糖尿病の理学療法
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定価 5,720円(税込) (本体5,200円+税)
- B5判 352ページ 2色(一部カラー),イラスト100点,写真100点
- 2015年6月15日刊行
- ISBN978-4-7583-1492-3
序文
日本における糖尿病患者数は増加の一途を辿っており,人口の高齢化に伴い糖尿病患者数はさらに増加することが予測され,糖尿病の基本治療である運動療法指導者の担い手として理学療法士の活躍が期待されています。さらに,糖尿病は脳血管障害や冠動脈疾患の独立した危険要因であり,理学療法士が糖尿病を合併した患者を担当する機会は今後益々増えていくと思われます。
従来から,理学療法士は糖尿病の病態のみに関わることが難しく,これは現在も十分に改善されていません。しかし,社会的背景,医療施設やチーム医療における他の職種からの要請もあり,理学療法士が施設内での糖尿病教育入院・外来,地域の糖尿病予防教室にかかわる機会が増えつつあります。また,糖尿病患者数の増加および糖尿病患者に占める高齢患者の増加の背景もあり,糖尿病療養指導においては高齢者の「心身機能・生活能力」全般にかかる問題を考慮する必要があり,地域医療・介護の観点からも理学療法士のかかわりが求められています。
リハビリテーションの現場では,理学療法士が担当する機会が最も多い疾患である脳血管障害の再発予防が大きな課題となっています。わが国における大規模前向きコホート研究である久山町研究においては,脳卒中の累積発生率は1 年間で12.8 %,5 年間で35.3 %,10 年間で51.3%であることが報告されています(J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2005)。脳卒中の再発予防において,代謝コントロールの重要性はもちろんのこと,身体・認知機能障害,脳卒中患者に対しても,代謝コントロールをふまえたかかわりが求められます。
本書は,まず,糖尿病専門医と,糖尿病医療に関わる医療スタッフの先生により,人類の進化や分子生物学からみた糖尿病,糖尿病の診断から基本治療,チーム医療を学ぶための総論について解説する章を設けました。次に,糖尿病専門医と,先駆的に糖尿病療養指導に関わってきた理学療法士により,糖尿病理学療法に必要な基礎知識とエビデンスを解説し,その内容をふまえて糖尿病合併症に対する理学療法や糖尿病教育に関して具体的に解説する章を設けました。本書の執筆に参加した理学療法士は,専門または認定理学療法士(代謝),糖尿病療養指導士の資格を有し,実際に多くの糖尿病患者と向き合い理学療法を提供している臨床家です。ここに記載されている事柄はすべて執筆者自身が臨床から得た経験や知恵であり,現在の糖尿病理学療法学の至宝と考えられます。
本書が糖尿病管理における理学療法を学ぶための書籍として,また,理学療法士養成校における教科書として活用され,患者の治療および国民の健康管理に寄与することを願っています。
最後に,本書の発刊にあたり終始御努力をいただきましたメジカルビュー社の渡邊未央氏,阿部篤仁氏に深謝いたします。
平成27年5月
大平雅美,石黒友康,野村卓生
従来から,理学療法士は糖尿病の病態のみに関わることが難しく,これは現在も十分に改善されていません。しかし,社会的背景,医療施設やチーム医療における他の職種からの要請もあり,理学療法士が施設内での糖尿病教育入院・外来,地域の糖尿病予防教室にかかわる機会が増えつつあります。また,糖尿病患者数の増加および糖尿病患者に占める高齢患者の増加の背景もあり,糖尿病療養指導においては高齢者の「心身機能・生活能力」全般にかかる問題を考慮する必要があり,地域医療・介護の観点からも理学療法士のかかわりが求められています。
リハビリテーションの現場では,理学療法士が担当する機会が最も多い疾患である脳血管障害の再発予防が大きな課題となっています。わが国における大規模前向きコホート研究である久山町研究においては,脳卒中の累積発生率は1 年間で12.8 %,5 年間で35.3 %,10 年間で51.3%であることが報告されています(J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2005)。脳卒中の再発予防において,代謝コントロールの重要性はもちろんのこと,身体・認知機能障害,脳卒中患者に対しても,代謝コントロールをふまえたかかわりが求められます。
