唾液腺腫瘍の組織診・細胞診
コンサルテーション症例に学ぶ実践的診断法
定価 16,500円(税込) (本体15,000円+税)
- A4判 332ページ 上製,オールカラー,写真650点
- 2018年2月3日刊行
- ISBN978-4-7583-0397-2
電子版
序文
序文 −執筆に当たって−
口腔を含む頭頸部領域では悪性腫瘍の大半が扁平上皮癌であり,耳鼻科医,口腔外科医を含む頭頸部外科医は多くの労力をこの腫瘍に対する診断,施術,術後マネージメントに費やすこととなるが,本領域は解剖学的に複雑で,様々な構成要素からなるため,これを背景とする種々多彩な疾患が発生する。
なかでも唾液腺腫瘍は多形腺腫やワルチン腫瘍など代表的なものを除けばその発生頻度は低く,それゆえ臨床医,病理医ともに個々のレベルで経験し得る症例には限りがあり,また診断アルゴリズムや治療法の確立に至らない疾患も少なくない。さらに同一の腫瘍が極めて多彩な組織像を取ることも多く,逆に相互の類似性から鑑別も難しいため,特にこれを専門としない一般病理医が苦手意識を抱く領域の代表的存在とも目されている。
このような実情を受けて,近年いくつかのアトラス本が出版されるに至ったが,分担執筆により多数の組織型を網羅的に配したものから他領域の疾患とともにまとめられたものまで様々なものがある。しかし,いずれの場合も誌面の制限のため代表的なものであってもその組織型が取り得る像のバリエーションを十分紹介できない場合も多い。また分担執筆形式においては多数の病理医が症例を持ち寄るため網羅的な記載は可能になるが,稀な組織型についてはやはり全体の中の割合として多くの誌面を割くことができないため,十分な記載ができないこともある。そして何よりそれぞれの執筆担当者には個々の経験や教育的背景に起因する語句や表記の用い方の差異や他者との微妙な認識のずれや齟齬がみられ,実際の診断に際して拾い読みにする限りにおいては用をなすが,一冊の書物としてみた場合通読に耐えるものはむしろ少ないと思われる。
そこで本書では,筆頭著者および共著者の2名が一貫した認識や哲学に基づいた整合性の取れた記載を行い,病理医や細胞検査士のための診断時の参考書としてはもちろん,通読にも耐える専門的書籍を目指すこととした。
提示する写真に用いる材料は筆頭著者(原田)が各所属施設で経験した自験例および20年弱のコンサルタント活動で得た総計1,500例あまりの中から厳選し,頻度の高いもののみならず材料が入手できたものについても十分なスペースを費やし,可能な限り詳細な記載を行った。また取り上げる組織型のなかでそれに見合う材料があるものに関しては,久留米大学時代からの長年の盟友である共著者河原明彦氏に細胞診所見を解説願った。
記載内容は基本的に2005年発刊のWHO分類第3版に準拠したが,敢えて網羅的記載はせず,材料の入手できないものに関しては他の関連項目とまとめて併記するなどの工夫をし,同系ものに良性型,悪性型が存在するものに勘案して,記載順序は従来の慣例に従い,良性(腺腫)を先に,悪性(癌腫)を後にした。また,非腫瘍性病変のうち臨床的に腫瘍性病変と鑑別を要する可能性があるものに関しては巻末にまとめて収載した。
さらに執筆途上の2017年初頭にはWHO分類の改訂第4版が発刊されたため,その記載も可能な限り反映させ,特に旧版との扱いが異なるものについては項目毎に解説を加えた。著者らが知る限りわが国では最も早くこの度の改訂に対応した単行本であろうと考えられる。
特に豊富な材料があるものに関しては「コンサルト症例に学ぶ」と題する囲み記事を併載し,唾液腺腫瘍を専門としない病理医が陥りやすい誤認パターンや重要ポイントにして実際の経験に即した実践的な解説を行った。
