姿勢を意識した

神経疾患患者の
食べられるポジショニング

神経疾患患者の 食べられるポジショニング

■監修 森若 文雄

■編集 内田 学

定価 4,180円(税込) (本体3,800円+税)
  • B5判  164ページ  2色,イラスト210点,写真90点
  • 2019年9月30日刊行
  • ISBN978-4-7583-2014-6

クッションやタオルを用いて嚥下障害を抑制する「ポジショニング」のテクニックをマスターしよう!

脳卒中,パーキンソン病,脊髄小脳変性症患者を対象とした,クッションやタオルを用いて嚥下障害を抑制する「ポジショニング」のテクニックを解説した実践書。6事例×3疾患=計18事例に対するポジショニングのテクニックを中心に,疾患の病態,誤嚥の現状および検査法等について紹介している。


序文

編集の序

 神経疾患に代表される脳卒中片麻痺やパーキンソン病,脊髄小脳変性症は直接的に摂食・嚥下機能に障がいをきたす疾患である。また,経口摂取を断念せざるを得ない状況になった結果,胃瘻の増設を余儀なくされる頻度が非常に高い疾患でもある。疾患特性から誤嚥性肺炎を発生させる比率が非常に高く,死因別死亡率においても上位に挙げられる因子となっている。
 神経疾患の症状は多岐にわたり,食事の提供にも配慮が要求されるが,日常的な介護や生活のなかではフォーカスを浴びることなく「何気に」食べさせられている。傾斜した姿勢や前ずりなど,嚥下を実施するうえで不利な姿勢であるにもかかわらず,問題視されずに食事が提供されている現状を多く目にする。誤嚥性肺炎は,医療や介護の質により予防が可能であることから,無関心に提供された結果発生する誤嚥はヒューマンエラーとして考えなければならない。誤嚥性肺炎を誘発する症状に対しては,主として言語聴覚士が中心になり介入されているのが現状である。咽頭や喉頭の機能を中心に介入がなされているが,側方への傾斜や前ずりなど,異常な姿勢下で実施されると効果が半減するものであると考えられる。姿勢にかかわる理学療法士の介入や,食事操作にかかわる作業療法士,食事場面に直接対峙する看護師・介護福祉士など,多岐にわたる職種が同一の視点で食事環境について共通の問題点を把握し情報交換を行う必要がある。
 急性期や回復期には積極的な介入により効果が期待できるが,維持期や生活期においては身体に生じている障がいが嚥下に対する物理的な制限因子となる。喉頭挙上不全,口唇閉鎖不全,食道入口部開大不全など嚥下に対して不利な条件が形成され,医療や介護などの分野においても対応が困難となっている。舌運動や咀嚼,咽頭喉頭活動などの実質的な障害が残る神経疾患患者に対して適切に食事環境を整えることで誤嚥の危険を回避できることを学ばなければならない。外発的とはいえクッションやバスタオルなどを座面やバックサポートに挿入することで,食事を摂る環境として安全な座位姿勢を獲得でき,咽頭や喉頭の機能が効果的に発揮されやすい位置関係を構築できる。単に「座らせる」というだけでは嚥下障害に対する配慮とは言えず,体幹や肩甲帯,咽頭や喉頭の位置関係などを詳細に分析して介入する「ポジショニング」という概念が安全に食べるためには重要であり,どの局面においても考慮されなければ,嚥下障害を抑制することは困難である。
 本書を通して,今まで対応が困難であった摂食・嚥下障害患者に対するサポートが可能となり,結果的に誤嚥性肺炎の抑制に繋がることを願っている。また,患者の食事に対する欲を失わせず,口から食べることを簡単に諦めさせることなく「食は人生」であることを最大限に理解した医療・介護技術職の育成に本書を役立てていただければ幸いである。

