名古屋えきさい会病院式
ロボット支援鼠径部ヘルニア修復術
[Web動画付]
![ロボット支援鼠径部ヘルニア修復術[Web動画付]](../database/cover_image/book/X/ISBN978-4-7583-2421-2.jpg)
定価 4,950円(税込) (本体4,500円+税)

- B5判 162ページ オールカラー,イラスト70点,写真285点,動画60本
- 2025年11月30日刊行予定
- ISBN978-4-7583-2421-2
電子版
序文
推薦の序
10年くらい前のことだったと思う。一人の青年外科医が私のもとに歩み寄ってきた。
「蜂須賀先生,僕はヘルニア手術を一生の仕事にしたいんです」。この青年外科医こそが,本書の著者である水谷文俊先生であった。彼は,私の勤務地である三重県四日市で生まれ育ったのち,岐阜大学に学び,医師免許取得後は名古屋大学外科に入局された同門である。その後,鼠径部切開法,腹腔鏡下ヘルニア修復術の修練を積み,2021年以降ロボット支援鼠径部ヘルニア手術を開始し,現在に至っている。おそらくロボット手術を始めたきっかけは,私が四日市でヘルニア学会を開催したときに招聘した米国のDr. David Louriéの講演であったであろうと想像する。すでに経験した症例数は200例を超え,わが国の最先端を走っている。
本書は,彼のヘルニアに懸けた思いの集大成であり,今後ロボット支援鼠径部ヘルニア修復術を習得しようとする若手医師にとって,大きな道標となるであろう。本書を読まれる若手医師の皆さんは,本書から滲み出る水谷先生のヘルニア手術への思いを読み取ってほしい。一芸に秀でるためには何が必要か,わかるようなら皆さんの将来は明るい。
最後に,水谷先生を長年指導された故 長谷川 洋先生(一般社団法人 日本ヘルニア学会特別会員)について触れなければならない。東海地方で2000年以降ヘルニア手術を私たちとともに牽引していただいた偉大な先輩であり,水谷先生をここまで導いたメンターである。良き指導者なくして,良い人材は育たない。長谷川先生の業績を胸に抱き,われわれはこれからも前進していかなければならない。
2025年10月
一般社団法人 日本ヘルニア学会 理事長
市立四日市病院 院長
President elect, Asia Pacific Hernia Society
蜂須賀 丈博
-------------------------
推薦の序
名古屋掖済会病院は病床数602床の急性期病院で,名古屋市南西部の基幹病院として年間10,000台以上の救急搬送を受け入れている。私が病院長在職時の2018年にロボット支援手術(da Vinci)を導入し,胃癌,直腸癌,前立腺癌の手術に取り組んだ。当時の消化器癌手術では執刀医は鏡視下手術の技術認定医に限られており,施設基準が厳しかった。その後執刀医の条件が消化器外科専門医,そして外科専門医と徐々に緩和され,現在は最短6年目の医師から執刀できる。当時,当院外科には2名の技術認定医が在籍し,2021年に著者である水谷部長が医局人事により当院に着任され,3人目の技術認定医として加わった。
当院では鼠径部ヘルニアの手術は,鼠径部切開法か腹腔鏡下修復術(TAPP)で行っていたが,水谷部長の強い意志と熱意からロボット支援鼠径部ヘルニア修復術(RTAPP)を始めることにした。RTAPPのメリットは著者が書いてあるとおりであるが,私は当時の病院長として,特に若手医師の外科への興味を重視した。コントローラーの扱いはゲーム機時代のこともあり,若い人のほうが早く慣れるのである。保険適用ではないため費用は病院持ちとしたが,RTAPP導入で患者メリットによる患者満足度向上を考えれば,広告費として考えればよいと事務方には説明した。
さて,当院のRTAPPは水谷部長がゼロからスタートした手術手技である。聖路加国際病院での見学などを通し,自分の経験から試行錯誤して作り上げた手術術式である。そのためこの書には,自分の経験から作り上げた自分の言葉として書かれている。どういったアプローチが効率的か,またどこに危険が潜んでいるかなど,自分の経験をもとに作成されている。イラストと術中写真の組み合わせも適切で,あたかもその場で指導を受けている感覚となる。
