病歴聴取でここまでわかる
臨床推論集中講座 胸痛
[Web動画付]
定価 5,280円(税込) (本体4,800円+税)
- B5判 264ページ オールカラー,イラスト150点,写真80点
- 2017年3月27日刊行
- ISBN978-4-7583-0398-9
電子版
序文
監修の辞
日常診療において,胸痛は最も判断に迷う主訴である。痛みの原因となる疾患が循環器,呼吸器,消化器,筋骨格系,皮膚,精神など多科に渡るうえに,致死的な病気が隠れていることが少なくないため,診断に医師としての経験や知識が必要となるからである。さて,かくも診断が難しい胸痛であるが,実はしっかりとした医療面接を行うことで鑑別が可能なケースがとても多いことをご存知だろうか。
しっかりとした医療面接を行う能力とは,すなわち「臨床推論」に裏打ちされた診断を行う能力のことである。今まさに医療現場で活躍している医療者,そしてこれからの医療を担う若い医学生に,「本当の臨床推論の力」を身につけてもらいたいという想いから,本書『病歴聴取でここまでわかる 臨床推論集中講座 胸痛』を上梓する運びとなった次第である。
本書では,まず総論において「医療面接の進め方」「胸部診断の重要ポイント」「解剖・生理などのメカニズム」「検査のエッセンス」などに関して,イラストを交えて丁寧に解説している。ここを読むことによって,胸痛にまつわる基本事項を俯瞰的に理解していただけると思う。そのうえで,各論において「胸痛をきたす代表的な18疾患」の臨床的な要点を簡潔・明瞭に示した。この各論には2つの大きな特長がある。
1つめは「多彩な症例シナリオ」である。疾患ごとに掲載したさまざまな症例シナリオを読むことによって,患者さんが実際にどのような訴えで受診するのかを追体験することができる。推論能力を高めるために,これほど効果的なシミュレーション学習はなかなかない。
2つめは「鑑別診断のポイントをまとめた表」である。この表では疾患をO(初発時期と発症様式),P(痛みの場所と経過),Q(痛みの質),R(放散痛),S(痛みの程度),T(痛みの軽快因子),U(痛みの増悪因子),V(随伴症状)の8項目にわけて解説している。鑑別診断に迷ったときは,ぜひこの表に立ち返ってみてほしい。きっと鑑別診断のヒントをみつけることが出来るはずである。
胸痛診断における医療面接の重要性について,おそらく異論を唱える向きはないであろう。鑑別診断に自信がもてないために本来必要のない検査をオーダーすることは,あらゆる点で患者さんの不利益につながることも,医療現場で奮闘している方ならばよくご存知のことと思う。すべての医療者は「医療面接に患者さんの生命がかかっている」ことを認識して医療面接に臨まなければならないことも,僭越ながら合わせて申し上げたい。医学・医療の世界に身をおいている読者が臨床推論の必要性を感じたとき,本書がその一助となれば望外の喜びである。
最後に,貴重な時間を割いて素晴らしい原稿をご寄稿いただいた執筆者の皆様に,厚く御礼を申し上げたい。
平成29年3月
秋田大学 学長
山本文雄
日常診療において,胸痛は最も判断に迷う主訴である。痛みの原因となる疾患が循環器,呼吸器,消化器,筋骨格系,皮膚,精神など多科に渡るうえに,致死的な病気が隠れていることが少なくないため,診断に医師としての経験や知識が必要となるからである。さて,かくも診断が難しい胸痛であるが,実はしっかりとした医療面接を行うことで鑑別が可能なケースがとても多いことをご存知だろうか。
しっかりとした医療面接を行う能力とは,すなわち「臨床推論」に裏打ちされた診断を行う能力のことである。今まさに医療現場で活躍している医療者,そしてこれからの医療を担う若い医学生に,「本当の臨床推論の力」を身につけてもらいたいという想いから,本書『病歴聴取でここまでわかる 臨床推論集中講座 胸痛』を上梓する運びとなった次第である。
本書では,まず総論において「医療面接の進め方」「胸部診断の重要ポイント」「解剖・生理などのメカニズム」「検査のエッセンス」などに関して,イラストを交えて丁寧に解説している。ここを読むことによって,胸痛にまつわる基本事項を俯瞰的に理解していただけると思う。そのうえで,各論において「胸痛をきたす代表的な18疾患」の臨床的な要点を簡潔・明瞭に示した。この各論には2つの大きな特長がある。
1つめは「多彩な症例シナリオ」である。疾患ごとに掲載したさまざまな症例シナリオを読むことによって,患者さんが実際にどのような訴えで受診するのかを追体験することができる。推論能力を高めるために,これほど効果的なシミュレーション学習はなかなかない。
2つめは「鑑別診断のポイントをまとめた表」である。この表では疾患をO(初発時期と発症様式),P(痛みの場所と経過),Q(痛みの質),R(放散痛),S(痛みの程度),T(痛みの軽快因子),U(痛みの増悪因子),V(随伴症状)の8項目にわけて解説している。鑑別診断に迷ったときは,ぜひこの表に立ち返ってみてほしい。きっと鑑別診断のヒントをみつけることが出来るはずである。
