先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群
(総排泄腔遺残症,総排泄腔外反症,
MRKH症候群)におけるスムーズな
成人期医療移行のための
分類・診断・治療ガイドライン
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定価 3,300円(税込) (本体3,000円+税)
- B5判 112ページ 2色
- 2017年3月13日刊行
- ISBN978-4-7583-1265-3
序文
総排泄腔遺残症(Persistent cloaca;尿道・腟・直腸が体表に開口せず総排泄腔という共通管に合流し,この共通管のみが会陰部に開口するため外尿道口,腟口,肛門がない),総排泄腔外反症(Cloacal exstrophy;膀胱・回盲部腸管が体腔外に外反し,鎖肛,臍帯ヘルニア,外陰・内性器の形成異常を伴う),Mayer-Rokitansky-Küster-Häuser(MRKH)症候群(腟の内側2/3と子宮に分化するMüller管の先天性欠損症)は,先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群で,生涯にわたり治療の必要な泌尿生殖器障害を有している。総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症は半数以上が出生前診断をうけ,出生後より治療が開始される。出生前診断をうけていない症例でも,総排泄腔遺残症は鎖肛を伴い膀胱・腟・直腸が1孔となって会陰部に開口するという特殊な体表奇形のため出生直後に診断され,総排泄腔外反症は臍帯ヘルニアに加えて膀胱や腸管が外反する重症体表奇形のため,外観により出生直後に診断される。一方,MRKH症候群は,腟と子宮に分化するMüller管の先天性欠損で,腟の内側2/3と子宮を欠損するが,腟開口部から続く内側1/3の腟はMüller管由来でないために存在し,外観からは出生時に診断することは困難で,通常は原発性無月経により思春期に発見される。MRKH症候群は他の合併奇形を伴わないType I症例と直腸肛門奇形などの合併症を有するType II症例に分類され,Type II症例では合併症の精査で乳幼児期に偶発的に診断される場合がある。今回は,幼小児から治療の必要な泌尿生殖器疾患を研究対象としているため,MRKH症候群に関しては合併症を有するType II症例で,乳幼児期に発見された症例のみを対象とした。
総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症の排便機能に関しては,コンセンサスに基づいた鎖肛治療がなされ,成人期に入っての新たな問題発生は少ないが,泌尿生殖器治療に関しては,未だに経験的医療の域を出ていない。一方,MRKH症候群においても生殖器治療が幼少期になされる場合もあるが,3疾患に共通して幼少期に作成した腟の機能が評価できるのは成人期に入ってからで,幼少期に作成した腟が廃用性に萎縮し思春期に腟形成術が必要となる場合や,内性器の形成不全や外科治療後の不具合に基づく思春期の月経血流出路障害,さらに妊娠・出産など多くの問題点が成人期に発生し,豊かな社会生活を営むうえで大きな障害となっている。
また,これら3疾患は世界的にみても全国調査の報告がなく,疾患の現状を理解するうえで必要な基礎的情報が欠如していた。そこで本研究では,平成26年度に本邦における3疾患の網羅的全国調査を施行し,総排泄腔遺残症466例,総排泄腔外反症229例,MRKH症候群21例を調査できた。総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症の発生頻度は数万〜数十万人に一人と推定されているが,MRKH症候群は約4,500人の女性に一人とされ,今回の調査からは乳幼児期に発見されるMRKH症候群症例が極めて少ないことを示していた。今後は疾患概念の普及に伴い,幼少期に発見される症例が増加していくものと考えられる。またこの調査結果では,総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症では約8割が尿路系合併疾患を有し,脊髄髄膜瘤は総排泄腔遺残症での合併率が9.4%であったのに対し総排泄腔外反症の45.6%に合併が認められた。さらに総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症において月経が発来した症例のなかで,月経異常と月経血流出路障害を有する割合は,総排泄腔遺残症で35.4%と22.5%,総排泄腔外反症で58.7%と48.9%であった。また,アンケート調査の時点で膀胱機能の評価が不明瞭な症例も含まれていると考えられるが,集計では膀胱機能障害の割合は総排泄腔遺残症で32.6%,総排泄腔外反症で61.0%,清潔間欠自己導尿を受けている割合はそれぞれ22.5%と28.4%であった。一方,MRKH症候群では,膀胱機能障害例はなく,第二次性徴は6例に認められていた。腟形成術は4例に施行され,性交不能が1例,女性ホルモン補充検討中が1例であった。
これら3疾患において,泌尿生殖機能をできるだけ温存し性交・妊娠・出産が可能な成人期治療へと円滑に移行させ,患児の健やかな成長と予後の改善を図ることで患児の自立を促すことを目的として,今回の包括的ガイドラインを作成した。3疾患に共通して「円滑な成人期医療移行」という共通のタイトルで,総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症では,生殖器機能(月経血流出路障害,妊孕性,妊娠・出産)と腎膀胱機能の改善を,MRKH症候群では適切な診断,腟形成時期,精神的サポート,妊娠・出産を目的として取り上げた。総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症で各6題のCQ,MRKH症候群では5題のCQを作成したが,総排泄腔遺残症で2題,総排泄腔外反症で2題,MRKH症候群で3題においてCQに対する推奨文を作成するために必要な文献的エビデンスがなく,推奨文が記載できなかった。これらのCQに関しては,有識者のコメントを追記した。
