step by stepで学ぶ
論文を「読む」ための医療統計
文献の探し方から最新のベイズ統計・AI解析まで
定価 3,520円(税込) (本体3,200円+税)
- A5判 240ページ 2色
- 2022年10月2日刊行
- ISBN978-4-7583-0969-1
電子版
序文
はじめに
皆さんはどのような目的で英語の医学論文を読みますか?
例えば,日常診療で生じた疑問を解決するためには,ガイドラインや教科書を参照するだけでは不十分なため,欲しい論文を探さなくてはなりません。最新の知識をアップデートするためには,学会や講演会で学ぶこともできますが,論文を読むことで深く知ることができます。また,医局の抄読会の順番が回ってくるので,いやいや(?)読まされることもあると思います。さらに臨床研究を行う際には,これまでの研究の流れがわからなければ研究を立案・実行することができません。そして学会発表の際には,研究に関する背景や議論をのべることができません。
きっかけは別として,このように英語論文を読むことは,evidence based medicine(EBM)や研究の実践には不可欠です。
では,なぜ英語論文を読むことに抵抗を感じるのでしょうか?
英語力は一つの原因かもしれません。現在AIの発達に伴って,英語論文の日本語への翻訳はいくつかのWEBサイトや翻訳ソフトで行うことができるようになってきました。しかしながら,現状では翻訳文が不正確なことが多いため,英語論文の学習にはお勧めできせん。
ここで冷静になって,英語論文の文章を読んでみましょう。大学受験の難しい英語に比べ,文法や構文は易しいものが多いことに気がつきます。では,英語の単語や熟語はどうでしょうか? これは辞書で引けばよいことですし,ある程度の医学用語は日常診療で使われています。そして私たちの強みとして,論文のトピックに関する医学知識はすでにもっていますので,内容を類推できます。すると残る原因は,研究の内容自体ということになります。つまり,統計解析の方法と結果の解釈です。研究内容自体が日本語でもよくわかっていないため,英語で読むとなおさら理解できないということに陥ります。
そこで,医学論文を読むポイントと基本的な統計解析の知識を学んでいただけるよう,本書を執筆いたしました。
特徴はいくつかあります。
① 有名な医学雑誌,New England Journal of MedicineとLancetから論文を選びました。読者の皆さんが目にすることが多い雑誌であり,多くの医療施設で読むことができます。また,信頼性が高い研究が行われているため,研究手法が参考になります。さらに,New England Journal of Medicineは,南江堂のサイトで日本語の抄録を読むことができます。
② 医学論文を読むためには, t検定などのいわゆる統計学だけでなく,臨床研究デザインなどの疫学的な知識も必要になります。そこで,基本的な統計学的知識と疫学的知識についても説明いたしました。
③ 論文は介入研究と観察研究の基本を押さえるため,ランダム化比較試験(randomized controlled trial;RCT)とコホート研究の論文を選びました。
④ 最新の解析手法の論文も選んでいます。ここ10~20年のコンピュータの発達とともに,統計学的解析手法は急に発達してきました。t検定のような従来の手法だけでなく,ベイズ統計やAIの基盤となる機械学習も使われるようになっています。そこで,少し難しいかもしれませんが,新しい解析方法についても説明いたしました。
⑤ 読者に近いような登場人物の対話で進めています。少しでも身近に感じてくださると嬉しく思います。
⑥ 「医学論文執筆のための臨床研究と医療統計 まずはここからはじめよう!」(メジカルビュー社,2016年)を以前執筆し,臨床研究を行う際に必要な統医療計と実際の解析方法について解説いたしました。本書はこの本がなくても理解できるよう基本的事項から説明していますが,合わせて読んでいただけると,知識が補われ理解が深まると思います。
本書をきっかけに,英語論文を読むことに挑戦する方や論文の理解が深まったと感じる方が増えることを期待しています。
さあ,気楽に医学論文を読んでみましょう!
2022年9月
神田英一郎
皆さんはどのような目的で英語の医学論文を読みますか?
