がん研スタイル 癌の標準手術
肺癌
定価 16,500円(税込) (本体15,000円+税)
- A4判 272ページ オールカラー,イラスト250点
- 2019年5月23日刊行
- ISBN978-4-7583-1511-1
序文
本書と他の刊行されている手術書との大きな違いは,アプローチの異なる方法(開胸と胸腔鏡)で肺癌の標準的な手術手技(肺葉切除+リンパ節郭清)の考え方とその手順や手技を掲載していることである。
がん研有明病院の呼吸器センターの外科は,2008年を境に大きく変貌した。その始まりは,虎の門病院の河野 匡先生に薫陶を受けた文 敏景(ムン ミンギョン)先生が赴任してくれたことである。ことの始まりは,文先生が3カ月の国内留学(2005年10~12月)に当院を選んでくれたことである。文先生は,中川 健先生の肺癌手術(特にリンパ節郭清の手技)を見学したくて来ていた。その研修が終了した翌年にダメもとを覚悟してラブコールをした。2年の歳月を待って2008年4月から赴任してくれることになった。2008年までは,見上げ方式による胸腔鏡で肺部分切除は施行していた。2008年以降は,虎ノ門病院で開発した対面式に1つポートを増やした4ポート(がん研式)による完全鏡視下の肺葉切除+リンパ節郭清を開始した。その比率は徐々に増加して,2017年以降は85%前後までになった。特にここ数年での増加が目覚ましく,その大きな要因は,文先生から胸腔鏡手術手技を学んだ中尾将之・松浦陽介・一瀬淳二先生の現スタッフが独り立ちできたことである。
奥村が2008年から中川先生の後任として部長となり,約11年間なんとかやり遂げることができた。開胸手術から胸腔鏡手術へ移行する丁度良い時期に部長をさせてもらった。胸腔鏡手術の増加に加え当院でも2019年1月からロボット手術による肺葉切除を開始しており,丁度この時期に文先生に引き継げることは,実に良いタイミングであったと思っている。
図1は,2008年の奥村体制が始まった1年目の呼吸器センター外科の仲間である。2007年まで中川呼吸器外科部長のもとで同じ仲間として切磋琢磨し合った佐藤之俊先生(2007年から北里大学教授),2008年に奥村が部長になった時から支えてくれた坂尾幸則先生(2012年に愛知県がんセンター中央病院呼吸器外科部長となり2018年からは帝京大学教授・図1の1列目右),そして胸腔鏡立ち上げにも尽力してくれた上原浩文先生(2015年から帝京大学講師・図1の2列目右)の3名なくして現在の呼吸器外科体制の基を築くことはできなかったと思っている。本当に有難い3名の仲間であった。
平成元年(1989年)から癌研外科で研修をさせてもらっており,1994年に消化器外科・乳腺外科・呼吸器外科の3外科体制に分かれたときに,呼吸器外科の仲間に入れさせてもらった。図2は,その時代の呼吸器外科のメンバーである。中川先生の1番弟子であり奥村の兄弟子でもあった故土屋繁裕先生(1列目左)や佐藤之俊先生(2列目右)のほか,肺癌に関するmicropapillaryの英文論文を石川雄一前病理部長の指導のもとに書き上げた三好 立先生(2列目中央)も当時の外科仲間であった。初代の呼吸器外科部長である中川健先生の手術を多くの仲間が学び,その仲間によって本書の原型ができあがっていることをまず述べておきたい。
余談はこれぐらいにしておく。
現在の当院で行っている肺癌手術は,中川 健先生から継承した手術の考え方と手技をアプローチの異なる開胸手術と胸腔鏡手術の両方においてそれなりのかたちで伝承している。本書はそれをなるべくわかりやすくシェーマを多く用いて解説したつもりである。当院の手術が決して一番の手術とは思っていないが,それなりの考え方に基づいて手術手技が出来上がっていることは断言できる。本書が,少しでも参考になれば幸いである。また,索引もとてもユニークな語句が多くなっている。意味のわからない語句(がん研の方言?)を見つけて,そのページから読まれるのも面白いかもしれない。
