プレコンセプションケア
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定価 8,580円(税込) (本体7,800円+税)
- B5判 464ページ 2色,イラスト30点,写真10点
- 2024年3月28日刊行
- ISBN978-4-7583-2140-2
電子版
序文
刊行によせて
すべての若者と医療・教育関係者にとって求められるプレコンセプションケア
わが国の社会が大きく変化する中で,女性の社会進出が進み,女性が自己のキャリア形成を目指し,どのように人間として・女性として生きてゆくか深く考え(ライフプランニング),行動する時代になっています。また,貧困やこころの問題に悩む女性も増加しています。
一方,現代社会ではうつ,痩せ,肥満,卵巣機能不全,月経困難症などが思春期から幅広い年代の女性に増えています。また,これまで対応が難しかった望まない妊娠,性暴力,緊急避妊や性感染症などがようやく社会からも注目され,医療側としても適切に対応しなくてはならない事態が散見されます。
さらに,女性の社会活動の結果として,30代後半になってから妊娠を希望する女性が現実に増加し,不妊治療後の妊娠も増えています。一方,小児期からの慢性疾患を有して成人に至る女性や,妊娠の高齢化に伴いうつや自己免疫疾患などの合併症を持って妊娠を希望する女性も増えています。
これらの女性には疾患に対するケアだけでなく,身体,心理,社会面のいずれの面からも総合的にヘルスプロモートする支援が求められています。
このように,妊娠を希望する女性やカップルに性や基礎疾患に関する知識を中心に,生物医学的,行動学的,社会的な健康教育を普及させるプレコンセプションケアのニーズが,わが国でも急速に高まっています。こうした状況の中で,いわゆる「成育基本法」に基づいて2021年2月に閣議決定された「成育医療等基本方針」において,プレコンセプションケアが「女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す取組」と定義され,これを推進することがうたわれています。
プレコンセプションケアとは直接的には「将来の妊娠をターゲットにしたもの」ですが,「男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身につけ,健康管理を行うこと」として,より広く高尚な目的を目指していることを忘れてはならないと考えます。
2015年にわが国初の「プレコンセプションケアセンター」を開設し,プレコンセプションケア外来を運営してきた国立成育医療研究センターのスタッフが中心となって,わが国のプレコンセプションケアの現状とめざすところが本書に詳細に解説されています。
女性とカップルの健康教育や医療・保健に携わるすべての医療・教育関係者にとってきわめて有益な情報が満載されています。多くの方々に本書が愛読され,将来更に進化してゆくことを祈念いたします。
2024年3月
国立成育医療研究センター理事長
東京大学名誉教授
五十嵐 隆
--------------------
はじめに
プレコンセプションケアは,1980年前後から糖尿病合併妊娠での先天異常率の高さや葉酸による神経管閉鎖障害予防で注目され,「受胎前からの健康管理」の各論として母児の妊娠転帰の改善のための新たなケアとして注目されてきました。2006年に米国疾病管理予防センターとプレコンセプションヘルスの有識者が合同でこの分野を発展させるための国家勧告を出したのが,保健政策としてのプレコンセプションケアの始まりだと思われます。プレコンセプションケアを,「女性の健康と妊娠転帰に対する医学的・行動的・社会的リスクを,予防と管理を通じて特定・修正することを目的とした一連の介入」と定義しながら,女性のみならず,カップル・将来の子どもたちの長期的な健康増進に貢献し,ひいては健康寿命の延伸に繋がるライフコースアプローチの視点からのヘルスケアであると位置付けています。
わが国では,2015年に国立成育医療研究センターに本ケアの概念をわが国に普及させるためにプレコンセプションケアセンターが開設されました。胎児・新生児・乳児・小児期・思春期・性成熟期・次の新たな命とつながる成育サイクルが成育医療の対象ですが,周産期医療,小児・思春期医療とともに,プレコンセプション期の保健・医療を強化することが成育医療の発展に必要と考えたからです。2018年に成育基本法が制定され,翌年出された同基本指針の中で,プレコンセプションケアは,「女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す取組」と記され,2023年6月のこども未来戦略方針では,「男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け,健康管理を行うよう促すこと」と健康教育の概念がこのケアに追加されています。さらに2022年,日本医学会設立120周年記念の「未来の提言」では,「超高齢・少子化社会への対応」において,その対策の一つとしてプレコンセプションケアの強化が挙げられました。
