石井先生に聞いてみよう患者の気持ち
糖尿病診療よろづ相談
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定価 5,280円(税込) (本体4,800円+税)
- B5判 244ページ オールカラー
- 2010年5月24日刊行
- ISBN978-4-7583-0165-7
電子版
序文
糖尿病の治療に携わると,それまで自分たちが習得してきた医学では対応できないところがあることに気づきます。
通常の医学的方法は,症状(ある疾患の疑い),検査,診断,治療という流れで行い,医療者が治療方針をいくつか提示し,説明のうえ,「この方針で行きましょう」という形をとります。
ところが,糖尿病臨床の現場ではそうはいかないことに気づかされるのです。糖尿病治療には毎日の食事や運動が基礎になりますが,それは患者さんの“私有物”であって,「教えられたようにはしたくない」,「教えられたようにはできない」ということが常に発生するのです。
つまり,糖尿病の治療には,その病態に基づく治療法という科学的な側面とともに,糖尿病をもつ“ひと”という視点が必要なのです。糖尿病をもって生きていくことをどのように考えておられるか,どのように療養しようと思っておられるか,そのことがどのような治療ができるかを決めていく大きな要素なのです。
すなわち,糖尿病の治療は,科学的であると同時に心理的であり,こころの側面を扱っていく必要があるのです。糖尿病という病気中心ではなく,糖尿病をもつ人間にコミットしていく必要があるということです。すなわち,“糖尿病を持つひと”と“糖尿病医療をするひと”がどのように関わりあっていくかが問題となるのです。
私たちには私たちの糖尿病学があり,患者さんには患者さんの糖尿病学がある。
糖尿病を専門にしだして数年後だったと思いますが,そのことに気づきました。そして愕然としました。私は糖尿病について半分しか知らないのです。残り半分は患者さんが作る糖尿病学です。
それを勉強しなければならないと強く思いました。そこで1993年にジョスリン糖尿病センターのメンタルヘルス・ユニットに留学しました。そこで本当にたくさんのことを学びました。その一部は本書のなかにも紹介しています。
一人ひとりの患者さんにはそれぞれの人生物語があります。それが糖尿病とどのように折り合っていくのか,統合されていくのか。そこで新たな糖尿病物語が組み立てられていくわけですが,その過程をともに経験していくことこそ,私の糖尿病医としての道であることがわかってきました。
「できません」,「どうして私が」,「どうしたらいいのでしょう」,「わかっているのだけど辛くてね」,そのような糖尿病とこころを結びつける言葉にたくさん出会ってきました。
本書はそのような経験を綴ったものです。そのつど,どのように対応し,どのようになったかをお話ししています。その裏づけとして糖尿病の調査研究や前向き臨床試験,あるいは基礎研究など科学としての糖尿病学の知見やエビデンスをできるだけ取り入れ,理論的背景を明確にしました。
患者さんのナラティブとしての糖尿病,医学的なエビデンスに基づく糖尿病,そして医師−患者の治療的人間関係をベースにした糖尿病,それらを総合的に扱う領域として,「糖尿病医療学」を築きたいと考えてきましたが,本書はそれを具現化した実践書です。
早いもので医師になって35年になろうとしています。糖尿病が診療の中心になって25年が経過しました。その間,本当にたくさんの糖尿病とこころの物語を聞かせていただいたことに深く感謝をしております。本書が,糖尿病をもつひとに関わっていこうとする方々のお役に立てばと心から願っております。
最後になりましたが,本書は医学雑誌Mebioに「医師と患者のコミュニケーション」として連載されているものをまとめました。“遅筆堂”に所属する私の原稿をいつも読みやすい形にしていただき,またすばらしいイラストと図をつけていただいた編集部の加賀智子さんにこころより感謝します。
2010年5月吉日
天理よろづ相談所病院副院長 兼 内分泌内科部長
石井 均