最後にこの書がRTAPPの聖書となり,この書を読む医師がロボット支援手術を経験し,さらに難易度の高い手術に向かうことを願って序文とする。
2025年10月
公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 名誉院長
河野 弘
--------------------
序文
私は2005年3月に岐阜大学を卒業して,4月から岐阜県の大垣市にある大垣市民病院で初期研修を開始しました。大垣市民病院外科は毎年鼠径ヘルニア手術が300件前後あるので,卒後1年目から多くの鼠径ヘルニア手術を執刀させていただきました。ただしいつもモヤモヤして気が晴れませんでした。というのも急性虫垂炎では虫垂を切除,胆石症では胆嚢を切除,内痔核では痔核を切除するといった病因を直接治療したと実感できる手術とは異なり,解剖学的な知識力と実践での膜構造の把握力が要求される鼠径ヘルニア手術は難しく感じていました。Camper筋膜,Scarpa筋膜,interparietal fascia,外精筋膜,精巣挙筋のpubic fascicle(恥骨枝),反転靭帯など,当時はその理解に苦しみました。また,今でこそ全例CT検査を施行するので,外鼠径ヘルニア症例なのか内鼠径ヘルニア症例なのかを,術前にある程度確信をもって手術に臨めますが,当時は術野で全て判断していたので,ヘルニア嚢(sac)が見当たらなくて途方に暮れるといった苦い経験もしていました。またヘルニア嚢が大きい症例では再発を恐れるあまり,メッシュを必要以上にガチガチに周囲組織に縫合固定するという,今では考えられない方針をとっていました。現在採用している膨潤法を行っていなかったので,腸骨鼠径神経,腸骨下腹神経,陰部大腿神経陰部枝の術中把握も甘く,昨今警鐘を鳴らされているCPIP(chronic postoperative inguinal pain:鼠径部ヘルニア術後慢性疼痛)への対策も不十分でした。とにかく手術後にしっかりとした安心感を得にくい手術でした。
2014年に医局人事で異動した国家公務員共済組合連合会 東海病院にてTAPPを初めて見たときは衝撃でした。ヘルニア門をはっきりと視認することができ,外鼠径ヘルニア症例か内鼠径ヘルニア症例なのか,一目瞭然で感動しました。またTAPP特有の解剖学的な膜構造や層構造の把握が必要になるものの,腹腔鏡カメラを通して,それらの微細構造が非常に鮮明に視認することができたのです。鼠径ヘルニア手術に対する苦手意識が消えた瞬間でした。ただ,執刀をしてみると,当初は両肩が開いてしまい,人間工学的に無理な姿勢をとることは非常に身体的につらく,助手としてカメラを持つ姿勢はさらにつらく,両側症例のカメラ助手の際には術前から気が滅入っていました。手技面では,当初は腹膜縫合に手間取り,普段からの自己練習の重要性を痛感しました。2016年にはこの腹膜縫合の手間を回避するために,斗南病院の川原田陽先生を招聘してTEPも導入しました。川原田先生の御示唆の下,男性外鼠径ヘルニア症例に対してはTAPP,その他にはTEPを適応していました。この頃は,ヘルニア診療に非常に興味が沸いて,腹壁ヘルニア治療に対しても2018年にeTEP-RivesStoppa法を開始し,2019年からはWolfgang Reinpold先生が考案されたEMILOS法も導入しました。腹部ヘルニア疾患に対して,バリバリ鏡視下手術をこなしていく一方で,両上肢の可動域制限や術中の体勢はつらく感じたままでした。
そのようななかで,運命のターニングポイントを迎えました。私の出身地である三重県四日市市にて,現日本ヘルニア学会理事長である蜂須賀丈博先生が「第17回日本ヘルニア学会学術集会」を主催されました。その海外招待講演セッションにて全米で有名なDavid Lourié先生がRTAPPについて講演されました。ロボット手術を全く経験したことがなかった私には,ロボット手術というだけで非常に眩しいのに,なんと癌ではなく鼠径ヘルニアにまで適応しているという現実に衝撃を覚えました。あまりの凄さに心が打ち震えました。実は,当時の私はヘルニア関連の国際学会で積極的に発表をしはじめていた時期で,英語の勉強をしようという軽い気持ちでその海外招待講演に参加したのですが,強烈なインパクトを受けました。
