OS NOW Instruction No.26
ダメージコントロール整形外科
四肢多発外傷への対処法
定価 12,100円(税込) (本体11,000円+税)
- A4判 140ページ オールカラー,イラスト120点,写真80点,DVD-Video付き
- 2013年5月1日刊行
- ISBN978-4-7583-1355-1
序文
今回,「ダメージコントロール整形外科」を編集させて頂きました。多くの整形外科医にとってダメージコントロール整形外科(damage control orthopedics;以下DCO)は耳慣れない言葉かもしれませんが,多発外傷の治療の際に重要な意味を持ちます。
多発外傷に骨折を合併した場合,受傷直後に最終的な内固定(early total care;以下ETC)まで行うことにより,骨折の不安定性による疼痛を軽減し,看護を容易にします。さらに胸部外傷合併例では,体位変換によるドレナージを可能にすることにより無気肺などの合併症を減らし,術後回復を促進します。
近年の麻酔の進歩や手術手技が洗練されたことで,24〜48時間以内に最終的な内固定を行うETCが広く行われるようになりました。一方,ショック状態にある多発外傷例にETCを行うと,これが2nd hitとなり,多臓器不全を引き起こす可能性があります。そこで,このような危険な状態の患者(patient at risk)に対して初療時には骨折の仮固定を行い,全身状態の回復を待って最終的な固定を行うDCOが行われるようになりました。下肢の骨折に対しては,創外固定がスタンダードな治療です。Gustilo type IIb, IIcの開放骨折で閉創が困難な例やgolden periodを超えた例に対しては,デブリドマン後の抗生薬セメントビーズポーチや持続陰圧療法(V.A.C.療法)も有用な応急処置の一つです。
DCOの概念(糸満先生) ,DCOの治療戦略(最上先生) ,頭部外傷合併例の治療戦略(原先生) ,胸部外傷合併例の治療戦略(岸本先生) ,腹部外傷合併例の治療戦略(渡部先生) ,骨盤輪損傷の治療(新藤,杉本先生)は,多発外傷を扱う際には必須の知識であり是非,ご一読下さい。
DCOの実際の手技としては,創外固定(土田先生) ,軟部組織損傷の応急処置(河村,矢島先生) ,初療で的確な処置を行わないと再建が困難な下腿開放骨折(長野先生) ,関節内骨折(前先生)や肘関節周辺骨折(島村,野田先生)についても詳述していただきました。
多発外傷に脊椎損傷を合併した場合で救命に次いで大事なことは,脊髄損傷の予防と治療です。胸腹部外傷を伴う脊椎外傷(上井,德橋先生) ,頚椎・胸椎多発外傷の全身管理(前田先生) ,多発外傷に伴う頚椎・胸椎外傷の治療戦略(井口先生)も重要なポイントです。
手の外傷は多発外傷の際に後回しとされ,1〜2週後に困難な再建を依頼されることがしばしばあります。四肢外傷を伴う重度な手外傷(五谷先生)も適切な初期治療と二期的再建により,良好な機能が得られることをご理解下さい。
本書に記載されたDCOの概念と治療戦略を習得し,多発外傷患者の救命に加えて,良好な機能獲得の一助になれば幸いです。
2013年4月
金谷文則
多発外傷に骨折を合併した場合,受傷直後に最終的な内固定(early total care;以下ETC)まで行うことにより,骨折の不安定性による疼痛を軽減し,看護を容易にします。さらに胸部外傷合併例では,体位変換によるドレナージを可能にすることにより無気肺などの合併症を減らし,術後回復を促進します。
近年の麻酔の進歩や手術手技が洗練されたことで,24〜48時間以内に最終的な内固定を行うETCが広く行われるようになりました。一方,ショック状態にある多発外傷例にETCを行うと,これが2nd hitとなり,多臓器不全を引き起こす可能性があります。そこで,このような危険な状態の患者(patient at risk)に対して初療時には骨折の仮固定を行い,全身状態の回復を待って最終的な固定を行うDCOが行われるようになりました。下肢の骨折に対しては,創外固定がスタンダードな治療です。Gustilo type IIb, IIcの開放骨折で閉創が困難な例やgolden periodを超えた例に対しては,デブリドマン後の抗生薬セメントビーズポーチや持続陰圧療法(V.A.C.療法)も有用な応急処置の一つです。
DCOの概念(糸満先生) ,DCOの治療戦略(最上先生) ,頭部外傷合併例の治療戦略(原先生) ,胸部外傷合併例の治療戦略(岸本先生) ,腹部外傷合併例の治療戦略(渡部先生) ,骨盤輪損傷の治療(新藤,杉本先生)は,多発外傷を扱う際には必須の知識であり是非,ご一読下さい。
DCOの実際の手技としては,創外固定(土田先生) ,軟部組織損傷の応急処置(河村,矢島先生) ,初療で的確な処置を行わないと再建が困難な下腿開放骨折(長野先生) ,関節内骨折(前先生)や肘関節周辺骨折(島村,野田先生)についても詳述していただきました。
多発外傷に脊椎損傷を合併した場合で救命に次いで大事なことは,脊髄損傷の予防と治療です。胸腹部外傷を伴う脊椎外傷(上井,德橋先生) ,頚椎・胸椎多発外傷の全身管理(前田先生) ,多発外傷に伴う頚椎・胸椎外傷の治療戦略(井口先生)も重要なポイントです。
