呼吸リハビリテーションの理論と技術
改訂第2版
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定価 5,720円(税込) (本体5,200円+税)
- B5変型判 264ページ 2色(一部カラー),イラスト213点,写真190点
- 2014年12月25日刊行
- ISBN978-4-7583-1495-4
序文
第2版 序文
呼吸器障害者のリハビリテーションの目的は運動耐用能の向上と呼吸困難感の減弱であり,これにより患者の生活の質も向上する。近年,運動耐用能の向上の維持を鑑み,日常生活動作の活動量を計測し,日常活動への寄与を主体に考える身体運動療法の推進が行われている。しかしながら,運動耐用能を高めるためのトレーニングは呼吸困難感を増強させてしまい,多くの患者は効果的な運動強度に上げる前に呼吸困難感を覚え,運動が制限されてしまう問題を抱えてもいる。
呼吸器障害のリハビリテーションで最も悩まされる訴えは,この「呼吸困難感」ではないだろうか。呼吸困難感は身体を護るための防御反応ではあるが,感覚の一つであり,その感じ方はさまざまで経験値によっても左右される閾値反応でもある。
呼吸器障害患者では,横隔膜呼吸を行おうにも,胸郭が硬くなりその可動性が低下し,呼吸補助筋を多用しての呼吸となる。胸郭の呼吸運動障害を伴うと身体の中心である体幹の機能も低下させる要因となり身体そのものの制御が難しくなり,「呼吸困難感」と相まって日常生活レベルにおいても早期に疲労を感じてしまう。
本書では,呼吸筋が身体の支持構成筋であることを念頭に,呼吸運動を司るchest wallという胸郭ボックスの活用を有効にするための呼吸運動療法を主軸として構成した。
本来,外呼吸である換気は身体の産業廃棄物である二酸化炭素を廃棄し,体内の酸塩基平衡を調節し,生体反応を正しくコントロールする役目を担っている。しかし,この目的のほかにも呼吸は随意的に深さや早さを変え,悲しみや喜びなどの感情すなわち情動によっても不随意的に変化する。そこに人間らしさがあると共に調節の難しさがある点にも注目し,「呼吸困難感」を呼吸リハビリテーションの中心にすえて構成を試みた。
初版を刊行した後においても,呼吸リハビリテーションの理論と技術の躍進は目覚しいものがあり,今回新たな視点を入れた理論と技術を考える機会を得た。運動耐用能向上から日常生活動作への活性化を目指した方法論などが充実し,周術期のベッドサイドで行われてきた呼吸理学療法を取り巻く環境も,単に早期離床を促すのではなく,より健康な状態での離床に寄与する急性期呼吸理学療法として,この十数年で大きく変化した。
本書では,まず呼吸のメカニズムを理解し,呼吸困難対策を行いながら実施すべき呼吸リハビリテーションを,医学の基礎研究者である生理学の先生方と医療の管理指示者である医師とコンディショニングを確立する技術者である理学療法士のコラボレーションチームにより,ご執筆いただいた。
本書の編集に当たりご尽力頂いたメジカルビュー社 間宮卓治氏に心より感謝申し上げる。
本書が,呼吸リハビリテーションに携わられる方々に,呼吸器障害患者さんを迎え入れる参考図書としてご活用いただければ幸いである。
2014年11月
本間生夫
田中一正
柿崎藤泰
呼吸器障害者のリハビリテーションの目的は運動耐用能の向上と呼吸困難感の減弱であり,これにより患者の生活の質も向上する。近年,運動耐用能の向上の維持を鑑み,日常生活動作の活動量を計測し,日常活動への寄与を主体に考える身体運動療法の推進が行われている。しかしながら,運動耐用能を高めるためのトレーニングは呼吸困難感を増強させてしまい,多くの患者は効果的な運動強度に上げる前に呼吸困難感を覚え,運動が制限されてしまう問題を抱えてもいる。
呼吸器障害のリハビリテーションで最も悩まされる訴えは,この「呼吸困難感」ではないだろうか。呼吸困難感は身体を護るための防御反応ではあるが,感覚の一つであり,その感じ方はさまざまで経験値によっても左右される閾値反応でもある。