通常の医学的方法は,症状(ある疾患の疑い),検査,診断,治療という流れで行い,医療者が治療方針をいくつか提示し,説明のうえ,「この方針で行きましょう」という形をとります。
ところが,糖尿病臨床の現場ではそうはいかないことに気づかされるのです。糖尿病治療には毎日の食事や運動が基礎になりますが,それは患者さんの“私有物”であって,「教えられたようにはしたくない」,「教えられたようにはできない」ということが常に発生するのです。
つまり,糖尿病の治療には,その病態に基づく治療法という科学的な側面とともに,糖尿病をもつ“ひと”という視点が必要なのです。糖尿病をもって生きていくことをどのように考えておられるか,どのように療養しようと思っておられるか,そのことがどのような治療ができるかを決めていく大きな要素なのです。
すなわち,糖尿病の治療は,科学的であると同時に心理的であり,こころの側面を扱っていく必要があるのです。糖尿病という病気中心ではなく,糖尿病をもつ人間にコミットしていく必要があるということです。すなわち,“糖尿病を持つひと”と“糖尿病医療をするひと”がどのように関わりあっていくかが問題となるのです。
私たちには私たちの糖尿病学があり,患者さんには患者さんの糖尿病学がある。
糖尿病を専門にしだして数年後だったと思いますが,そのことに気づきました。そして愕然としました。私は糖尿病について半分しか知らないのです。残り半分は患者さんが作る糖尿病学です。
それを勉強しなければならないと強く思いました。そこで1993年にジョスリン糖尿病センターのメンタルヘルス・ユニットに留学しました。そこで本当にたくさんのことを学びました。その一部は本書のなかにも紹介しています。
一人ひとりの患者さんにはそれぞれの人生物語があります。それが糖尿病とどのように折り合っていくのか,統合されていくのか。そこで新たな糖尿病物語が組み立てられていくわけですが,その過程をともに経験していくことこそ,私の糖尿病医としての道であることがわかってきました。
「できません」,「どうして私が」,「どうしたらいいのでしょう」,「わかっているのだけど辛くてね」,そのような糖尿病とこころを結びつける言葉にたくさん出会ってきました。
本書はそのような経験を綴ったものです。そのつど,どのように対応し,どのようになったかをお話ししています。その裏づけとして糖尿病の調査研究や前向き臨床試験,あるいは基礎研究など科学としての糖尿病学の知見やエビデンスをできるだけ取り入れ,理論的背景を明確にしました。
患者さんのナラティブとしての糖尿病,医学的なエビデンスに基づく糖尿病,そして医師−患者の治療的人間関係をベースにした糖尿病,それらを総合的に扱う領域として,「糖尿病医療学」を築きたいと考えてきましたが,本書はそれを具現化した実践書です。
早いもので医師になって35年になろうとしています。糖尿病が診療の中心になって25年が経過しました。その間,本当にたくさんの糖尿病とこころの物語を聞かせていただいたことに深く感謝をしております。本書が,糖尿病をもつひとに関わっていこうとする方々のお役に立てばと心から願っております。
最後になりましたが,本書は医学雑誌Mebioに「医師と患者のコミュニケーション」として連載されているものをまとめました。“遅筆堂”に所属する私の原稿をいつも読みやすい形にしていただき,またすばらしいイラストと図をつけていただいた編集部の加賀智子さんにこころより感謝します。
2010年5月吉日
天理よろづ相談所病院副院長 兼 内分泌内科部長
石井 均
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目次
I 告知
1 糖尿病であることを告げる時に
II 療養法
2 糖尿病のイメージは食事制限?−食事療法を考える−
3 食事療法をする気はありませんと言われたら
4 運動療法−運動は楽しいですか?−
5 運動はしていない、続かないという人へのカウンセリング法
6 診療に来なくなる中断症例への対応
7 お酒はどれくらい飲めますか?
8 適正飲酒が続けられるでしょうか?