手の外傷は多発外傷の際に後回しとされ,1〜2週後に困難な再建を依頼されることがしばしばあります。四肢外傷を伴う重度な手外傷(五谷先生)も適切な初期治療と二期的再建により,良好な機能が得られることをご理解下さい。
本書に記載されたDCOの概念と治療戦略を習得し,多発外傷患者の救命に加えて,良好な機能獲得の一助になれば幸いです。
2013年4月
金谷文則
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目次
ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)
ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)の概念 糸満盛憲
四肢多発外傷の治療戦略 最上敦彦
頭部外傷合併例における骨折の治療戦略 原 義明
胸部外傷合併例における骨折の治療戦略 岸本正文
腹部外傷合併例における骨折の治療戦略 渡部広明
多発外傷:脊椎・骨盤
脊椎外傷を合併した多発外傷の治療戦略
−多発外傷に伴う頚椎脱臼骨折,胸腰椎破裂骨折− 井口浩一
頚椎・胸椎多発外傷に伴う脊髄損傷の全身管理とダメージコントロールオルソペディックス(DCO) 前田 健
胸腹部臓器損傷を合併した胸椎脱臼骨折,腰椎破裂骨折の全身管理と脊椎ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)
上井 浩,ほか
多発外傷例における骨盤輪損傷の治療 新藤正輝,ほか
多発外傷:下肢・上肢
ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)としての創外固定 土田芳彦
多発外傷における軟部組織損傷のダメージコントロールオルソペディックス(DCO)
−皮弁や植皮ができない場合の応急処置− 河村健二,ほか
四肢多発外傷に伴う下腿開放骨折のダメージコントロールオルソペディクス(DCO) 長野博志
多発外傷例における関節内骨折の治療 前 隆男
高エネルギー外傷による肘関節周辺骨折の初期ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)と治療
島村安則,ほか
四肢外傷を伴う手指引き抜き切断の一期的骨短縮を伴う再接着術と二期的骨移送術 五谷寛之
ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)の概念 糸満盛憲
四肢多発外傷の治療戦略 最上敦彦
頭部外傷合併例における骨折の治療戦略 原 義明
胸部外傷合併例における骨折の治療戦略 岸本正文
腹部外傷合併例における骨折の治療戦略 渡部広明
多発外傷:脊椎・骨盤
脊椎外傷を合併した多発外傷の治療戦略
−多発外傷に伴う頚椎脱臼骨折,胸腰椎破裂骨折− 井口浩一
頚椎・胸椎多発外傷に伴う脊髄損傷の全身管理とダメージコントロールオルソペディックス(DCO) 前田 健
胸腹部臓器損傷を合併した胸椎脱臼骨折,腰椎破裂骨折の全身管理と脊椎ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)
上井 浩,ほか
多発外傷例における骨盤輪損傷の治療 新藤正輝,ほか
多発外傷:下肢・上肢
ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)としての創外固定 土田芳彦
多発外傷における軟部組織損傷のダメージコントロールオルソペディックス(DCO)
−皮弁や植皮ができない場合の応急処置− 河村健二,ほか
四肢多発外傷に伴う下腿開放骨折のダメージコントロールオルソペディクス(DCO) 長野博志
多発外傷例における関節内骨折の治療 前 隆男
高エネルギー外傷による肘関節周辺骨折の初期ダメージコントロールオルソペディックス(DCO)と治療
島村安則,ほか
四肢外傷を伴う手指引き抜き切断の一期的骨短縮を伴う再接着術と二期的骨移送術 五谷寛之
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整形外科多発外傷に対するDCO(ダメージコントロールオルソペディックス)の治療戦略がわかる!
No.26は“多発外傷”“ダメージコントロールオルソペディックス;DCO”を取り上げている。DCOとは,外科分野で使用されていたダメージコントロール手術という概念を整形外科に応用することで,広く知られるようになってきている言葉である。
多発外傷の患者が,頭部・胸部・腹部外傷と四肢・骨盤骨折を合併していることはまれではない。その際,救命処置が優先されるが,患者の全身・局所状態を見ながら段階的に整形外科的治療(DCO)を行っていくことは,患者の状態を改善していく意味でも重要である。DCOとしては,急性期は創外固定による一時的固定を行い,全身状態が落ち着いた後に根治的固定(二期的固定)を行う,というのが標準的な流れといえる。
本書は,総論的な“頭部・胸部・腹部外傷合併例とDCOの治療戦略”と各論的な“多発外傷:脊椎・骨盤”“多発外傷:下肢・上肢”で構成されている。患者の状態が重症であるがゆえに,処置・治療の優先順位とダメージ管理のための処置手技を中心に解説した。手技のイラストとともに写真も多用されていることで,より理解しやすい構成になっている。