可及的に豊富な材料の入手には努めたが,企画意図に基づき分担執筆の依頼は一切行わなかったため,必ずしも現行の分類に沿った網羅的な記載はできていないが,その点はご容赦願いたい。
病理医,細胞検査士を問わず,本領域に興味を覚える方々の日常業務の手助けとなれば,それが著者らにとっては無上の喜びである。
2017年12月
原田博史
口腔を含む頭頸部領域では悪性腫瘍の大半が扁平上皮癌であり,耳鼻科医,口腔外科医を含む頭頸部外科医は多くの労力をこの腫瘍に対する診断,施術,術後マネージメントに費やすこととなるが,本領域は解剖学的に複雑で,様々な構成要素からなるため,これを背景とする種々多彩な疾患が発生する。
なかでも唾液腺腫瘍は多形腺腫やワルチン腫瘍など代表的なものを除けばその発生頻度は低く,それゆえ臨床医,病理医ともに個々のレベルで経験し得る症例には限りがあり,また診断アルゴリズムや治療法の確立に至らない疾患も少なくない。さらに同一の腫瘍が極めて多彩な組織像を取ることも多く,逆に相互の類似性から鑑別も難しいため,特にこれを専門としない一般病理医が苦手意識を抱く領域の代表的存在とも目されている。
このような実情を受けて,近年いくつかのアトラス本が出版されるに至ったが,分担執筆により多数の組織型を網羅的に配したものから他領域の疾患とともにまとめられたものまで様々なものがある。しかし,いずれの場合も誌面の制限のため代表的なものであってもその組織型が取り得る像のバリエーションを十分紹介できない場合も多い。また分担執筆形式においては多数の病理医が症例を持ち寄るため網羅的な記載は可能になるが,稀な組織型についてはやはり全体の中の割合として多くの誌面を割くことができないため,十分な記載ができないこともある。そして何よりそれぞれの執筆担当者には個々の経験や教育的背景に起因する語句や表記の用い方の差異や他者との微妙な認識のずれや齟齬がみられ,実際の診断に際して拾い読みにする限りにおいては用をなすが,一冊の書物としてみた場合通読に耐えるものはむしろ少ないと思われる。
そこで本書では,筆頭著者および共著者の2名が一貫した認識や哲学に基づいた整合性の取れた記載を行い,病理医や細胞検査士のための診断時の参考書としてはもちろん,通読にも耐える専門的書籍を目指すこととした。
提示する写真に用いる材料は筆頭著者(原田)が各所属施設で経験した自験例および20年弱のコンサルタント活動で得た総計1,500例あまりの中から厳選し,頻度の高いもののみならず材料が入手できたものについても十分なスペースを費やし,可能な限り詳細な記載を行った。また取り上げる組織型のなかでそれに見合う材料があるものに関しては,久留米大学時代からの長年の盟友である共著者河原明彦氏に細胞診所見を解説願った。
記載内容は基本的に2005年発刊のWHO分類第3版に準拠したが,敢えて網羅的記載はせず,材料の入手できないものに関しては他の関連項目とまとめて併記するなどの工夫をし,同系ものに良性型,悪性型が存在するものに勘案して,記載順序は従来の慣例に従い,良性(腺腫)を先に,悪性(癌腫)を後にした。また,非腫瘍性病変のうち臨床的に腫瘍性病変と鑑別を要する可能性があるものに関しては巻末にまとめて収載した。
さらに執筆途上の2017年初頭にはWHO分類の改訂第4版が発刊されたため,その記載も可能な限り反映させ,特に旧版との扱いが異なるものについては項目毎に解説を加えた。著者らが知る限りわが国では最も早くこの度の改訂に対応した単行本であろうと考えられる。
