間質性肺炎を究める
定価 8,800円(税込) (本体8,000円+税)
- B5判 304ページ 2色(一部カラー)
- 2012年4月19日刊行
- ISBN978-4-7583-0362-0
在庫僅少です。
序文
発刊に寄せて
間質性肺炎,なかんずく特発性間質性肺炎(以下,前者はIP,後者はIIPsと呼ぶ)は,なかなかに手ごわい疾患,あるいは疾患群である。
第一に診断が難しい。とりあえず「特発性間質性肺炎 臨床調査個人票」(p.7参照)をみてみると,鑑別除外診断に該当する疾患だけでも20近くある。このことは,本疾患(群)の診断のために特異性の高い検査がないこと,本質的に除外診断であることを物語る。実際,わが国の手引きやATS/ERS/JRSのガイドラインでもclinical, radiologic and pathologic(CRP)diagnosis,つまり呼吸器科・放射線科・病理部の各専門医による総合的な診断multidisciplinary discussionを推奨しており,その困難さを否が応でも納得させられる。読者の中にも胸部CTの読みや外科的肺生検の結果の解釈が,有名な専門家の間ですら一致しないという現場に遭遇した方がいると思う。
第二に治療が難しい。IIPsの70%を占める特発性肺線維症では,万人が認める高いエビデンスを示す有効な治療薬は残念ながらないのが現状である。では治療しないのかというと決してそうではない。ここ数年の治療薬の開発のピッチは確実に上がってきており,わが国で最初に認可されたピルフェニドンをはじめ,まさに日進月歩の感がある。つい数カ月前のERS congressでも話題になったBIBF1120の臨床試験結果は早々とNew England Journal of Medicineの9月号にFree Full Textで掲載された(2011; 365: 1079-87)。一方,アメリカNIH主導で行われているプレドニゾン,アザチオプリン,N-アセチルシステイン療法試験(PANTHER-IPF)がプラセボ群より死亡率などが著しく不良で中止に追い込まれた。進行中の臨床試験の状況を横目で睨みながら,目の前の患者にいかに最新でより妥当な治療をお受けいただくか,今後ますます専門医の力量が試される分野となってきた。
第三に説明が難しい。患者や家族,そしてコメディカルに,この疾患を数分間でわかりやすく説明する自信が私にもない。IP,IIPsの世界では,患者数が少なく,またIIPs専用の薬剤もないこともあり,一般向けの情報提供のツールが極端に少ない。わずかに,日本呼吸器学会の「肺の病気」や厚生労働省の難病情報センターのホームページに一般向けのページがある程度で決して十分でない。これらの啓蒙活動の充実に加え,実地医家の先生方や地域検診の担当者との連携を強め,IP,IIPsのより良い管理治療を進めることが求められている。
以上のような問題意識のもとでIP,IIPsの最新の情報をお伝えしたく,本書を企画編集した。本文では「教えて!ポイント」などの囲みや,おすすめの文献には「Check」を入れるなど,わかりやすい紙面になるように心がけたが,必要十分でないかもしれず,読者の皆様のご叱責ご教示をいただければ幸いである。当初から懇切丁寧なご指導ご協力をいただいた株式会社メジカルビュー社の谷口陽一様に深謝申し上げ筆を置く。
平成24年3月
杏林大学医学部呼吸器内科教授
滝澤 始
間質性肺炎,なかんずく特発性間質性肺炎(以下,前者はIP,後者はIIPsと呼ぶ)は,なかなかに手ごわい疾患,あるいは疾患群である。