2019年8月
東京医療学院大学
内田 学
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書評

山梨リハビリテーション病院
作業療法士 山本 伸一

臨床で活かせるポジショニングのバイブルだ!
 編者の内田 学先生とは,若いころからのお付き合いで,共に脳卒中患者に対するアプローチを研鑽し合った仲間である。いつしか先生は教壇に立ち,教育と臨床の両立を成立させている万能者だ。特に摂食・嚥下の分野においては,第一人者といっても過言ではない。その先生から,電話で書評の依頼をいただいた。私は即答で「OK」。その後,献本を持って私の職場にわざわざ来院くださった。久しぶりにお会いしさまざまな話になったが,出版に対する熱意が半端ではない。その思いに私は心が躍り,ますます本書が読みたくなった。
 私は立場上,急性期・回復期・生活期・終末期のすべての現場に立たせていただくことがある。摂食・嚥下に関するアプローチは,急性期や回復期ではもちろんのこと,期間が一番長い生活期においても,医療職の数が減ることから,そのあり方が雑になっている可能性がある。本来は,PT,OT,ST,そして医師や看護師,介護士等のチームによる多職種連携が必要だろう。しかしながら病状が慢性期になればなるほど,多職種間の関係性は乏しくなるのが現状だ。慢性期といっても,その病状は刻々と変化していることは間違いない。それなのに,たとえば在宅への訪問ともなれば,職種を問わずにすべてのことを把握する必要がある。起居動作を含めた移動,食事,入浴,更衣,整容,IADL等を,もしかしたら1人の訪問スタッフが介入しなければならないかもしれない。療養病棟やデイサービス等でも然り。これが現実である。特に,食事関連は「生きる」に直結する大切な行為だ。摂食・嚥下における基礎知識は,絶対に知っておかなければならないし,それを活かすためのポジショニングの実践が求められている。そう思う。
 本書の「編集の序」では,先生の想いが綴られている。「無関心に提供された結果発生する誤嚥はヒューマンエラーとして考えなければならない。」と切実だ。現状を整理し,ポジショニングの重要性を説き,医療・介護技術職の育成を訴えている。
 第Ⅰ章では,「ポジショニングの考え方」の背景として,正常な嚥下機能と誤嚥の場合を図解入りでわかりやすく説明。さらには,姿勢と嚥下の相互関係を説いている。骨盤の後傾による後方重心の姿勢が頭部(下顎)にどのように影響するのか,そしてそれに対する具体的なポジショニングまでを網羅している。
 各論は,脳血管障害片麻痺,パーキンソン病・脊髄小脳変性症といった代表的な神経疾患の具体的事例報告である。脳血管障害片麻痺患者では,弛緩性麻痺患者と痙性麻痺患者の場合を報告しており,さらに3疾患共通で,「全介助者に対するポジショニング」,「自己摂取者に対するポジショニング」に分けられ,読んでわかりやすく,整理しやすい印象だ。対象者像にはふんだんにイラストを使用し,重心がどのようになっているか等,姿勢と嚥下の状態がどう影響しているかが一目でわかる。また,必要な物品等は写真で掲載。読者に理解しやすいよう,イラストと写真の使い分けが何とも嬉しい。介入例は,「飲み込むときにむせ込んでしまう」,「頭が下がってしまい口が開かない」,「お皿に手が届かない」,「手で支えないと座っていられない」,「首が傾き口から食物がこぼれる」,「前ずりが目立つ」といった,まさに現場で悩まされる事例に対する具体的介入だ。これらは,明日から活用できることを確信させる。さらには,「誤嚥の現状」,「誤嚥を客観的に検査する方法」等という構成になっている。
本書は,姿勢を意識した神経疾患患者の食べられるポジショニングに関して,臨床で必要な知識と具体的介入が満載である。医療・介護職のすべての方々へ,自信をもってお勧めする。ご執筆いただきました先生方,お疲れ様でした。そして,ありがとうございました。

(作業療法ジャーナル Vol.54, No.1, 2020.より引用)
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目次

