眼科外来処置・小手術クローズアップ

　忙しい毎日の外来の中で，多彩な疾患の診察に当たっている際に，「ちょっと検体取って検鏡やPCRをすれば診断に役立つけどアレはどうやるんだったかなー」とか，「この疾患治療にはこんな処置や注射が有効って聞いたけど，下手にやるとトラブルになるから，もうちょっと調べてからやろうかな？」とその場では思い，時間も限られているし，今日は忙しいから次回やりましょうと声を掛けて（頭の中で考え・・）その日の外来を済まし，時が経ってみると，結局は何もせずにただ漫然と抗菌薬やステロイドの点眼を延々と処方していた。こんな経験をしたり，患者さんを診たりしたこと皆さん有りませんか？さらには，一日の外来が終わってから思い出して自分で勉強する方はまだしも，面倒くさいとばかりにちょっと手間のかかる患者さんは大学や地域の基幹病院にすべて送ってしまい，病態解明や優れた治療法の習得には端から興味を抱かない眼科医もどうやら世の中には意外と存在するらしいのです。眼科医としての価値観は私が云々する内容ではありませんが，未だ若いこの本の読者には（高齢でも構いませんが・・），多くの疾患の病態にもう一歩踏み込んで検索，考慮し，より適切な治療法を選択したうえでスマートな治療技術を用いて患者さんの治療にあたってほしい。そのような学習と経験が，患者のみならず眼科医自身の成長にも大きく役立つことを実感してほしい。それが本書を作成した目的です。
　病気を解説する本は山ほどあり，難しい手術を解説する本も山積みです。でも，日ごろ皆さんが毎日，眼科外来や処置室で毎日行っておられる診療行為や処置行為の，あるいは先輩から「アレやっといて」と軽く言われたちょっとした手術に関する適応決定，セットアップや手術手技，さらには古典的な検査法や診断器具なのに意外と知らない使い方やキャリブレーションと正常値等々に関し，まとめて記載された本や便覧は意外と手に入りにくいのが現状です。本書はこれらの項目に関し，若い優秀な臨床医や研究者にイラストと共に解り易い解説をお願いいたしました。ちょっと欲張ってカルテや手術・処置同意書，検査処置におけるリスクマネージメントも盛り込ませていただきました。毎日外来や処置室で行う何て事のない診察行為や処置，外眼部手術，つまり眼科医として当たり前のことを当たり前に行う難しさと準備の必要性を本書を通じて感じていただけたなら編者として望外の幸せです。

　蛇足になりますが，本書の隠れたもう一つの目的は，大分くたびれてきた我々世代の眼科医が，本書に一文を寄せていただいた若く優秀な先生達の知識や技術を効率良く会得，吸収し，まだまだ若い奴には負けないぞ，と大きな顔をさらに大きく保つ事でもあります。お若くないあなた，この本意外と面白いですよ。

2013年12月
江口秀一郎