例えば,日常診療で生じた疑問を解決するためには,ガイドラインや教科書を参照するだけでは不十分なため,欲しい論文を探さなくてはなりません。最新の知識をアップデートするためには,学会や講演会で学ぶこともできますが,論文を読むことで深く知ることができます。また,医局の抄読会の順番が回ってくるので,いやいや(?)読まされることもあると思います。さらに臨床研究を行う際には,これまでの研究の流れがわからなければ研究を立案・実行することができません。そして学会発表の際には,研究に関する背景や議論をのべることができません。
きっかけは別として,このように英語論文を読むことは,evidence based medicine(EBM)や研究の実践には不可欠です。
では,なぜ英語論文を読むことに抵抗を感じるのでしょうか?
英語力は一つの原因かもしれません。現在AIの発達に伴って,英語論文の日本語への翻訳はいくつかのWEBサイトや翻訳ソフトで行うことができるようになってきました。しかしながら,現状では翻訳文が不正確なことが多いため,英語論文の学習にはお勧めできせん。
ここで冷静になって,英語論文の文章を読んでみましょう。大学受験の難しい英語に比べ,文法や構文は易しいものが多いことに気がつきます。では,英語の単語や熟語はどうでしょうか? これは辞書で引けばよいことですし,ある程度の医学用語は日常診療で使われています。そして私たちの強みとして,論文のトピックに関する医学知識はすでにもっていますので,内容を類推できます。すると残る原因は,研究の内容自体ということになります。つまり,統計解析の方法と結果の解釈です。研究内容自体が日本語でもよくわかっていないため,英語で読むとなおさら理解できないということに陥ります。
そこで,医学論文を読むポイントと基本的な統計解析の知識を学んでいただけるよう,本書を執筆いたしました。
特徴はいくつかあります。
① 有名な医学雑誌,New England Journal of MedicineとLancetから論文を選びました。読者の皆さんが目にすることが多い雑誌であり,多くの医療施設で読むことができます。また,信頼性が高い研究が行われているため,研究手法が参考になります。さらに,New England Journal of Medicineは,南江堂のサイトで日本語の抄録を読むことができます。
② 医学論文を読むためには, t検定などのいわゆる統計学だけでなく,臨床研究デザインなどの疫学的な知識も必要になります。そこで,基本的な統計学的知識と疫学的知識についても説明いたしました。
③ 論文は介入研究と観察研究の基本を押さえるため,ランダム化比較試験(randomized controlled trial;RCT)とコホート研究の論文を選びました。
④ 最新の解析手法の論文も選んでいます。ここ10~20年のコンピュータの発達とともに,統計学的解析手法は急に発達してきました。t検定のような従来の手法だけでなく,ベイズ統計やAIの基盤となる機械学習も使われるようになっています。そこで,少し難しいかもしれませんが,新しい解析方法についても説明いたしました。
⑤ 読者に近いような登場人物の対話で進めています。少しでも身近に感じてくださると嬉しく思います。
⑥ 「医学論文執筆のための臨床研究と医療統計 まずはここからはじめよう!」(メジカルビュー社,2016年)を以前執筆し,臨床研究を行う際に必要な統医療計と実際の解析方法について解説いたしました。本書はこの本がなくても理解できるよう基本的事項から説明していますが,合わせて読んでいただけると,知識が補われ理解が深まると思います。
本書をきっかけに,英語論文を読むことに挑戦する方や論文の理解が深まったと感じる方が増えることを期待しています。
さあ,気楽に医学論文を読んでみましょう!
2022年9月
神田英一郎
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目次
Part1 何の論文を読めばいいの?
1 何の論文を読めばいいの?
2 クリニカルクエスチョン(clinical question)をリサーチクエスチョン(research question)にしよう
3 リサーチクエスチョンをパーツに分ける[P(I E)CO]
4 介入研究と観察研究 ① 介入研究
5 介入研究と観察研究 ② 観察研究
Part2 文献を探しましょう
1 6Sという方法
2 エビデンスレベルの考え方とシステマティックレビュー
3 どうやって検索すればいいの? ① データベース・検索エンジンの活用
4 どうやって検索すればいいの? ② PubMed®で検索する(実践編)
Part3 ランダム化比較試験
1 ABSTRACTと論文の構成
2 臨床試験の倫理指針
3 治験のphaseとは何か?