この教科書をつくるにあたって,多くのこの領域にかかわっておられる,またはかかわっていかれる皆様にプレコンセプションケアに対する熱い思いを述べていただくことができました。関連の皆様に心から感謝申し上げます。その定義や目的は,それぞれ少しずつ異なっているように思いますが,若者の現在・将来のウェルビーイング,そして次の世代の子どもたちのウェルビーイングを望む気持ちはみな共通であると感じました。
プレコンセプションケアは,その地域やその時代に即したものに変化すべきであり,すべてのひとが享受できるものでなければなりません。日本におけるプレコンセプションケアも,多くの関係者や当事者の間で議論されながら,日本全体にプレコン旋風をひきおこし,現在から将来にわたる若者の健康のみならず次世代の健康,そして社会全体の健康へ繋がることを望みます。
最後に,構想から約3年にわたって,夢を語りながら企画に携わった三戸麻子先生,岡﨑由香先生,そして何よりも強い熱意で我々を支えてくださったメジカルビュー社の浅見直博氏に深く感謝申し上げます。そして,強い理念のもとプレコンを世の中に牽引された,わが国立成育医療研究センター五十嵐 隆理事長に新ためて敬意を表します。
2024年3月
国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科診療部長
荒田 尚子
すべての若者と医療・教育関係者にとって求められるプレコンセプションケア
わが国の社会が大きく変化する中で,女性の社会進出が進み,女性が自己のキャリア形成を目指し,どのように人間として・女性として生きてゆくか深く考え(ライフプランニング),行動する時代になっています。また,貧困やこころの問題に悩む女性も増加しています。
一方,現代社会ではうつ,痩せ,肥満,卵巣機能不全,月経困難症などが思春期から幅広い年代の女性に増えています。また,これまで対応が難しかった望まない妊娠,性暴力,緊急避妊や性感染症などがようやく社会からも注目され,医療側としても適切に対応しなくてはならない事態が散見されます。
さらに,女性の社会活動の結果として,30代後半になってから妊娠を希望する女性が現実に増加し,不妊治療後の妊娠も増えています。一方,小児期からの慢性疾患を有して成人に至る女性や,妊娠の高齢化に伴いうつや自己免疫疾患などの合併症を持って妊娠を希望する女性も増えています。
これらの女性には疾患に対するケアだけでなく,身体,心理,社会面のいずれの面からも総合的にヘルスプロモートする支援が求められています。
このように,妊娠を希望する女性やカップルに性や基礎疾患に関する知識を中心に,生物医学的,行動学的,社会的な健康教育を普及させるプレコンセプションケアのニーズが,わが国でも急速に高まっています。こうした状況の中で,いわゆる「成育基本法」に基づいて2021年2月に閣議決定された「成育医療等基本方針」において,プレコンセプションケアが「女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す取組」と定義され,これを推進することがうたわれています。
プレコンセプションケアとは直接的には「将来の妊娠をターゲットにしたもの」ですが,「男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身につけ,健康管理を行うこと」として,より広く高尚な目的を目指していることを忘れてはならないと考えます。
2015年にわが国初の「プレコンセプションケアセンター」を開設し,プレコンセプションケア外来を運営してきた国立成育医療研究センターのスタッフが中心となって,わが国のプレコンセプションケアの現状とめざすところが本書に詳細に解説されています。
女性とカップルの健康教育や医療・保健に携わるすべての医療・教育関係者にとってきわめて有益な情報が満載されています。多くの方々に本書が愛読され,将来更に進化してゆくことを祈念いたします。
2024年3月
国立成育医療研究センター理事長
東京大学名誉教授
五十嵐 隆
--------------------
はじめに