第一に診断が難しい。とりあえず「特発性間質性肺炎 臨床調査個人票」(p.7参照)をみてみると,鑑別除外診断に該当する疾患だけでも20近くある。このことは,本疾患(群)の診断のために特異性の高い検査がないこと,本質的に除外診断であることを物語る。実際,わが国の手引きやATS/ERS/JRSのガイドラインでもclinical, radiologic and pathologic(CRP)diagnosis,つまり呼吸器科・放射線科・病理部の各専門医による総合的な診断multidisciplinary discussionを推奨しており,その困難さを否が応でも納得させられる。読者の中にも胸部CTの読みや外科的肺生検の結果の解釈が,有名な専門家の間ですら一致しないという現場に遭遇した方がいると思う。
第二に治療が難しい。IIPsの70%を占める特発性肺線維症では,万人が認める高いエビデンスを示す有効な治療薬は残念ながらないのが現状である。では治療しないのかというと決してそうではない。ここ数年の治療薬の開発のピッチは確実に上がってきており,わが国で最初に認可されたピルフェニドンをはじめ,まさに日進月歩の感がある。つい数カ月前のERS congressでも話題になったBIBF1120の臨床試験結果は早々とNew England Journal of Medicineの9月号にFree Full Textで掲載された(2011; 365: 1079-87)。一方,アメリカNIH主導で行われているプレドニゾン,アザチオプリン,N-アセチルシステイン療法試験(PANTHER-IPF)がプラセボ群より死亡率などが著しく不良で中止に追い込まれた。進行中の臨床試験の状況を横目で睨みながら,目の前の患者にいかに最新でより妥当な治療をお受けいただくか,今後ますます専門医の力量が試される分野となってきた。
第三に説明が難しい。患者や家族,そしてコメディカルに,この疾患を数分間でわかりやすく説明する自信が私にもない。IP,IIPsの世界では,患者数が少なく,またIIPs専用の薬剤もないこともあり,一般向けの情報提供のツールが極端に少ない。わずかに,日本呼吸器学会の「肺の病気」や厚生労働省の難病情報センターのホームページに一般向けのページがある程度で決して十分でない。これらの啓蒙活動の充実に加え,実地医家の先生方や地域検診の担当者との連携を強め,IP,IIPsのより良い管理治療を進めることが求められている。
以上のような問題意識のもとでIP,IIPsの最新の情報をお伝えしたく,本書を企画編集した。本文では「教えて!ポイント」などの囲みや,おすすめの文献には「Check」を入れるなど,わかりやすい紙面になるように心がけたが,必要十分でないかもしれず,読者の皆様のご叱責ご教示をいただければ幸いである。当初から懇切丁寧なご指導ご協力をいただいた株式会社メジカルビュー社の谷口陽一様に深謝申し上げ筆を置く。
平成24年3月
杏林大学医学部呼吸器内科教授
滝澤 始
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目次
Ⅰ.間質性肺炎の診断と治療を究める
診断
問診と身体所見 滝澤 始
胸部単純X線の読み方 臼杵二郎
胸部CTの読み方 髙橋正洋ほか
血液検査の読み方 横山彰仁
呼吸機能検査・血液ガスの読み方 花田豪郎ほか
病理学的検査の進め方と臨床への生かし方 海老名雅仁
病理所見の解釈(病理診断の実際) 岡 輝明
気管支肺胞洗浄の進め方 垂井 愛ほか
鑑別診断の道筋 半田知宏
合併症 宮本 篤
治療
薬物治療 西岡安彦
呼吸療法 近藤康博ほか
血液浄化療法 阿部信二
呼吸リハビリテーション 黒澤 一
Ⅱ.特発性間質性肺炎を究める
特発性間質性肺炎(オーバービュー) 小橋陽一郎
特発性肺線維症の概念と診断
特発性肺線維症の定義 吾妻安良太
特発性肺線維症の病態生理(病気の成り立ち) 福田 悠
特発性肺線維症の病因論 萩原弘一
特発性肺線維症の診断 滝澤 始
特発性肺線維症の治療と管理(安定慢性期)
薬物治療(治療と薬理メカニズム)
ピルフェニドン 小倉高志
N-アセチルシステイン 村松陽子ほか