胸痛診断における医療面接の重要性について,おそらく異論を唱える向きはないであろう。鑑別診断に自信がもてないために本来必要のない検査をオーダーすることは,あらゆる点で患者さんの不利益につながることも,医療現場で奮闘している方ならばよくご存知のことと思う。すべての医療者は「医療面接に患者さんの生命がかかっている」ことを認識して医療面接に臨まなければならないことも,僭越ながら合わせて申し上げたい。医学・医療の世界に身をおいている読者が臨床推論の必要性を感じたとき,本書がその一助となれば望外の喜びである。
最後に,貴重な時間を割いて素晴らしい原稿をご寄稿いただいた執筆者の皆様に,厚く御礼を申し上げたい。
平成29年3月
秋田大学 学長
山本文雄
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目次
Ⅰ 総論:胸痛の臨床推論エッセンス
◆胸痛疾患の診断の流れ
胸痛の臨床推論と現病歴の重要性
胸痛の医療面接 ─ OPQRSTUV ─
症状の持続時間の観点でみる胸痛鑑別診断のポイント
胸痛診断のための身体診察 ─フィジカルアセスメント─
感度,特異度,尤度比─臨床推論における症状,診察所見,検査結果をどう解釈するか
◆胸痛の原因を探る基礎医学
胸部・腹部の構造
胸痛診断の解剖学・生理学・生化学─胸痛の知覚(内臓痛,体性痛,神経因性疼痛,関連痛,中枢痛)─
◆胸痛と検査のエッセンス
胸痛診断と心電図
主な心電図所見
X 線撮影
心エコー/腹部エコー
CT,MRI
心臓カテーテル検査
心臓核医学検査
Ⅱ 各論:胸痛をきたす疾患
虚血性心疾患
大動脈疾患
肺血栓塞栓症
心臓弁膜症
心不全
心筋炎
心膜炎
肥大型心筋症
たこつぼ心筋症
不整脈
気胸
胸膜炎,縦隔炎,縦隔気腫
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
肺がん
胸痛をきたす消化器疾患
逆流性食道炎
食道破裂
消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)
膵炎
胆石症・胆嚢炎
脊椎脊髄疾患,運動器・神経疾患
肋間神経痛,帯状疱疹
心因性胸痛
Ⅲ 専門的治療
心臓カテーテル治療
胸痛をきたす疾患の手術治療
補助循環と人工心臓
◆胸痛疾患の診断の流れ
胸痛の臨床推論と現病歴の重要性
胸痛の医療面接 ─ OPQRSTUV ─
症状の持続時間の観点でみる胸痛鑑別診断のポイント
胸痛診断のための身体診察 ─フィジカルアセスメント─
感度,特異度,尤度比─臨床推論における症状,診察所見,検査結果をどう解釈するか
◆胸痛の原因を探る基礎医学
胸部・腹部の構造
胸痛診断の解剖学・生理学・生化学─胸痛の知覚(内臓痛,体性痛,神経因性疼痛,関連痛,中枢痛)─
◆胸痛と検査のエッセンス
胸痛診断と心電図
主な心電図所見
X 線撮影
心エコー/腹部エコー
CT,MRI
心臓カテーテル検査
心臓核医学検査
Ⅱ 各論:胸痛をきたす疾患
虚血性心疾患
大動脈疾患
肺血栓塞栓症
心臓弁膜症
心不全
心筋炎
心膜炎
肥大型心筋症
たこつぼ心筋症
不整脈
気胸
胸膜炎,縦隔炎,縦隔気腫
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
肺がん
胸痛をきたす消化器疾患
逆流性食道炎
食道破裂
消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)
膵炎
胆石症・胆嚢炎
脊椎脊髄疾患,運動器・神経疾患
肋間神経痛,帯状疱疹
心因性胸痛
Ⅲ 専門的治療
心臓カテーテル治療
胸痛をきたす疾患の手術治療
補助循環と人工心臓
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どんな場面にも応用できる本当の臨床推論能力を身につけよう。もう「胸痛」は怖くない!
患者が病院に訴えてくるのは「症状」である。1つの科にこだわって画一的な診断をしようとすると思わぬ落とし穴にはまることがある。また,緊急を要する疾患をすばやくスクリーニングするためにも,「症状」を中心とした鑑別診断を行う能力は必須である。
本書は外来で最も多い主訴である「胸痛」をテーマにした「臨床推論」を学ぶための1冊である。まず「総論」で胸痛のメカニズム(病態生理)や検査といった基本事項を解説。さらに「各論」において多くの症例シナリオおよび各疾患の鑑別基準となる8つのポイントを紹介し,豊富なイラストや写真をあわせて示し,理解しやすい内容となっている。
一口に「胸痛」といっても器質性疾患から心因性疾患まで幅広い。本書を読んで教科書的な診断ではない「本当の臨床推論能力」を身につけてほしい。