股関節骨切り術のすべて
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定価 20,900円(税込) (本体19,000円+税)
- A4判 352ページ 上製,オールカラー,イラスト350点,写真150点
- 2013年11月28日刊行
- ISBN978-4-7583-1358-2
序文
世界でも類を見ない勢いで人口の高齢化が進む我が国は,一方で少子化も留まるところを知らずに進行し,人口構成の逆ピラミッド化が医療や社会保障制度の将来を大きく変えようとしている。平均寿命と身体の移動能力を有し,自分の身の回りの面倒を自力でできる健康寿命の間には10年ほどの開きがある。すなわち人生最後の10年間を寝たきりで過ごさざるを得ない高齢者が増加しているのである。寝たきりの原因の多くは脳卒中に次いで骨・関節などの運動器疾患や外傷である。
このようななか,日本整形外科学会ではロコモティブシンドロームの概念を提唱し,骨,関節,筋・神経などの機能低下をいち早く見つけて,その機能維持・向上を目指した運動を展開している。その趣旨が十分に国民に理解され寝たきり高齢者が減少することを期待したい。しかし,一方ではリハビリテーション,運動療法などの保存的な治療あるいは療養だけでは解決できず,観血的な治療を必要とする骨や関節の疾患があり,特に近年の人口の高齢化に伴って増加している事実を無視することはできない。
股関節は体幹と下肢を結合し優れた運動機能と支持機構を有する球関節である。その機能の低下あるいは障害は,即座に起立姿勢の保持力,歩行を含めた運動・移動能力の低下を引き起こして日常生活を破綻させる。股関節疾患は小児から高齢者まであらゆる年齢層に発生し,先天性,発育性疾患や,感染,代謝障害,血流障害などの原因で起こる小児の股関節疾患は,適切な時期に適切な観血的な治療が行われないと,将来的に変形性関節症の原因となることが多い。青壮年期の股関節にも小児期の何らかの疾患や外傷の遺残変形や変形性関節症や,血流障害による骨壊死などが多く発生する。
特に近年増加傾向にある中高年や高齢者の股関節疾患や外傷は寝たきりの原因として注目され,適切な時期に適切な適応に基づいた治療が要求される。近年の人工股関節の普及は高齢者の股関節疾患の治療を大きく変化させ,高齢者の健康寿命の延長に貢献している。しかし,一方では適応年齢の引き下げによって繰り返す悲惨な再置換術が増加していることも事実である。青壮年期の股関節疾患ではいたずらに人工関節に走ることなく,骨切りを含めた何らかの関節温存手術を検討するべきである。
本書の目的は,「股関節骨切り術のすべて」を網羅することで,いかなる骨切り術をすることで関節温存が可能かを理解し,その原理と手技に対する整形外科医の理解をより一層深いものにすることである。従って,成人だけでなく小児の股関節疾患も取り上げ,基本となる解剖から,各々の手術手技について,その道に最も精通した著者に執筆していただいた。骨切り術の特徴,適応,骨切り部へのアプローチ,手術手技の実際についての,視覚的にも解りやすいカラー図版を豊富に用いた解説に留まらず,術後のリハビリテーションについても丁寧に記載していただいた。また随所に,pitfall的な事項を記載した『先達に学ぶ』を配置して注意を促し,最後に『骨切りのコツ』でそのエッセンスを短くまとめていただいた。
股関節の骨切り術のすべてをまとめた書はまだない。本書が,整形外科研修医,股関節外科医を目指す若い整形外科医の座右の書として大いに参考になるものと期待している。本書の執筆に貴重な時間を割いていただいた著者に心から感謝申し上げる。
最後に本書の編集から出版までご尽力いただいたメジカルビュー社編集部の苅谷竜太郎氏に感謝する。
平成25年11月
糸満盛憲
