子どもを初めて診る前に読む本

子どもを初めて診る前に読む本

■編著 利根川 尚也

■執筆 伊藤 健太
鉄原 健一
橋本 直也
小川 優一
中村 俊貴
諸岡 雄也

定価 3,960円(税込) (本体3,600円+税)
  • A5判  266ページ  イラスト50点
  • 2024年4月29日刊行
  • ISBN978-4-7583-1310-0

初期研修前に知っておきたいこと,研修中に困ったときに知りたいこと,この1冊でまるっと教えます!

小児科研修医・元研修医100人へのアンケートから、初期研修前に知っておきたかったこと,研修中に困ったときに知りたかったことをまるっと網羅して、みんながほしかった小児科診療の入門書を作りました。医師臨床研修指導ガイドラインで掲げられている、①子どもの特性を学ぶ、②小児診療の特性を学ぶ、③小児疾患の特性を学ぶがスムーズに身に付くように全体を構成しつつ、泣かせないように診るには? 頸のすわりをチェックするには?この月齢の赤ちゃんの特徴は?虐待を疑うには?など、「子どもとやさしく・楽しく・正しく関わるためのコツ」を随所に散りばめました。ゲスト執筆者の先生方も極意を伝授。「小児の救急診療:ABCDEの活かし方」(鉄原健一先生)「小児の感染症診療:小児には感染症診療の原則が使いにくい」(伊藤健太先生)「小児のオンライン医療相談:手のひらに、小児科医を」(橋本直也先生)。読み応え抜群!「小児科診療でよく出会う症候top7」では、診察から検査、治療の考え方をコンパクトにまとめました。診療前におさらいしておけばスムーズに診察できること間違いなし。小児科診療がもっと楽しくなること間違いなしの一冊です。


序文

序文に代えて
小児科はここが面白い

●小児科との出会い
 皆さんは、小児科にどのようなイメージをもっていますか?
「子ども好き」
「優しい先生が多い」
「臓器すべてを診るなんて大変そう」
などでしょうか? 私も医学生のころ同じようなイメージをもっていました。

 私は、大学の卒前臨床実習(クリニカルクラークシップ)の一番はじめの科が小児科でした。医学部5年生の春です。当時、臨床実習といっても何をしたらいいのかまったくわからず、暇さえあれば病棟の子どもたちと遊んだり、保護者の方々とお話をしたりしていました。
「何も実習らしいこと学べていないな……」
と反省しながらも、その時間が楽しかったのを覚えています。
 指導医に相談したところ
「利根川くん。それでいい。とにかく子どもたちと遊びなさい」
と言われたことを覚えています。素敵な言葉をかけていただいたなと今も感謝しています。

 小児科実習中のとある日、仲良くなった子どもとお母さんと色々と会話が弾んでしまい、気がつけば実習の時間も終わり、夜になっていました。その子の基礎疾患などの詳細ははっきりと思い出せませんが、発熱していました。お母さんと話していた次の瞬間、その子が急に固まったようになり、遠くを見ているような、それでいて魂を失ったような目線になり、徐々に全身を震わせて、のけ反り、けいれんし始めたのです。

 お母さんは大変動揺し、「先生助けてください!」と私に言いました。そこは個室で、周りには医療者は誰もいませんでした。とても驚いたことは覚えていますが、呆然と立ち尽くしていたのかあまり記憶がなく、気がつくと数名の小児科の先生たちが駆けつけて手際よく対応しながら、お母さんの気持ちを気遣うように声掛けをし、その子を連れて処置室に移動していきました。
 その光景は今でもはっきりと記憶にこびりついていて、自分があまりに何もできず不甲斐なく思いました。「これではだめだ。何もできないただのお話し好きの素人だ」と、自分が医療従事者であるということも強く意識しました。

 小児科の実習を終えて思ったことは、「とにかく人に関わった」ということでした。医学生として、一人の人間として、子どもやご家族に多く関わり、他職種の方々とも色々とお話ししました。とても充実した実習でしたが、一方で、小児科の範囲が広すぎて、何から学んでいけばよいのかわからないという感覚もありました。同じような感覚は、臨床研修医の小児科研修のときも、小児科専攻医の始めのころもありました。
 なぜなのでしょうか? 単純に学ぶべき範囲が広いからなのでしょうか?

