静かに迫りくる脂肪肝 NASHを識る
病気を識り症例から治療を学ぶ
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定価 6,600円(税込) (本体6,000円+税)
- B5判 232ページ オールカラー
- 2016年5月23日刊行
- ISBN978-4-7583-1523-4
電子版
序文
はじめに
「医師と患者のための メタボ時代の新しい肝臓病」を発刊したのは,4年前の2012年6月でした。その2年前に那須塩原市にある国際医療福祉大学病院の人間ドックと肝臓病を主とする消化器外来に週1回従事し,驚いたのはBMI 30以上の高度肥満の人が多く,国際的に肝臓病で治療が困難な非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と推測される患者さんが多いことでした。外科主任教授 鈴木 裕教授のご協力のもと,看護部・検査部・病理部・栄養管理課などさまざまな部局の理解と支援・応援を得て3年前の2013年春にNASH教育入院を立ち上げました。この病気は,肝硬変に進展し,さらに少なくとも10%は肝癌をきたすことが知られており,その機序を解明すべく,北里大学医療センター内科 横森弘昭教授の免疫組織化学的光顕および電顕による共同研究を行うことを医の倫理委員会に申請,その承認を得て研究を行ってきました。
本書は,過去3年間にわたる取組みの報告書ともいうべきものです。最終目的はNASHの治療で,正常肝に回復することです。数年の観察では,そこまでは追うことはできませんが,肝生検を施行して病理学的にNASHと診断した30例の患者さんについて,肝細胞に局在が特異的とされるALTや胆道系酵素といわれるγ-GTP高値の患者さんが正常値に回復する,腹部超音波で脂肪肝の所見がみられなくなる,肝幹・前駆細胞の誘導に関与するとされるサイトカインの動きなどを観察しながら患者さんを治療しました。気付いたことは,海外のRCTの有名論文を鵜呑みにできないことです。私は治療で曙光を見出した感を持っています。
私どもは1974年Natureに肝臓のコラゲナーゼを発表して以来,肝線維化改善を目指して研究してきました。今回の研究で,横森教授は世界で初めて免疫電顕でmatrix metalloproteinase-1(MMP-1)酵素がCaveolaに局在することを明らかにし,NASHで線維化がみられる症例では,MMP-1の発現が肝前駆細胞にみられ,増悪に関与していました。MMP-1は齧歯類に存在せず,MMP-1はヒトへの高等動物として分化する過程で獲得され,単なるコラーゲンの特異的分解酵素でなく,脱分化(dedifferentiation;未分化の細胞へ転換)のシグナルと考えてよいのではという印象を深くしました。MMP-1の発現が肝硬変・肝癌へと慢性化につながっていくと考えられました。
患者さんの診療内容を一部にしても公開するに当たり,倫理委員会で審議していただき,患者さんが同定されないように配慮しました。患者さんへの説明と同意の下に出版します。
本書の出版に当たり,同意下さった患者さん,共同研究者の執筆協力者,予防医学センター,内科外来,事務の皆様方のご理解とご協力,出版をご許可下さったことに深く感謝申し上げます。
ここまで研究を続けられたのは家族の理解があってであり,妻に本書を捧げ,深く感謝の意を表します。
読者の諸先生には本書について御批判・ご叱正をいただけますように宜しくご教示をお願いします。
2016年4月
国際医療福祉大学・順和会山王病院内科
岡﨑 勲
「医師と患者のための メタボ時代の新しい肝臓病」を発刊したのは,4年前の2012年6月でした。その2年前に那須塩原市にある国際医療福祉大学病院の人間ドックと肝臓病を主とする消化器外来に週1回従事し,驚いたのはBMI 30以上の高度肥満の人が多く,国際的に肝臓病で治療が困難な非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と推測される患者さんが多いことでした。外科主任教授 鈴木 裕教授のご協力のもと,看護部・検査部・病理部・栄養管理課などさまざまな部局の理解と支援・応援を得て3年前の2013年春にNASH教育入院を立ち上げました。この病気は,肝硬変に進展し,さらに少なくとも10%は肝癌をきたすことが知られており,その機序を解明すべく,北里大学医療センター内科 横森弘昭教授の免疫組織化学的光顕および電顕による共同研究を行うことを医の倫理委員会に申請,その承認を得て研究を行ってきました。
本書は,過去3年間にわたる取組みの報告書ともいうべきものです。最終目的はNASHの治療で,正常肝に回復することです。数年の観察では,そこまでは追うことはできませんが,肝生検を施行して病理学的にNASHと診断した30例の患者さんについて,肝細胞に局在が特異的とされるALTや胆道系酵素といわれるγ-GTP高値の患者さんが正常値に回復する,腹部超音波で脂肪肝の所見がみられなくなる,肝幹・前駆細胞の誘導に関与するとされるサイトカインの動きなどを観察しながら患者さんを治療しました。気付いたことは,海外のRCTの有名論文を鵜呑みにできないことです。私は治療で曙光を見出した感を持っています。