今回のガイドライン策定において,最も重要な部分を占めたのが文献検索で,稀少疾患のためにランダム化比較試験のようなエビデンスレベルの高い文献が少ないことが予想され,全ての関連文献をタイトルだけでなく内容を調べるために,平成26年に日本医学図書館協会に依頼し3疾患に関する網羅的文献検索を行い,検索できた文献の論文を収集して,論文内容を評価した。さらに,平成27年度においてCQ策定後は,CQごとの文献検索をあらたに図書館協会に依頼した。その結果,メタアナリシス,ランダム化・非ランダム化比較試験はなく,全てが症例集積または症例報告であった。そのため,各文献の症例集積をまとめる形式でPICO表を独自に作製し,内容を吟味した。エビデンスの評価シート,統合シートにはこのPICO表を掲載した。エビデンスを検証できる研究論文の充実が今後の最重要課題と考えられた。
2016年12月
先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群(総排泄腔遺残,総排泄腔外反,MRKH症候群)におけるスムーズな成人期医療移行のための分類・診断・治療ガイドライン
研究代表者 窪田 正幸
総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症の排便機能に関しては,コンセンサスに基づいた鎖肛治療がなされ,成人期に入っての新たな問題発生は少ないが,泌尿生殖器治療に関しては,未だに経験的医療の域を出ていない。一方,MRKH症候群においても生殖器治療が幼少期になされる場合もあるが,3疾患に共通して幼少期に作成した腟の機能が評価できるのは成人期に入ってからで,幼少期に作成した腟が廃用性に萎縮し思春期に腟形成術が必要となる場合や,内性器の形成不全や外科治療後の不具合に基づく思春期の月経血流出路障害,さらに妊娠・出産など多くの問題点が成人期に発生し,豊かな社会生活を営むうえで大きな障害となっている。
また,これら3疾患は世界的にみても全国調査の報告がなく,疾患の現状を理解するうえで必要な基礎的情報が欠如していた。そこで本研究では,平成26年度に本邦における3疾患の網羅的全国調査を施行し,総排泄腔遺残症466例,総排泄腔外反症229例,MRKH症候群21例を調査できた。総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症の発生頻度は数万〜数十万人に一人と推定されているが,MRKH症候群は約4,500人の女性に一人とされ,今回の調査からは乳幼児期に発見されるMRKH症候群症例が極めて少ないことを示していた。今後は疾患概念の普及に伴い,幼少期に発見される症例が増加していくものと考えられる。またこの調査結果では,総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症では約8割が尿路系合併疾患を有し,脊髄髄膜瘤は総排泄腔遺残症での合併率が9.4%であったのに対し総排泄腔外反症の45.6%に合併が認められた。さらに総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症において月経が発来した症例のなかで,月経異常と月経血流出路障害を有する割合は,総排泄腔遺残症で35.4%と22.5%,総排泄腔外反症で58.7%と48.9%であった。また,アンケート調査の時点で膀胱機能の評価が不明瞭な症例も含まれていると考えられるが,集計では膀胱機能障害の割合は総排泄腔遺残症で32.6%,総排泄腔外反症で61.0%,清潔間欠自己導尿を受けている割合はそれぞれ22.5%と28.4%であった。一方,MRKH症候群では,膀胱機能障害例はなく,第二次性徴は6例に認められていた。腟形成術は4例に施行され,性交不能が1例,女性ホルモン補充検討中が1例であった。
これら3疾患において,泌尿生殖機能をできるだけ温存し性交・妊娠・出産が可能な成人期治療へと円滑に移行させ,患児の健やかな成長と予後の改善を図ることで患児の自立を促すことを目的として,今回の包括的ガイドラインを作成した。3疾患に共通して「円滑な成人期医療移行」という共通のタイトルで,総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症では,生殖器機能(月経血流出路障害,妊孕性,妊娠・出産)と腎膀胱機能の改善を,MRKH症候群では適切な診断,腟形成時期,精神的サポート,妊娠・出産を目的として取り上げた。総排泄腔遺残症と総排泄腔外反症で各6題のCQ,MRKH症候群では5題のCQを作成したが,総排泄腔遺残症で2題,総排泄腔外反症で2題,MRKH症候群で3題においてCQに対する推奨文を作成するために必要な文献的エビデンスがなく,推奨文が記載できなかった。これらのCQに関しては,有識者のコメントを追記した。
今回のガイドライン策定において,最も重要な部分を占めたのが文献検索で,稀少疾患のためにランダム化比較試験のようなエビデンスレベルの高い文献が少ないことが予想され,全ての関連文献をタイトルだけでなく内容を調べるために,平成26年に日本医学図書館協会に依頼し3疾患に関する網羅的文献検索を行い,検索できた文献の論文を収集して,論文内容を評価した。さらに,平成27年度においてCQ策定後は,CQごとの文献検索をあらたに図書館協会に依頼した。その結果,メタアナリシス,ランダム化・非ランダム化比較試験はなく,全てが症例集積または症例報告であった。そのため,各文献の症例集積をまとめる形式でPICO表を独自に作製し,内容を吟味した。エビデンスの評価シート,統合シートにはこのPICO表を掲載した。エビデンスを検証できる研究論文の充実が今後の最重要課題と考えられた。
2016年12月
先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群(総排泄腔遺残,総排泄腔外反,MRKH症候群)におけるスムーズな成人期医療移行のための分類・診断・治療ガイドライン
研究代表者 窪田 正幸
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目次
ガイドラインサマリー
診療アルゴリズム
用語・略語一覧
I 作成組織・作成方針
作成組織
作成経過
II SCOPE
疾患トピックの基本的特徴
総排泄腔遺残症
総排泄腔外反症
MRKH症候群
診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
総排泄腔遺残症
総排泄腔外反症
MRKH症候群
システマティックレビューに関する事項
推奨作成から最終化,公開までに関する事項
III 推奨
総排泄腔遺残症
CQ1 腟留水症・子宮留水症・水腎症に対する外科的介入は,慢性腎機能障害を軽減するか?
