筋腱完全温存
AL-Supine THAの手術手技
[Web動画付]

仰臥位前外側アプローチ

筋腱完全温存AL-Supine THAの手術手技[Web動画付]

■編著 久留 隆史

定価 6,600円(税込) (本体6,000円+税)
  • i_movie.jpg
  • A4判  82ページ  オールカラー,イラスト170点,写真60点
  • 2020年12月28日刊行
  • ISBN978-4-7583-1891-4

THAをレベルアップしたい医師のための仰臥位前外側(ALS)アプローチの解説書

THAのなかでも最小侵襲手術である仰臥位前外側(ALS)アプローチに特化して解説した手術書。
ALSアプローチを実施するために必要な解剖学的特性,基本⼿技について,わかりやすいシェーマを⽤いて各⼿技のステップに応じたコツとピットフォールを解説。どの施設でも行えるように,少人数で特殊な器具や特別な体位を要することなく⼿術を完遂できることを目指した内容となっている。
Web動画配信,動画ダウンロードサービス付き。


序文

 股関節の手術は整形外科医にとって最もポピュラーな手術である。その手術展開法は,大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術(bipolar hip arthroplasty;BHA)や変形性股関節症に対する人工股関節置換術(total hip arthroplasty;THA)などにおいて必要とされる。
 BHAやTHAに対する股関節のアプローチには大きく前方,側方,後方の3種類が存在する。前方アプローチとは中殿筋より前方から進入するアプローチであり,中・小殿筋や大転子になんらかの切離・切開を加える側方アプローチとは区別される。後方アプローチは大殿筋を割って進入する方法で,おそらく最もポピュラーに行われている股関節進入路である。
 股関節に対する最小侵襲手術も一般的になってきており,以前の手術切開の短さに主眼を置かれた時代とは異なり,近年は深層の筋腱の温存に重点が置かれて進歩してきた。軟部組織に対して最小侵襲で手術を行うためには,前方からのアプローチが最適であり,その方法は縫工筋と大腿筋膜張筋の間から進入する前方アプローチ(direct anterior approach;DAA)と,中殿筋と大腿筋膜張筋の間から進入する前外側アプローチに分けられる。前外側アプローチはさらに, 手術体位の違いによって側臥位で行うOCM(Orthopädische Chirurgie München)アプローチと仰臥位で行うALSアプローチに分けられ,それぞれに利点と欠点を有する。側臥位で行うOCMアプローチは,大腿骨の操作性に優れるがカップ設置の正確性にやや劣る。一方,仰臥位で行うALSアプローチは,大腿骨の操作性に若干の難があるが,カップ設置の正確性に優れている。
 本書では,前外側アプローチのなかでも仰臥位で行うALSアプローチについて詳述する。

仰臥位前外側(ALS)アプローチ
 仰臥位前外側アプローチは,2004年ごろからオーストリアやドイツを中心に行われてきた方法であり,anterolateral-supine approach(ALSアプローチ)として世界的に普及した。中殿筋と大腿筋膜張筋の間から進入する筋間進入手術であり,中・小殿筋だけではなく短外旋筋群も温存できる最小侵襲手技である。しかし,すべての施設で筋腱温存手術が可能なわけではなく,その達成度によって次の4つの等級に分類できる。

[ALS THAのGrade分類]
Grade Ⅰ  大・中・小殿筋の温存
Grade Ⅱ  短外旋筋群の部分剥離
Grade Ⅲ  短外旋筋群の完全温存
Grade Ⅳ   関節包靱帯の部分温存

 各症例の難易度と各施設の整形外科医のskillにより,どこまで筋腱・靱帯を温存できるかで等級が決定される。残念ながらそのskillにはラーニングカーブが存在し,どの施設でも画一的に同様な手術が施行されているわけではない。筆者自身も2~3施設の手術見学を経て導入したが,今思えば当初は確実な筋腱温存ができていなかった。手技を確実に行うためにはコツとピットフォールが存在し,各ステップにおいて達成すべきプロセスがある。
 本書では手術における解剖学的特性と手技の詳細について,わかりやすいシェーマを用いて解説したつもりである。各ステップにおいて,筋鉤などの掛けるべき位置と軟部組織の処理方法(特に関節包靱帯)に重点を置いて記載している。さらに,本書のALS THA手技の特徴として,関節包靱帯の非切除,術者と助手の2名で行うための工夫,特別な器具の使用は最低限として術中の伸展操作を必要としない展開,適切な設置のための術中イメージの活用などが挙げられる。いかなる施設においても特殊な器具や特別な体位を要することなく手術を完遂できることは,手術アプローチを広く普及させるうえで重要な要素だと考えている。本書を参考にして各ステップを確実に踏みながら手術を進めることにより,経験の浅い術者でもGrade Ⅳの手術が行えるものと思う。
 本書をご覧になる整形外科医がALSアプローチを確実に習得し,筋腱完全温存を達成することで多くの患者の機能回復とADL向上に貢献していただくことを願っている。