私どもは1974年Natureに肝臓のコラゲナーゼを発表して以来,肝線維化改善を目指して研究してきました。今回の研究で,横森教授は世界で初めて免疫電顕でmatrix metalloproteinase-1(MMP-1)酵素がCaveolaに局在することを明らかにし,NASHで線維化がみられる症例では,MMP-1の発現が肝前駆細胞にみられ,増悪に関与していました。MMP-1は齧歯類に存在せず,MMP-1はヒトへの高等動物として分化する過程で獲得され,単なるコラーゲンの特異的分解酵素でなく,脱分化(dedifferentiation;未分化の細胞へ転換)のシグナルと考えてよいのではという印象を深くしました。MMP-1の発現が肝硬変・肝癌へと慢性化につながっていくと考えられました。
患者さんの診療内容を一部にしても公開するに当たり,倫理委員会で審議していただき,患者さんが同定されないように配慮しました。患者さんへの説明と同意の下に出版します。
本書の出版に当たり,同意下さった患者さん,共同研究者の執筆協力者,予防医学センター,内科外来,事務の皆様方のご理解とご協力,出版をご許可下さったことに深く感謝申し上げます。
ここまで研究を続けられたのは家族の理解があってであり,妻に本書を捧げ,深く感謝の意を表します。
読者の諸先生には本書について御批判・ご叱正をいただけますように宜しくご教示をお願いします。
2016年4月
国際医療福祉大学・順和会山王病院内科
岡﨑 勲
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目次
第1章 NASHを識る
NASHってご存知ですか?
脂肪肝はどういう機序で起きるの?
脂肪肝形成機序から発展したNASHの遺伝子研究
病理所見でNAFLDとNASHはどう違うのか
NASHの臨床像に特徴はあるか
NASH患者の自然免疫・獲得免疫
第2章 NASH教育入院の開始
第3章 自験例でみる診断と治療①:わずかな線維化の早期NASH症例
肥満がないといってよい4症例
BMI 30以上の早期NASH症例
第4章 自験例でみる診断と治療②:糖代謝異常を示す,その他の合併症を有するNASH症例
糖代謝異常を示すNASH症例
その他の合併症を有するNASH症例
NASHでなかった高γ-GTP血症の2症例
第5章 自験例でみるNASH肝癌症例
第6章 NASH研究の現況とNASHの特異性
肝線維化研究の最近の進歩
プロテアーゼからの線維化改善の研究
NASHにおける肝線維化機序
NASH繊維化におけるプロテアーゼの研究現況
第7章 NASHの治療はどのように取り組むか:体重のコントロールと身体活動
第8章 NASHの薬物療法:薬剤の選択,効果判定をどうするか
第9章 NASHからの肝癌発生研究
NASHからの肝癌発生研究
NASH肝癌に見られるプロテアーゼの役割
第10章 筆者らの研究
NASHってご存知ですか?
脂肪肝はどういう機序で起きるの?
脂肪肝形成機序から発展したNASHの遺伝子研究
病理所見でNAFLDとNASHはどう違うのか
NASHの臨床像に特徴はあるか
NASH患者の自然免疫・獲得免疫
第2章 NASH教育入院の開始
第3章 自験例でみる診断と治療①:わずかな線維化の早期NASH症例
肥満がないといってよい4症例
BMI 30以上の早期NASH症例
第4章 自験例でみる診断と治療②:糖代謝異常を示す,その他の合併症を有するNASH症例
糖代謝異常を示すNASH症例
その他の合併症を有するNASH症例
NASHでなかった高γ-GTP血症の2症例
第5章 自験例でみるNASH肝癌症例
第6章 NASH研究の現況とNASHの特異性
肝線維化研究の最近の進歩
プロテアーゼからの線維化改善の研究
NASHにおける肝線維化機序
NASH繊維化におけるプロテアーゼの研究現況
第7章 NASHの治療はどのように取り組むか:体重のコントロールと身体活動
第8章 NASHの薬物療法:薬剤の選択,効果判定をどうするか
第9章 NASHからの肝癌発生研究
NASHからの肝癌発生研究
NASH肝癌に見られるプロテアーゼの役割
第10章 筆者らの研究
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静かに迫りくるNASHを見逃さず治療するために
外来でみられる代表的な症例とNASHから肝癌へ進行した症例,合わせて30症例について受診から現在までの経過を追いながら,生活習慣との関連,治療薬の奏功などを含め治療の考え方について解説。読者が,自身の受け持ち患者と照らし合わせ,治療に活かせるような内容となっている。