本書は,まず,糖尿病専門医と,糖尿病医療に関わる医療スタッフの先生により,人類の進化や分子生物学からみた糖尿病,糖尿病の診断から基本治療,チーム医療を学ぶための総論について解説する章を設けました。次に,糖尿病専門医と,先駆的に糖尿病療養指導に関わってきた理学療法士により,糖尿病理学療法に必要な基礎知識とエビデンスを解説し,その内容をふまえて糖尿病合併症に対する理学療法や糖尿病教育に関して具体的に解説する章を設けました。本書の執筆に参加した理学療法士は,専門または認定理学療法士(代謝),糖尿病療養指導士の資格を有し,実際に多くの糖尿病患者と向き合い理学療法を提供している臨床家です。ここに記載されている事柄はすべて執筆者自身が臨床から得た経験や知恵であり,現在の糖尿病理学療法学の至宝と考えられます。
本書が糖尿病管理における理学療法を学ぶための書籍として,また,理学療法士養成校における教科書として活用され,患者の治療および国民の健康管理に寄与することを願っています。
最後に,本書の発刊にあたり終始御努力をいただきましたメジカルビュー社の渡邊未央氏,阿部篤仁氏に深謝いたします。
平成27年5月
大平雅美,石黒友康,野村卓生
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目次
総論
Ⅰ 人類の進化と糖尿病
■人類の進化,文化の発展,生活習慣の変化からみた糖尿病
はじめに
わが国の糖尿病の現状
人類の食物摂取の歴史
倹約遺伝子と肥満遺伝子
環境因子と遺伝因子
肥満の判定と評価
メタボリックシンドローム・インスリン抵抗性の病態
メタボリックシンドロームの診断
おわりに
Ⅱ 分子生物学からみる糖尿病
■インスリン分泌・作用,インスリン抵抗性,血糖調整の仕組み,合併症の病因論の基本
はじめに
摂食時の代謝
絶食時の代謝
膵β細胞のインスリン分泌機構
インスリン分泌障害
同化ホルモンとしてのインスリン
インスリンによる代謝調節機構
インスリン抵抗性の機序
糖尿病の病態
糖尿病の合併症
細小血管障害の発症機序
大血管障害の発症機序
おわりに
Ⅲ 糖尿病療養
■糖尿病の診断から基本治療の考え方
はじめに
糖尿病とはいかなる疾患か
糖尿病の診断
日本人の糖尿病の特徴
糖尿病治療の実際
Ⅳ 糖尿病の基本治療とチーム医療
■1 食事療法
糖尿病と食事療法
糖尿病治療と食事療法
食事療法の目標と実践
合併症予防のための食事療法
チームによる療養指導
■2 運動療法
糖尿病と運動療法の歴史
糖尿病と運動(運動と糖代謝
糖尿病運動療法の考え方
糖尿病運動療法の方法
■3 薬物療法
糖尿病薬物療法とは
経口血糖降下薬
インクレチン注射(GLP-1受容体作動薬)
インスリン注射
低血糖
身体活動と運動時の注意点
療養指導(他職種とのかかわり)
■4 糖尿病教育
糖尿病患者のとらえ方と支援
糖尿病患者を生活者としてとらえることとセルフケア支援
生活調整に伴う支援
糖尿病看護と患者教育
糖尿病治療と患者・家族の心理過程(「聴く」ことについて)
足病変と看護の役割
腎症悪化予防における看護の役割
療養指導(他職種との連携)
■5 臨床検査
糖尿病診断のための検査法
成因分類と病態(病期)分類に必要な検査
糖尿病コントロール指標としての検査
自己検査(SMBG)
糖尿病合併症とその診断のための検査法
糖尿病チーム医療における臨床検査技師
各論
Ⅴ 糖尿病の理学療法に必要な基礎知識
■血糖降下のメカニズムとエビデンス
運動による血糖降下のメカニズム
身体活動と糖尿病についてのエビデンス
おわりに
Ⅵ 糖尿病管理における理学療法
■理学療法の基本的考え方と理学療法士の役割
2型糖尿病に対する理学療法の考え方
1型糖尿病に対する理学療法の考え方
糖尿病の発症予防と治療に対する理学療法
理学療法士の役割
Ⅶ 身体活動(運動と生活活動)と運動療法
■1 身体活動
はじめに
総エネルギー消費量
わが国の政策における身体活動
身体活動量の評価
身体活動と2型糖尿病に関するエビデンス
身体活動におけるNEAT
NEATと血糖コントロール
1週間当たりに必要な身体活動量
■2 運動療法の実際
運動療法の効果
運動療法の評価
運動処方と指導の実際
運動の種類
運動療法介入のポイントと留意点
Ⅷ 糖尿病合併症に対する理学療法
■1 糖尿病神経障害に対する理学療法
症状
分類
評価
医学的管理(理学療法以外の治療)