●「子ども」を知らない難しさ
 「何から手を付けたらよいかわからない」という大きなの理由の一つに、「子どもが対象である」ということが挙げられます。

 私達大人は小児期を必ず経験してきているはずですが、特に幼少期はあまり記憶がなく、子どものことをよく知らないのです。私も小児科研修を始めたときは、どのように赤ちゃんに触れ、子どもに話しかけたらよいかわからず、大変戸惑いました。赤ちゃんは首が座っていなかったり、大泉門があったりして非常に脆弱な存在であり、恐る恐る診察していたことを思い出します。成人医療では、患者の価値観や生活の背景は違えど自分と同じ大人であり、触れ方や話し方がまったくわからないということはありません。医療者が「対象のことをよく知らない」という事実が、小児医療の最大の特徴ではないかと思うのです。

 この状態で、いきなり実践の場である小児医療現場に入っていっても、文字通り「すべててがわからない」といった感じです。何から手を付けたらいいのか分からないのも無理はありません。私が小児科の臨床実習の際に、まず子どもと遊んだのは、本能的にまず子どもを知ろうとしたのかもしれません。

●小児科医のキャリアは無限大
 小児医療の使命って何でしょうか?
 日本小児科学会は、「将来の小児科医への提言2018」¹⁾で次のように述べています。

小児科医は、日々子どもたちを診療しているが、それは「子どもの病気」を診ていることではなく、広く「いのち」を、そしてそのはじまりからかかわっていることに改めて気づかされる。いのちにはさまざまなかたちがあり、このいのちの成長をいかに支えるのかを考え実践することがまさに小児科学である。

 米国小児科学会は、使命²⁾を次のように述べています。

The mission of the American Academy of Pediatrics is to attain optimal physical, mental, and social health and well-being for all infants,children, adolescents and young adults.
(米国小児科学会の使命は、すべての乳幼児、小児、青少年、および若年成人のために、身体的、精神的、および社会的に最適な健康と福祉を達成することである。)

 これから小児医療を学ぼうとしている皆さんに知ってほしいことは、「次世代を見据えて子どもの包括的な健康を推進する」という小児医療の使命です。何かの疾患を解明したり治療したりすることだけではないのです。疾患の有無によらず、子どもの健康のすべてに関わり、より良い方向にもっていくように努力することなのです。
 この果てしなくて終わりのない使命が、私が小児科を初めて学んだときに感じた、「何から手を付けたら良いのかわからなくなる」感覚の背後にあったものの一つかもしれません。しかし、これは視点を変えてみれば、小児科をとても魅力的な分野たらしめているものともいえるのです。

 「次世代を見据えた子どもの包括的な健康を推進する」ということは、つまり「すべての人の健康を推進する」ということです。「これまた大きく出ましたね」と言われてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。まず、現代の子どもの健康を考えるうえで、その子どもを支える周りの人たち(家族やお友達や先生などの大人たち)の健康も考える必要がありますね。支える人たちが不健康で、子どもだけが健康ってことは考えづらいですから。
 そして、現代の子どもの健康を考えるということは、子どもが大人になった未来の健康をも考えるということです。つまり、現代そして未来の社会全体の健康を推進することと同義です。小児医療とは、社会全体の健康を、これから時代を生きていく子どもたちのことを中心に考え、推進していこうという分野です。

