トータルアスリートサポート
院内リハビリテーションから現場でのコンディショニングまで
定価 5,940円(税込) (本体5,400円+税)
- B5判 368ページ 2色/カラー,イラスト70点,写真1190点
- 2023年3月17日刊行
- ISBN978-4-7583-2096-2
電子版
序文
監修の序 リハビリテーション&コンディショニングの在り方
外傷・障害によりスポーツ活動の制限やパフォーマンスの低下をきたした選手を,元の活動および競技レベルに戻す(return to sport:RTS),あるいは元の競技レベル以上に上げる(return to the same level of play or higher:RTSP)には,医師を含めたさまざまな職種の関与が必須であるとは言うまでもない。その職種としては,医師以外として理学療法士やアスレティック・トレーナー(柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師を含む),また現場のコーチ,監督なども含まれる。複数の人間が関与するため,当然のことながら「共通言語」が必要であり(専門用語の乱用を避けることと,解剖学的知識の熟知が重要),それぞれの密な連携により,スムーズな診療の流れが要求される。
病態診断においては,医師による理学所見や各種画像検査の実施により,器質的な損傷部位の把握が必要な場合がある。しかし,スポーツ障害では,選手が訴える疼痛は,あくまでも最終的な結果であり,その原因となった問題点,すなわち過剰な負荷を局所に及ぼしたメカニズムを推察することが最も重要と考える。そのためには,疼痛を発する部位以外の全身的な身体機能やスポーツ種目特有のダイナミックな評価も必要となる。その際,医師が診察室のみ行う身体機能評価には限界があり,広いスペースあるいはスポーツ現場での理学療法士やアスレティック・トレーナーの力が必須となる。
治療においては,局所に対する物理療法や医師が行う服薬,注射などにより,組織損傷の修復や炎症の沈静化を図り,加えて前述した身体機能の問題点に基づいた,運動療法(リハビリテーション)の実施が重要と考える。病院では,医師の処方による運動療法を理学療法士が行うわけであるが,スポーツ現場ではアスレティック・トレーナーの監視下で,他の部位のトレーニングも合わせ実施される。手術的治療を行った場合も同様であり,患肢が固定されている時期から,リハビリテーションを開始し,スポーツ復帰に向けた一連のプログラムに準じてメニューを進めていく必要がある。リハビリテーションが進み,患部への負荷が増えてくると,当然のことながら何かしらの問題点が生じてくるわけで,医師は,これらに対して真摯に向き合い,その詳細な把握と解決への道筋を示す必要があると考える。
スポーツ復帰においては,医師は,当該組織の生物学的治癒を判定し,障害部位周辺の筋力および関節可動域の完全回復を客観的に評価する必要がある。また理学療法士,アスレティック・トレーナーが,障害部位および全身的な動作チェックを行い,コーチも含めてパフォーマンス回復を確認し,完全復帰を目指す。その際,障害の再発予防に対し,常に全身的なコンデショニングへの配慮も重要と考える。この段階においても医師のチェックは必要であり,選手が100%元の競技レベルに復帰してはじめて,医師の役目が終了するものと思っている。
2023年2月
山崎哲也
-----------------------------------------------
編集の序
近年,アスリートを取り巻く環境は大きく変わっている。スポーツの裾野拡大,タレント発掘,長期的育成が推奨され,競技の専門性が高まっている。一方で,多様な遊び・運動経験の少ない中での競技参加やアスリートの低年齢化,アスリート自身が求める競技パフォーマンスの高レベル化が故に,競技パフォーマンスと実際の体力要素・身体機能にギャップが生じていることも多く,スポーツ外傷・障害発生のリスクは高まっていると言える。
医療機関(アウトフィールド)やスポーツ現場(オンフィールド)に目を向けると,コーチ,医師,看護師,理学療法士(PT),柔道整復師,鍼灸師,アスレティックトレーナー(AT),ストレングス&コンディショニングコーチ(S&C コーチ),フィジカルコーチ(フィジコ),栄養士,臨床心理士といった多職種が関わるようになった。分業が進むことで専門性が高まる一方,オンフィールドでの病態の理解不足により症状の悪化や再発,アウトフィールドでのトレーニング負荷強度の不足により復帰後のパフォーマンス低下などが起こり,アスリートが個々に情報を取捨選択して取り入れているのが実情である。
アスリートの競技復帰を支える上で,医療機関は競技体力,トレーニングの原理原則・期分け,競技復帰への負荷強度の設定を理解するべきであり,スポーツ現場は病期の把握と禁忌,疾患メカニズム,患部への段階的な負荷設定を理解するべきである。今,アスリートを中心に置いた,メディカル&トレーニングの包括的なサポート(トータルサポート)を構築することが重要であり,医療と現場の垣根を外し,共通言語を用い,同じフィールドで議論をする必要がある。
