心不全診療の歩き方

定価 5,720円(税込) (本体5,200円+税)
- A5判 288ページ 2色(一部カラー),イラスト150点,写真30点
- 2025年3月31日刊行
- ISBN978-4-7583-2217-1
電子版
序文
プロローグ
心不全患者と向き合う心構え
まずは本書を手に取った皆さんへ。今から本書の色々なページを巡りながら,新しい知見を得たり自分の日々の活動が正しいことを再確認したりすることでしょう。そして周りに心不全診療に携わることの素晴らしさを広めていくことと思います。ぜひ,よろしくお願いします。
でもその前に,お願いがあります。ぜひ,「心不全」という文字を,目をつぶってゆっくり呼吸をしながら自分の脈を触れながら思い浮かべてください。どんな気持ちになったでしょうか? あたり前にできている穏やかな呼吸ができなくなり,心地よいリズムを奏でている心臓が悲鳴をあげて,これから先の自分がどうなるのか不安になる,それが心不全です。そんな心不全が自分の身に起こっているのが,今日皆さんが出会った,あの心不全患者の方々です。
本書を手に取ったということは,誰かのなにかをよくしたい,そのためにもっと自分にはできることがあるはず,そんな思いがあることと思います。その気持ちを忘れないようにして,心不全患者の方々の心に思いを馳せてください。
心不全患者と向き合う
心不全とは「心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気」です。だんだん悪くなり,よくならず,死に直結すると定義される,切ない病気です。「あなたは心不全です」といわれたとき,あの心不全患者の方々はどんな気持ちだったのでしょうか? そして,今どんな気持ちで皆さんと話をしているのでしょうか? 心不全の病態生理や治療のことをしっかり理解したうえで,ロジカルではない複雑で曖昧でその人にしかわからない気持ちがあることを理解し,なによりちゃんと患者と向き合う医療従事者になりたいものです。
心不全を理解する
心不全患者とちゃんと向き合うには,気持ちだけでは不十分であり,心不全という病気を深く理解することが重要です。心臓の構造や機能,心不全の病態生理,さまざまな原因,そして心不全ステージ分類について,ガイドラインを中心に学ぶことが不可欠です。心不全の原因疾患を理解することで,適切な治療やケアを提供することができます。心不全ステージ分類を意識して,ステージに応じた治療やケアを提供することができます。
患者の視点に立つ
心不全患者は,身体的な症状だけでなく,精神的な不安や社会的な孤立を抱えている場合があります。「患者の視点に立ち,共感をもって寄り添う」という言葉は,患者の立場からすると「わたしのなにがわかるんですか?」というような気持ちになるかもしれませんし,ともすると,それは医療従事者の自己満足にすぎないことも少なくありません。でも,少しでもそのような気持ちで患者の訴えに耳を傾け,症状を和らげるためのサポートを提供できるようにしたいです。そして,心不全患者が抱えるさまざまな不安は,完全に理解・共感することは難しいですが,目を逸らさずに少しでも安心感を与えることができるよう努めたいです。体力低下や症状による外出制限などにより,社会的な孤立を感じている患者の社会参加を支援し,孤立を防ぐためのサポートも提供できればいいなと思います。
心不全患者と伴走(伴奏)する
心不全は慢性疾患であり,長期にわたる治療が必要です。したがって,心不全ステージ分類の横軸である患者の人生と伴走することで,心不全患者の人生を一緒に奏でる,いわば伴奏を意識するとよいのでは,と常日頃思っています。
