手術の前に読みたい
骨盤拡大手術のすべて
[Web動画付]
定価 14,300円(税込) (本体13,000円+税)
- A4判 196ページ オールカラー,イラスト110点,写真150点
- 2022年3月28日刊行
- ISBN978-4-7583-1545-6
電子版
序文
手術にあたる心構え
序文に代えて
消化器外科手術,とりわけ消化管手術において,治癒切除が困難と考えられる局所進行・再発癌に対して拡大手術で挑み,完全切除による根治を目指すのが外科医の醍醐味かつ花形であった昭和・平成初期の時代から,診断技術,術前治療,および手術技術が発達した現在,内視鏡外科手術でいかに美しく機能温存手術を行うかに外科医の注目は移りつつある。しかし,薬物療法や放射線治療の目覚ましい発達にもかかわらず,拡大手術でしか治癒を見込めない患者は一定数存在し,消えることはない。
すべての外科医が習得する必要性はまったくないと思うが,それぞれの地域に拡大手術に精通する外科医がいることは患者にとって必要不可欠である。拡大手術では,長時間手術,多量出血,高い術後合併症率などリスクが高く,一方でそれに見合う予後改善効果が得られないことも少なくはない。昨今のリスク回避の気運のなかで,拡大手術現場は長時間労働,訴訟のハイリスクなどいわゆる4K職場の環境に近く,施設によってはこうした手術を敬遠する傾向にあることはやむを得ない。しかし,必要とする患者のために,誰かが使命感をもち,安全で確実な技術やアプローチを習得・伝承して行っていかねばならない。
無作為ランダム化試験(RCT)全盛期,手術治療においてはより低侵襲な治療の非劣勢を示すためのRCTが数多く行われ,拡大手術の多くがその意義を否定され,標準的な治療の場から消え去った。もちろん,これは拡大手術を全症例にルーチンとして行うべきでないことを示したものであるが,必要であろう患者に対しても否定的な意見をもつ外科医も増えてきた。
一方,拡大手術が日常臨床から激減したことで,若手外科医が拡大手術に参加し術後管理を行い,その効果・合併症を肌身で感じることは難しい現状となっており,若手外科医への継承をどのように行っていくかは今後の大きな課題である。内視鏡外科手術の普及は,記録に残しにくい従来の開腹手術と異なり,術者と助手・見学者がまったく同じ画面を共有できる点で,手術教育の観点から画期的な変化であった。またビデオは後からいつでも誰でも復習することが可能であり,手術の手順や技術のみならず,詳細な外科解剖の教育にもきわめて有用である。
骨盤拡大手術は胸部や上腹部の拡大手術と大きく異なり,心臓・肺・肝臓・膵臓といった問題が起きれば命に直結する臓器と距離的に離れているため,大量出血や激烈な感染性合併症さえ回避できれば命を落とす危険は少ない。一方で,排便・排尿・性機能,歩行といったQOLに関わる機能障害が残ることは少なくなく,人工肛門,人工膀胱が受け入れられないという患者も散見する。それは当然のことであり,骨盤拡大手術では,治癒や予後延長の可能性というメリットだけでなく,術後合併症のリスクに加えて機能障害のデメリットを理解し,患者に伝えることはきわめて重要である。
骨盤拡大手術の適応や術式を考えるうえで,病気の拡がり,患者の意思,施設・術者の経験と技量,この3つが大きな柱となる。特に超拡大手術では,患者の“どんな苦しい思いをしても治癒したい・長期生存したい”,“是非この手術を受けたい”という強い気持ちが絶対条件であり,手術を少しでも躊躇う患者に無理に勧めることは絶対にすべきでない。強く望まない手術を受けた結果が,患者自身の思い描いた結果と違って後悔するときほど,患者自身にとっても医療者にとっても不幸なことはない。