プレコンセプションケアは,1980年前後から糖尿病合併妊娠での先天異常率の高さや葉酸による神経管閉鎖障害予防で注目され,「受胎前からの健康管理」の各論として母児の妊娠転帰の改善のための新たなケアとして注目されてきました。2006年に米国疾病管理予防センターとプレコンセプションヘルスの有識者が合同でこの分野を発展させるための国家勧告を出したのが,保健政策としてのプレコンセプションケアの始まりだと思われます。プレコンセプションケアを,「女性の健康と妊娠転帰に対する医学的・行動的・社会的リスクを,予防と管理を通じて特定・修正することを目的とした一連の介入」と定義しながら,女性のみならず,カップル・将来の子どもたちの長期的な健康増進に貢献し,ひいては健康寿命の延伸に繋がるライフコースアプローチの視点からのヘルスケアであると位置付けています。
わが国では,2015年に国立成育医療研究センターに本ケアの概念をわが国に普及させるためにプレコンセプションケアセンターが開設されました。胎児・新生児・乳児・小児期・思春期・性成熟期・次の新たな命とつながる成育サイクルが成育医療の対象ですが,周産期医療,小児・思春期医療とともに,プレコンセプション期の保健・医療を強化することが成育医療の発展に必要と考えたからです。2018年に成育基本法が制定され,翌年出された同基本指針の中で,プレコンセプションケアは,「女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す取組」と記され,2023年6月のこども未来戦略方針では,「男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け,健康管理を行うよう促すこと」と健康教育の概念がこのケアに追加されています。さらに2022年,日本医学会設立120周年記念の「未来の提言」では,「超高齢・少子化社会への対応」において,その対策の一つとしてプレコンセプションケアの強化が挙げられました。
この教科書をつくるにあたって,多くのこの領域にかかわっておられる,またはかかわっていかれる皆様にプレコンセプションケアに対する熱い思いを述べていただくことができました。関連の皆様に心から感謝申し上げます。その定義や目的は,それぞれ少しずつ異なっているように思いますが,若者の現在・将来のウェルビーイング,そして次の世代の子どもたちのウェルビーイングを望む気持ちはみな共通であると感じました。
プレコンセプションケアは,その地域やその時代に即したものに変化すべきであり,すべてのひとが享受できるものでなければなりません。日本におけるプレコンセプションケアも,多くの関係者や当事者の間で議論されながら,日本全体にプレコン旋風をひきおこし,現在から将来にわたる若者の健康のみならず次世代の健康,そして社会全体の健康へ繋がることを望みます。
最後に,構想から約3年にわたって,夢を語りながら企画に携わった三戸麻子先生,岡﨑由香先生,そして何よりも強い熱意で我々を支えてくださったメジカルビュー社の浅見直博氏に深く感謝申し上げます。そして,強い理念のもとプレコンを世の中に牽引された,わが国立成育医療研究センター五十嵐 隆理事長に新ためて敬意を表します。
2024年3月
国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科診療部長
荒田 尚子
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目次
総論
1 定義と目的
定義
ライフコースアプローチ
2 歴史
歴史
3 日本の問題と日本のプレコンセプションケアのめざすかたち
前思春期から思春期の教育,妊娠する意思のある人たちのケア,妊娠する意思のない人のケア,次の妊娠までのケア,少子化への対応
国際セクシュアリティ教育ガイダンス
4 プレコンセプションの科学
月経
卵子・精子・受精・胎芽
5 ヘルスリテラシー
6 ライフプランニングと妊娠
ファミリープランニング
避妊
年齢と妊孕性:男女
排卵を知る方法
月経に関する問題
不妊症
7 包括的性教育
包括的性教育である国際セクシュアリティ教育ガイダンスと日本の学校における性教育(性に関する指導)の違い
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』のキーコンセプト,キーアイデア
LGBTQ
各論
1 体重
肥満
やせ
2 栄養
総論
エネルギー,蛋白質,脂質,炭水化物
葉酸,水溶性ビタミン,脂溶性ビタミン
本人への影響
リプロダクティブアウトカム
妊娠のアウトカム
児への長期的な影響
介入効果・現在推奨されること
ミネラル(多量ミネラル・微量ミネラル)
3 睡眠
4 運動
5 メンタルヘルス
6 ニコチン,アルコールと違法薬物
7 慢性疾患
糖尿病
甲状腺疾患
下垂体疾患
高血圧
慢性腎臓病
精神疾患
てんかん