呼吸器障害患者では,横隔膜呼吸を行おうにも,胸郭が硬くなりその可動性が低下し,呼吸補助筋を多用しての呼吸となる。胸郭の呼吸運動障害を伴うと身体の中心である体幹の機能も低下させる要因となり身体そのものの制御が難しくなり,「呼吸困難感」と相まって日常生活レベルにおいても早期に疲労を感じてしまう。
本書では,呼吸筋が身体の支持構成筋であることを念頭に,呼吸運動を司るchest wallという胸郭ボックスの活用を有効にするための呼吸運動療法を主軸として構成した。
本来,外呼吸である換気は身体の産業廃棄物である二酸化炭素を廃棄し,体内の酸塩基平衡を調節し,生体反応を正しくコントロールする役目を担っている。しかし,この目的のほかにも呼吸は随意的に深さや早さを変え,悲しみや喜びなどの感情すなわち情動によっても不随意的に変化する。そこに人間らしさがあると共に調節の難しさがある点にも注目し,「呼吸困難感」を呼吸リハビリテーションの中心にすえて構成を試みた。
初版を刊行した後においても,呼吸リハビリテーションの理論と技術の躍進は目覚しいものがあり,今回新たな視点を入れた理論と技術を考える機会を得た。運動耐用能向上から日常生活動作への活性化を目指した方法論などが充実し,周術期のベッドサイドで行われてきた呼吸理学療法を取り巻く環境も,単に早期離床を促すのではなく,より健康な状態での離床に寄与する急性期呼吸理学療法として,この十数年で大きく変化した。
本書では,まず呼吸のメカニズムを理解し,呼吸困難対策を行いながら実施すべき呼吸リハビリテーションを,医学の基礎研究者である生理学の先生方と医療の管理指示者である医師とコンディショニングを確立する技術者である理学療法士のコラボレーションチームにより,ご執筆いただいた。
本書の編集に当たりご尽力頂いたメジカルビュー社 間宮卓治氏に心より感謝申し上げる。
本書が,呼吸リハビリテーションに携わられる方々に,呼吸器障害患者さんを迎え入れる参考図書としてご活用いただければ幸いである。
2014年11月
本間生夫
田中一正
柿崎藤泰
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目次
Ⅰ.生理学の知識
呼吸器系の基本構造と弾性的性質 山田峰彦
■呼吸の目的
■呼吸器系の基本構造
■呼吸器系の基本的な働き
■換気のメカニクス
肺における換気とガス交換 山田峰彦
■換気とガス交換の理解に必要な基礎知識
■換気とガス交換の生理学
血液による酸素と二酸化炭素の運搬の仕組み 泉崎雅彦
■酸素(O2)の運搬
■二酸化炭素(CO2)の運搬
呼吸中枢と呼吸調節 本間生夫
■呼吸運動出力と下降経路
■呼吸調節
呼吸困難感のメカニズム 泉崎雅彦
■呼吸困難感のメカニズム
■motor command theory
■呼吸困難感発生に対する受容器の関与
■末梢ミスマッチによる呼吸困難感
調息 −心と呼吸の関わりからの検討− 政岡ゆり
■呼吸に関連した3つの脳内部位
■情動と呼吸
■社会のなかでの呼吸
Ⅱ.診断と評価
呼吸のフィジカルアセスメント 成島道昭
■身体診察の手順
■主要徴候
呼吸機能検査 桑平一郎
■肺気量分画の測定
■フローボリューム曲線
■N2洗い出し曲線
■拡散能力
運動負荷検査・身体活動量計測 中山秀章
■身体活動と運動
■運動と運動耐容能
■運動負荷検査
■身体活動量計測
画像診断 金子教宏
■胸部X線像の基本的な読み方
■異常陰影の読み方
■胸部CT像の基本的な読み方
■病態と画像診断
Ⅲ.理論と技術
発作性呼吸障害 桂 秀樹
■気管支喘息の疾患概念
■気管支喘息に対する呼吸リハビリテーション
■気管支喘息に対する呼吸リハビリテーション・プログラム
■まとめ
閉塞性換気障害 高橋仁美・塩谷隆信
■COPDの概念と定義
■COPDの病態生理