このような思いで本書を企画しました。心不全はなんの不全だろうか? と考えると,「心」の不全ですが,それは心臓だけではなく「こころ」でもあり,生命そのものでもあります。その不全である心不全患者と向き合うことは,医療従事者として大きなやりがいを感じると同時に,多くの課題や困難に直面することもあります。しかし,心不全患者の人生と伴走することでしか得られないかけがえのない世界もあります。本書が,皆さんの日々の診療の一助となり,心不全患者のよりよい未来につながることを願っています。
2025年1月
国際医療福祉大学大学院医学研究科循環器内科学 教授
岸 拓弥
心不全患者と向き合う心構え
まずは本書を手に取った皆さんへ。今から本書の色々なページを巡りながら,新しい知見を得たり自分の日々の活動が正しいことを再確認したりすることでしょう。そして周りに心不全診療に携わることの素晴らしさを広めていくことと思います。ぜひ,よろしくお願いします。
でもその前に,お願いがあります。ぜひ,「心不全」という文字を,目をつぶってゆっくり呼吸をしながら自分の脈を触れながら思い浮かべてください。どんな気持ちになったでしょうか? あたり前にできている穏やかな呼吸ができなくなり,心地よいリズムを奏でている心臓が悲鳴をあげて,これから先の自分がどうなるのか不安になる,それが心不全です。そんな心不全が自分の身に起こっているのが,今日皆さんが出会った,あの心不全患者の方々です。
本書を手に取ったということは,誰かのなにかをよくしたい,そのためにもっと自分にはできることがあるはず,そんな思いがあることと思います。その気持ちを忘れないようにして,心不全患者の方々の心に思いを馳せてください。
心不全患者と向き合う
心不全とは「心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気」です。だんだん悪くなり,よくならず,死に直結すると定義される,切ない病気です。「あなたは心不全です」といわれたとき,あの心不全患者の方々はどんな気持ちだったのでしょうか? そして,今どんな気持ちで皆さんと話をしているのでしょうか? 心不全の病態生理や治療のことをしっかり理解したうえで,ロジカルではない複雑で曖昧でその人にしかわからない気持ちがあることを理解し,なによりちゃんと患者と向き合う医療従事者になりたいものです。
心不全を理解する
心不全患者とちゃんと向き合うには,気持ちだけでは不十分であり,心不全という病気を深く理解することが重要です。心臓の構造や機能,心不全の病態生理,さまざまな原因,そして心不全ステージ分類について,ガイドラインを中心に学ぶことが不可欠です。心不全の原因疾患を理解することで,適切な治療やケアを提供することができます。心不全ステージ分類を意識して,ステージに応じた治療やケアを提供することができます。
患者の視点に立つ
心不全患者は,身体的な症状だけでなく,精神的な不安や社会的な孤立を抱えている場合があります。「患者の視点に立ち,共感をもって寄り添う」という言葉は,患者の立場からすると「わたしのなにがわかるんですか?」というような気持ちになるかもしれませんし,ともすると,それは医療従事者の自己満足にすぎないことも少なくありません。でも,少しでもそのような気持ちで患者の訴えに耳を傾け,症状を和らげるためのサポートを提供できるようにしたいです。そして,心不全患者が抱えるさまざまな不安は,完全に理解・共感することは難しいですが,目を逸らさずに少しでも安心感を与えることができるよう努めたいです。体力低下や症状による外出制限などにより,社会的な孤立を感じている患者の社会参加を支援し,孤立を防ぐためのサポートも提供できればいいなと思います。
心不全患者と伴走(伴奏)する
心不全は慢性疾患であり,長期にわたる治療が必要です。したがって,心不全ステージ分類の横軸である患者の人生と伴走することで,心不全患者の人生を一緒に奏でる,いわば伴奏を意識するとよいのでは,と常日頃思っています。