本書は,アウトフィールドからオンフィールドまでのリハビリテーション&コンディショニングを,①同じスポーツ現場で活躍するPTとATあるいはS&Cの共同著者とし,②コーチや医師の立場からもリハビリテーションやトレーニング分野に望むことを明示した上で,③受傷から復帰までのタイムラインを用い,競技復帰から逆算して提示した。
本書籍のタイトルであるトータルアスリートサポートには,“トータルアスリート”,すなわちすべてのアスリートのための“サポート”という意味と,“トータル”,すなわち多角的な分野からの“アスリートサポート”という意味が込められている。今回取り上げた7競技以外や代表疾患以外の疾患,サポート面でもメンタル,栄養,睡眠など,書き記せなかった分野も多いが,選手のコーチング,診察,リハビリテーションからトレーニングまでの競技復帰に向けた一連の流れを一冊にまとめられた点は,画期的である。
本書がスポーツ現場に関わるすべてのスタッフの道標となり,この本を通じ,アスリートが総合的な体力的・機能的要素を兼ね備えた,真のトータルアスリートになることを願う。
2023年2月
坂田 淳
橘内基純
外傷・障害によりスポーツ活動の制限やパフォーマンスの低下をきたした選手を,元の活動および競技レベルに戻す(return to sport:RTS),あるいは元の競技レベル以上に上げる(return to the same level of play or higher:RTSP)には,医師を含めたさまざまな職種の関与が必須であるとは言うまでもない。その職種としては,医師以外として理学療法士やアスレティック・トレーナー(柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師を含む),また現場のコーチ,監督なども含まれる。複数の人間が関与するため,当然のことながら「共通言語」が必要であり(専門用語の乱用を避けることと,解剖学的知識の熟知が重要),それぞれの密な連携により,スムーズな診療の流れが要求される。
病態診断においては,医師による理学所見や各種画像検査の実施により,器質的な損傷部位の把握が必要な場合がある。しかし,スポーツ障害では,選手が訴える疼痛は,あくまでも最終的な結果であり,その原因となった問題点,すなわち過剰な負荷を局所に及ぼしたメカニズムを推察することが最も重要と考える。そのためには,疼痛を発する部位以外の全身的な身体機能やスポーツ種目特有のダイナミックな評価も必要となる。その際,医師が診察室のみ行う身体機能評価には限界があり,広いスペースあるいはスポーツ現場での理学療法士やアスレティック・トレーナーの力が必須となる。
治療においては,局所に対する物理療法や医師が行う服薬,注射などにより,組織損傷の修復や炎症の沈静化を図り,加えて前述した身体機能の問題点に基づいた,運動療法(リハビリテーション)の実施が重要と考える。病院では,医師の処方による運動療法を理学療法士が行うわけであるが,スポーツ現場ではアスレティック・トレーナーの監視下で,他の部位のトレーニングも合わせ実施される。手術的治療を行った場合も同様であり,患肢が固定されている時期から,リハビリテーションを開始し,スポーツ復帰に向けた一連のプログラムに準じてメニューを進めていく必要がある。リハビリテーションが進み,患部への負荷が増えてくると,当然のことながら何かしらの問題点が生じてくるわけで,医師は,これらに対して真摯に向き合い,その詳細な把握と解決への道筋を示す必要があると考える。
スポーツ復帰においては,医師は,当該組織の生物学的治癒を判定し,障害部位周辺の筋力および関節可動域の完全回復を客観的に評価する必要がある。また理学療法士,アスレティック・トレーナーが,障害部位および全身的な動作チェックを行い,コーチも含めてパフォーマンス回復を確認し,完全復帰を目指す。その際,障害の再発予防に対し,常に全身的なコンデショニングへの配慮も重要と考える。この段階においても医師のチェックは必要であり,選手が100%元の競技レベルに復帰してはじめて,医師の役目が終了するものと思っている。
2023年2月
山崎哲也
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編集の序
近年,アスリートを取り巻く環境は大きく変わっている。スポーツの裾野拡大,タレント発掘,長期的育成が推奨され,競技の専門性が高まっている。一方で,多様な遊び・運動経験の少ない中での競技参加やアスリートの低年齢化,アスリート自身が求める競技パフォーマンスの高レベル化が故に,競技パフォーマンスと実際の体力要素・身体機能にギャップが生じていることも多く,スポーツ外傷・障害発生のリスクは高まっていると言える。
医療機関(アウトフィールド)やスポーツ現場(オンフィールド)に目を向けると,コーチ,医師,看護師,理学療法士(PT),柔道整復師,鍼灸師,アスレティックトレーナー(AT),ストレングス&コンディショニングコーチ(S&C コーチ),フィジカルコーチ(フィジコ),栄養士,臨床心理士といった多職種が関わるようになった。分業が進むことで専門性が高まる一方,オンフィールドでの病態の理解不足により症状の悪化や再発,アウトフィールドでのトレーニング負荷強度の不足により復帰後のパフォーマンス低下などが起こり,アスリートが個々に情報を取捨選択して取り入れているのが実情である。