2020年12月
久留隆史
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目次

1. 筋腱完全温存の達成には,まず解剖学的理解が必要である
 1. 関節包靱帯の解剖学的特徴
  A. 関節包靱帯の起始・停止
  B. 解剖学的名称
  C. 関節包靱帯の構造
  D. 坐骨大腿靱帯と短外旋筋群付着部の位置関係
  E. 横走線維束と坐骨大腿靱帯の付着部
 2. 中・小殿筋の走行と付着部
  A. 小殿筋の走行と関節包靱帯との付着部
  B. 関節包靱帯は隣接する筋肉と線維性に付着している

2. 手術の準備
 1. 当施設でのALS THAの手術適応と必要物品
 2. 手術体位とイメージの準備

3. 手術手技Ⅰ:皮膚切開から骨頭切除まで
 1. 皮膚の切開ラインと表層の展開
 2. 股関節前面の3方向への展開
  A. 内側カルカー部の展開
  B. 外側サドル部の展開
  C. 骨頭内側疎部の展開
 3. 関節包靱帯の切開部位と部分温存
 4. ホーマン鉤の関節内への掛け替えから骨頭抜去まで

4. 手術手技Ⅱ:大腿骨操作 ステムファーストを推奨
 1. 坐骨大腿靱帯の完全切離
  A. 坐骨大腿靱帯の展開:①のホーマン鉤
  B. 坐骨大腿靱帯の同定・切離
  C. 坐骨大腿靱帯と小殿筋との付着の剥離
 2. 開口部の露出 
  A. 開口部の露出:②のホーマン鉤
  B. 開口部の露出:③のホーマン鉤
  C. 坐骨大腿靱帯の遺残部分の切除
  D. 各展開時におけるホーマン鉤を掛ける位置
 3. ステムのラスピング操作
  A. 妨げとなる2カ所の骨切除部位
  B. calcar femoraleに沿ったラスピング
  C. 適正なステムサイズの選択
  D. ステム前捻角の把握とショートテーパーウェッジステムの固定様式

5. 手術手技Ⅲ:寛骨臼操作から創閉鎖まで
 1. 寛骨臼の展開と掘削
 2. 本物のカップ設置
 3. ステムオフセットの選択
 4. インピンジメントを生じうる骨棘の切除
 5. 整復操作と脱臼操作
 6. 関節包縫合から創閉鎖へ

6. 展開不良およびトラブルケースへの対処
 1. 関節包靱帯の全周性切離
 2. 共同腱と小殿筋の部分剥離
 3. 骨折時の対処
 4. 肥満症例への対処

7. 筋腱完全温存ALSアプローチに適したステム選択
 1. 各ステム形状と共同腱の損傷
 2. 矢状面における大腿骨とステムのテーパー固定

8. 解剖学的大腿骨形状とステムアライメント
 1. 大腿骨軸と頚部軸と各ランドマークとの関係
 2. ショートテーパーウェッジステムによる骨頭中心の再現性

9. ステムの中間位設置と前傾位設置別のFEM解析
 1. 骨表面の相当応力と破断強度試験
 2. ねじれを伴う荷重に対するステムの相対変位

10. カップアライメントの調整
 1. 骨盤体位変化とカップ前方開角の調整
 2. 体位変化によるカップ調整の具体例

11. 過大前捻・過小前捻に対するステム選択は?
 1. 大・小転子に付着する股関節周囲筋群
 2. ステムを減捻・増捻させた時の下肢アライメント変化

12. 大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術への応用
 1. 骨頭抜去
 2. インプラントの設置

13. 安全な可動域訓練と筋力訓練
 1. 安全な可動域訓練
 2. 行う,もしくは行われるべきでない動作
 3. 自分でできるホームエクササイズ
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