また,患者の強い希望があっても,その術式の遂行の可否について自身・自施設の技量と経験を客観的に評価することが大切である。“大きな合併症を起こさず安全・確実に手術を施行できる”ということがきわめて重要であり,結果的に非根治手術となったり,重大な合併症を引き起こせば,患者の人生やQOLを損なうことに繋がりかねないことを十分に理解すべきである。
拡大手術の教育・伝承は容易ではない。もちろん手術は“やらなければできない”訳で誰にでもラーニングカーブは存在するが,一方で,患者にとっては人生を賭けたやり直しの利かない大勝負になる。十分に手術のコンセプトや解剖を理解し,最低限の手術手技を習得した外科医のみが,指導医の下でこうした拡大手術を学ぶべきである。
手術は技術よりもコンセプトが重要であり,コンセプトのない“やらされている”いわゆる“ここ切れわんわん”手術は何回,何十回,何百回行ってもまったく役に立たない。むしろ患者にとっては単に迷惑な話である。コンセプトは実際の手術や本・ビデオを見て話を聞いて学べるし,剥離や血管露出などの技術はドライラボ・アニマルラボ・他の手術でも習得可能である。すなわち,手術のコンセプトと技術は別々に習得可能であり,その手術を“やらなければ学べない”訳では決してない。本当に学びたいと思えば,手術の手順やコンセプトを理解し,同時にその手術で必要な手技を身につける工夫を常に考えるべきである。
一方で,指導する者は常に自分のコンセプトが見ている若手に伝わるような手術を行うのが義務であり,手術中になぜこうしているのかを話しながら行うことが望ましい。長時間に及ぶ手術となったとしても,助手からいい加減に早く終わってくれと思われないよう,心して臨むべきである。
本書では,骨盤拡大手術を術式ごと,または手技ごとに,この道の第一人者とよばれる先生に自ら筆を執って解説していただき,ビデオを提示いただいた。われわれは明確にイメージできない手術は決してできない訳であり,術前に本書を読むことで,少しでも読者の先生方の手術イメージを作ることに役立てば幸いである。
2022年2月
上原 圭
序文に代えて
消化器外科手術,とりわけ消化管手術において,治癒切除が困難と考えられる局所進行・再発癌に対して拡大手術で挑み,完全切除による根治を目指すのが外科医の醍醐味かつ花形であった昭和・平成初期の時代から,診断技術,術前治療,および手術技術が発達した現在,内視鏡外科手術でいかに美しく機能温存手術を行うかに外科医の注目は移りつつある。しかし,薬物療法や放射線治療の目覚ましい発達にもかかわらず,拡大手術でしか治癒を見込めない患者は一定数存在し,消えることはない。
すべての外科医が習得する必要性はまったくないと思うが,それぞれの地域に拡大手術に精通する外科医がいることは患者にとって必要不可欠である。拡大手術では,長時間手術,多量出血,高い術後合併症率などリスクが高く,一方でそれに見合う予後改善効果が得られないことも少なくはない。昨今のリスク回避の気運のなかで,拡大手術現場は長時間労働,訴訟のハイリスクなどいわゆる4K職場の環境に近く,施設によってはこうした手術を敬遠する傾向にあることはやむを得ない。しかし,必要とする患者のために,誰かが使命感をもち,安全で確実な技術やアプローチを習得・伝承して行っていかねばならない。
無作為ランダム化試験(RCT)全盛期,手術治療においてはより低侵襲な治療の非劣勢を示すためのRCTが数多く行われ,拡大手術の多くがその意義を否定され,標準的な治療の場から消え去った。もちろん,これは拡大手術を全症例にルーチンとして行うべきでないことを示したものであるが,必要であろう患者に対しても否定的な意見をもつ外科医も増えてきた。