■COPDの病期分類と安定期の管理
■COPDに対する呼吸リハビリテーション
■COPDに対する呼吸リハビリテーションの評価
■COPDに対する呼吸リハビリテーションのエビデンス
拘束性換気障害 玉木 彰
■拘束性換気障害の病態
■拘束性換気障害を呈する疾患
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーション
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーションの評価
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーションの実際
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーションのエビデンス
急性期呼吸理学療法 安藤守秀
■急性期呼吸理学療法(急性期呼吸リハビリテーション)とは
■急性期呼吸理学療法のエビデンス
■急性期呼吸理学療法の対象疾患
■急性期呼吸理学療法に用いられる手技
■リクルートメントと気道管理
■急性期呼吸理学療法の実施の形態
■急性期呼吸理学療法の理論
■酸素化の障害とそのコントロール
■換気の障害とそのコントロール
■呼吸管理に関連した合併症の防止のために
■まとめ
急性期呼吸理学療法(小児) 木原秀樹
■新生児・小児における呼吸の特徴
■新生児・小児の呼吸器疾患と治療
■新生児・小児の急性期呼吸理学療法の目的と評価
■新生児・小児の急性期呼吸理学療法の手順と方法
■新生児・小児の急性期呼吸理学療法の禁忌とリスク
■症例呈示
■NICUにおける呼吸理学療法のガイドラインの概要
小児 石川悠加・三浦利彦
■代表的疾患の病態生理
■理学療法の特徴
■評価
■理学療法プログラム
■効果と限界
■症例呈示
Ⅳ.手技
肺拡張療法と排痰法 高田順子
■肺拡張療法と排痰法の定義と目的
■肺拡張療法と排痰法に必要な知識
■肺拡張療法
■排痰法
気道吸引 鵜澤吉宏
■気道吸引の定義と種類
■気道吸引の適応
■気道吸引の流れ
コンディショニング 角本貴彦
■コンディションの評価
■コンディショニングの一例−ポジショニング
■代表的な呼吸法のコントロール
■呼吸筋トレーニング
■シクソトロピーストレッチ
呼吸運動療法 柿崎藤泰
■呼吸器の機能を再建する意義
■横隔膜の機能を高める方法
■胸郭の機能を高める方法
Ⅴ.付録
呼吸リハビリテーションのEBM 宮川哲夫
■EBMとは何か
■EBMに基づいた呼吸リハビリテーションガイドライン
■胸呼吸リハビリテーションにおけるメタ分析とシステマティックレビュー
呼吸器系の基本構造と弾性的性質 山田峰彦
■呼吸の目的
■呼吸器系の基本構造
■呼吸器系の基本的な働き
■換気のメカニクス
肺における換気とガス交換 山田峰彦
■換気とガス交換の理解に必要な基礎知識
■換気とガス交換の生理学
血液による酸素と二酸化炭素の運搬の仕組み 泉崎雅彦
■酸素(O2)の運搬
■二酸化炭素(CO2)の運搬
呼吸中枢と呼吸調節 本間生夫
■呼吸運動出力と下降経路
■呼吸調節
呼吸困難感のメカニズム 泉崎雅彦
■呼吸困難感のメカニズム
■motor command theory
■呼吸困難感発生に対する受容器の関与
■末梢ミスマッチによる呼吸困難感
調息 −心と呼吸の関わりからの検討− 政岡ゆり
■呼吸に関連した3つの脳内部位
■情動と呼吸
■社会のなかでの呼吸
Ⅱ.診断と評価
呼吸のフィジカルアセスメント 成島道昭
■身体診察の手順
■主要徴候
呼吸機能検査 桑平一郎
■肺気量分画の測定
■フローボリューム曲線
■N2洗い出し曲線
■拡散能力
運動負荷検査・身体活動量計測 中山秀章
■身体活動と運動
■運動と運動耐容能
■運動負荷検査
■身体活動量計測
画像診断 金子教宏
■胸部X線像の基本的な読み方
■異常陰影の読み方
■胸部CT像の基本的な読み方
■病態と画像診断
