胎児心エコーのすべて

スクリーニング・精査・治療・そして家族支援

胎児心エコーのすべて

■編集 川瀧 元良

定価 9,350円(税込) (本体8,500円+税)
  • B5判  456ページ  オールカラー,イラスト100点,写真1,000点
  • 2017年2月7日刊行
  • ISBN978-4-7583-1737-5

詳細なスクリーニング方法から豊富な画像を用いた精査,治療法を徹底解説した川瀧元良渾身の1冊,ついに刊行!

心奇形の頻度は,生産児100人に対して1人の割合で発生するといわれているが,そのうちの1/3が重症心奇形であり,乳児死亡の最大の原因となっている。現在,胎児診断率は上昇し,その結果が救命率の上昇にとどまらず,合併症や後遺症のない救命,最終的には経済効率のよい医療に結びついている。さらに,出産後に診断される児に比べ,胎児診断された児は,出生後早期に状態が悪化するEbstein病,総肺静脈還流異常,肺動脈弁欠損などの超重症心疾患で出生後24時間以内の手術が必要な場合でも,手術に対応することができるようになり,救命率は著しく上昇している。また,出産時に病名が判明している場合は,分娩時にバルーン心房中隔切開術などの術式を用いることも可能となり,胎児診断が児の救命率に大きく関与しているといえる。この胎児診断の主軸を担っているのが「胎児心エコー」である。
本書では,豊富な画像を用い,スクリーニング,精査,治療を徹底解説。家族への告知についても,神奈川県立こども医療センターで長年培ってきたメソッドを,両親への説明図とともに公開。神奈川県立こども医療センターの胎児診断率も各疾患ごとにグラフ化されている。本分野の第一人者である川瀧元良先生の集大成本,ついに刊行!


序文

 この度,『胎児心エコーのすべて―スクリーニング・精査・治療・そして家族支援―』を出版させていただくことになりました。
 心エコーの手書きの資料を使いながら,神奈川県内のクリニックを1軒1軒巡回し,胎児心スクリーニングの普及活動を始めたのが,1998年頃のことです。そのころ使っていた手書きの資料がやがて『胎児診断へのアプローチ』へと形を整え,上梓させていただき,10年が経過しました。ここ数年は,進歩著しいIT技術を駆使して頻回に遠隔セミナー(アドバンスセミナー,症例報告会,スペシャル講座,超ベーシック講座)を開催し,多くの方々が全国各地の遠隔会場から参加していただくようになりました。また,アジアの方々とも定期的なカンファランスを英語でもつようになり,活動の幅,速さが格段に拡大しています。10年ほど前,【何で4CVより上の断面を見なければならないのか?】と怒りのこもった言葉を親しい産科医からぶつけられたのを思い出します。その頃は,Fallot四徴症(TOF),両大血管右室起始(DORV),完全大血管転位(TGA)などの心疾患の病名が,産科医には強い違和感を持って受け止められていました。しかし,ここ最近,産科の先生や臨床検査技師さんとお話をしていても,これらの略号が何の違和感もなく話題にされていることに気がつきました。このような変化は,胎児診断率に如実に表れています。単心室疾患は今や90%を超えました。そして,長らく課題とされていたTGAの胎児診断率がいつの間にか50%を超えました。そして,最大の課題である総肺静脈還流異常も,近い将来向上すると信じています。
 『胎児診断へのアプローチ』と『胎児心エコーのすべて―スクリーニング・精査・治療・そして家族支援―』を比べると,この10年間の進歩をはっきりとみることができます。胎児診断技術だけではなく,カテーテル治療,ハイブリッド治療,超緊急手術が急速に進歩しました。その結果,従来では救命できなかった超重症症例を救命できるようになりました。長期予後にはまだ問題が残されていますが,これからの進歩が期待できます。試行錯誤で始めた家族支援も各地で積極的に取り組みが始まりました。これから10年の進歩に期待したいと思います
 これまで私がこのような活動を思う存分行うことができたのも,全国の参加者の方々,ITエンジニア(特に九州大学病院アジア遠隔医療開発センター)の方々,台湾の胎児クリニックの方々,ビジョンブリッジ(有限会社)の皆様,蔭山さん,そして家族のおかげと深く感謝しています。
 本書が,完璧には程遠い出来とは思いますが,これからの日本の,世界の重症心疾患の医療の進歩に寄与することを願っています
 2017年1月 東北新幹線,はやぶさの車中で