特に豊富な材料があるものに関しては「コンサルト症例に学ぶ」と題する囲み記事を併載し,唾液腺腫瘍を専門としない病理医が陥りやすい誤認パターンや重要ポイントにして実際の経験に即した実践的な解説を行った。
可及的に豊富な材料の入手には努めたが,企画意図に基づき分担執筆の依頼は一切行わなかったため,必ずしも現行の分類に沿った網羅的な記載はできていないが,その点はご容赦願いたい。
病理医,細胞検査士を問わず,本領域に興味を覚える方々の日常業務の手助けとなれば,それが著者らにとっては無上の喜びである。
2017年12月
原田博史
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目次
■総論
腫瘍性疾患の概説:疫学的背景とWHO分類の変遷を含めて
Appendix:WHO分類の推移
唾液腺腫瘍の免疫組織化学:特に筋上皮の特徴について
唾液腺腫瘍の細胞診の基礎およびその実情
■各論
良性腫瘍(腺腫)
多形腺腫
基底細胞腺腫
ワルチン腫瘍
嚢胞腺腫
脂腺リンパ腺腫と脂腺系腫瘍
その他の腺腫
悪性腫瘍(癌腫)
腺房細胞癌
粘表皮癌
腺様嚢胞癌
多型低悪性度腺癌
上皮筋上皮癌
基底細胞腺癌
嚢胞腺癌
低悪性度篩状嚢胞腺癌
唾液腺導管癌
筋上皮癌
多形腺腫由来癌
転移性多形腺腫
小細胞癌
大細胞癌
リンパ上皮癌
その他の癌腫(脱分化癌,混成癌など)
非上皮性腫瘍と転移性腫瘍
腫瘍類似病変
概説(炎症,感染などを含む非腫瘍性の病変)
いわゆるオンコサイト症
腺腫様導管増殖/過形成
コンサルテーション元一覧
腫瘍性疾患の概説:疫学的背景とWHO分類の変遷を含めて
Appendix:WHO分類の推移
唾液腺腫瘍の免疫組織化学:特に筋上皮の特徴について
唾液腺腫瘍の細胞診の基礎およびその実情
■各論
良性腫瘍(腺腫)
多形腺腫
基底細胞腺腫
ワルチン腫瘍
嚢胞腺腫
脂腺リンパ腺腫と脂腺系腫瘍
その他の腺腫
悪性腫瘍(癌腫)
腺房細胞癌
粘表皮癌
腺様嚢胞癌
多型低悪性度腺癌
上皮筋上皮癌
基底細胞腺癌
嚢胞腺癌
低悪性度篩状嚢胞腺癌
唾液腺導管癌
筋上皮癌
多形腺腫由来癌
転移性多形腺腫
小細胞癌
大細胞癌
リンパ上皮癌
その他の癌腫(脱分化癌,混成癌など)
非上皮性腫瘍と転移性腫瘍
腫瘍類似病変
概説(炎症,感染などを含む非腫瘍性の病変)
いわゆるオンコサイト症
腺腫様導管増殖/過形成
コンサルテーション元一覧
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豊富な症例から実践的病理診断を解説する,唾液腺腫瘍の新たなスタンダード
頭頸部領域は解剖学的に複雑で,様々な構成要素からなるため,これを背景とする種々多彩な疾患が発生する。なかでも唾液腺腫瘍は多形腺腫やワルチン腫瘍など代表的なものを除けばその発生頻度は低く,個々のレベルで経験し得る症例には限りがあり,また診断アルゴリズムや治療法の確立に至らない疾患も少なくない。さらに同一の腫瘍が極めて多彩な組織像を取ることも多く,逆に相互の類似性から鑑別も難しいため,特にこれを専門としない一般病理医が苦手意識を抱く領域の代表的存在とも目されている。
本書では約1,500症例より厳選した症例を頻度の高い低いにかかわらずバリエーションも含め掲載し,十分な解説を行い,材料のあるものについては,細胞診所見も解説した。また,使用語句,表記の用い方についても囲み記事等で丁寧な解説を行った。2017年初頭に改訂された最新のWHO分類第4版についてもできる限り本書に反映し,旧版との比較についても項目ごとに解説した。