければならないのか
医師の義務と診療録
守秘義務と診療録開示
証拠保全
■診療録と情報開示
診療録の開示とは
診療録開示の手順
開示の申請者について
開示において注意すべきこと
開示請求を受け付けることについての広報
診療録記載についての教育
レセプトの開示とは
インフォームド・コンセントとの関係
診療録を共有しながらの医療
■この章のまとめ
II 個人情報保護法を知る 阿部好文
■個人情報保護法とは
個人情報保護法ができるまで
個人情報保護法制の全体像
個人情報の定義
個人情報取扱事業者とは
個人情報とプライバシーの関係
■個人情報保護法と医療機関のとるべき対応
個人情報保護法の適用範囲
事業者の範囲/事業者の義務事項と努力事項
医療機関が実施すべきこと
■個人情報保護法と診療録記載・プレゼンテーション
診療録のあつかい
プレゼンテーションでの注意点
症例を学会で発表するとき
患者・利用者の個人情報を研究に利用する場合
■この章のまとめ
III 診療録を記載する 坂本浩之助
■主訴を記載しよう
主訴とは
主訴を書こう
■現病歴を記載しよう
現病歴とは
現病歴を書こう
実際にはどのように記載するのか
■既往歴を記載しよう
既往歴を書こう
■家族歴を記載しよう
家族歴とは
家系図を書こう
■社会歴を記載しよう
社会歴を書こう
■システムレビューを活用しよう
システムレビューとは
システムレビューを行う
■身体所見を記載しよう
身体所見の記載とは
身体所見を記載しよう
■この章のまとめ
IV POMRを使いこなそう 阿部好文
■POMRのどこが優れているのか
POMR の生い立ちと現状
POMR の基本精神
診断の過程を明確にするPOMR
医学生の教育に有効なPOMR
■問題(プロブレム)をたてよう
何が問題(プロブレム)になるか
1つの疾患の症状を複数の問題に分けることもある
プロブレム・リストができたらauditを受ける
問題の番号と日付のつけかたには決まりがある
問題は一度決めたらそれで終わり,ではない
既往歴が全部非活動性問題(inactive problem)ではない
一時的プロブレム・リストをうまく使おう
プロブレム・リストは毎日点検する
■初期計画を書こう
■毎日の記録はSOAPで書こう
SOAP 形式とは
プロブレム・リストに対応させて書く
SOAP 形式を工夫する
経過一覧表
■退院時要約はとても重要だ
■この章のまとめ
V 病名をつける 阿部好文
■病名をつける
病名とは
病名の記載
病名の変更
国際疾病分類(疾病および関連保健問題の国際統計分類)ICD
VI 上手なプレゼンテーションを身につけよう 阿部好文
■なぜプレゼンテーションが大切なのか
■症例検討会で用いる正式なプレゼンテーション(formal case presentation)の仕方
主訴/現病歴/システムレビュー/既往歴・常用薬・アレルギー/家族歴/社会歴と嗜好/身体所見/検査所見/まとめと考察
■チーム回診で使う短いプレゼンテーション
■セミナーでのプレゼンテーション
プレゼンテーションの準備
プレゼンテーションの全体像
わかりやすいスライドの作成法
プレゼンテーションの仕方
まとめ
■トレーニング法
■プレゼンテーションベからず集
早口にならないようにする
単調にならないように,メリハリをつけて
発音は明瞭に
途中で遮られることを恐れない
無意味に長いプレゼンテーションをしない
省略できるものまで言わない
明らかでないことはそのまま述べる
プレゼンテーションの目的を忘れるな
■この章のまとめ
英文カルテで使用される略語
索引
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診療録記載と症例報告のコツを伝授! これ1冊で臨床実習はもう恐くない!
本書は臨床実習に臨む学生を主な対象に,診療録の記載法,プレゼンテーション(症例報告)の仕方を解説した入門書。「診療録は何のために書くのか」,「診療録には何を書くのか」などといった初歩的な内容を1つ1つ丁寧に取り上げ,具体例を交えながらわかりやすくまとめている。
今回の新シリーズ刊行にあたり,新規項目として「電子カルテの使い方・書き方」,「セミナーでのプレゼンテーション」を追加。さらに,昨今重要視される「個人情報保護法」の章を新たに設けることで,内容を充実化させた。これから臨床実習に臨む学生に向けた必携の1冊。