東北大学産婦人科・東北大学大学院医学系研究科融合医工学分野
神奈川県立こども医療センター周産期医療部新生児科
川瀧元良
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目次

I 胎児診断に役立つ心臓の発生 
胎児診断に役立つ心臓の発生 内田敬子,山岸敬幸 
 心臓大血管の発生/心臓大血管を形成する細胞/原始心筒の形成とルーピング/左右心室の形成/房室管の発生・右方移動と心内膜床・房室弁の形成/流出路の発生・左方移動と半月弁の形成/心室中隔の形成/心房・心房中隔の形成/肺静脈・体静脈系の発生と心房への接合/大動脈・肺動脈・動脈管の発生/冠動脈の発生/刺激伝導系の発生
 
II 心スクリーニング 
胎児心臓スクリーニング法 辻村久美子 
 胎児の心臓を「どのように」みるのか/胎児の心臓の「どこを」みるのか/日常検査で迷う所見
 
胎児心臓スクリーニングの教育 芳野奈美 
 新人教育/当院の胎児超音波スクリーニング
 
III 胎児診断各論 
内臓錯位症候群 川瀧元良 
 内臓錯位症候群の概念の変遷/内臓錯位のスクリーニング/右側相同(無脾症候群)の精査/左側相同(多脾症候群)の精査/外科治療/合併症の管理
 
Ebstein病 稲村 昇 
 概念/発生と解剖/病態/胎児診断を受けたEbstein病の治療方針/治療成績/まとめ/外科治療
 
房室中隔欠損症 川瀧元良 
 解剖/midlineをうまく描出するコツ/complete AVSD/partial AVSD/心室中隔欠損(VSD)/予後/出生後の治療
 
左心低形成症候群 川瀧元良 
 疾患の概念(血行動態)/スクリーニング/ピットホール/精査/内科治療/長期予後/出生後の治療
 
重症大動脈弁狭窄症 内藤幸恵,川瀧元良 
 形態/血行動態/スクリーニング/精査/重症大動脈弁狭窄のカテーテル治療/胎児心臓病治療
 
純型肺動脈閉鎖症/重症肺動脈狭窄症 川瀧元良 
 血行動態/スクリーニング/精査/出生後の治療
 
三尖弁閉鎖症 川瀧元良 
 疾患の概念(血行動態)/スクリーニング/精査/三尖弁閉鎖症に対する初回手術/Fontan手術の成功と術式の変遷/TCPC Conversion
 
Fallot四徴症 川瀧元良
 形態/スクリーニング/精査/内科管理/手術/合併症の管理(胸腺低形成)
 
両大血管右室起始症 川瀧元良
 両大血管右室起始(DORV)とは/分類/スクリーニング/精査/胎児診断率の動向/出生後の治療
 
単一流出路の疾患 川瀧元良
 単一流出路の疾患/総動脈幹症/心室中隔欠損/肺動脈閉鎖/出生後の治療
 
完全大血管転位症 川瀧元良
 血行動態/スクリーニング法/ハイリスク症例の評価/予後/出生後の治療
 
大動脈縮窄症 川瀧元良
 疾患の概念(血行動態)/スクリーニング/精査/出生直後の全身の視診,下肢のSpO2/内科管理・治療/出生後の治療
 
胎児動脈管早期収縮 川瀧元良
 動脈管早期収縮(PCDA)/動脈管早期収縮の内科管理
 
胎児卵円孔早期閉鎖/狭小化 本田 茜
 疾患の概念/スクリーニング/精査/出生後の管理・治療
 
右側大動脈弓/血管輪 川瀧元良
 右側大動脈弓 
 大動脈弓の発生/右側大動脈弓
 血管輪
 定義/発生/症状/診断法/胎児診断がなぜ重要か?/血管輪の胎児診断のポイント/精査のポイント/気管狭窄の診断と対応/食道狭窄/胎児診断症例の推移/出生後の管理/出生後の治療