副腎皮質ステロイド 石井芳樹
免疫抑制薬 稲瀬直彦
支持療法とその意義(肺移植を含む) 井上義一
特発性肺線維症の治療と管理(急性増悪期)
薬物治療と支持療法 川村宏大ほか
特発性肺線維症以外の特発性間質性肺炎
非特異性間質性肺炎 須田隆文
リンパ球性間質性肺炎 富井啓介
剥離性間質性肺炎,呼吸細気管支炎関連性間質性肺炎,気腫合併肺線維症 千葉茂樹ほか
特発性器質化肺炎 谷野功典
急性間質性肺炎 間藤尚子ほか
Ⅲ.特発性間質性肺炎以外の間質性肺炎を究める
膠原病の肺病変 河村哲治ほか
血管炎 大林王司
薬剤性肺障害 長瀬洋之
過敏性肺炎 宮崎泰成
職業性肺炎
石綿肺 四十坊典晴
インジウム肺 石井晴之ほか
サルコイドーシス 山口哲生
好酸球性肺炎 谷口正実ほか
感染症 迎 寛
血液疾患および臓器移植後の肺病変 橋本直純ほか
IgG4関連呼吸器疾患 松井祥子
その他のまれな疾患 石井晴之
特発性間質性肺炎 認定基準
特発性間質性肺炎 臨床調査個人票
付録 患者さんとご家族の方にお読みいただけるように 滝澤 始
診断
問診と身体所見 滝澤 始
胸部単純X線の読み方 臼杵二郎
胸部CTの読み方 髙橋正洋ほか
血液検査の読み方 横山彰仁
呼吸機能検査・血液ガスの読み方 花田豪郎ほか
病理学的検査の進め方と臨床への生かし方 海老名雅仁
病理所見の解釈(病理診断の実際) 岡 輝明
気管支肺胞洗浄の進め方 垂井 愛ほか
鑑別診断の道筋 半田知宏
合併症 宮本 篤
治療
薬物治療 西岡安彦
呼吸療法 近藤康博ほか
血液浄化療法 阿部信二
呼吸リハビリテーション 黒澤 一
Ⅱ.特発性間質性肺炎を究める
特発性間質性肺炎(オーバービュー) 小橋陽一郎
特発性肺線維症の概念と診断
特発性肺線維症の定義 吾妻安良太
特発性肺線維症の病態生理(病気の成り立ち) 福田 悠
特発性肺線維症の病因論 萩原弘一
特発性肺線維症の診断 滝澤 始
特発性肺線維症の治療と管理(安定慢性期)
薬物治療(治療と薬理メカニズム)
ピルフェニドン 小倉高志
N-アセチルシステイン 村松陽子ほか
副腎皮質ステロイド 石井芳樹
免疫抑制薬 稲瀬直彦
支持療法とその意義(肺移植を含む) 井上義一
特発性肺線維症の治療と管理(急性増悪期)
薬物治療と支持療法 川村宏大ほか
特発性肺線維症以外の特発性間質性肺炎
非特異性間質性肺炎 須田隆文
リンパ球性間質性肺炎 富井啓介
剥離性間質性肺炎,呼吸細気管支炎関連性間質性肺炎,気腫合併肺線維症 千葉茂樹ほか
特発性器質化肺炎 谷野功典
急性間質性肺炎 間藤尚子ほか
Ⅲ.特発性間質性肺炎以外の間質性肺炎を究める
膠原病の肺病変 河村哲治ほか
血管炎 大林王司
薬剤性肺障害 長瀬洋之
過敏性肺炎 宮崎泰成
職業性肺炎
石綿肺 四十坊典晴
インジウム肺 石井晴之ほか
サルコイドーシス 山口哲生
好酸球性肺炎 谷口正実ほか
感染症 迎 寛
血液疾患および臓器移植後の肺病変 橋本直純ほか
IgG4関連呼吸器疾患 松井祥子
その他のまれな疾患 石井晴之
特発性間質性肺炎 認定基準
特発性間質性肺炎 臨床調査個人票
付録 患者さんとご家族の方にお読みいただけるように 滝澤 始
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間質性肺炎を究めるならこの1冊!
わが国の特定疾患に指定されている間質性肺炎は,詳細な問診や肺機能検査,血液検査,胸部X線,HRCT,病理組織検査など総合的な診断が必要で,幅広い知識が必要とされる。2008年末には抗線維化薬の新薬が発売されるなど効果的な治療法も出ており,昨年には特発性間質性肺炎の手引きも改訂されるなど,非常に注目を集めている。
本書ではこれらの最新の知見を踏まえ,間質性肺炎のすべてを解説した。特に特発性肺線維症の項目では診断だけでなく治療についても詳しく解説した。間質性肺炎を究めることができる必読の書である。