Ⅲ.理論と技術
発作性呼吸障害 桂 秀樹
■気管支喘息の疾患概念
■気管支喘息に対する呼吸リハビリテーション
■気管支喘息に対する呼吸リハビリテーション・プログラム
■まとめ
閉塞性換気障害 高橋仁美・塩谷隆信
■COPDの概念と定義
■COPDの病態生理
■COPDの病期分類と安定期の管理
■COPDに対する呼吸リハビリテーション
■COPDに対する呼吸リハビリテーションの評価
■COPDに対する呼吸リハビリテーションのエビデンス
拘束性換気障害 玉木 彰
■拘束性換気障害の病態
■拘束性換気障害を呈する疾患
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーション
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーションの評価
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーションの実際
■拘束性換気障害に対する呼吸リハビリテーションのエビデンス
急性期呼吸理学療法 安藤守秀
■急性期呼吸理学療法(急性期呼吸リハビリテーション)とは
■急性期呼吸理学療法のエビデンス
■急性期呼吸理学療法の対象疾患
■急性期呼吸理学療法に用いられる手技
■リクルートメントと気道管理
■急性期呼吸理学療法の実施の形態
■急性期呼吸理学療法の理論
■酸素化の障害とそのコントロール
■換気の障害とそのコントロール
■呼吸管理に関連した合併症の防止のために
■まとめ
急性期呼吸理学療法(小児) 木原秀樹
■新生児・小児における呼吸の特徴
■新生児・小児の呼吸器疾患と治療
■新生児・小児の急性期呼吸理学療法の目的と評価
■新生児・小児の急性期呼吸理学療法の手順と方法
■新生児・小児の急性期呼吸理学療法の禁忌とリスク
■症例呈示
■NICUにおける呼吸理学療法のガイドラインの概要
小児 石川悠加・三浦利彦
■代表的疾患の病態生理
■理学療法の特徴
■評価
■理学療法プログラム
■効果と限界
■症例呈示
Ⅳ.手技
肺拡張療法と排痰法 高田順子
■肺拡張療法と排痰法の定義と目的
■肺拡張療法と排痰法に必要な知識
■肺拡張療法
■排痰法
気道吸引 鵜澤吉宏
■気道吸引の定義と種類
■気道吸引の適応
■気道吸引の流れ
コンディショニング 角本貴彦
■コンディションの評価
■コンディショニングの一例−ポジショニング
■代表的な呼吸法のコントロール
■呼吸筋トレーニング
■シクソトロピーストレッチ
呼吸運動療法 柿崎藤泰
■呼吸器の機能を再建する意義
■横隔膜の機能を高める方法
■胸郭の機能を高める方法
Ⅴ.付録
呼吸リハビリテーションのEBM 宮川哲夫
■EBMとは何か
■EBMに基づいた呼吸リハビリテーションガイドライン
■胸呼吸リハビリテーションにおけるメタ分析とシステマティックレビュー
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「呼吸」「呼吸困難感」を生理学的に理解し,呼吸リハビリテーションに活かすための理論と技術を集約
初版『呼吸運動療法の理論と技術』を最新の知見に基づき改訂,新規項目として「調息(呼吸と心理の関わり)」「画像診断」「吸引」などを追加した1冊である。
呼吸器障害のある患者の社会復帰を妨げる大きな因子として「呼吸困難感」がある。「呼吸困難感」を訴えるときの患者の表現は様々であるが,これにより日常生活活動が制限され,またしばしば呼吸リハビリテーションの最中に手技・訓練が中断する。呼吸不全を呈した場合の呼吸困難による活動制限と,呼吸不全がないにもかかわらず起こる呼吸困難感による活動制限の違いに留意しながら,なぜ「息苦しい」が起こるのか(理論),どうすればその「息苦しい」を取り除くことができるのか(技術),「息苦しさ」をやわらげる呼吸リハビリテーションの理論と技術の実際について,わかりやすく解説している。