小児の静脈栄養マニュアル

小児の静脈栄養マニュアル

■編集 土岐 彰
増本 幸二

定価 4,950円(税込) (本体4,500円+税)
  • A5判  272ページ  2色
  • 2013年9月24日刊行
  • ISBN978-4-7583-1234-9

小児の静脈栄養のすべてを網羅した,小児医療従事者必携の一冊

小児の静脈栄養の特徴は,現状を維持するだけでなく,児の成長も促すことにある。また,栄養剤の投与にあたっては,小児ゆえの各器官の未熟さ,栄養投与血管の細さ,また血管確保後の児の体動など注意すべきことが多くある。
本書は,まず1章で「小児の静脈栄養の基本を知る」として,栄養必要量,静脈栄養剤の種類・特徴,栄養評価,デバイスの選択・手技や,合併症対策・予防などを解説している。特に,静脈栄養剤は依然として小児用に特化した輸液製剤は少なく,各施設で作製されているものも多いため,栄養剤の作製時や成人用の栄養剤使用時の注意点などについて詳しく述べている。さらに,近年日本でも普及してきているNST(nutrition support team)についても,具体的なチーム活動や他チームとの連携などを紹介している。
2章では「小児医療の臨床で静脈栄養を上手に運用する」とし,臓器別の疾患に対して,どのように静脈栄養を行っていくかを具体的症例を交えながら解説している。さらに,低出生体重児や炎症性腸疾患,化学療法時や周術期などの特殊な病態に対する静脈栄養法も取り上げた。また,退院後の在宅での静脈栄養療法も掲載している。
本書は,小児の静脈栄養を余すところなく紹介し,即座に臨床で役立つ,小児医療に携わるすべてのスタッフ必携の1冊である。


序文

推薦のことば
昭和大学客員教授
東京渋谷・平井クリニック
平井慶徳

 今般,『小児の静脈栄養マニュアル』がメジカルビュー社より土岐 彰(昭和大学),増本幸二(筑波大学)両先生の共同編集によって刊行されたことは誠に時宜を得ており,この領域に関心を持ちはじめた医学生諸君をはじめとして日夜臨床の現場で研修に励んでおられる諸氏にとっても大変嬉しいことであると思います。筆者の知る限りでは,個々の事象,臨床例の報告論文は別にして,この領域について包括的に記述された最新のManualは,欧文・和文を問わず,この20年以上にわたって目にしていないと記憶しているからです。
 筆者が若かりしころ,「臨床医学の教育(学習)の基本は学習目標に向う学習者自身の努力にかかっており,指導者はそれを助けるにすぎない。すなわち,教育(学習)の要諦は“読み”“書き(記録する)”“考え(討議・検討する)”“それを他者にわかり易く説明することが出来る”ことである」と諭されました。
 これを達成するためには「臨床」「研究」を問わず可及的多くの人たち,場合によっては施設の境を越えて討議,話し合いをするように努力することが大切ですし,またどのような主題,領域であっても大冊の成書だけでは直に対応がし難く,最新の知見,知識が盛り込まれた“Manual”が必携の道具です。
 この意味から,本書は「小児の静脈栄養」について全国から施設の境を越えて集められた30余名の気鋭の諸氏が分担執筆され大変充実した内容になっています。
 このManualがこの領域の学習者にとって「学習の目標」達成の一助になってくれることを確信しております。

2013年8月
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刊行によせて
九州大学名誉教授
福岡歯科大学常務理事
水田祥代