このような思いで本書を企画しました。心不全はなんの不全だろうか? と考えると,「心」の不全ですが,それは心臓だけではなく「こころ」でもあり,生命そのものでもあります。その不全である心不全患者と向き合うことは,医療従事者として大きなやりがいを感じると同時に,多くの課題や困難に直面することもあります。しかし,心不全患者の人生と伴走することでしか得られないかけがえのない世界もあります。本書が,皆さんの日々の診療の一助となり,心不全患者のよりよい未来につながることを願っています。
2025年1月
国際医療福祉大学大学院医学研究科循環器内科学 教授
岸 拓弥
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目次
1章 病態の歩き方
1 病態の歩き方 佐藤直樹
2 心不全とは(定義,増悪因子,治療目標) 佐藤宏行
3 急性心不全と慢性心不全 那須崇人
4 左心不全と右心不全 西崎公貴
5 収縮能と拡張能 牧野真奈・齋藤秀輝
6 HFrEF,HFpEF,HFmrEF 中田康紀
7 PV loopと心拍出量 柿野貴盛
8 前負荷・後負荷 大竹正紘・朔 啓太
9 心筋リモデリング 松島将士
10 神経体液性因子 橋本 亨
2章 診断・評価の歩き方
1 急性期の診断・評価と初期対応の歩き方 奥村貴裕
2 慢性期の診断・評価の歩き方 宮原大輔・木田圭亮
急性期の対応
3 うっ血 中務智文・林田晃寛
4 低心拍出症候群 澤村昭典
5 心原性ショック 中田 亮・中田 淳
検査とその評価
6 問診,physical examination 大西勝也
7 胸部X線検査 杉本匡史
8 心電図検査 加来秀隆
9 血液検査 尾上健児
10 バイオマーカー BNP/NT-proBNP 三浦正暢
11 心エコー図検査 中村研介
12 心臓カテーテル検査 小西正紹
13 スワン・ガンツカテーテル検査 藤野雅史
3章 薬物治療の歩き方
1 急性期薬物治療の歩き方 阿部拓朗
2 慢性期薬物治療の歩き方 松本新吾
3 診療ガイドラインに基づく標準的治療(GDMT) 松川龍一
4 基本薬① ACE 阻害薬,ARB,ARNI 後藤礼司
5 基本薬② β遮断薬 池上翔梧・白石泰之
6 基本薬③ ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA) 石原里美
7 基本薬④ SGLT2 阻害薬 堀内 優
8 利尿薬 坂本考弘・北井 豪
9 経口強心薬―ピモベンダン,ジゴキシン 秋山英一
10 血管拡張薬―カルシウム拮抗薬,硝酸薬 石原嗣郎
11 イバブラジン 今村輝彦
12 ベルイシグアト 白石裕一・的場聖明
13 抗凝固療法 向井 靖
4章 非薬物治療の歩き方
1 非薬物治療の歩き方 近藤 徹
2 呼吸管理 葛西隆敏
3 機械的循環補助(IABP,V-A ECMO,Impella) 大竹正紘・朔 啓太
4 左室補助人工心臓(LVAD) 藤野剛雄・阿部弘太郎
5 植込み型除細動器(ICD),心臓再同期療法(CRT) 門田宗之
6 TAVI,MitraClip 有田武史
5章 管理の歩き方
1 管理の歩き方 岸 拓弥
2 血圧 岸 拓弥
3 腎機能,貧血 前田大智
4 水分・栄養管理 萬谷麻美・石井典子・池亀俊美
5 心臓リハビリテーション 井澤英夫
6 遠隔モニタリング 谷口達典
6章 心不全緩和ケアの歩き方
1 心不全緩和ケアの歩き方 柴田龍宏
2 意思決定支援,アドバンス・ケア・プランニング(ACP) 大石醒悟
3 症状に対する薬物治療 高麗謙吾
7章 少し複雑な心不全の歩き方
1 少し複雑な心不全の歩き方 鍋田 健
2 虚血性心疾患を合併する心不全 的場哲哉
3 弁膜症を合併する心不全 大門雅夫
4 心房細動を合併する心不全 永嶋孝一
5 高齢者の心不全 柴田直紀
