術式別

消化器外科周術期管理の掟と理論

消化器外科周術期管理の掟と理論

■著者 本多 通孝

定価 4,950円(税込) (本体4,500円+税)
  • B5判  272ページ  2色,イラスト100点
  • 2025年11月14日刊行
  • ISBN978-4-7583-2422-9

目指せ! FTR(Failure to Rescue)ゼロ

消化器外科周術期の現場で,合併症の発生を予見し,一手先に行動するための掟と理論を示す。
若手外科医ドラゴンと指導医たちのやり取りを通して,臨床の勘どころや判断のプロセスをリアルに体感できる。

構成は「周術期管理の原則」「緊急手術」「術式別管理」の三部。
術式別パートでは,術前から術後までの流れにそって解説し,どの章から読んでも周術期管理の全体像がつかめる。
管理に直結する術中所見のみかたも,豊富な図表やシェーマで詳しく紹介する。

研修医・専攻医が“やりがち”な落とし穴も随所に取り上げ,理論と臨床感覚をつなぐ,実践的な一冊。


序文

はじめに

 どうやら,日本では消化器外科を志す医師が年々減っているようです。気がついたら私も卒後20年以上が経過し,時代の流れを感じずにはいられない年頃になってしまいました。20年前に専門科を選ぶとき,消化器外科を部活に例えれば,迷わず野球部やサッカー部といえるような大人気の科目だったように思ったものですが,さて,いまでは皆さんはどんなイメージをおもちでしょうか。
 2022年に出版した『外科周術期 掟と理論・総論編』(金芳堂)では,外科志望の研修医・外科専攻医を主な対象とし,多くの読者の皆様から励みとなる好評をいただきました。本書は,臓器別・術式別に周術期管理を学ぶ「各論編」という位置づけです。研修医・専攻医の方はもちろん,これからサブスペシャル研修に入ろうという先生方にも,「さらに深く,そして楽しく」読んでいただけるよう工夫を凝らして執筆いたしました。ぜひ修練のお供としてそばに置き,なにかとページをめくっていただけたら嬉しいです。
 余談になりますが,地域医療における消化器外科医の役割は,いまだにとても幅広いものです。急性腹症だ腸閉塞だと夜間救急に呼ばれることが多いですし,良性疾患から悪性腫瘍まで,手術が必要でない患者の対応も求められます。悪性腫瘍の場合には早期癌から進行癌の治療はもちろん,終末期の緩和ケア,看取りまで,なにかと消化器外科医のかかわりが必要になります。病院にもよりますが,外傷全般やポート造設など,消化器と関連のない疾患を対応することもあるでしょう。消化器外科の守備範囲にはコモンディジーズが多く含まれており,(過去には)人気科目だったのでマンパワーも十分にあり,病院の潤滑油として,もしくは便利屋さんとして機能していたのです。
 あくまで私個人の印象ですが,消化器外科といえば,よくいえば頼りがいのある「ガハハ系オジサン」たちがたくさんいて,そういう人たちの無尽蔵な底力が昭和・平成の地域医療を支えていたという見方はできるでしょう。一方で,非効率なシステムを若手の個人的な頑張りでカバーさせ,教育というより「篩ふるいにかける」ような人材登用を続けてきたことの結果が,現在の消化器外科人気の低迷であるという見方も成り立つでしょう。
 昨今の技術・情報の進歩や社会の変化は,あまりにもスピードが速く,私のような末端医師には消化器外科の未来がどうなっていくのか皆目見当がつきません。しかし,令和の時代にも,外科の基本に変わりはありません。外科医は五感をもって患者を診察し,手術が必要かを判断します。手術というリスクを冒しても得られる利益が大きいと判断したならば,適時に,過不足ない術式を選択して実行するのです。その重大な決断に責任をもつために日頃から心身の鍛錬を怠らず,メスを研いで備えるのです。デジタル化,AI,高速ネットワークなどの技術革新によって,このような五感による判断や鍛錬がほとんど必要なくなる日が来るのかもしれません。どうしてそうなるのか理屈はよくわからないけれど,結果がよければOKという世界に向かって(皆が本当に望んでいるのかは知りませんが),勝手にそういう方向に時代は流れていくようです。人類とは実に「つまらない世界」を目指すようになったものです。
 さて本書は,コテコテの修練で培った胆力を武器に奮闘してきた「オジサンたちの消化器外科」と,これからの予測不能な世界に突入する研修医・若手外科医をつなぐ,ひとつのコミュニケーションツールになればという思いで執筆いたしました。時代の流れがどうであれ,今,われわれがすべきことは,目の前にいる患者さんをよりよくするということであって,勝手に進んでいく「つまらない未来」を見据える必要はないし,その価値を議論する必要もありません。もしかしたらこれから本格的な外科医となる皆さんは,己の感性と鍛錬によって患者さんを治療するという素晴らしい経験ができる最後の世代になるかもしれません。ぜひ,その幸せを噛みしめつつ一緒に臨床外科医の道を歩いていけたらと思います。そして,「オジサンたちの消化器外科」が積み重ねてきたエッセンスを少しでも共有していただければと願っています。
 最後に,このような幅広い分野をできるだけ深く,そして楽しくという著者らの欲張りな要望に対して,最後まで諦めずに編集・構成を仕上げてくださったメジカルビュー社編集部の山田麻祐子様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