TAPPを超える3D映像による解剖学的視認性の良さ,多関節機能による膜や層にこだわった精緻な手術,そして何よりも術者も助手も過酷な身体的負担から劇的に解消されることなど,これは至高の術式だと確信しました。すぐにとはいかないまでも,いずれコストの問題や保険収載の問題がクリアされれば,爆発的に普及するだけのメリットにあふれていると思いました。
それ以降すぐにRTAPPの準備に着手しました。具体的には2019年から,TAPPにおいて通常の環状切開法から内鼠径輪すぐ腹側の腹膜を横切開する方法(腹側環状切開法)に変更し,ある程度慣れたうえで,2020年からは“みちのくニードル”(株式会社 八光)を用いた膨潤法下でRTAPPと同様の高位切開法を導入しました。私はTEPも経験していたので導入は容易でした。2021年6月には,すでにわが国でRTAPPを導入していた聖路加国際病院に2回手術見学に行きました。嶋田元先生と松原猛人先生のRTAPPを拝見させていただき,そのメリットを再確認しました。そして7月に名古屋掖済会病院に赴任して,10月に名古屋市立大学病院にも手術見学(齊藤健太先生,早川俊輔先生)に行かせていただいた上で,10月28日にRTAPPを初執刀しました(聖路加国際病院 松原猛人先生招聘)。以降,病院全体としての非常に寛大な取り計らいの下,何よりもRTAPP導入を許可していただき,導入後の長期安価継続を支えてくださった河野弘名誉院長のおかげで,2025年10月現在,導入後丸4年間で222例施行することができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
振り返ると,非常に多くの御縁の下で,多くの先生方に支えられて,ここまでRTAPPの経験を重ねてくることができました。その分,今後RTAPPを開始する先生方が安全に執刀することができるように,私の経験を伝えることが恩返しでもあり,責務であると考えて,想いを繋げるべく心を燃やして今回このような本を出版させていただきます。RTAPPは決して簡単な手術ではありませんので,この本を通して多くの先生方がいち早く術式に習熟して,多くの患者さんに恩恵がもたらされれば幸いです。
最後に,編集にご尽力いただきましたメジカルビュー社の小澤祥子氏と関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
2025年10月
名古屋掖済会病院 外科・愛知県重症外傷センター
水谷 文俊
10年くらい前のことだったと思う。一人の青年外科医が私のもとに歩み寄ってきた。
「蜂須賀先生,僕はヘルニア手術を一生の仕事にしたいんです」。この青年外科医こそが,本書の著者である水谷文俊先生であった。彼は,私の勤務地である三重県四日市で生まれ育ったのち,岐阜大学に学び,医師免許取得後は名古屋大学外科に入局された同門である。その後,鼠径部切開法,腹腔鏡下ヘルニア修復術の修練を積み,2021年以降ロボット支援鼠径部ヘルニア手術を開始し,現在に至っている。おそらくロボット手術を始めたきっかけは,私が四日市でヘルニア学会を開催したときに招聘した米国のDr. David Louriéの講演であったであろうと想像する。すでに経験した症例数は200例を超え,わが国の最先端を走っている。
本書は,彼のヘルニアに懸けた思いの集大成であり,今後ロボット支援鼠径部ヘルニア修復術を習得しようとする若手医師にとって,大きな道標となるであろう。本書を読まれる若手医師の皆さんは,本書から滲み出る水谷先生のヘルニア手術への思いを読み取ってほしい。一芸に秀でるためには何が必要か,わかるようなら皆さんの将来は明るい。