全身性エリテマトーデスと抗リン脂質抗体症候群
炎症性腸疾患(IBD)
婦人科疾患
呼吸器疾患
心血管系のリスクと疾患:妊娠に向けた治療法の調整
妊娠と薬について 基本知識
慢性疾患をもつ女性の避妊
がん治療中,がんサバイバー
障害のある方たちへのプレコンセプションケア
8 感染症
総論
風疹,ムンプス
梅毒,クラミジア,淋病,BおよびC型肝炎,ヘルペス
HPV
インフルエンザ
COVID-19
歯周病
HIVとエイズ
9 遺伝:妊娠前に遺伝のことを知る
プレコンセプションケアにかかわる遺伝のこと
カップルへの遺伝カウンセリング
家族歴と遺伝形式
不妊治療と関連する遺伝子疾患
遺伝学的検査
10 環境要因の生殖と次世代への影響
エコチル調査とは
本人への影響
リプロダクティブアウトカム
妊娠のアウトカム
児への長期的影響
介入効果
11 女性を取り巻く社会的環境問題
12 男性のプレコンセプションケア
総論
男性の純粋なプレコンセプションケア―泌尿器的な観点―
男性による妊娠前生活習慣の次世代への影響
男性プレコンセプションケアの実践
13 インターコンセプションケア
総論
妊娠高血圧症候群,胎盤症候群
妊娠糖尿病
体重
産科的・遺伝的問題
メンタルヘルスの問題
14 医師・支援者の役割
産婦人科医
プライマリ・ケア医
内科医
小児科医
助産師・看護師・保健師
教育現場
地方行政の取り組み
職域での取り組み
15 世界のプレコンセプションケアの現状
1 定義と目的
定義
ライフコースアプローチ
2 歴史
歴史
3 日本の問題と日本のプレコンセプションケアのめざすかたち
前思春期から思春期の教育,妊娠する意思のある人たちのケア,妊娠する意思のない人のケア,次の妊娠までのケア,少子化への対応
国際セクシュアリティ教育ガイダンス
4 プレコンセプションの科学
月経
卵子・精子・受精・胎芽
5 ヘルスリテラシー
6 ライフプランニングと妊娠
ファミリープランニング
避妊
年齢と妊孕性:男女
排卵を知る方法
月経に関する問題
不妊症
7 包括的性教育
包括的性教育である国際セクシュアリティ教育ガイダンスと日本の学校における性教育(性に関する指導)の違い
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』のキーコンセプト,キーアイデア
LGBTQ
各論
1 体重
肥満
やせ
2 栄養
総論
エネルギー,蛋白質,脂質,炭水化物
葉酸,水溶性ビタミン,脂溶性ビタミン
本人への影響
リプロダクティブアウトカム
妊娠のアウトカム
児への長期的な影響
介入効果・現在推奨されること
ミネラル(多量ミネラル・微量ミネラル)
3 睡眠
4 運動
5 メンタルヘルス
6 ニコチン,アルコールと違法薬物
7 慢性疾患
糖尿病
甲状腺疾患
下垂体疾患
高血圧
慢性腎臓病
精神疾患
てんかん
全身性エリテマトーデスと抗リン脂質抗体症候群
炎症性腸疾患(IBD)
婦人科疾患
呼吸器疾患
心血管系のリスクと疾患:妊娠に向けた治療法の調整
妊娠と薬について 基本知識
慢性疾患をもつ女性の避妊
がん治療中,がんサバイバー
障害のある方たちへのプレコンセプションケア
8 感染症
総論
風疹,ムンプス
梅毒,クラミジア,淋病,BおよびC型肝炎,ヘルペス
HPV
インフルエンザ
COVID-19
歯周病
HIVとエイズ
9 遺伝:妊娠前に遺伝のことを知る
プレコンセプションケアにかかわる遺伝のこと
カップルへの遺伝カウンセリング
家族歴と遺伝形式
不妊治療と関連する遺伝子疾患
遺伝学的検査
10 環境要因の生殖と次世代への影響
エコチル調査とは
本人への影響
リプロダクティブアウトカム
妊娠のアウトカム
児への長期的影響
介入効果
11 女性を取り巻く社会的環境問題
12 男性のプレコンセプションケア
総論
男性の純粋なプレコンセプションケア―泌尿器的な観点―
男性による妊娠前生活習慣の次世代への影響
男性プレコンセプションケアの実践
13 インターコンセプションケア
総論
妊娠高血圧症候群,胎盤症候群
妊娠糖尿病
体重
産科的・遺伝的問題
メンタルヘルスの問題
14 医師・支援者の役割
産婦人科医
プライマリ・ケア医
内科医
小児科医
助産師・看護師・保健師
教育現場
地方行政の取り組み
職域での取り組み
15 世界のプレコンセプションケアの現状
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国立成育医療研究センター プレコンセプションセンターのメンバーの編集による,科学的根拠に基づいてプレコンセプション(受胎前)ケアを解説する医療者向けの成書。
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