理学療法(あるいは生活指導)
リスク管理
■2 糖尿病足病変に対する理学療法
症状(分類,予後)
評価
医学的管理(理学療法以外の治療)
理学療法(あるいは生活指導)およびリスク管理
■3 糖尿病腎症に対する理学療法
症状
評価
医学的管理
理学療法
リスク管理
■4 糖尿病網膜症患者に対する理学療法
症状(分類)
評価
医学的管理
理学療法および日常生活指導
Ⅸ 糖尿病教育
■1 行動科学的理論・アプローチ法
患者教育
心理学
動機付け
ローカス・オブ・コントロール
セルフ・エフィカシー
TTM
行動変容技法
まとめ
■2 個別指導
はじめに
教育方法の転換
患者の心理状況(疾患の受け止め,受け入れ)
患者の運動療法に対する考え(行動変容ステージモデル)
個別指導の利点と欠点,集団指導との関連
経験学習モデル
具体的な個別指導の方法
実際の患者例
ロールプレイのすすめ
エンパワーメントの評価方法
医療者の意見の統一
■3 集団指導
集団指導とは
集団指導の利点と欠点
集団指導の形式
各種の集団指導場面について
集団指導において,伝えるべき内容について
集団指導における留意点
集団指導の評価
糖尿病カンバセーション・マップTM
おわりに
Ⅹ 高齢者の糖尿病
■1 高齢糖尿病患者の診断と治療の考え方
高齢糖尿病患者の特徴
高齢糖尿病患者の診断と治療目標
高齢糖尿病患者の治療とその留意点
チームアプローチ,医療・介護連携の重要性
■2 高齢糖尿病患者に対する理学療法
高齢糖尿病患者の運動療法
運動療法の実際(具体例)
今後の課題
Ⅺ 糖尿病メモ
■1 糖尿病教育入院・外来
概要
理学療法士のかかわり
症例紹介
おわりに
■2 糖尿病チーム
概要
理学療法士のかかわり
■3 糖尿病サマーキャンプ
概要
理学療法士のかかわり
■4 CDEJ(日本糖尿病療養指導士)
概要
症例(CDEJとしてのかかわり)
■5 LCDE(地域糖尿病療養指導士)
概要
理学療法士のかかわり
おわりに
■6 糖尿病大血管障害
概要
理学療法士のかかわり
■7 末梢動脈疾患
概要
PADの重症度と理学療法の概要
理学療法士のかかわり
■8 シックデイ・低血糖
概要
理学療法士のかかわり
■9 運動器疾患
糖尿病合併症と運動器疾患
日常生活の身体活動に影響を及ぼす運動器疾患
おわりに
■10 特定健診・特定保健指導
概要
理学療法士のかかわり
■11 糖尿病地域連携
概要
理学療法士のかかわり
Ⅰ 人類の進化と糖尿病
■人類の進化,文化の発展,生活習慣の変化からみた糖尿病
はじめに
わが国の糖尿病の現状
人類の食物摂取の歴史
倹約遺伝子と肥満遺伝子
環境因子と遺伝因子
肥満の判定と評価
メタボリックシンドローム・インスリン抵抗性の病態
メタボリックシンドロームの診断
おわりに
Ⅱ 分子生物学からみる糖尿病
■インスリン分泌・作用,インスリン抵抗性,血糖調整の仕組み,合併症の病因論の基本
はじめに
摂食時の代謝
絶食時の代謝
膵β細胞のインスリン分泌機構
インスリン分泌障害
同化ホルモンとしてのインスリン
インスリンによる代謝調節機構
インスリン抵抗性の機序
糖尿病の病態
糖尿病の合併症
細小血管障害の発症機序
大血管障害の発症機序
おわりに
Ⅲ 糖尿病療養
■糖尿病の診断から基本治療の考え方
はじめに
糖尿病とはいかなる疾患か
糖尿病の診断
日本人の糖尿病の特徴
糖尿病治療の実際
Ⅳ 糖尿病の基本治療とチーム医療
■1 食事療法
糖尿病と食事療法
糖尿病治療と食事療法
食事療法の目標と実践
合併症予防のための食事療法
チームによる療養指導
■2 運動療法
糖尿病と運動療法の歴史
糖尿病と運動(運動と糖代謝
糖尿病運動療法の考え方
糖尿病運動療法の方法
■3 薬物療法
糖尿病薬物療法とは
経口血糖降下薬
インクレチン注射(GLP-1受容体作動薬)
インスリン注射
低血糖
身体活動と運動時の注意点
療養指導(他職種とのかかわり)
■4 糖尿病教育
糖尿病患者のとらえ方と支援
糖尿病患者を生活者としてとらえることとセルフケア支援
生活調整に伴う支援
糖尿病看護と患者教育
糖尿病治療と患者・家族の心理過程(「聴く」ことについて)
足病変と看護の役割
腎症悪化予防における看護の役割
療養指導(他職種との連携)
■5 臨床検査
糖尿病診断のための検査法
成因分類と病態(病期)分類に必要な検査
糖尿病コントロール指標としての検査
自己検査(SMBG)
糖尿病合併症とその診断のための検査法