 わが国の小児外科は第二次世界大戦後に米国医学の導入によって普及したが,新生児は術後7 〜 30日の間に栄養失調によって死亡する場合が多く,手術は上手くいっても術後の栄養管理が難渋し,なすすべも無かった。 
 昭和42(1967)年,第4回日本小児外科学会総会で英国の Peter P.Rickham教授の脂肪乳剤を用いた「新生児小腸広範切除17例における術後管理」の講演は,術後栄養管理で無念の涙をのんでいたわが国の小児外科医達に多くの感銘と刺激を与えた。私は1968 〜 1970年にRickham教授の病院で小児外科の研修を受けたが,たくさんの新生児達に頭皮静脈から糖・アミノ酸・脂肪(20%脂肪乳剤)を用いた末梢静脈栄養を行ったことが忘れられない。
 同じころ,1967年に米国Pennsylvania大学のDudrick教授らは子犬を用いた中心静脈栄養に成功し,ついで1968年には多発性小腸閉鎖症の新生児例での臨床応用に成功したとするセンセーショナルな報告を行い,外科栄養におけるturning pointとなり,この静脈栄養輸液はわが国でも爆発的に普及した。一方,当時の器具や栄養輸液剤には小児のみならず成人でも中心静脈への長期間の投与に適したものはなく,いろいろな合併症も続出した。これらの問題点を一つひとつ解決しながら静脈栄養法は試行錯誤を経て,今日,ごく日常的な治療法となった。
 その昔,栄養なんて女,子供がするものだという偏見があったが,それは各栄養素の過不足をターゲットにした栄養学の時代であり,20世紀後半から栄養学は医学の多くの領域と同じように大きく変化した。すなわち,静脈栄養法の普及は臨床栄養学という新たな学問領域を確立し,さまざまな病態の疾患を栄養によって治療することや,高血圧,糖尿病,肥満,動脈硬化などの生活習慣病に対する予防・治療,分子生物学や遺伝学の進歩によって,一人ひとりに適した栄養投与やがんとの関連性なども解明されてきており,栄養学を取り巻く世界は日々新たな展開をみせている。
 小児に関する静脈栄養のマニュアルは少なく,特に小児外科の視点からの著書は少ない。本書は1章に基本的なこと,2章に臨床での実際について,臓器別,病態別,在宅静脈栄養などの項目を網羅しており,これから静脈栄養を学ぼうとする若い医師やコメディカルの方々にとってはスタートブックとなり,またベテランの方々にはこれまで経験した知識やテクニックを整理し,さらにブラッシュアップするための指針となることを願っている。
 最後に本マニュアルを手に取る一人ひとりの方々が,静脈栄養が始まって約50年間の先人達の努力,特にわが国の栄養輸液のパイオニアであり,その発展に多大なご尽力をされた故大阪大学名誉教授岡田 正先生を忘れないでほしいと切に思う。

2013年8月
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序文

 今回,『小児の静脈栄養マニュアル』を昭和大学小児外科の土岐 彰先生と編集いたしました。静脈栄養のマニュアルといえば,大阪大学小児外科の岡田 正先生(故人)が1994年に発刊された『静脈栄養の手引き』があります。私はこのマニュアルで勉強し,静脈栄養とはどんなものかということを学んだ一人です。非常にわかりやすく,実践的な本でした。今回の『小児の静脈栄養マニュアル』は,このマニュアルを手本にして,小児に特化させ,新たな知識を網羅できるようにしました。
 小児領域では診療科に関係なく,臨床の現場で栄養管理の必要性に迫られます。特に静脈栄養の実践では,その実施にあたり,成長発達を考慮し,合併症に十分な注意を払う必要があります。刻々と変化する担当患者の病態を把握するのと同時に,それに合わせ投与する輸液製剤や組成の変更など,小児では1日に数回の変更を行うこともあります。指示を出す医師がしっかりとした知識をもっておく必要があります。成人領域では,最近はワンバッグ製剤が市販化され,安全性や操作性の面で優れている反面,静脈栄養における各種栄養素の必要量を考えるという栄養療法の基本が少し忘れられているような印象ももちます。しかし小児領域では,年齢や体重,病態などに応じて,栄養素の投与量も変わります。是非NSTにかかわる医師やコメディカルの方々,小児に関係する若い先生方は,このマニュアルを参考にし,じっくりと静脈栄養の内容について検討してもらいたいと思います。
 医学は常に進歩しています。静脈栄養の領域でも10年前と比べれば,カテーテル挿入法の変化,輸液製剤の開発,新たな脂肪乳剤の出現,合併症予防治療の工夫,病態ごとの栄養管理の変化など,さまざまな点で新しい知識が出てきています。そのため,基本的な知識はポイントで示し,さらにできる限り最近の静脈栄養の知識と実践方法を示し,ハンドブックとして応用できるようにしています。是非,本書を参考にしていただき,小児静脈栄養の実践に役立てていただければ幸いです。
 最後になりましたが,本書の執筆にあたり,ご協力いただきました全国31名の先生方に,この場を借りて,改めて御礼申し上げます。また,本書の発刊に関しアドバイスをいただきました,大阪大学臨床医工学融合研究教育センター井上善文先生に深謝いたします。

2013年8月
増本幸二
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目次

推薦のことば  平井慶徳
刊行によせて  水田祥代
序文  増本幸二
本書のポイント一覧
  
Ⅰ総論 小児の静脈栄養の基本を知る
 静脈栄養とは  髙松英夫
  静脈栄養の変遷
  中心静脈栄養法の確立
  静脈栄養の表記
  静脈栄養剤

 静脈栄養管理上の小児の特殊性  蛇口達造,佐藤洋明
  体液区分とその特殊性
  エネルギー代謝の特殊性
  水分・電解質の特殊性
  糖代謝の特殊性
  アミノ酸代謝の特殊性
  脂肪代謝の特殊性