このようななか,日本整形外科学会ではロコモティブシンドロームの概念を提唱し,骨,関節,筋・神経などの機能低下をいち早く見つけて,その機能維持・向上を目指した運動を展開している。その趣旨が十分に国民に理解され寝たきり高齢者が減少することを期待したい。しかし,一方ではリハビリテーション,運動療法などの保存的な治療あるいは療養だけでは解決できず,観血的な治療を必要とする骨や関節の疾患があり,特に近年の人口の高齢化に伴って増加している事実を無視することはできない。
股関節は体幹と下肢を結合し優れた運動機能と支持機構を有する球関節である。その機能の低下あるいは障害は,即座に起立姿勢の保持力,歩行を含めた運動・移動能力の低下を引き起こして日常生活を破綻させる。股関節疾患は小児から高齢者まであらゆる年齢層に発生し,先天性,発育性疾患や,感染,代謝障害,血流障害などの原因で起こる小児の股関節疾患は,適切な時期に適切な観血的な治療が行われないと,将来的に変形性関節症の原因となることが多い。青壮年期の股関節にも小児期の何らかの疾患や外傷の遺残変形や変形性関節症や,血流障害による骨壊死などが多く発生する。
特に近年増加傾向にある中高年や高齢者の股関節疾患や外傷は寝たきりの原因として注目され,適切な時期に適切な適応に基づいた治療が要求される。近年の人工股関節の普及は高齢者の股関節疾患の治療を大きく変化させ,高齢者の健康寿命の延長に貢献している。しかし,一方では適応年齢の引き下げによって繰り返す悲惨な再置換術が増加していることも事実である。青壮年期の股関節疾患ではいたずらに人工関節に走ることなく,骨切りを含めた何らかの関節温存手術を検討するべきである。
本書の目的は,「股関節骨切り術のすべて」を網羅することで,いかなる骨切り術をすることで関節温存が可能かを理解し,その原理と手技に対する整形外科医の理解をより一層深いものにすることである。従って,成人だけでなく小児の股関節疾患も取り上げ,基本となる解剖から,各々の手術手技について,その道に最も精通した著者に執筆していただいた。骨切り術の特徴,適応,骨切り部へのアプローチ,手術手技の実際についての,視覚的にも解りやすいカラー図版を豊富に用いた解説に留まらず,術後のリハビリテーションについても丁寧に記載していただいた。また随所に,pitfall的な事項を記載した『先達に学ぶ』を配置して注意を促し,最後に『骨切りのコツ』でそのエッセンスを短くまとめていただいた。
股関節の骨切り術のすべてをまとめた書はまだない。本書が,整形外科研修医,股関節外科医を目指す若い整形外科医の座右の書として大いに参考になるものと期待している。本書の執筆に貴重な時間を割いていただいた著者に心から感謝申し上げる。
最後に本書の編集から出版までご尽力いただいたメジカルビュー社編集部の苅谷竜太郎氏に感謝する。
平成25年11月
糸満盛憲
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目次
1. 骨切り術に必要な股関節の解剖
骨切り術に必要な股関節の解剖 安永裕司ほか
2. 骨盤の骨切り術
臼蓋形成術(Spitzy法) 飯田寛和
寛骨臼移動術 神宮司誠也
寛骨臼回転骨切り術(田川) 兼氏 歩ほか
偏心性寛骨臼回転骨切り術 長谷川幸治
Bernese Periacetabular Osteotomy(PAO) 帖佐悦男
MIS-Curved Periacetabular Osteotomy 内藤正俊ほか
Chiari骨盤骨切り術の原法(前外側進入法) 糸満盛憲
3. 大腿骨側の骨切り術
楔状内反骨切り術(Pauwels I) 藤代高明ほか
楔状外反骨切り術(Pauwels II) 大澤 傑
転子間弯曲内反骨切り術 中島康晴ほか
大腿骨外反伸展骨切り術(Bombelli) 北原 洋ほか
杉岡式転子部外反骨切り術 原 俊彦
外反屈曲骨切り術(糸満) 高平尚伸ほか
大腿骨頭前方回転骨切り術(杉岡) 山本卓明ほか
大腿骨頭後方回転骨切り術 渥美 敬
4. FAIと手術療法