4 CONSORT声明を押さえる
5 日本語の抄録を読んでもいい?
6 INTRODUCTION(序)を読む
7 METHODSを読む ① TRIAL DESIGN AND OVERSIGHT
8 METHODSを読む ② PATIENTS
9 METHODSを読む ③ TRIAL PROCEDURES
10 METHODSを読む ④ OUTCOMES
11 METHODSを読む ⑤ STATISTICAL ANALYSISとRESULTS
12 RESULTSを読む ① 患者背景をデータの分析で理解する
13 RESULTSを読む ② アウトカムのリスクを把握する
14 RESULTSを読む ③ 生存曲線の読み方
15 RESULTSを読む ④ ハザード比と95%信頼区間って?
16 RESULTSを読む ⑤ p値の解釈
17 RESULTSを読む ⑥ サブグループの結果を読む
18 DISCUSSIONを読む
Part4 コホート研究
1 STROBE声明を押さえる
2 論文の目的を探る
3 研究デザインを確認する ① 因果関係に注意
4 研究デザインを確認する ② バイアスを押さえる
5 研究デザインを確認する ③ 交絡を考える
6 INTRODUCTIONとMETHODSを読む
7 ロジスティック回帰モデル ① 2群の比較「t 検定」を押さえる
8 ロジスティック回帰モデル ② 3群の比較「一元配置分散分析」を押さえる
9 ロジスティック回帰モデル ③ 回帰直線を押さえる
10 ロジスティック回帰モデル ④「 多変量解析」を押さえる
11 ロジスティック回帰モデル ⑤ オッズ比の求め方と解釈
12 STATISTICAL ANALYSISを読む ① 欠測値の扱い
13 STATISTICAL ANALYSISを読む ② ロジスティック回帰分析
14 RESULTSを読む
Part5 傾向スコア
1 傾向スコアを使う研究デザイン
2 傾向スコアの求め方,使い方
3 傾向スコアの手法を読む ① マッチングの仕方
4 傾向スコアの手法を読む ② マッチング前後の背景因子バランス
5 傾向スコアの手法を読む ③ マッチングを考慮した比較
6 傾向スコアの手法を読む ④ Cox比例ハザード回帰モデル
Part6 ベイズ統計
1 ベイズ統計を使う研究デザイン
2 ベイズ統計学を知る ① 感度・特異度を復習
3 ベイズ統計学を知る ② ベイズの定理
4 ベイズ統計学を知る ③ ベイズ更新
5 ベイズ統計学を知る ④ 事前確率を連続変数として考える
6 ベイズ統計学を知る ⑤ 事後分布の関数の形を求める
7 ベイズ統計学を知る ⑥ マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)
8 ベイズ統計学を知る ⑦ Stanを使ったMCMCの計算
9 METHODSを読む
10 RESULTSを読む
Part7 人工知能
1 そもそもAIとは?
2 機械学習って?
3 ニュートラルネットワークと深層学習
4 代表的な深層学習:畳み込みニュートラルネットワーク(CNN)
5 実際に論文を読んでみよう! ① ABSTRACTを読む
6 実際に論文を読んでみよう! ② METHODSを読む
7 実際に論文を読んでみよう! ③ 深層学習モデルを把握する
8 実際に論文を読んでみよう! ④ RESULTSを読む
1 何の論文を読めばいいの?
2 クリニカルクエスチョン(clinical question)をリサーチクエスチョン(research question)にしよう
3 リサーチクエスチョンをパーツに分ける[P(I E)CO]
4 介入研究と観察研究 ① 介入研究
5 介入研究と観察研究 ② 観察研究
Part2 文献を探しましょう
1 6Sという方法
2 エビデンスレベルの考え方とシステマティックレビュー
3 どうやって検索すればいいの? ① データベース・検索エンジンの活用
4 どうやって検索すればいいの? ② PubMed®で検索する(実践編)
Part3 ランダム化比較試験
1 ABSTRACTと論文の構成
2 臨床試験の倫理指針
3 治験のphaseとは何か?