一方,拡大手術が日常臨床から激減したことで,若手外科医が拡大手術に参加し術後管理を行い,その効果・合併症を肌身で感じることは難しい現状となっており,若手外科医への継承をどのように行っていくかは今後の大きな課題である。内視鏡外科手術の普及は,記録に残しにくい従来の開腹手術と異なり,術者と助手・見学者がまったく同じ画面を共有できる点で,手術教育の観点から画期的な変化であった。またビデオは後からいつでも誰でも復習することが可能であり,手術の手順や技術のみならず,詳細な外科解剖の教育にもきわめて有用である。
骨盤拡大手術は胸部や上腹部の拡大手術と大きく異なり,心臓・肺・肝臓・膵臓といった問題が起きれば命に直結する臓器と距離的に離れているため,大量出血や激烈な感染性合併症さえ回避できれば命を落とす危険は少ない。一方で,排便・排尿・性機能,歩行といったQOLに関わる機能障害が残ることは少なくなく,人工肛門,人工膀胱が受け入れられないという患者も散見する。それは当然のことであり,骨盤拡大手術では,治癒や予後延長の可能性というメリットだけでなく,術後合併症のリスクに加えて機能障害のデメリットを理解し,患者に伝えることはきわめて重要である。
骨盤拡大手術の適応や術式を考えるうえで,病気の拡がり,患者の意思,施設・術者の経験と技量,この3つが大きな柱となる。特に超拡大手術では,患者の“どんな苦しい思いをしても治癒したい・長期生存したい”,“是非この手術を受けたい”という強い気持ちが絶対条件であり,手術を少しでも躊躇う患者に無理に勧めることは絶対にすべきでない。強く望まない手術を受けた結果が,患者自身の思い描いた結果と違って後悔するときほど,患者自身にとっても医療者にとっても不幸なことはない。
また,患者の強い希望があっても,その術式の遂行の可否について自身・自施設の技量と経験を客観的に評価することが大切である。“大きな合併症を起こさず安全・確実に手術を施行できる”ということがきわめて重要であり,結果的に非根治手術となったり,重大な合併症を引き起こせば,患者の人生やQOLを損なうことに繋がりかねないことを十分に理解すべきである。
拡大手術の教育・伝承は容易ではない。もちろん手術は“やらなければできない”訳で誰にでもラーニングカーブは存在するが,一方で,患者にとっては人生を賭けたやり直しの利かない大勝負になる。十分に手術のコンセプトや解剖を理解し,最低限の手術手技を習得した外科医のみが,指導医の下でこうした拡大手術を学ぶべきである。
手術は技術よりもコンセプトが重要であり,コンセプトのない“やらされている”いわゆる“ここ切れわんわん”手術は何回,何十回,何百回行ってもまったく役に立たない。むしろ患者にとっては単に迷惑な話である。コンセプトは実際の手術や本・ビデオを見て話を聞いて学べるし,剥離や血管露出などの技術はドライラボ・アニマルラボ・他の手術でも習得可能である。すなわち,手術のコンセプトと技術は別々に習得可能であり,その手術を“やらなければ学べない”訳では決してない。本当に学びたいと思えば,手術の手順やコンセプトを理解し,同時にその手術で必要な手技を身につける工夫を常に考えるべきである。
一方で,指導する者は常に自分のコンセプトが見ている若手に伝わるような手術を行うのが義務であり,手術中になぜこうしているのかを話しながら行うことが望ましい。長時間に及ぶ手術となったとしても,助手からいい加減に早く終わってくれと思われないよう,心して臨むべきである。
本書では,骨盤拡大手術を術式ごと,または手技ごとに,この道の第一人者とよばれる先生に自ら筆を執って解説していただき,ビデオを提示いただいた。われわれは明確にイメージできない手術は決してできない訳であり,術前に本書を読むことで,少しでも読者の先生方の手術イメージを作ることに役立てば幸いである。