 現実的には、一人の小児医療従事者が、生涯を通して子どもの健康に関わるすべてに関わることはできません。ここで、ちょっと皆さんにお聞きしたいのです。皆さんは、なぜ医療者を志したのでしょうか? 個人個人でさまざまな理由があるとは思いますが、少なからず「自分なりに人とか社会に貢献できたらいいな」という思いがあったのではないかと思います。
 現時点で、将来医療者としてやりたいことが明確には定まっていない人も多いでしょう。実際に医療に関わるようになってから、徐々に自分のやりたいことが定まってくるものです。そして経験を積む過程で、少しずつ変化していく可能性もあります。
 小児医療では、社会すべてに関わるという背景から、皆さんが自分なりに貢献したいと思える分野が必ずみつかります。臨床医、研究者、起業家、インフルエンサー、行政関連、政治家など、無限大のキャリアの選択肢を示してくれる分野なのです。

●本書が目指すもの
 皆さんは、事前学習という言葉を聞いたことがあると思います。研修でも旅行でも趣味でも何でもいいのですが、それ自体をより充実した経験にするには、事前学習が効果的です。しかし限られた時間のなかで効果的な事前学習の内容や方法を自ら見出すことは、非常に難しいことです。本来は、よく知っている人から「これだけは学んでおくといいよ」と提供されるべきです。

 そこでこの本は、小児医療にこれから関わるという人たちに対して、実践に入る前の事前学習のために作りました。子どもって何なのか? から始まって、小児医療に入る前に知っておきたい診療の型であったり、基本的な背景や対処方法など、「まずはこの一冊」という内容にしています。

 ぜひ、小児科研修に入る前に一読してみてください。きっと、より小児科研修を充実したものにでき、もしかしたら「これだ!」という自分の将来をも見いだせるかもしれません。

2023年3月
国立成育医療研究センター 教育研修センター 教育研修室長
利根川尚也
--------------------
文献
1)https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=103
2)https://www.aap.org/en/about-the-aap/
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目次

序文に代えて 小児科はここがおもしろい
 
Ⅰ 子どもを診る前に知っておきたいこと
●発達を学ぶ目的 子どもがわかれば、人間がわかる
 発達は点ではなく、線で理解する
 4つのカテゴリー(身体的発達、知的発達、言語発達、社会情動的発達)で観察する
●0~1カ月児の発達 人生のなかで最も成長する時期
 体重増加、哺乳
 嘔吐、排便・排尿
●1~4カ月児の発達 赤ちゃんらしい可愛さが出てくる時期
 体の特徴
 身体的発達
 知的発達
 言語発達
 社会情動的発達
●5~7カ月児の発達 一人での移動が始まる時期
 身体的発達
 知的発達、言語発達、社会情動的発達
●8~11カ月児の発達  つかまり立ちが始まり、小さなものが摘めるようになる時期
 身体的発達
 知的発達、社会情動的発達
 言語発達
●1~2歳児の発達 一人歩き、一人遊びが始まる時期
 身体的発達
 知的発達
 言語発達
●2~3歳児の発達 やりとりが巧みになり、走る・跳ぶができる時期
 身体的発達
 知的発達
 言語発達(言語理解)
 言語発達(言語表出)
 社会情動的発達
●3~4歳児の発達 人の気持ちがわかるようになってくる時期
 身体的発達
 知的発達
 言語発達
 社会情動的発達
●4~5歳児の発達 お兄さん・お姉さんらしく、自分一人でできる時期
 身体的発達
 知的発達(知覚機能)
 言語発達
 社会情動的発達
●5歳児の発達 就学前健診で評価すべきこと
 会話
 動作模倣
 協調運動
 概念
 行動制御
 子どもはみんなそれぞれの個性をもっている
●学童期の発達 さまざまな経験を通じて自尊心が育つ時期
 学童期前半(6~8歳)
 学童期後半(9~11歳)
●思春期の発達 自分とは何者かを知る時期
 前期思春期(11~14歳)
 中期思春期(15~17歳)
 発達についてのまとめ
●小児の救急診療 ABCDEの活かし方  鉄原健一
 まずは緊急度の評価
 緊急度はぱっと見の第一印象と一次評価(ABCDE)で診る
 一次評価(ABCDE)の診かた
 一次評価(ABCDE)への介入
 二次評価:ABCDEの原因を検索する
 小児救急の心構え:家族が緊急と思ったら緊急
●小児の感染症診療 小児には感染症診療の原則が使いにくい  伊藤健太
 小児感染症診療はなぜ原則通りに行われない? 
 小児感染症診療の原則
 感染症診療における情報収集
 Treat or not treat
●小児のオンライン医療相談 手のひらに、小児科医  橋本直也
 妊娠、出産、子育ての安心を誰にでも、どこに住んでいても
 オンラインのコツは対面にも活かせます
 オンライン医療相談のコツ7選(全相談方法共通)
 オンライン医療相談のコツ(チャット編)
 オンライン医療相談のコツ(メール編)
 オンライン医療相談のコツ(音声通話編)
 オンライン医療相談のコツ(ビデオ通話編)
 オンライン医療相談に寄せられる相談
 相談例と解答例のご紹介