最後に,水谷先生を長年指導された故 長谷川 洋先生(一般社団法人 日本ヘルニア学会特別会員)について触れなければならない。東海地方で2000年以降ヘルニア手術を私たちとともに牽引していただいた偉大な先輩であり,水谷先生をここまで導いたメンターである。良き指導者なくして,良い人材は育たない。長谷川先生の業績を胸に抱き,われわれはこれからも前進していかなければならない。
2025年10月
一般社団法人 日本ヘルニア学会 理事長
市立四日市病院 院長
President elect, Asia Pacific Hernia Society
蜂須賀 丈博
-------------------------
推薦の序
名古屋掖済会病院は病床数602床の急性期病院で,名古屋市南西部の基幹病院として年間10,000台以上の救急搬送を受け入れている。私が病院長在職時の2018年にロボット支援手術(da Vinci)を導入し,胃癌,直腸癌,前立腺癌の手術に取り組んだ。当時の消化器癌手術では執刀医は鏡視下手術の技術認定医に限られており,施設基準が厳しかった。その後執刀医の条件が消化器外科専門医,そして外科専門医と徐々に緩和され,現在は最短6年目の医師から執刀できる。当時,当院外科には2名の技術認定医が在籍し,2021年に著者である水谷部長が医局人事により当院に着任され,3人目の技術認定医として加わった。
当院では鼠径部ヘルニアの手術は,鼠径部切開法か腹腔鏡下修復術(TAPP)で行っていたが,水谷部長の強い意志と熱意からロボット支援鼠径部ヘルニア修復術(RTAPP)を始めることにした。RTAPPのメリットは著者が書いてあるとおりであるが,私は当時の病院長として,特に若手医師の外科への興味を重視した。コントローラーの扱いはゲーム機時代のこともあり,若い人のほうが早く慣れるのである。保険適用ではないため費用は病院持ちとしたが,RTAPP導入で患者メリットによる患者満足度向上を考えれば,広告費として考えればよいと事務方には説明した。
さて,当院のRTAPPは水谷部長がゼロからスタートした手術手技である。聖路加国際病院での見学などを通し,自分の経験から試行錯誤して作り上げた手術術式である。そのためこの書には,自分の経験から作り上げた自分の言葉として書かれている。どういったアプローチが効率的か,またどこに危険が潜んでいるかなど,自分の経験をもとに作成されている。イラストと術中写真の組み合わせも適切で,あたかもその場で指導を受けている感覚となる。
最後にこの書がRTAPPの聖書となり,この書を読む医師がロボット支援手術を経験し,さらに難易度の高い手術に向かうことを願って序文とする。
2025年10月
公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 名誉院長
河野 弘
--------------------
序文
私は2005年3月に岐阜大学を卒業して,4月から岐阜県の大垣市にある大垣市民病院で初期研修を開始しました。大垣市民病院外科は毎年鼠径ヘルニア手術が300件前後あるので,卒後1年目から多くの鼠径ヘルニア手術を執刀させていただきました。ただしいつもモヤモヤして気が晴れませんでした。というのも急性虫垂炎では虫垂を切除,胆石症では胆嚢を切除,内痔核では痔核を切除するといった病因を直接治療したと実感できる手術とは異なり,解剖学的な知識力と実践での膜構造の把握力が要求される鼠径ヘルニア手術は難しく感じていました。Camper筋膜,Scarpa筋膜,interparietal fascia,外精筋膜,精巣挙筋のpubic fascicle(恥骨枝),反転靭帯など,当時はその理解に苦しみました。また,今でこそ全例CT検査を施行するので,外鼠径ヘルニア症例なのか内鼠径ヘルニア症例なのかを,術前にある程度確信をもって手術に臨めますが,当時は術野で全て判断していたので,ヘルニア嚢(sac)が見当たらなくて途方に暮れるといった苦い経験もしていました。またヘルニア嚢が大きい症例では再発を恐れるあまり,メッシュを必要以上にガチガチに周囲組織に縫合固定するという,今では考えられない方針をとっていました。現在採用している膨潤法を行っていなかったので,腸骨鼠径神経,腸骨下腹神経,陰部大腿神経陰部枝の術中把握も甘く,昨今警鐘を鳴らされているCPIP(chronic postoperative inguinal pain:鼠径部ヘルニア術後慢性疼痛)への対策も不十分でした。とにかく手術後にしっかりとした安心感を得にくい手術でした。