2022年2月
上原 圭
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目次
Ⅰ おさえておくべき術式
自律神経温存側方郭清の基本手技 [大田 貢由]
【1】代表的な直腸拡大手術(骨盤内臓全摘術がベースとなる症例)骨盤内臓全摘術(開腹) [金光 幸秀,ほか]
骨盤内臓全摘術(腹腔鏡下) [向井 俊貴]
直腸+子宮摘出術-消化器外科医から見たコツ- [渡邉 純]
直腸+子宮摘出術-婦人科医から見たコツ- [金尾 祐之]
直腸+膀胱部分切除術 [秋吉 高志]
大動脈周囲リンパ節郭清 [上原 圭]
【2】拡大TPEの限界(骨盤内臓全摘のさらに外側まで切除する症例)仙骨合併切除術 [相場 利貞,ほか]
側方骨盤壁進展に対する手術のコツとピットフォール [上原 圭]
II 難しい操作のポイント
骨盤内臓全摘術におけるDVC処理方法 [植村 守,ほか]
内腸骨血管の処理方法 [小倉 淳司,ほか]
止血方法とコツ [的場周一郎]
III 再建と合併症対策
尿路再建(回腸導管,代用膀胱,尿管皮膚瘻) [吉野 能]
皮弁再建 [神戸 未来,ほか]
骨盤拡大手術 術後合併症の予防と対応 [上原 圭]
ダブルストーマ造設時の注意点 [太田佳奈子]
IV 実際の症例
症例:2チーム腹腔鏡下骨盤内臓全摘術における自動縫合器を用いた会陰からのDVC・尿道切離 [向井 俊貴]
症例:局所再発直腸癌の最難関“Sacroiliac recurrence”に対する安全な手術手技 [小倉 淳司,ほか]
自律神経温存側方郭清の基本手技 [大田 貢由]
【1】代表的な直腸拡大手術(骨盤内臓全摘術がベースとなる症例)骨盤内臓全摘術(開腹) [金光 幸秀,ほか]
骨盤内臓全摘術(腹腔鏡下) [向井 俊貴]
直腸+子宮摘出術-消化器外科医から見たコツ- [渡邉 純]
直腸+子宮摘出術-婦人科医から見たコツ- [金尾 祐之]
直腸+膀胱部分切除術 [秋吉 高志]
大動脈周囲リンパ節郭清 [上原 圭]
【2】拡大TPEの限界(骨盤内臓全摘のさらに外側まで切除する症例)仙骨合併切除術 [相場 利貞,ほか]
側方骨盤壁進展に対する手術のコツとピットフォール [上原 圭]
II 難しい操作のポイント
骨盤内臓全摘術におけるDVC処理方法 [植村 守,ほか]
内腸骨血管の処理方法 [小倉 淳司,ほか]
止血方法とコツ [的場周一郎]
III 再建と合併症対策
尿路再建(回腸導管,代用膀胱,尿管皮膚瘻) [吉野 能]
皮弁再建 [神戸 未来,ほか]
骨盤拡大手術 術後合併症の予防と対応 [上原 圭]
ダブルストーマ造設時の注意点 [太田佳奈子]
IV 実際の症例
症例:2チーム腹腔鏡下骨盤内臓全摘術における自動縫合器を用いた会陰からのDVC・尿道切離 [向井 俊貴]
症例:局所再発直腸癌の最難関“Sacroiliac recurrence”に対する安全な手術手技 [小倉 淳司,ほか]
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骨盤拡大手術のすべてがこの一冊でわかる!
直腸癌で難度の高い骨盤拡大手術について,第一線で活躍する大腸外科医が徹底解説。
基本となる骨盤拡大手術に加えて,手術のバリエーション(他臓器合併切除や仙骨合併切除など)ごとに詳細に説明し,難しい操作のポイントや再建,合併症対策についても実症例を挙げて解説。さらに,子宮摘出や尿路再建,皮弁再建,ダブルストーマ造設については婦人科医,泌尿器科医,形成外科医,認定看護師の視点から詳しく解説。
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