レジデントのための
精神症状鑑別のリアルなアプローチ

誰も教えてくれなかった,処方の前に知っておきたい評価手順 

レジデントのための精神症状鑑別のリアルなアプローチ

■著者 小川 朝生

定価 3,630円(税込) (本体3,300円+税)
  • A5判  192ページ  2色,イラスト20点
  • 2024年3月25日刊行
  • ISBN978-4-7583-0238-8

はじめての精神症状診断学入門! 処方の前に知っておきたい精神症状の評価手順

これまで語られることのなかった精神症状の評価と鑑別手順について,研修医向けのレッスン形式でわかりやすく解説。
精神科に限らず臨床で遭遇する典型例を基に評価方法を示し,不安、怒り,眠れない,指示に従わない,「死にたい」と言う,といった実践的なテーマごとに鑑別と対応を学ぶ。疾患や病態により重なりあう症状,見た目でだまされないための評価の根幹を凝縮した一冊。


序文

●はじめに

「精神症状に鑑別なんてあるの?」

 とある飲み会で,内科診断学で有名な先生とご一緒させていただいたときのことです。救急外来を受診したケーススタディが並んだ鑑別診断の勉強会の後,内分泌や感染症など,徴候から鑑別を挙げ,感度・特異度を踏まえた検査実施の是非を議論した後に聞かれた,この思いもかけない言葉に驚きました。
 これだけ細かく徴候をみて,その頻度を検討し,鑑別の優先順位をつける,その精巧な技術を拝見した後に,精神症状になるとみな同じに見えてしまうのだろうか? なんとも言えないギャップを感じました。また,その違和感とともに,ローテートで回っているレジデントの先生方も,精神科を回りつつも精神症状・症候をどうとらえてよいのかわからずに戸惑っている姿も思い出しました。

 精神科の入門書や精神症状に対応するマニュアルは,筆者が研修医をしていた頃と比べ,格段に多く世に出されています。しかし,多くの本は,「うつ病のときはどうする?」,「パニック発作だったら?」といったように,主要な症状が同定され,ある程度鑑別がついた後の対応がまとめられている一方,その精神症状をどのように鑑別していくのか,考え方や具体的な手順は意外に解説されていないようです。
 実は,精神症状には,鑑別を進める暗黙のルールが従来診断に組み込まれており,そのルールを知ることで,見通しが大きく変わってきます。例えば,一般病棟でも多く見かけるせん妄では,注意の障害から周囲の状況がつかめず,不安が高まることも多くあります。この場合の不安は,あくまでもせん妄から派生するものなので,せん妄の症状の1つとして対応します。しかし,この症状をみて,なぜ「パニック障害でせん妄です」と2つ診断を併記しないのか,その理由は,組み込まれた鑑別のルールにあります。精神症状を検討する際に,意識障害や器質疾患を優先するこのルールを知るだけで,先ほどの疑問は解消します。
 統合失調症などの専門的な疾患の鑑別よりも,内科や外科といった精神科以外を志望されるレジデントの先生方が今後のために知っておくと役立つせん妄やうつ病,不安について,最低限の鑑別の流れを伝えることができないかという想い,それを形にしようと試みたのが本書になります。
 本書でまとめている臨床的な アプローチに触れてもらうことで,「精神症状は結局みな同じにみえる」,「区別がつかない」という悩みが少しでも解決されるとしたら,望外の喜びです。

2024年2月
国立がん研究センター東病院精神腫瘍科
小川朝生
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目次

Part Ⅰ 精神症状の鑑別に必要な評価手順
精神症状の評価は階層構造をもつ
 1.「精神症状って結局すべて同じじゃない?」という人へ
  初期研修ローテート(精神科)で得た知識と病棟でのギャップ
  精神科の診断には階層構造が埋め込まれている
  もう一度鑑別の流れをおさらいしよう
  精神症状の評価もスマホやパソコンの調子をみるのと同じ
  脳の構造と精神症状との関連は?
  それぞれの病態・疾患で評価を考えてみよう
評価の基本
 1.まずはせん妄のみかたから
  興奮を伴わないせん妄はなぜ大事?
  せん妄はどのように判断する?
  せん妄の「興奮」に引きずられてはならない
  「注意の障害」はせん妄のときに確実に出る症状
 2.気分の症状評価(うつ病)
  気分と感情は違う?
  気分の異常とは? 医療的な対応が必要なのはどのようなとき?
  自殺
  希死念慮
 3.知覚・思考障害の評価
  思考の障害とは?
  知覚・思考障害を評価する
  統合失調症の症状
 4.不安の鑑別
  不安とは?
  代表的な症状:パニック発作
  医療的に対応するのはどこから?
  不安関連の障害
  不安障害・パニック発作の治療
Part Ⅱ 臨床での病態の鑑別とかかわり方
ケースでわかる実際の評価と対応
 1.興奮
  興奮と不穏とは?
  鑑別の流れ
  BPSDとは?
 2.怒り
  本態に気づきにくい「怒り」
  怒りのパターン
 3.幻覚
  幻覚とは?
  客観的な幻覚と錯覚の違いをどのようにとらえるか
  幻覚のまとめと注意点
 4.妄想
  妄想とは?
  妄想は揺らぐのか(抗精神病薬の治療効果とは)
  妄想はどのように出てくる?
  妄想をどのように評価する?
  妄想の3 パターン
  妄想の聞き出し方
 5.元気がない,動かない
  鑑別の流れ
  3D
  NCSE(非けいれん性てんかん重積状態)にも注意
 6.治療やケアを拒否する
  拒否する要因
  拒否するほかの要因
  case 21  
 7.眠れない
  急な不眠の訴え
  不眠をどのようにみていくか
  不眠のタイプと影響の大きさを確認したら
  睡眠衛生指導
  睡眠薬を使う
 8.「死にたい」と言う
  「死にたい」と言われたら
  希死念慮とは?
  「死にたい」に対応する
  自殺リスクの評価
 9.指示に従わない
  まずはせん妄を考える
  せん妄の次に
  認知症にせん妄が重なる場合
  せん妄・認知症の鑑別議論における注意点
 10.けいれん
  NCSE
  NCSEの治療
 まとめ
付録(主な向精神薬の相互作用)
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