2014年に医局人事で異動した国家公務員共済組合連合会 東海病院にてTAPPを初めて見たときは衝撃でした。ヘルニア門をはっきりと視認することができ,外鼠径ヘルニア症例か内鼠径ヘルニア症例なのか,一目瞭然で感動しました。またTAPP特有の解剖学的な膜構造や層構造の把握が必要になるものの,腹腔鏡カメラを通して,それらの微細構造が非常に鮮明に視認することができたのです。鼠径ヘルニア手術に対する苦手意識が消えた瞬間でした。ただ,執刀をしてみると,当初は両肩が開いてしまい,人間工学的に無理な姿勢をとることは非常に身体的につらく,助手としてカメラを持つ姿勢はさらにつらく,両側症例のカメラ助手の際には術前から気が滅入っていました。手技面では,当初は腹膜縫合に手間取り,普段からの自己練習の重要性を痛感しました。2016年にはこの腹膜縫合の手間を回避するために,斗南病院の川原田陽先生を招聘してTEPも導入しました。川原田先生の御示唆の下,男性外鼠径ヘルニア症例に対してはTAPP,その他にはTEPを適応していました。この頃は,ヘルニア診療に非常に興味が沸いて,腹壁ヘルニア治療に対しても2018年にeTEP-RivesStoppa法を開始し,2019年からはWolfgang Reinpold先生が考案されたEMILOS法も導入しました。腹部ヘルニア疾患に対して,バリバリ鏡視下手術をこなしていく一方で,両上肢の可動域制限や術中の体勢はつらく感じたままでした。
そのようななかで,運命のターニングポイントを迎えました。私の出身地である三重県四日市市にて,現日本ヘルニア学会理事長である蜂須賀丈博先生が「第17回日本ヘルニア学会学術集会」を主催されました。その海外招待講演セッションにて全米で有名なDavid Lourié先生がRTAPPについて講演されました。ロボット手術を全く経験したことがなかった私には,ロボット手術というだけで非常に眩しいのに,なんと癌ではなく鼠径ヘルニアにまで適応しているという現実に衝撃を覚えました。あまりの凄さに心が打ち震えました。実は,当時の私はヘルニア関連の国際学会で積極的に発表をしはじめていた時期で,英語の勉強をしようという軽い気持ちでその海外招待講演に参加したのですが,強烈なインパクトを受けました。
TAPPを超える3D映像による解剖学的視認性の良さ,多関節機能による膜や層にこだわった精緻な手術,そして何よりも術者も助手も過酷な身体的負担から劇的に解消されることなど,これは至高の術式だと確信しました。すぐにとはいかないまでも,いずれコストの問題や保険収載の問題がクリアされれば,爆発的に普及するだけのメリットにあふれていると思いました。
それ以降すぐにRTAPPの準備に着手しました。具体的には2019年から,TAPPにおいて通常の環状切開法から内鼠径輪すぐ腹側の腹膜を横切開する方法(腹側環状切開法)に変更し,ある程度慣れたうえで,2020年からは“みちのくニードル”(株式会社 八光)を用いた膨潤法下でRTAPPと同様の高位切開法を導入しました。私はTEPも経験していたので導入は容易でした。2021年6月には,すでにわが国でRTAPPを導入していた聖路加国際病院に2回手術見学に行きました。嶋田元先生と松原猛人先生のRTAPPを拝見させていただき,そのメリットを再確認しました。そして7月に名古屋掖済会病院に赴任して,10月に名古屋市立大学病院にも手術見学(齊藤健太先生,早川俊輔先生)に行かせていただいた上で,10月28日にRTAPPを初執刀しました(聖路加国際病院 松原猛人先生招聘)。以降,病院全体としての非常に寛大な取り計らいの下,何よりもRTAPP導入を許可していただき,導入後の長期安価継続を支えてくださった河野弘名誉院長のおかげで,2025年10月現在,導入後丸4年間で222例施行することができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