第1章 ポジショニングの考え方
  ポジショニングの考え方  内田 学
   はじめに
   従来のポジショニングという概念
   本書が提案する「嚥下とポジショニング」
 
第2章 脳血管障害片麻痺患者の嚥下障害に対するポジショニング
弛緩性麻痺患者にみられる嚥下障害
 全介助者に対するポジショニング
  飲み込むときにむせ込んでしまう(嚥下反射の惹起)  内田 学
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
 自己摂取者に対するポジショニング
  嚥下後に胸やけが起こる(下部食道括約筋の弛緩,胃食道逆流)  内田 学
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈
痙性麻痺患者にみられる嚥下障害
 全介助者に対するポジショニング
  1回の嚥下で飲みきれない(痙性麻痺による姿勢異常)  内田 学
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈
  頭が下がってしまい口が開かない(頸部筋の筋緊張異常) 内田 学
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈
 自己摂取者に対するポジショニング
  お皿に手が届かない(痙性麻痺による姿勢異常)  内田 学
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈
  犬食いの姿勢で食べており,よくむせる(舌骨の挙上不全)  内田 学
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈

第3 章 パーキンソン病の嚥下障害に対するポジショニング
 全介助者に対するポジショニング
  食物に注意が向かない(頸部伸展,体幹後傾位)  中城雄一
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/覚醒状態について/ポジショニングの効果
  口への取り込み・咀嚼・送り込みができない(口腔機能低下)  中城雄一
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
  手で支えないと座っていられない(重度の不良姿勢)  中城雄一
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
 自己摂取者に対するポジショニング
  食事の際にむせる・食べこぼしがみられる(摂食動作に必要な上肢機能と不良姿勢の関係)  徳永典子
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
  食べ物が落ちていかない感じがする(食塊の通過障害の疑い)  徳永典子
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
  むせ込みの弱い努力性の食事動作(前ずりと体幹の側屈が目立つ)  寺内知香
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果

第4章 脊髄小脳変性症の嚥下障害に対するポジショニング
 全介助者に対するポジショニング
  介助された食物が取り込めない(食物の取り込み・咀嚼機能低下)  樫村祐哉
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
  噛まずに飲み込んでしまう(咀嚼機能低下)  小玉 唯
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
  首が傾き口から食物がこぼれる(体幹失調)  熊谷隆人
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
 自己摂取者に対するポジショニング
  スプーンの操作が雑(失調による姿勢調節障害)  藤田賢一
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/ポジショニングの効果
  スプーンに向かって首を無理やり突っ込む(前傾前屈による頸部の過伸展)  最上谷拓磨
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果
  前ずりが目立つ(骨盤と胸郭の可動性低下)  最上谷拓磨
   介入前の姿勢/介入後の姿勢/ポジショニングの方法/ポジショニングの解釈/不良姿勢と嚥下障害の解釈/ポジショニングの効果

第5章 誤嚥の現状
  誤嚥の現状  山口育子
   はじめに
   脳血管障害片麻痺患者の誤嚥の現状
   パーキンソン病患者の誤嚥の現状
   脊髄小脳変性症患者の誤嚥の現状
   まとめ

第6 章 誤嚥を客観的に検査する方法
  直接的検査  山口育子
   嚥下造影検査(video fluorography;VF)
   嚥下内視鏡検査(video endoscopy;VE)
   超音波画像診断
  間接的検査  山口育子
   問診とフィジカルアセスメント
   スクリーニング検査
   総合的な嚥下能力評価
   まとめ

第7 章 姿勢と嚥下から考えるポジショニングの重要性
  姿勢と嚥下から考えるポジショニングの重要性  内田 学
   神経疾患患者における姿勢と嚥下
   重力下における頭頸部の位置と嚥下筋の関係
   嚥下筋の作用を不利に働かせる神経疾患患者の異常姿勢の特徴
   頸部の立ち直り反応と嚥下機能
   姿勢と舌運動の関連性
   まとめ
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