アスリートの競技復帰を支える上で,医療機関は競技体力,トレーニングの原理原則・期分け,競技復帰への負荷強度の設定を理解するべきであり,スポーツ現場は病期の把握と禁忌,疾患メカニズム,患部への段階的な負荷設定を理解するべきである。今,アスリートを中心に置いた,メディカル&トレーニングの包括的なサポート(トータルサポート)を構築することが重要であり,医療と現場の垣根を外し,共通言語を用い,同じフィールドで議論をする必要がある。
本書は,アウトフィールドからオンフィールドまでのリハビリテーション&コンディショニングを,①同じスポーツ現場で活躍するPTとATあるいはS&Cの共同著者とし,②コーチや医師の立場からもリハビリテーションやトレーニング分野に望むことを明示した上で,③受傷から復帰までのタイムラインを用い,競技復帰から逆算して提示した。
本書籍のタイトルであるトータルアスリートサポートには,“トータルアスリート”,すなわちすべてのアスリートのための“サポート”という意味と,“トータル”,すなわち多角的な分野からの“アスリートサポート”という意味が込められている。今回取り上げた7競技以外や代表疾患以外の疾患,サポート面でもメンタル,栄養,睡眠など,書き記せなかった分野も多いが,選手のコーチング,診察,リハビリテーションからトレーニングまでの競技復帰に向けた一連の流れを一冊にまとめられた点は,画期的である。
本書がスポーツ現場に関わるすべてのスタッフの道標となり,この本を通じ,アスリートが総合的な体力的・機能的要素を兼ね備えた,真のトータルアスリートになることを願う。
2023年2月
坂田 淳
橘内基純
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目次
第1章 リハビリテーション&コンディショニングの概要
リハビリテーションの考え方 [坂田 淳]
コンディショニングの考え方 [橘内基純]
第2章 競技別アプローチ
野球
競技の特徴 [倉野信次]
体力要素 [橘内基純]
外傷・障害特性 [坂田 淳]
肘内側側副靭帯損傷のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [明田真樹]
タイムライン [坂田 淳,橘内基純]
リハビリテーションの実際 [坂田 淳]
コンディショニングの実際 [橘内基純]
サッカー
競技の特徴 [中村亮太]
体力要素 [柳下幸太郎,瀧 圭介]
外傷・障害特性 [内田智也]
足関節捻挫のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [高橋達也]
タイムライン [内田智也,柳下幸太郎,瀧 圭介]
リハビリテーションの実際 [内田智也]
コンディショニングの実際 [柳下幸太郎,瀧 圭介]
バスケットボール
競技の特徴 [佐々木真弓]
体力要素 [清水 結]
外傷・障害特性 [和田桃子]
前十字靱帯損傷のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [三木英之,大木麻衣]
タイムライン [和田桃子,清水 結]
リハビリテーションの実際 [和田桃子]
コンディショニングの実際 [清水 結]
スプリント競技
競技の特徴 [谷川 聡]
体力要素 [加藤 基]
外傷・障害特性 [武井隼児]
ハムストリング肉離れのリハビリテーション&コンディショニング
診察 [笹原 潤]
タイムライン [武井隼児,加藤 基]
リハビリテーションの実際 [武井隼児]
コンディショニング の実際 [加藤 基]
競泳
競技の特徴 [藤谷光順]
体力要素 [草薙健太]
外傷・障害特性 [酒井忠博,浅井七海]
水泳肩のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [酒井忠博]
タイムライン [浅井七海,久保田真広]
リハビリテーションの実際 [浅井七海]
コンディショニング の実際 [久保田真広]
テニス
競技の特徴 [駒田貴城]
体力要素 [花木祐真]
外傷・障害特性 [坂田 淳]
腰椎分離症のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [高橋達也]
タイムライン [坂田 淳,花木祐真]
リハビリテーション の実際 [坂田 淳]
コンディショニング の実際 [花木祐真]
ラグビー
競技の特徴 [神鳥裕之]
体力要素 [藤野健太]
外傷・障害特性 [平山鷹也,真木伸一]
肩関節脱臼のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [渋谷研太,川崎隆之]
タイムライン [真木伸一,藤野健太]
リハビリテーションの実際 [真木伸一]
コンディショニングの実際 [藤野健太]
Editorʼs Column
本書の特徴・見方
投球障害予防プログラムの実際
JFA のフィジカルフィットネスプロジェクト
CAI の包含基準と除外基準
Long Term Athlete Development
ACL再建後のスポーツパフォーマンス
ラグビーにおける育成とは?