振り返ると,非常に多くの御縁の下で,多くの先生方に支えられて,ここまでRTAPPの経験を重ねてくることができました。その分,今後RTAPPを開始する先生方が安全に執刀することができるように,私の経験を伝えることが恩返しでもあり,責務であると考えて,想いを繋げるべく心を燃やして今回このような本を出版させていただきます。RTAPPは決して簡単な手術ではありませんので,この本を通して多くの先生方がいち早く術式に習熟して,多くの患者さんに恩恵がもたらされれば幸いです。
最後に,編集にご尽力いただきましたメジカルビュー社の小澤祥子氏と関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
2025年10月
名古屋掖済会病院 外科・愛知県重症外傷センター
水谷 文俊
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目次
Part1 RTAPPの理解を深める
RTAPPの意義
ロボット手術の基本的な考え方手技
RTAPPにおける独自の臨床解剖解釈(ナゴエキイメージ)
Part2 RTAPPの術前準備
RTAPPの事前準備
セッティング
ポート留置(コンソール操作開始前)
番外編① シミュレーターでの練習
番外編② 初執刀でも安心! daVinci での指導体制
Part3 RTAPPの術式解説
男性右外鼠径ヘルニア症例-モノポーラカーブドシザーズ(ハサミ)とフェネストレイテッドバイポーラを用いた標準手技-
Step1 確認作業
Step2 剥離作業
Step3 メッシュ留置
Step4 腹膜縫合閉鎖
その他の症例(内鼠径ヘルニア症例,左側鼠径ヘルニア症例,女性鼠径ヘルニア症例)
RTAPP特有のトラブルシューティング
番外編③ 閉鎖孔ヘルニア症例でのRTAPP
番外編④ RTAPPでの環状切開法
番外編⑤ RTEPの概要
番外編⑥ ロボットよりも曲がるArtiSential鉗子を用いたAS-TAPP
あとがき
RTAPPの意義
ロボット手術の基本的な考え方手技
RTAPPにおける独自の臨床解剖解釈(ナゴエキイメージ)
Part2 RTAPPの術前準備
RTAPPの事前準備
セッティング
ポート留置(コンソール操作開始前)
番外編① シミュレーターでの練習
番外編② 初執刀でも安心! daVinci での指導体制
Part3 RTAPPの術式解説
男性右外鼠径ヘルニア症例-モノポーラカーブドシザーズ(ハサミ)とフェネストレイテッドバイポーラを用いた標準手技-
Step1 確認作業
Step2 剥離作業
Step3 メッシュ留置
Step4 腹膜縫合閉鎖
その他の症例(内鼠径ヘルニア症例,左側鼠径ヘルニア症例,女性鼠径ヘルニア症例)
RTAPP特有のトラブルシューティング
番外編③ 閉鎖孔ヘルニア症例でのRTAPP
番外編④ RTAPPでの環状切開法
番外編⑤ RTEPの概要
番外編⑥ ロボットよりも曲がるArtiSential鉗子を用いたAS-TAPP
あとがき
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解剖を理解し,手術を目で学ぶ! ロボット支援TAPPの入門かつ最強のテキスト
腹腔鏡手術とは異なる,ロボット手術ならではの鼠径部ヘルニア修復術(TAPP)のアプローチ法を,第一線で活躍する著者が言語化。
まずは鼠径部の複雑な膜構造を,著者解釈も交えて解説。解剖構造を最初に頭に入れることで,手術理解が圧倒的に早まる。
術式解説では,メジャーな外鼠径ヘルニア修復術を,細かく順序立てて徹底的に深掘り。術野で何が見えていて,何に注意しながらどこを剥離すべきかをビジュアライズに解説。
手術動画も約60本付録されており,動画と本を行き来しながら理解を深めることができる。
本術式でロボット手術の修練を始める読者にも,腹腔鏡を経てロボット支援TAPPをスタートする読者にとっても有用な情報が満載の1冊。