9 ちょっと食べた(飲んだ)ことが罪悪感になって−再発予防を考える−
III 医師−患者関係を考える
10 先生は脅すばっかりじゃないですか
11 治療同盟を作る
12 自律性を育てる
IV 経口血糖降下薬治療
13 薬は飲みたくないです
14 きちんと服用することの難しさ
15 服用を正しく継続するための関係と工夫
V 糖尿病と合併症
16 まさか自分が
17 腎症はわからない
18 眼が一番心配です
19 大血管症−糖尿病が悪かったからでしょうか−
VI 低血糖
20 低血糖が怖いです
21 低血糖症状がありません。気がついたら病院でした
22 インスリンが変わってから夜の低血糖が怖くなくなり、活力がでてきました
VII 血糖自己測定(SMBG)
23 糖尿病がやっと自分のものになりました
24 血糖値を見たくない、見せたくない
25 セルフモニタリング、うまく利用して糖尿病をコントロール
VIII インスリン治療
26 インスリン治療が始まるとき、患者にとってのその意味
27 2型糖尿病患者へのインスリン治療導入−納得できましたから始めます−
28 ずいぶん便利になりました。これならば続けられます−インスリン治療とQOL−
IX こころの問題
29 なぜ私が糖尿病に−Why me?−
30 何を楽しみに生きていけばいいのですか
エピローグ −もう25年になりますな−
1 糖尿病であることを告げる時に
II 療養法
2 糖尿病のイメージは食事制限?−食事療法を考える−
3 食事療法をする気はありませんと言われたら
4 運動療法−運動は楽しいですか?−
5 運動はしていない、続かないという人へのカウンセリング法
6 診療に来なくなる中断症例への対応
7 お酒はどれくらい飲めますか?
8 適正飲酒が続けられるでしょうか?
9 ちょっと食べた(飲んだ)ことが罪悪感になって−再発予防を考える−
III 医師−患者関係を考える
10 先生は脅すばっかりじゃないですか
11 治療同盟を作る
12 自律性を育てる
IV 経口血糖降下薬治療
13 薬は飲みたくないです
14 きちんと服用することの難しさ
15 服用を正しく継続するための関係と工夫
V 糖尿病と合併症
16 まさか自分が
17 腎症はわからない
18 眼が一番心配です
19 大血管症−糖尿病が悪かったからでしょうか−
VI 低血糖
20 低血糖が怖いです
21 低血糖症状がありません。気がついたら病院でした
22 インスリンが変わってから夜の低血糖が怖くなくなり、活力がでてきました
VII 血糖自己測定(SMBG)
23 糖尿病がやっと自分のものになりました
24 血糖値を見たくない、見せたくない
25 セルフモニタリング、うまく利用して糖尿病をコントロール
VIII インスリン治療
26 インスリン治療が始まるとき、患者にとってのその意味
27 2型糖尿病患者へのインスリン治療導入−納得できましたから始めます−
28 ずいぶん便利になりました。これならば続けられます−インスリン治療とQOL−
IX こころの問題
29 なぜ私が糖尿病に−Why me?−
30 何を楽しみに生きていけばいいのですか
エピローグ −もう25年になりますな−
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石井均先生が糖尿病治療継続のためのコミュニケーションを明快に解説!
糖尿病患者が食事療法や運動,また薬物療法を続けることは決して容易ではない。「患者さんのためを思って治療しているのに,どうして患者さんは治療をやめてしまうのだろう」,そう感じたことのある医師必読の書である。「食事療法を続ける自身がありません」「薬は必要だと思うが飲みたくない」,こういった患者の言葉にはどんな気持ちが隠されているのか。それに医師はどう答えれば治療がうまくいくのか。また,なぜその治療が必要なのか,医師は患者に正しく情報を伝えられているだろうか。
糖尿病治療において,医師と患者のコミュニケーションは治療継続の重要な鍵である。臨床心理に基づく糖尿病治療の第一人者である石井均先生が,長年の経験に基づき,豊富な症例とデータから,医師と患者のコミュニケーションを明快に解説する。