糖尿病チーム医療における臨床検査技師
各論
Ⅴ 糖尿病の理学療法に必要な基礎知識
■血糖降下のメカニズムとエビデンス
運動による血糖降下のメカニズム
身体活動と糖尿病についてのエビデンス
おわりに
Ⅵ 糖尿病管理における理学療法
■理学療法の基本的考え方と理学療法士の役割
2型糖尿病に対する理学療法の考え方
1型糖尿病に対する理学療法の考え方
糖尿病の発症予防と治療に対する理学療法
理学療法士の役割
Ⅶ 身体活動(運動と生活活動)と運動療法
■1 身体活動
はじめに
総エネルギー消費量
わが国の政策における身体活動
身体活動量の評価
身体活動と2型糖尿病に関するエビデンス
身体活動におけるNEAT
NEATと血糖コントロール
1週間当たりに必要な身体活動量
■2 運動療法の実際
運動療法の効果
運動療法の評価
運動処方と指導の実際
運動の種類
運動療法介入のポイントと留意点
Ⅷ 糖尿病合併症に対する理学療法
■1 糖尿病神経障害に対する理学療法
症状
分類
評価
医学的管理(理学療法以外の治療)
理学療法(あるいは生活指導)
リスク管理
■2 糖尿病足病変に対する理学療法
症状(分類,予後)
評価
医学的管理(理学療法以外の治療)
理学療法(あるいは生活指導)およびリスク管理
■3 糖尿病腎症に対する理学療法
症状
評価
医学的管理
理学療法
リスク管理
■4 糖尿病網膜症患者に対する理学療法
症状(分類)
評価
医学的管理
理学療法および日常生活指導
Ⅸ 糖尿病教育
■1 行動科学的理論・アプローチ法
患者教育
心理学
動機付け
ローカス・オブ・コントロール
セルフ・エフィカシー
TTM
行動変容技法
まとめ
■2 個別指導
はじめに
教育方法の転換
患者の心理状況(疾患の受け止め,受け入れ)
患者の運動療法に対する考え(行動変容ステージモデル)
個別指導の利点と欠点,集団指導との関連
経験学習モデル
具体的な個別指導の方法
実際の患者例
ロールプレイのすすめ
エンパワーメントの評価方法
医療者の意見の統一
■3 集団指導
集団指導とは
集団指導の利点と欠点
集団指導の形式
各種の集団指導場面について
集団指導において,伝えるべき内容について
集団指導における留意点
集団指導の評価
糖尿病カンバセーション・マップTM
おわりに
Ⅹ 高齢者の糖尿病
■1 高齢糖尿病患者の診断と治療の考え方
高齢糖尿病患者の特徴
高齢糖尿病患者の診断と治療目標
高齢糖尿病患者の治療とその留意点
チームアプローチ,医療・介護連携の重要性
■2 高齢糖尿病患者に対する理学療法
高齢糖尿病患者の運動療法
運動療法の実際(具体例)
今後の課題
Ⅺ 糖尿病メモ
■1 糖尿病教育入院・外来
概要
理学療法士のかかわり
症例紹介
おわりに
■2 糖尿病チーム
概要
理学療法士のかかわり
■3 糖尿病サマーキャンプ
概要
理学療法士のかかわり
■4 CDEJ(日本糖尿病療養指導士)
概要
症例(CDEJとしてのかかわり)
■5 LCDE(地域糖尿病療養指導士)
概要
理学療法士のかかわり
おわりに
■6 糖尿病大血管障害
概要
理学療法士のかかわり
■7 末梢動脈疾患
概要
PADの重症度と理学療法の概要
理学療法士のかかわり
■8 シックデイ・低血糖
概要
理学療法士のかかわり
■9 運動器疾患
糖尿病合併症と運動器疾患
日常生活の身体活動に影響を及ぼす運動器疾患
おわりに
■10 特定健診・特定保健指導
概要
理学療法士のかかわり
■11 糖尿病地域連携
概要
理学療法士のかかわり
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糖尿病治療に携わる,すべての理学療法士のために
今後ますます増加すると予想される糖尿病患者に対し,運動療法の専門家である理学療法士が治療介入していくために,2013年に日本理学療法士協会の分科会として日本糖尿病理学療法学会が発足した。本書は糖尿病治療に携わる理学療法士に必携の知識を解説した待望の「糖尿病の理学療法」の書籍である。
糖尿病の診断・治療の考え方,食事療法などの基礎知識を「総論」,各種運動療法,合併症に対するアプローチ,集団・個別指導などの患者教育といった臨床的知識を「各論」として構成した。理学療法士はもちろん,医師,看護師,管理栄養士など,糖尿病チーム医療におけるさまざまな専門職が,それぞれの分野を確かなエビデンスとともに執筆。図版や臨床写真を豊富に掲載し,糖尿病治療に携わる初学者でも理解しやすい内容となっている。