令和7年10月10日
本多通孝
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目次

Ⅰ FTRを回避するための周術期管理の原則
消化器外科医の「守破離」
消化器外科の周術期管理
FTR(failure to rescue)を回避するための周術期管理
臓器機能からみた耐術能・手術適応の評価
術前の栄養状態が予後を決める
高齢者の術前評価―「できる」からといって「やる」べきか?

Ⅱ 緊急手術の周術期管理 1. 急性腹症・緊急性の判断・手術への段取り
急性腹症の緊急性を判断しよう

見逃してはいけない4徴候
①絞扼を制する者は,外科当直を制す
②腸管虚血の診断・画像所見を整理しよう
③消化管穿孔の背景と原因を見極めよ
④出血─鈍的外傷後の腹腔内出血を見逃すな
緊急手術は段取り力が勝敗を決す

Ⅱ 緊急手術の周術期管理 2. 急性腹症・疾患別の周術期管理
急性腹症の全体像を知ろう
緊急手術の王様・急性胆嚢炎を攻略するには
たかがアッペ・されどアッペ・急性虫垂炎の治療戦略
外科医呼び出されNo.1の腸閉塞を再考する
ヘルニア嵌頓で腸閉塞。絞扼・穿孔を見逃すな
消化管穿孔のup to date

Ⅲ 術式別に周術期管理を理解しよう 1. 上部消化管
まずはここから:上部消化管手術の全体像

胃癌手術
①術前管理のポイント
②術中所見のみかた
③術後管理のポイント

食道癌手術
①手術の概要
②術前化学療法・放射線療法の適応
③術前管理のポイント
④術中所見のみかた
⑤術後管理のポイント

Ⅲ 術式別に周術期管理を理解しよう 2. 下部消化管
まずはここから:下部消化管手術の全体像

大腸手術
①術前管理のポイント
②術中所見のみかた
③術後管理のポイント
IBDの周術期管理

人工肛門手術

Ⅲ 術式別に周術期管理を理解しよう 3. 肝胆膵
まずはここから:肝胆膵外科の全体像

肝臓手術
①術前管理のポイント
②術式の整理・術中所見のポイント
③術後管理のポイント

膵臓手術
①術前管理のポイント
②術中所見のみかた
③術後管理のポイント

胆道手術
①胆道疾患と手術の種類
②診断・方針決定・術前管理のポイント
③術中所見のみかた
④術後管理のポイント
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