8章 コミュニケーションの歩き方
1 コミュニケーションの歩き方 岸 拓弥
2 セルフブランディング 渡邉雅貴
3 患者・家族とのコミュニケーション 石本沙織
4 チーム医療 濱谷康弘
5 地域連携 大森崇史
6 情報収集・情報発信 福田芽森
エピローグ・心不全診療の未来 岸 拓弥
1 病態の歩き方 佐藤直樹
2 心不全とは(定義,増悪因子,治療目標) 佐藤宏行
3 急性心不全と慢性心不全 那須崇人
4 左心不全と右心不全 西崎公貴
5 収縮能と拡張能 牧野真奈・齋藤秀輝
6 HFrEF,HFpEF,HFmrEF 中田康紀
7 PV loopと心拍出量 柿野貴盛
8 前負荷・後負荷 大竹正紘・朔 啓太
9 心筋リモデリング 松島将士
10 神経体液性因子 橋本 亨
2章 診断・評価の歩き方
1 急性期の診断・評価と初期対応の歩き方 奥村貴裕
2 慢性期の診断・評価の歩き方 宮原大輔・木田圭亮
急性期の対応
3 うっ血 中務智文・林田晃寛
4 低心拍出症候群 澤村昭典
5 心原性ショック 中田 亮・中田 淳
検査とその評価
6 問診,physical examination 大西勝也
7 胸部X線検査 杉本匡史
8 心電図検査 加来秀隆
9 血液検査 尾上健児
10 バイオマーカー BNP/NT-proBNP 三浦正暢
11 心エコー図検査 中村研介
12 心臓カテーテル検査 小西正紹
13 スワン・ガンツカテーテル検査 藤野雅史
3章 薬物治療の歩き方
1 急性期薬物治療の歩き方 阿部拓朗
2 慢性期薬物治療の歩き方 松本新吾
3 診療ガイドラインに基づく標準的治療(GDMT) 松川龍一
4 基本薬① ACE 阻害薬,ARB,ARNI 後藤礼司
5 基本薬② β遮断薬 池上翔梧・白石泰之
6 基本薬③ ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA) 石原里美
7 基本薬④ SGLT2 阻害薬 堀内 優
8 利尿薬 坂本考弘・北井 豪
9 経口強心薬―ピモベンダン,ジゴキシン 秋山英一
10 血管拡張薬―カルシウム拮抗薬,硝酸薬 石原嗣郎
11 イバブラジン 今村輝彦
12 ベルイシグアト 白石裕一・的場聖明
13 抗凝固療法 向井 靖
4章 非薬物治療の歩き方
1 非薬物治療の歩き方 近藤 徹
2 呼吸管理 葛西隆敏
3 機械的循環補助(IABP,V-A ECMO,Impella) 大竹正紘・朔 啓太
4 左室補助人工心臓(LVAD) 藤野剛雄・阿部弘太郎
5 植込み型除細動器(ICD),心臓再同期療法(CRT) 門田宗之
6 TAVI,MitraClip 有田武史
5章 管理の歩き方
1 管理の歩き方 岸 拓弥
2 血圧 岸 拓弥
3 腎機能,貧血 前田大智
4 水分・栄養管理 萬谷麻美・石井典子・池亀俊美
5 心臓リハビリテーション 井澤英夫
6 遠隔モニタリング 谷口達典
6章 心不全緩和ケアの歩き方
1 心不全緩和ケアの歩き方 柴田龍宏
2 意思決定支援,アドバンス・ケア・プランニング(ACP) 大石醒悟
3 症状に対する薬物治療 高麗謙吾
7章 少し複雑な心不全の歩き方
1 少し複雑な心不全の歩き方 鍋田 健
2 虚血性心疾患を合併する心不全 的場哲哉
3 弁膜症を合併する心不全 大門雅夫
4 心房細動を合併する心不全 永嶋孝一
5 高齢者の心不全 柴田直紀
8章 コミュニケーションの歩き方
1 コミュニケーションの歩き方 岸 拓弥
2 セルフブランディング 渡邉雅貴
3 患者・家族とのコミュニケーション 石本沙織
4 チーム医療 濱谷康弘
5 地域連携 大森崇史
6 情報収集・情報発信 福田芽森
エピローグ・心不全診療の未来 岸 拓弥
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