Ⅱ 小児科診療を始める前に知っておきたいこと
 診察を始める前の「準備」
 診察の流れ:「問診」→「身体診察」→「説明」
 診察を始める前の「準備」
●問診(コミュニケーション)
 問診を通して信頼関係を構築する
 問診の型
●身体診察①:視診・聴診
 何より「視診」
 いよいよ診察のために子どもに近づく
 まずは聴診
●身体診察②:部位別診察方法(胸部)
 視診は大事
 触診+聴診:初見を立体的に捉える
 打診:いつも同じように叩くことが大事
●身体診察③:部位別診察方法(腹部)
 まずは声掛け
 視診:平坦か膨隆か、発疹がないか
 聴診:何カ所に分けてある程度時間をかけて
 打診:臓器の位置関係や大きさ、腸管の分布をイメージ
 触診:痛いところは最後に
●身体診察④:部位別診察方法(鼠径・陰部・背部)
 「鼠径」は皮膚の膨隆や色を確認
 「陰部」も皮膚の色や左右差を確認
 「背部」は皮膚の色や脊椎や肩甲骨の位置関係などを視診と触診で確認
●身体診察⑤:部位別診察方法(四肢、神経)
 まず、何と言っても「視診」
●身体診察⑥:部位別診察方法(頭頸部)
●カルテ記載とプレゼンテーション
 プレゼンテーションの目的
 よいプレゼンテーションとは?
 プレゼンテーションのコツ

Ⅲ 小児科診療でよく出会う症候top7
●発熱  小川優一
 発熱とはどういうものか
 発熱の鑑別疾患
 SIQORAAAによる問診
 検査が必要なとき
 治療が必要なとき
●腹痛
 腹痛の鑑別疾患
 SIQORAAAによる問診
 診察のポイント
 検査のポイント
●嘔吐  中村俊貴
 嘔吐の鑑別疾患
 SIQORAAAによる問診
 診察のポイント
 検査のポイント
 治療のポイント
●皮疹  小川優一
 皮膚診察のポイント
 SIQORAAAによる問診・診察と鑑別疾患
 検査のポイント
 治療のポイント
●咳嗽  諸岡雄也
 咳嗽の鑑別診断
 SIQORAAAによる問診
 診察のポイント
 検査のポイント
 治療のポイント
●咽頭痛  中村俊貴
 咽頭痛の鑑別診断
 SIQORAAAによる問診・診察
 検査のポイント
 治療のポイント
●けいれん・意識障害  諸岡雄也
 けいれん・意識障害の鑑別疾患
 熱性けいれん:圧倒的高頻度の原因疾患
 有熱性けいれんの鑑別疾患
 無熱性けいれんの鑑別疾患
 SIQORAAAによる問診
 診察のポイント
 検査のポイント
 治療のポイント
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