CQ2 病型(共通管長)による術式選択は,月経血流出路障害を改善するか?
CQ3 病型(共通管長)による術式選択は,尿排泄障害を改善するか?
CQ4 月経血流出路障害に対して内科的治療は有効か?
CQ5 妊娠・出産は可能か?
CQ6 清潔間欠自己導尿は慢性腎機能障害を予防するか?
総排泄腔外反症
CQ1 性の決定は染色体に基づくべきか?
CQ2 早期膀胱閉鎖は膀胱機能の獲得に有効か?
CQ3 膀胱拡大術・導尿路作成術はQOLの改善に有効か?
CQ4 腟・子宮再建術は第二次性徴が始まった段階で施行すべきか?
CQ5 男性外性器形成術はQOLを改善するか?
CQ6 女性は妊娠・出産が可能か?
MRKH症候群
CQ1 確定診断のために腹腔鏡検査は必要か?
CQ2 鎖肛合併症例(Type Ⅱ)での小児期の腟形成術は有用か?
CQ3 痕跡子宮は小児期に摘出すべきか?
CQ4 思春期の精神的サポートは必要か?
CQ5 妊娠・出産は可能か?
IV 公開後の取り組み
V 参考資料
エビデンスの評価方法
推奨の強さの判定
外部評価のまとめ
診療アルゴリズム
用語・略語一覧
I 作成組織・作成方針
作成組織
作成経過
II SCOPE
疾患トピックの基本的特徴
総排泄腔遺残症
総排泄腔外反症
MRKH症候群
診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
総排泄腔遺残症
総排泄腔外反症
MRKH症候群
システマティックレビューに関する事項
推奨作成から最終化,公開までに関する事項
III 推奨
総排泄腔遺残症
CQ1 腟留水症・子宮留水症・水腎症に対する外科的介入は,慢性腎機能障害を軽減するか?
CQ2 病型(共通管長)による術式選択は,月経血流出路障害を改善するか?
CQ3 病型(共通管長)による術式選択は,尿排泄障害を改善するか?
CQ4 月経血流出路障害に対して内科的治療は有効か?
CQ5 妊娠・出産は可能か?
CQ6 清潔間欠自己導尿は慢性腎機能障害を予防するか?
総排泄腔外反症
CQ1 性の決定は染色体に基づくべきか?
CQ2 早期膀胱閉鎖は膀胱機能の獲得に有効か?
CQ3 膀胱拡大術・導尿路作成術はQOLの改善に有効か?
CQ4 腟・子宮再建術は第二次性徴が始まった段階で施行すべきか?
CQ5 男性外性器形成術はQOLを改善するか?
CQ6 女性は妊娠・出産が可能か?
MRKH症候群
CQ1 確定診断のために腹腔鏡検査は必要か?
CQ2 鎖肛合併症例(Type Ⅱ)での小児期の腟形成術は有用か?
CQ3 痕跡子宮は小児期に摘出すべきか?
CQ4 思春期の精神的サポートは必要か?
CQ5 妊娠・出産は可能か?
IV 公開後の取り組み
V 参考資料
エビデンスの評価方法
推奨の強さの判定
外部評価のまとめ
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新生児科医・小児外科医必携 先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群におけるスムーズな成人期医療移行のための分類・診断・治療ガイドライン
総排泄腔遺残症,総排泄腔外反症,MRKH症候群は先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群である。半数以上が出生前に診断され,出生直後から治療が開始される。これらの3疾患は生涯にわたり治療を必要とする泌尿生殖器障害を有している。
そこで泌尿生殖機能をできるかぎり温存しながら成人期治療へと円滑に移行させ,患児の健やかな成長と予後の改善を図り,患児の自立を促すことを目的としてこの包括的ガイドラインは作成された。現時点の臨床現場の需要に即したクリニカルクエスチョンを掲げ,推奨度を示している。
小児外科医療に関わる医師,医療従事者必携のガイドラインである。