緩和ケアにおける
悩ましい感情のひも解き方 
Difficult Patient

緩和ケアにおける悩ましい感情のひも解き方 Difficult Patient

■著者 蓮尾 英明
松岡 弘道
松田 能宣

定価 3,080円(税込) (本体2,800円+税)
  • A5判  168ページ  2色,イラスト55点
  • 2025年3月1日刊行
  • ISBN978-4-7583-2243-0

なぜ怒っているの? 話を聞いてくれないの? ―患者さんの感情をひも解く1冊

患者さんやそのご家族に,医療者の言うことがうまく伝わらない,とにかく怒っていてどうしていいかわからない,大丈夫ですと言い張って気持ちを話してくれない…。
そんなとき患者さんは本当はどう感じているのか?
患者さんの言うことや行動を,そのとおりに受け取ってよいのか?
本書ではそんな悩ましい患者さんの感情や状況を「difficult patient」として心療内科的視点からひも解く。
緩和ケア現場におけるがん患者さんや終末期患者さんの症例をもとに,患者さんと円滑にコミュニケーションし,信頼関係を築くための「今日からすぐに使えるヒント」を満載。
一歩踏み込んだ心療内科的知識はTopicsにまとめて,より深く理解したい方のステップアップもサポート。
すべての医療者に役立つ一冊!


序文

 「この患者さんの対応が難しくて……」と,多くの医療者から相談を受けることがあります。こうした悩みを共有してくださる医療者の方々は,患者に真摯に向き合われており,共感疲労や代理トラウマで悩まれていることもあります。本書は,そうした悩みや葛藤を丁寧にひも解き,少しでも解決の糸口を提供したいという思いから生まれました。

 本書では,対応が難しい患者さんを「Difficult patient」と表現しましたが,それは決して「問題患者」という意味ではありません。むしろ,「医療者にとって」対応が難しいと感じる患者さんを指しています。緩和ケアの現場では,患者さんは怒り,悲しみ,寂しさといった複雑な感情に苦しんでいます。しかし,私たちがその苦悩を真に理解することは,しばしば困難です。さらに,その感情が多様な形で表出されるため,私たちは患者さんを理解できず,時に距離をおきたくなることさえあります。

 人間には,自分が理解できないものを無意識に排除したり,否定しようとする傾向があります。医療者であってもこの例外ではなく,その結果,difficult patientというレッテルを貼ってしまうことがあります。しかし,それは避けなければなりません。医療者が理解を深めることで,患者さんの背後にある孤独や不安といった感情が次第に見えてきます。そして,私たちがその理解をもって接すれば,患者さんとの関わり方が変わり,彼らの苦悩もまた軽減される可能性があります。このことは,私たち3人が恩師から教えていただいた言葉「病気を診るには人を診ることが必要,人を知るには自分を知ることが必要」に集約されると思います。

 さらに,この姿勢は緩和ケアの現場だけに限った話ではありません。多くの人が,医療の現場,地域や社会のなかで援助を求めています。私たちは,専門性にかかわらず,目の前の人を気にかけて,その場でできる援助を提供することができるのです。印象的だったのは,ある終末期の患者さんがこう語ってくださった言葉です。「医療者に気にかけてもらえること,そんな些細な関わりが,何よりも生きる希望になるんだ」と。私たちが精神や心理の専門家でなくても,人として真摯に向き合う覚悟があれば,患者さんとの関係は大きく変わるのです。本書が,読者の皆様にとってdifficult patientへの理解を深め,患者さんと向き合うための指針となることを心より願っています。

 最後に,企画段階より粘り強く支えてくださいましたメジカルビュー社編集部の小澤祥子様,加賀智子様に,心より感謝申し上げます。

2025年1月
著者代表 蓮尾 英明
全文表示する
閉じる

目次

1章 総論
Difficult patient との向き合い方

2章 混乱が表出している患者さん
何がなんだかわからない
怖い,でも私のつらさもわかってほしかった
人は思い出があれば生きられる

3章 怒りが表出している患者さん
一緒にいたいけどいたくない
人は生きてきたように死んでいかない
ただ受け止めてほしいだけ
がんではない何かに違いない
幽霊の正体見たり枯れ尾花
どいつもこいつも
あの先生変えてほしい
手術さえしなければ
生きていても意味がない
何でもっと来てくれないんや

4章 不安が表出している患者さん
からだことばへの手当て
薬は怖い
私のことを愛してほしかった
言葉ひとつで仏にも鬼にもなる
私を見捨てないで

5章 抑うつが表出している患者さん
「痛い, 許して」と言えない
つらいなんて言えないよ
「患者さんのことをわかっていない」ことをわかって診察する

6章 身体症状が表出している患者さん
仮面の下の涙~その1 ~
仮面の下の涙~その2 ~
どこまでも夫と一緒でいたい
息がしんどいのは気持ちの問題じゃない
わたしは不安なんて感じていない
病んだ者とされていた子
全文表示する
閉じる

会員登録されている方

メールアドレスとパスワードを入力してログインしてください。

注)共有パソコンの方はチェックを外してください。

会員登録されていない方

会員登録されると次回からお客様情報をご入力いただく必要がありません。
また,購入履歴の確認ができる便利な機能がご利用いただけます。

個人情報の取り扱いについてはこちら