 静脈栄養の適応と選択  米倉竹夫
  静脈栄養の適応となる疾患と適応となる時期
  TPNとPPN
  静脈栄養製剤の選択
  
 栄養必要量  長谷川史郎
  水分・電解質
  エネルギー
  たんぱく質(アミノ酸)
  脂質
  炭水化物

 静脈栄養剤の種類・特徴
 三大栄養素  和佐勝史
  糖
  脂肪
  アミノ酸
  
 ビタミン・微量元素  永田公二
  微量栄養素(micronutrient)について
  欠乏症と過剰症
  小児のPN施行中に推奨される微量栄養素(ビタミン・微量元素)の投与量
  わが国で販売されている製剤の特徴と実際の使用方法
  
 静脈栄養剤の作製  尾花和子,金子信治
  中心静脈栄養剤の種類と選択
  末梢静脈栄養剤の種類と選択
  病棟における混合
  インラインフィルターの導入
  投与の実際
  
 栄養評価  菅沼理江,土岐 彰
  栄養障害のスクリーニング
  身体計測
  検査データによる客観的栄養評価(ODA)
  
 デバイスの選択,手技  清水義之,川原央好
  静脈栄養デバイスの選択
  留置法
  穿刺法・静脈切開法の実際
  
 合併症対策と予防
 カテーテル関連合併症  新開統子,増本幸二
  穿刺に伴う合併症
  留置中の機械的合併症
  カテーテル関連血流感染(CRBSI)
  
 代謝関連合併症  黒田達夫
  糖質代謝異常
  電解質異常
  アミノ酸代謝異常
  脂質代謝異常
  微量元素欠乏症・過剰症
  ビタミン欠乏症・過剰症
  肝・胆道系への障害
  低出生体重児における静脈栄養管理
  
 NSTの実際  高増哲也
  NSTとは
  活動の実際
  栄養療法のプロセス
  NST活動のポイント
  チームのメンバー
  他のチームとの連携
  
Ⅱ各論 小児医療の臨床で静脈栄養を上手に運用する
 病態時の栄養療法
 -臓器別
 呼吸器疾患に対する栄養療法  山内 健
  栄養管理を必要とする小児呼吸器疾患
  呼吸障害と栄養管理
  慢性肺疾患とは
  慢性肺疾患の発症機序
  栄養素による慢性肺疾患の発症予防
  慢性肺疾患の栄養管理
  
 消化器疾患に対する栄養療法  田附裕子,窪田昭男
  消化器疾患における静脈栄養の意義
  中心静脈栄養法(TPN)と末梢静脈栄養法(PPN)の選択
  年齢による静脈栄養の選択
  消化器疾患における静脈栄養の投与エネルギー量の設定
  消化器疾患における静脈栄養時の補助輸液・ビタミン・微量元素
  消化器疾患における静脈栄養の適応とそれぞれの病態における栄養管理のポイント
  症例提示
  
 短腸症候群に対する栄養療法  千葉正博,土岐 彰
  残存小腸の長さ・部位・血漿シトルリン値を考慮した目標設定
  術後状態に依存した栄養管理
  症例提示
  
 心疾患に対する栄養療法  朝川貴博,田中芳明
  開心術後の体液管理
  開心術後の静脈栄養管理
    
 肝疾患に対する栄養療法  天江新太郎
  小児における肝疾患
  胆道閉鎖症
  腸管不全関連肝機能障害(IFALD)
  肝硬変,肝不全
  
 腎疾患に対する栄養療法  加治 建
  慢性腎臓病(CKD)
  急性腎障害(AKI)による腎代替療法施行中の静脈栄養管理
  
 -特殊な病態
 炎症性腸疾患に対する栄養療法  内田恵一,井上幹大
  炎症性腸疾患における栄養障害
  代表的微量栄養素の吸収障害
  小児クローン病に対する栄養療法
  小児潰瘍性大腸炎に対する栄養療法
  炎症性腸疾患における中心静脈栄養時の注意
  
 化学療法時の栄養療法  吉田英生,佐藤由美
  小児悪性腫瘍(小児癌)の特徴
  栄養療法の目的
  静脈栄養法の適応
  栄養評価
  静脈栄養の方法
  補完代替療法と栄養素
  
 周術期の栄養療法  飯田則利
  新生児の周術期管理
  乳幼児の周術期管理
  末梢静脈栄養(PPN)
  TPNに伴う肝機能障害の予防・対策
  モニタリング
  
 低出生体重児に対する栄養療法  板橋家頭夫
  低出生体重児の栄養必要量
  急性期の栄養管理
  強化母乳栄養
  栄養評価
  
 神経性無食欲症に対する栄養療法  濵田吉則
  神経性無食欲症とは
  神経性無食欲症に対する栄養療法
  Refeeding syndromeについて
  
 在宅静脈栄養療法  曺 英樹
  小児のHPNの特殊性
  小児のHPNの適応
  小児のHPNの実際
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