リハビリテーション
リスク管理ケーススタディ
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定価 4,400円(税込) (本体4,000円+税)
- B5判 232ページ 2色
- 2016年3月28日刊行
- ISBN978-4-7583-1702-3
序文
リハビリテーション(以下,リハ)は重度の疾患をもっている患者や高齢の虚弱患者が対象となることが多く,リハの実施には合併症発生のリスクを伴う。合併症の発生は治療効果に悪影響を与え,在院日数を延長し,患者満足度を低下させることとなる。さらに,医療コストの増大や職員負担の増大,訴訟などの社会的な問題も生じる可能性がある。
このため,リハプログラムにおいては合併症を未然に予防する努力を行い,発生した際には適切に対応できるように準備しておくことが求められる。リハにたずさわる療法士やリハ科医師は,関連する分野の医学的知識をもっている必要がある。
こうした背景から,リハに関連するリスク管理に必要な知識を整理するためのテキストとして,2008年に『リハビリテーション リスク管理ハンドブック』を編集し,2012年には改訂第2版が刊行となった。このような知識の蓄積は,リスク管理において必要不可欠である。その一方で,実際にイベントを生じた際には,知識のみではスマートな対応ができないことも少なからず経験される。ここでは,知識を有効に使いこなすための応用能力が必要となる。
イベント発生の現場で求められる応用能力としては,緊急性が非常に高い状態を示唆する「不安定なサイン」を感じ取ること,イベントの原因として緊急性が高い疾患とそうでない疾患を鑑別することが必要となる。鑑別方法としては,非分析的推論と分析的推論が挙げられる。
非分析的推論は,生じているイベントの状況から直観的に診断名がひらめくことによるパターン認識である。パターン認識は,迅速な判断が可能であるという大きな利点がある。しかし,パターン認識で適切な対応ができるようになるには多くの経験が必要となる。もう一方の分析的推論は,考えられる鑑別診断を挙げ,そこから病歴などによって肯定/ 除外を行って診断を絞り込むものである。分析的推論は診断までに時間がかかるという難点はあるが,初学者でもテキストなどによる学習で能力を向上できるという利点がある。
本書は,リハの現場でイベントを生じた際の分析的推論の思考過程をシミュレーションすることで,知識を有効に活用するための応用能力を習得することを目的としている。総論とケーススタディ(症例検討)の二部構成となっており,総論では,リハの現場でイベントに遭遇した際に,どのように緊急性を判断するかという思考過程を解説している。ケーススタディでは,急性期病院・回復期リハ病院,老健施設や訪問リハの環境でイベントを生じた事例を挙げ,総論で解説した思考過程を実際に活用する方法を紹介している。
読者の皆さんには,実際に現場でイベントに遭遇したことを想像しながら,これらの症例を模擬的に経験することで,イベント対応に必要な応用能力と臨床センスを磨いていただきたいと考えている。
本書がリハの質と安全性の向上に役立つことができれば,このうえない喜びである。
2016年2月
宮越浩一
このため,リハプログラムにおいては合併症を未然に予防する努力を行い,発生した際には適切に対応できるように準備しておくことが求められる。リハにたずさわる療法士やリハ科医師は,関連する分野の医学的知識をもっている必要がある。
こうした背景から,リハに関連するリスク管理に必要な知識を整理するためのテキストとして,2008年に『リハビリテーション リスク管理ハンドブック』を編集し,2012年には改訂第2版が刊行となった。このような知識の蓄積は,リスク管理において必要不可欠である。その一方で,実際にイベントを生じた際には,知識のみではスマートな対応ができないことも少なからず経験される。ここでは,知識を有効に使いこなすための応用能力が必要となる。
イベント発生の現場で求められる応用能力としては,緊急性が非常に高い状態を示唆する「不安定なサイン」を感じ取ること,イベントの原因として緊急性が高い疾患とそうでない疾患を鑑別することが必要となる。鑑別方法としては,非分析的推論と分析的推論が挙げられる。
非分析的推論は,生じているイベントの状況から直観的に診断名がひらめくことによるパターン認識である。パターン認識は,迅速な判断が可能であるという大きな利点がある。しかし,パターン認識で適切な対応ができるようになるには多くの経験が必要となる。もう一方の分析的推論は,考えられる鑑別診断を挙げ,そこから病歴などによって肯定/ 除外を行って診断を絞り込むものである。分析的推論は診断までに時間がかかるという難点はあるが,初学者でもテキストなどによる学習で能力を向上できるという利点がある。
本書は,リハの現場でイベントを生じた際の分析的推論の思考過程をシミュレーションすることで,知識を有効に活用するための応用能力を習得することを目的としている。総論とケーススタディ(症例検討)の二部構成となっており,総論では,リハの現場でイベントに遭遇した際に,どのように緊急性を判断するかという思考過程を解説している。ケーススタディでは,急性期病院・回復期リハ病院,老健施設や訪問リハの環境でイベントを生じた事例を挙げ,総論で解説した思考過程を実際に活用する方法を紹介している。
読者の皆さんには,実際に現場でイベントに遭遇したことを想像しながら,これらの症例を模擬的に経験することで,イベント対応に必要な応用能力と臨床センスを磨いていただきたいと考えている。
本書がリハの質と安全性の向上に役立つことができれば,このうえない喜びである。
2016年2月
宮越浩一
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目次
総論
1 リスク管理の必要性
リハビリテーションとリスク管理
イベント発生による問題
どのようなイベントがあるか
リスク管理に必要な知識
リスク管理の方法
2 イベントの予測
イベントの予測の必要性
病名
薬剤
血液検査
看護記録
患者評価
3 リハビリテーション中止の判断
はじめに
リハ中止基準に該当した場合,リハ実施は不可能か?