Rugby Readyとは?
ラグビーの姿勢づくり
リハビリテーションの考え方 [坂田 淳]
コンディショニングの考え方 [橘内基純]
第2章 競技別アプローチ
野球
競技の特徴 [倉野信次]
体力要素 [橘内基純]
外傷・障害特性 [坂田 淳]
肘内側側副靭帯損傷のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [明田真樹]
タイムライン [坂田 淳,橘内基純]
リハビリテーションの実際 [坂田 淳]
コンディショニングの実際 [橘内基純]
サッカー
競技の特徴 [中村亮太]
体力要素 [柳下幸太郎,瀧 圭介]
外傷・障害特性 [内田智也]
足関節捻挫のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [高橋達也]
タイムライン [内田智也,柳下幸太郎,瀧 圭介]
リハビリテーションの実際 [内田智也]
コンディショニングの実際 [柳下幸太郎,瀧 圭介]
バスケットボール
競技の特徴 [佐々木真弓]
体力要素 [清水 結]
外傷・障害特性 [和田桃子]
前十字靱帯損傷のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [三木英之,大木麻衣]
タイムライン [和田桃子,清水 結]
リハビリテーションの実際 [和田桃子]
コンディショニングの実際 [清水 結]
スプリント競技
競技の特徴 [谷川 聡]
体力要素 [加藤 基]
外傷・障害特性 [武井隼児]
ハムストリング肉離れのリハビリテーション&コンディショニング
診察 [笹原 潤]
タイムライン [武井隼児,加藤 基]
リハビリテーションの実際 [武井隼児]
コンディショニング の実際 [加藤 基]
競泳
競技の特徴 [藤谷光順]
体力要素 [草薙健太]
外傷・障害特性 [酒井忠博,浅井七海]
水泳肩のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [酒井忠博]
タイムライン [浅井七海,久保田真広]
リハビリテーションの実際 [浅井七海]
コンディショニング の実際 [久保田真広]
テニス
競技の特徴 [駒田貴城]
体力要素 [花木祐真]
外傷・障害特性 [坂田 淳]
腰椎分離症のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [高橋達也]
タイムライン [坂田 淳,花木祐真]
リハビリテーション の実際 [坂田 淳]
コンディショニング の実際 [花木祐真]
ラグビー
競技の特徴 [神鳥裕之]
体力要素 [藤野健太]
外傷・障害特性 [平山鷹也,真木伸一]
肩関節脱臼のリハビリテーション&コンディショニング
診察 [渋谷研太,川崎隆之]
タイムライン [真木伸一,藤野健太]
リハビリテーションの実際 [真木伸一]
コンディショニングの実際 [藤野健太]
Editorʼs Column
本書の特徴・見方
投球障害予防プログラムの実際
JFA のフィジカルフィットネスプロジェクト
CAI の包含基準と除外基準
Long Term Athlete Development
ACL再建後のスポーツパフォーマンス
ラグビーにおける育成とは?
Rugby Readyとは?
ラグビーの姿勢づくり
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各競技の国内トップレベルのスタッフがリハビリテーションとコンディショニングの実践方法を具体的に解説!
7種のスポーツ競技(野球/サッカー/バスケットボール/陸上/競泳/テニス/ラグビー)について,国内トップレベルの現場スタッフが執筆!
ドクター&コーチのニーズを踏まえ,理学療法士とトレーナーがいま何をすればよいか,また異なる現場でそれぞれ何をしているかをタイムラインで提示し,身体機能,体力要素ごとに解説。アウトフィールドからオンフィールドまでの競技復帰+トータルコンディショニングについて,スポーツ現場でアスリートのサポートに関わる方の道標となる1冊。