4 CONSORT声明を押さえる
5 日本語の抄録を読んでもいい?
6 INTRODUCTION(序)を読む
7 METHODSを読む ① TRIAL DESIGN AND OVERSIGHT
8 METHODSを読む ② PATIENTS
9 METHODSを読む ③ TRIAL PROCEDURES
10 METHODSを読む ④ OUTCOMES
11 METHODSを読む ⑤ STATISTICAL ANALYSISとRESULTS
12 RESULTSを読む ① 患者背景をデータの分析で理解する
13 RESULTSを読む ② アウトカムのリスクを把握する
14 RESULTSを読む ③ 生存曲線の読み方
15 RESULTSを読む ④ ハザード比と95%信頼区間って?
16 RESULTSを読む ⑤ p値の解釈
17 RESULTSを読む ⑥ サブグループの結果を読む
18 DISCUSSIONを読む
Part4 コホート研究
1 STROBE声明を押さえる
2 論文の目的を探る
3 研究デザインを確認する ① 因果関係に注意
4 研究デザインを確認する ② バイアスを押さえる
5 研究デザインを確認する ③ 交絡を考える
6 INTRODUCTIONとMETHODSを読む
7 ロジスティック回帰モデル ① 2群の比較「t 検定」を押さえる
8 ロジスティック回帰モデル ② 3群の比較「一元配置分散分析」を押さえる
9 ロジスティック回帰モデル ③ 回帰直線を押さえる
10 ロジスティック回帰モデル ④「 多変量解析」を押さえる
11 ロジスティック回帰モデル ⑤ オッズ比の求め方と解釈
12 STATISTICAL ANALYSISを読む ① 欠測値の扱い
13 STATISTICAL ANALYSISを読む ② ロジスティック回帰分析
14 RESULTSを読む
Part5 傾向スコア
1 傾向スコアを使う研究デザイン
2 傾向スコアの求め方,使い方
3 傾向スコアの手法を読む ① マッチングの仕方
4 傾向スコアの手法を読む ② マッチング前後の背景因子バランス
5 傾向スコアの手法を読む ③ マッチングを考慮した比較
6 傾向スコアの手法を読む ④ Cox比例ハザード回帰モデル
Part6 ベイズ統計
1 ベイズ統計を使う研究デザイン
2 ベイズ統計学を知る ① 感度・特異度を復習
3 ベイズ統計学を知る ② ベイズの定理
4 ベイズ統計学を知る ③ ベイズ更新
5 ベイズ統計学を知る ④ 事前確率を連続変数として考える
6 ベイズ統計学を知る ⑤ 事後分布の関数の形を求める
7 ベイズ統計学を知る ⑥ マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)
8 ベイズ統計学を知る ⑦ Stanを使ったMCMCの計算
9 METHODSを読む
10 RESULTSを読む
Part7 人工知能
1 そもそもAIとは?
2 機械学習って?
3 ニュートラルネットワークと深層学習
4 代表的な深層学習:畳み込みニュートラルネットワーク(CNN)
5 実際に論文を読んでみよう! ① ABSTRACTを読む
6 実際に論文を読んでみよう! ② METHODSを読む
7 実際に論文を読んでみよう! ③ 深層学習モデルを把握する
8 実際に論文を読んでみよう! ④ RESULTSを読む
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読むべき論文の探し方,知っておきたい基礎知識から最新の解析手法まで,論文の読み方と統計解析を体系的に学べます!
①そもそも読む論文をどう探すか,②どこに注目して読むか,③解析手法はどうやって理解するか,④結果はどう解釈するか,について体系的に学べる初学者~中級者向け書籍。
親しみやすい登場人物とともに,実際の論文(難解すぎず,簡単にアクセスできるもの)を読み進めながら必要な知識が一通り身につく内容・構成で,統計手法も可能なかぎり簡略化した具体例や図を用いてわかりやすく解説。ベイズ統計やAIなど最新の解析手法についても触れる一方で,時間があるときに押さえておくと良い基礎知識(例:数式など)を囲み記事の形で紹介するなど内容も充実!