その他,参考にする情報
4 緊急性の判断
緊急性の判断
不安定なサイン
キーワードの抽出
鑑別診断の想起
鑑別診断のための病歴確認
絞り込みの方法
感度・特異度,尤度比
絞り込まれた診断から緊急性を判断する
5 緊急性に応じた対応
患者の状態変化が生じた際に必要となること
人員招集と必要物品の確保
院内緊急コール
現場での応急処置
患者の搬送
医師や看護師への情報伝達
環境による違い
ケーススタディ
急性期病院
Case 1 突然生じた胸痛
Case 2 突然生じた呼吸困難
Case 3 意識レベル低下
Case 4 脳梗塞症例の麻痺増悪
Case 5 くも膜下出血後に生じた意識レベル低下
Case 6 脳出血後の痙攣
Case 7 肺癌症例に生じた腰痛
回復期リハビリテーション病院
Case 8 動悸の訴え
Case 9 脳梗塞後の上肢痛
Case 10 圧迫骨折後の持続する腰痛
Case 11 強い膝関節痛
Case 12 嘔吐
外来
Case 13 突然の意識障害
Case 14 原因不明のめまい
Case 15 徐脈でふらつきを訴えた
Case 16 練習中の血圧低下
介護老人保健施設
Case 17 施設入所者の発熱
Case 18 原因不明の腹痛
Case 19 認知症症例の不穏と傾眠傾向
Case 20 糖尿病症例に生じた気分不快
在宅
Case 21 浮腫と息切れ
Case 22 臥床後に生じた下肢麻痺
Case 23 低栄養患者に生じた意識障害
1 リスク管理の必要性
リハビリテーションとリスク管理
イベント発生による問題
どのようなイベントがあるか
リスク管理に必要な知識
リスク管理の方法
2 イベントの予測
イベントの予測の必要性
病名
薬剤
血液検査
看護記録
患者評価
3 リハビリテーション中止の判断
はじめに
リハ中止基準に該当した場合,リハ実施は不可能か?
その他,参考にする情報
4 緊急性の判断
緊急性の判断
不安定なサイン
キーワードの抽出
鑑別診断の想起
鑑別診断のための病歴確認
絞り込みの方法
感度・特異度,尤度比
絞り込まれた診断から緊急性を判断する
5 緊急性に応じた対応
患者の状態変化が生じた際に必要となること
人員招集と必要物品の確保
院内緊急コール
現場での応急処置
患者の搬送
医師や看護師への情報伝達
環境による違い
ケーススタディ
急性期病院
Case 1 突然生じた胸痛
Case 2 突然生じた呼吸困難
Case 3 意識レベル低下
Case 4 脳梗塞症例の麻痺増悪
Case 5 くも膜下出血後に生じた意識レベル低下
Case 6 脳出血後の痙攣
Case 7 肺癌症例に生じた腰痛
回復期リハビリテーション病院
Case 8 動悸の訴え
Case 9 脳梗塞後の上肢痛
Case 10 圧迫骨折後の持続する腰痛
Case 11 強い膝関節痛
Case 12 嘔吐
外来
Case 13 突然の意識障害
Case 14 原因不明のめまい
Case 15 徐脈でふらつきを訴えた
Case 16 練習中の血圧低下
介護老人保健施設
Case 17 施設入所者の発熱
Case 18 原因不明の腹痛
Case 19 認知症症例の不穏と傾眠傾向
Case 20 糖尿病症例に生じた気分不快
在宅
Case 21 浮腫と息切れ
Case 22 臥床後に生じた下肢麻痺
Case 23 低栄養患者に生じた意識障害
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実際に生じた急変事例を基に,リスク管理・対処法をシミュレーション!
リハビリテーションの実施中,患者の状態が急変して対応に迫られる状況となる場合がある。本書は,実際に生じた急変事例を基に,そのときどう対処すればいいのかを解説した書籍である。
病院(急性期,回復期,外来),介護老人保健施設,在宅と,リハビリテーションが行われる施設・環境別に構成。自分の働く現場でどういったリスクがあるか,急変が生じたときにどうすればよいかをシミュレーションできる。
基礎知識を解説した当社既刊本の『改訂第2版 リハビリテーション リスク管理ハンドブック』と合わせて学ぶことで,リスク管理を完璧に身につけられる。