手術を行うにあたってまず大事なことは,【熟慮断行】(図3)である。この言葉は,当院の外科を作られた故梶谷 鐶先生の御言葉で,研修を終え自分の病院に戻るときに梶谷先生が研修医に書かれていた色紙の内容である。そして,手術が終わったら【患者は悉くわが師なり】(図4)の謙虚な気持ちで反省しなさいと,この2枚の色紙を書かれ研修医に渡しておられた。外科医は,この二つの言葉を肝に銘じて手術に臨むことが大事である。
2019年5月
奥村 栄
がん研有明病院の呼吸器センターの外科は,2008年を境に大きく変貌した。その始まりは,虎の門病院の河野 匡先生に薫陶を受けた文 敏景(ムン ミンギョン)先生が赴任してくれたことである。ことの始まりは,文先生が3カ月の国内留学(2005年10~12月)に当院を選んでくれたことである。文先生は,中川 健先生の肺癌手術(特にリンパ節郭清の手技)を見学したくて来ていた。その研修が終了した翌年にダメもとを覚悟してラブコールをした。2年の歳月を待って2008年4月から赴任してくれることになった。2008年までは,見上げ方式による胸腔鏡で肺部分切除は施行していた。2008年以降は,虎ノ門病院で開発した対面式に1つポートを増やした4ポート(がん研式)による完全鏡視下の肺葉切除+リンパ節郭清を開始した。その比率は徐々に増加して,2017年以降は85%前後までになった。特にここ数年での増加が目覚ましく,その大きな要因は,文先生から胸腔鏡手術手技を学んだ中尾将之・松浦陽介・一瀬淳二先生の現スタッフが独り立ちできたことである。
奥村が2008年から中川先生の後任として部長となり,約11年間なんとかやり遂げることができた。開胸手術から胸腔鏡手術へ移行する丁度良い時期に部長をさせてもらった。胸腔鏡手術の増加に加え当院でも2019年1月からロボット手術による肺葉切除を開始しており,丁度この時期に文先生に引き継げることは,実に良いタイミングであったと思っている。
図1は,2008年の奥村体制が始まった1年目の呼吸器センター外科の仲間である。2007年まで中川呼吸器外科部長のもとで同じ仲間として切磋琢磨し合った佐藤之俊先生(2007年から北里大学教授),2008年に奥村が部長になった時から支えてくれた坂尾幸則先生(2012年に愛知県がんセンター中央病院呼吸器外科部長となり2018年からは帝京大学教授・図1の1列目右),そして胸腔鏡立ち上げにも尽力してくれた上原浩文先生(2015年から帝京大学講師・図1の2列目右)の3名なくして現在の呼吸器外科体制の基を築くことはできなかったと思っている。本当に有難い3名の仲間であった。
平成元年(1989年)から癌研外科で研修をさせてもらっており,1994年に消化器外科・乳腺外科・呼吸器外科の3外科体制に分かれたときに,呼吸器外科の仲間に入れさせてもらった。図2は,その時代の呼吸器外科のメンバーである。中川先生の1番弟子であり奥村の兄弟子でもあった故土屋繁裕先生(1列目左)や佐藤之俊先生(2列目右)のほか,肺癌に関するmicropapillaryの英文論文を石川雄一前病理部長の指導のもとに書き上げた三好 立先生(2列目中央)も当時の外科仲間であった。初代の呼吸器外科部長である中川健先生の手術を多くの仲間が学び,その仲間によって本書の原型ができあがっていることをまず述べておきたい。
余談はこれぐらいにしておく。
現在の当院で行っている肺癌手術は,中川 健先生から継承した手術の考え方と手技をアプローチの異なる開胸手術と胸腔鏡手術の両方においてそれなりのかたちで伝承している。本書はそれをなるべくわかりやすくシェーマを多く用いて解説したつもりである。当院の手術が決して一番の手術とは思っていないが,それなりの考え方に基づいて手術手技が出来上がっていることは断言できる。本書が,少しでも参考になれば幸いである。また,索引もとてもユニークな語句が多くなっている。意味のわからない語句(がん研の方言?)を見つけて,そのページから読まれるのも面白いかもしれない。
手術を行うにあたってまず大事なことは,【熟慮断行】(図3)である。この言葉は,当院の外科を作られた故梶谷 鐶先生の御言葉で,研修を終え自分の病院に戻るときに梶谷先生が研修医に書かれていた色紙の内容である。そして,手術が終わったら【患者は悉くわが師なり】(図4)の謙虚な気持ちで反省しなさいと,この2枚の色紙を書かれ研修医に渡しておられた。外科医は,この二つの言葉を肝に銘じて手術に臨むことが大事である。