FAI(Femoroacetabular impingement)に対する手術療法の考え方と手技 中村好成ほか
5. 小児期の股関節骨切り術
小児股関節の解剖 日下部虎夫ほか
DDH・Perthes病に対するSalter手術 森田光明ほか
DDH・Perthes病に対するPemberton骨盤骨切り術 和田晃房
Perthes病に対する大腿骨内反骨切り術 谷野弘昌ほか
大腿骨頭すべり症に対する骨頭下頚部骨切り術 内山勝文ほか
大腿骨頭すべり症に対する転子間三次元骨切り術(Imhäuser) 三谷 茂ほか
大腿骨頭すべり症に対する転子部骨切り術
–新しい技術で計画する屈曲を主体とした三次元骨切り術- 大谷卓也ほか
大腿骨頭すべり症に対する大腿骨頭回転骨切り術 中島康晴ほか
6. 骨切り術既往歴のある症例・高位脱臼股に対するTHA
寛骨臼回転骨切り術症例に対するTHA 名越 智
Chiari骨盤骨切り術症例に対するTHA 瓜生拓也ほか
大腿骨短縮骨切りによるTHA 園畑素樹ほか
overlapping法によるTHA 福島健介ほか
骨切り術に必要な股関節の解剖 安永裕司ほか
2. 骨盤の骨切り術
臼蓋形成術(Spitzy法) 飯田寛和
寛骨臼移動術 神宮司誠也
寛骨臼回転骨切り術(田川) 兼氏 歩ほか
偏心性寛骨臼回転骨切り術 長谷川幸治
Bernese Periacetabular Osteotomy(PAO) 帖佐悦男
MIS-Curved Periacetabular Osteotomy 内藤正俊ほか
Chiari骨盤骨切り術の原法(前外側進入法) 糸満盛憲
3. 大腿骨側の骨切り術
楔状内反骨切り術(Pauwels I) 藤代高明ほか
楔状外反骨切り術(Pauwels II) 大澤 傑
転子間弯曲内反骨切り術 中島康晴ほか
大腿骨外反伸展骨切り術(Bombelli) 北原 洋ほか
杉岡式転子部外反骨切り術 原 俊彦
外反屈曲骨切り術(糸満) 高平尚伸ほか
大腿骨頭前方回転骨切り術(杉岡) 山本卓明ほか
大腿骨頭後方回転骨切り術 渥美 敬
4. FAIと手術療法
FAI(Femoroacetabular impingement)に対する手術療法の考え方と手技 中村好成ほか
5. 小児期の股関節骨切り術
小児股関節の解剖 日下部虎夫ほか
DDH・Perthes病に対するSalter手術 森田光明ほか
DDH・Perthes病に対するPemberton骨盤骨切り術 和田晃房
Perthes病に対する大腿骨内反骨切り術 谷野弘昌ほか
大腿骨頭すべり症に対する骨頭下頚部骨切り術 内山勝文ほか
大腿骨頭すべり症に対する転子間三次元骨切り術(Imhäuser) 三谷 茂ほか
大腿骨頭すべり症に対する転子部骨切り術
–新しい技術で計画する屈曲を主体とした三次元骨切り術- 大谷卓也ほか
大腿骨頭すべり症に対する大腿骨頭回転骨切り術 中島康晴ほか
6. 骨切り術既往歴のある症例・高位脱臼股に対するTHA
寛骨臼回転骨切り術症例に対するTHA 名越 智
Chiari骨盤骨切り術症例に対するTHA 瓜生拓也ほか
大腿骨短縮骨切りによるTHA 園畑素樹ほか
overlapping法によるTHA 福島健介ほか
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股関節の骨切り手技をこの一冊に凝縮!
股関節の骨切り術は股関節において人工関節置換術と並ぶ大きなテーマである。本書では骨盤の骨切り術,大腿骨の骨切り術に加え,小児例,骨切り術後のTHA例などの各手術の手技を精緻なイラストと共に詳説する。
疾患の進行期,患者の年齢などによってどの手技が適応となるか,どう展開するか,ブラインドでの骨切りをどう進めるか,予後と追跡調査をどうするか,など手術を行ううえでのポイントとコツを豊富に記載した本書は股関節骨切り術を用いる医師すべてに訴求力のある「股関節機能を快復させる手術手技」を徹底解説した,本分野におけるスタンダードである。