総肺静脈還流異常症 川瀧元良
 発生の知識を胎児診断に応用する/解剖の知識を胎児診断に応用する/疾患の解説/スクリーニング/精査/出生後の管理/出生後の治療
 
徐脈性不整脈 村上 卓,堀米仁志
 胎児の正常心拍数(FHR)/胎児徐脈の定義/胎児不整脈の診断方法/胎児徐脈診断の基本/胎児徐脈の原因/胎児徐脈の治療
 
頻脈性不整脈 前野泰樹
 疾患の概要と診断方法/胎児超音波診断法による胎児不整脈の評価方法/胎児不整脈時の心不全の評価/胎児頻脈性不整脈の分類と診断/胎児頻脈性不整脈症例の周産期管理
 
胎児心筋疾患(胎児心筋症と胎児心臓腫瘍) 瀧聞浄宏
 胎児心筋症/胎児心臓腫瘍
 
IV 胎児心機能
胎児心機能評価法 瀧聞浄宏
 胎児心筋の特性/胎児循環の特徴/胎児水腫/胎児心機能評価法/今後の展望
 
V 3Dエコー
STICの撮り方,活用法 川瀧元良
 STIC(Spatio Temporal Image Correlation)とはなにか/STICが断層エコーと違う点はなにか?/データ収集法/画像表示/データの整理/STICはなにに有効か?/STICをうまく撮るコツ
 
VI 胎児診断率
胎児診断率 川瀧元良
 胎児診断率測定の重要性
 
VII 遠隔診断
胎児診断における遠隔の利用 川瀧元良
 遠隔セミナー/遠隔診断
 
胎児心疾患の遠隔診断 稲村 昇
 STIC法の実際/STIC法を用いた胎児心臓スクリーニング/STIC法でスクリーニングできた心疾患/STIC法でスクリーニングできなかった心疾患/STIC法を用いた遠隔診断
 
VIII 出生後の治療
胎児診断に必要な出生後の内科的治療戦略 金 基成
 動脈管依存性疾患の管理/肺血流過多・体血流過少の管理/新生児期のカテーテル治療/ハイブリッド治療―心臓外科と小児循環器科の共同作業
 
外科総論 麻生俊英
 二心室修復術/単心室修復術/1+1/2修復術/人工心肺使用の有無による分類/継続的観察の重要性
 
IX チーム医療
産科医の役割 石川浩史
 産科医における役割の分類/胎児心スクリーニング担当者(またはそれを指示する立場)としての役割/胎児心疾患の精査担当者としての役割/胎児心疾患症例の妊婦健診・分娩担当者としての役割
 
超重症心疾患のチーム医療の進め方 安河内 聰
 チーム医療の重要性/胎児心エコーによる前方視的周産期治療の対象疾患とは?/重症心疾患に対する周産期チーム医療の進め方/治療計画の立案と治療チームの構成/治療のシミュレーション/よりよい周産期治療チームのあり方
 
新生児超緊急心臓手術 麻生俊英
 Rescue Neonatal Cardiac Surgery/神奈川県立こども医療センターの成績/Rescue Neonatal Cardiac Surgeryの遠隔成績
 
X 倫理
胎児心疾患の医療に関わる倫理 西畠 信
 胎児心疾患の画像診断と他の出生前診断との倫理問題の違い/胎児医療と倫理原則/The fetus as a patientと母体保護法/心疾患胎児の方針決定に影響する因子/胎児診断におけるカウンセリングとチーム医療
 
XI 家族支援
胎児診断を受けた家族への支援―専門看護師によるサポート 権守礼美
 胎児診断と家族支援/神奈川県立こども医療センターにおける家族支援体制/小児看護専門看護師の役割/胎児心疾患を指摘された家族の意思決定支援/今後の課題
 
ピアサポートを含めたチームとしての家族支援(大阪府立母子保健総合医療センターの例)および胎児心臓病家族支援研究会について 河津由紀子
 胎児心臓診断における家族支援の必要性について/当センターでの家族支援/ピアサポート/胎児心臓病家族支援研究会
 
胎児心疾患診断後の家族支援としてのピアサポート 西畠 信
 ピアサポートの対象と方法/結果/利点と課題
 
XII 長期予後
遠隔期の諸問題 金 基成
 二心室疾患/Fontan手術/精神神経発達/移行期医療の問題
 
発達予後 小澤綾佳,市田蕗子
 先天性心疾患児における神経発達予後について/各年齢での神経発達の問題/精神神経発達に影響を及ぼす因子/神経発達予後に関する今後の展望

 巻末付録 家族への告知 金 基成
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