2019年5月
奥村 栄
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目次
Ⅰ.手術に向けて
1. 外来での説明 奥村 栄
2. 『肺がんの手術を受ける患者さんへ』 -外来で渡している冊子- 奥村 栄
3. 手術患者における看護師の役割 五十嵐友美
4. 退院に向けて 森川由美子
Ⅱ.基本手技
開 胸
1. 体位と開胸操作 松浦陽介
2. 胸腔内観察と洗浄細胞診(胸腔鏡と共通) 中尾将之
3. 血管の露出・剥離・切離の基本 奥村 栄
4. 緊急時の肺動脈への対応 奥村 栄
5. 左肺動脈のelongationとBotallo靱帯の切離 奥村 栄
6. 葉間切離の基本手技 奥村 栄
7. 気管支の縫合・切離 中尾将之
8. 閉胸操作(ドレーン挿入) 松浦陽介
胸腔鏡(VATS)
1. 体位とポート造設 松浦陽介
2. 血管の露出・剥離・切離 文 敏景
3. 葉間切離 文 敏景
4. 気管支の切離 一瀬淳二
5. 閉胸操作(ドレーン挿入) 松浦陽介
6. VATSで用いる手術器具 一瀬淳二
Ⅲ.肺葉切除
開 胸
1. 右上葉切除 奥村 栄
2. 右中葉切除 奥村 栄
3. 右下葉切除 中尾将之
4. 右中下葉切除 奥村 栄
5. 右肺全摘 奥村 栄
6. 左上葉切除 中尾将之
7. 左下葉切除 松浦陽介
8. 左肺全摘 奥村 栄
9. 気管支断端(気管支形成吻合部)の被覆 奥村 栄
10. 気管・気管支形成術 奥村 栄
11. 右wedge上葉切除におけるらせん吻合 奥村 栄
12. 起死回生の手術 奥村 栄
胸腔鏡(VATS)
1. 右上葉切除 一瀬淳二
2. 右中葉切除 文 敏景
3. 右下葉切除 中尾将之
4. 左上葉切除 中尾将之
5. 左下葉切除 松浦陽介
6. 不全分葉の対応 文 敏景
7. 出血時の対応 文 敏景
Ⅳ.リンパ節郭清
1. リンパ節郭清の基本的な考え方 奥村 栄
2. 気管支動脈を意識して行うリンパ節郭清 奥村 栄
開 胸
1. 右上縦隔の郭清 松浦陽介
2. 右上縦隔と分岐部の連続郭清 奥村 栄
3. 右上葉の反時計回りの肺門・葉間の郭清 松浦陽介
4. 中葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 奥村 栄
5. 中葉肺癌におけるNo.11s,11iリンパ節とNo.12mリンパ節の連続郭清 奥村 栄
6. 下葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 松浦陽介
7. No.11iリンパ節の郭清 奥村 栄
8. 右下葉肺門郭清における“引き算” 奥村 栄
9. 右肺癌の分岐部郭清 松浦陽介
10. 右肺靱帯の郭清 奥村 栄
11. 左上縦隔の郭清 奥村 栄
12. 左主気管支外側(No.10外→No.4Lリンパ節)の連続郭清 中尾将之
13. 左肺癌の分岐部郭清 中尾将之
14. 左肺靱帯の郭清 奥村 栄
胸腔鏡(VATS)
1. 右上縦隔の郭清 文 敏景
2. 右上葉の反時計回りの肺門・葉間の郭清 松浦陽介
3. 中葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 文 敏景
4. 下葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 松浦陽介
5. No.11iリンパ節の郭清 一瀬淳二
6. 右肺癌の分岐部郭清 中尾将之
7. 肺靱帯の郭清 一瀬淳二
8. 左上縦隔の郭清(No.5,6リンパ節) 文 敏景
9. 左主気管支外側(No.10外→No.4Lリンパ節)の連続郭清 中尾将之
10. 左下葉肺癌の分岐部郭清(後方アプローチ) 中尾将之
11. 左肺癌の分岐部郭清(前方アプローチ) 文 敏景
1. 外来での説明 奥村 栄
2. 『肺がんの手術を受ける患者さんへ』 -外来で渡している冊子- 奥村 栄
3. 手術患者における看護師の役割 五十嵐友美
4. 退院に向けて 森川由美子
Ⅱ.基本手技
開 胸
1. 体位と開胸操作 松浦陽介
2. 胸腔内観察と洗浄細胞診(胸腔鏡と共通) 中尾将之
3. 血管の露出・剥離・切離の基本 奥村 栄
4. 緊急時の肺動脈への対応 奥村 栄
5. 左肺動脈のelongationとBotallo靱帯の切離 奥村 栄
6. 葉間切離の基本手技 奥村 栄
7. 気管支の縫合・切離 中尾将之
8. 閉胸操作(ドレーン挿入) 松浦陽介
胸腔鏡(VATS)
1. 体位とポート造設 松浦陽介
2. 血管の露出・剥離・切離 文 敏景
3. 葉間切離 文 敏景
4. 気管支の切離 一瀬淳二
5. 閉胸操作(ドレーン挿入) 松浦陽介
6. VATSで用いる手術器具 一瀬淳二
Ⅲ.肺葉切除
開 胸
1. 右上葉切除 奥村 栄
2. 右中葉切除 奥村 栄
3. 右下葉切除 中尾将之
4. 右中下葉切除 奥村 栄
5. 右肺全摘 奥村 栄
6. 左上葉切除 中尾将之
7. 左下葉切除 松浦陽介
8. 左肺全摘 奥村 栄
9. 気管支断端(気管支形成吻合部)の被覆 奥村 栄
10. 気管・気管支形成術 奥村 栄
11. 右wedge上葉切除におけるらせん吻合 奥村 栄
12. 起死回生の手術 奥村 栄
胸腔鏡(VATS)
1. 右上葉切除 一瀬淳二
2. 右中葉切除 文 敏景
3. 右下葉切除 中尾将之
4. 左上葉切除 中尾将之
5. 左下葉切除 松浦陽介
6. 不全分葉の対応 文 敏景
7. 出血時の対応 文 敏景
Ⅳ.リンパ節郭清
1. リンパ節郭清の基本的な考え方 奥村 栄
2. 気管支動脈を意識して行うリンパ節郭清 奥村 栄
開 胸
1. 右上縦隔の郭清 松浦陽介
2. 右上縦隔と分岐部の連続郭清 奥村 栄
3. 右上葉の反時計回りの肺門・葉間の郭清 松浦陽介
4. 中葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 奥村 栄
5. 中葉肺癌におけるNo.11s,11iリンパ節とNo.12mリンパ節の連続郭清 奥村 栄
6. 下葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 松浦陽介
7. No.11iリンパ節の郭清 奥村 栄
8. 右下葉肺門郭清における“引き算” 奥村 栄
9. 右肺癌の分岐部郭清 松浦陽介
10. 右肺靱帯の郭清 奥村 栄
11. 左上縦隔の郭清 奥村 栄
12. 左主気管支外側(No.10外→No.4Lリンパ節)の連続郭清 中尾将之
13. 左肺癌の分岐部郭清 中尾将之
14. 左肺靱帯の郭清 奥村 栄
胸腔鏡(VATS)
1. 右上縦隔の郭清 文 敏景
2. 右上葉の反時計回りの肺門・葉間の郭清 松浦陽介
3. 中葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 文 敏景
4. 下葉肺癌におけるNo.11sリンパ節の郭清 松浦陽介
5. No.11iリンパ節の郭清 一瀬淳二
6. 右肺癌の分岐部郭清 中尾将之
7. 肺靱帯の郭清 一瀬淳二
8. 左上縦隔の郭清(No.5,6リンパ節) 文 敏景
9. 左主気管支外側(No.10外→No.4Lリンパ節)の連続郭清 中尾将之
10. 左下葉肺癌の分岐部郭清(後方アプローチ) 中尾将之
11. 左肺癌の分岐部郭清(前方アプローチ) 文 敏景
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がん研有明病院で行われている肺癌の標準手術(がん研スタイル)を豊富なイラストで解説
本シリーズは,タイトルにあるとおり「がん研有明病院」で行われている癌の標準手術(がん研スタイル)を解説。肺がんの手術手順に沿って,各場面でのポイントをイラストで示しながら手技上の注意点・コツをわかりやすく解説している。同じ手術でも「開胸手術」と「胸腔鏡下手術」とではその手技は異なるため,本書ではそれぞれ別項目として詳しく解説。
癌の基本的な手技を学ぼうとする若手外科医にとっては,どこにいても現在トップレベルの癌専門施設での手技が学べる書籍である。