精神科作業療法の理論と技術
定価 4,620円(税込) (本体4,200円+税)
- B5判 296ページ 2色,イラスト80点,写真20点
- 2018年3月30日刊行
- ISBN978-4-7583-1925-6
電子版
序文
編集の序
『精神科作業療法の理論と技術』を発刊するにあたり,私の過去の思いが本書に大きく影響しました。
私が作業療法士の養成校に入学してから,早いもので20年以上が経過しました。その頃の情報量は現在とは比較にならない程に差があり,特にインターネットによる情報は天と地ほどの差がありました。パソコンは大変高級品であり,講義や実習のレポートは手書きの時代でした。ワープロを卒業研究のために購入した際は,それすら便利時代の到来をしみじみ感じたものです。あの頃から早20年,時代は急速な変化を遂げました。精神科医療も同様です。
私が初めて就職した勤務先は“小さな町の大きな精神科病院”。このイメージは当時からあり,精神科デイケア,精神科作業療法において患者さんと様々な作業を共有しました。しかし,あの頃の私は漠然とした思いをいつも抱え,「何かが違う」という思いに支配されていたように思います。辛い臨床でした。その思いは時間の経過とともに膨れ上がり,私の体には治りつかない状態になったことを思い出します。もちろん楽しいことも多くありました。同僚に恵まれ,仕事終わりには作業療法について語り明かしました。あの頃の私に今の私が助言するのであれば,「良本を手に取り,勉強し,あなたの作業療法を研修会や学会で深化させ,目の前の患者さんに向き合いましょう」と叱咤激励すると思います。あの頃の私は,精神科作業療法を学ぶ手段を手に入れなければならなかったのだと思います。これらが本書の根源となりました。
本書の役割は,精神科作業療法を深く理解し,患者さんに良質な精神科作業療法を提供したい方の役に立つことです。この度は新進気鋭の22名の作業療法士に協力を依頼しました。執筆者全員が現在の精神科作業療法におけるトップランナーです。精神科病院の作業療法士だけではなく,地域支援に従事する作業療法士,大学などの教育に携わる作業療法士など全領域の作業療法士が集結しました。本書では精神科作業療法士が担うべき役割,活躍すべき施設や機関などの詳細を解説し,精神科作業療法の治療構造を具体的に示しています。また,統合失調症モデルに偏ることなく,うつ病,双極性障害といった,多くの精神疾患を疾患ごとに解説しています。さらに,精神科医療において重要とされている精神療法,認知行動療法をはじめ,近年において実用性が具体的になったリワークプログラムや認知リハビリテーションについても詳しく解説しています。本書が精神科作業療法の発展に寄与し,臨床や教育において活用されることを願います。
文末になりましたが,本書においてご協力いただきました作業療法士の方々,本書においてご助言くださった恩師の方々に深くお礼を申し上げます。
2018年2月
早坂友成
『精神科作業療法の理論と技術』を発刊するにあたり,私の過去の思いが本書に大きく影響しました。
私が作業療法士の養成校に入学してから,早いもので20年以上が経過しました。その頃の情報量は現在とは比較にならない程に差があり,特にインターネットによる情報は天と地ほどの差がありました。パソコンは大変高級品であり,講義や実習のレポートは手書きの時代でした。ワープロを卒業研究のために購入した際は,それすら便利時代の到来をしみじみ感じたものです。あの頃から早20年,時代は急速な変化を遂げました。精神科医療も同様です。
私が初めて就職した勤務先は“小さな町の大きな精神科病院”。このイメージは当時からあり,精神科デイケア,精神科作業療法において患者さんと様々な作業を共有しました。しかし,あの頃の私は漠然とした思いをいつも抱え,「何かが違う」という思いに支配されていたように思います。辛い臨床でした。その思いは時間の経過とともに膨れ上がり,私の体には治りつかない状態になったことを思い出します。もちろん楽しいことも多くありました。同僚に恵まれ,仕事終わりには作業療法について語り明かしました。あの頃の私に今の私が助言するのであれば,「良本を手に取り,勉強し,あなたの作業療法を研修会や学会で深化させ,目の前の患者さんに向き合いましょう」と叱咤激励すると思います。あの頃の私は,精神科作業療法を学ぶ手段を手に入れなければならなかったのだと思います。これらが本書の根源となりました。
本書の役割は,精神科作業療法を深く理解し,患者さんに良質な精神科作業療法を提供したい方の役に立つことです。この度は新進気鋭の22名の作業療法士に協力を依頼しました。執筆者全員が現在の精神科作業療法におけるトップランナーです。精神科病院の作業療法士だけではなく,地域支援に従事する作業療法士,大学などの教育に携わる作業療法士など全領域の作業療法士が集結しました。本書では精神科作業療法士が担うべき役割,活躍すべき施設や機関などの詳細を解説し,精神科作業療法の治療構造を具体的に示しています。また,統合失調症モデルに偏ることなく,うつ病,双極性障害といった,多くの精神疾患を疾患ごとに解説しています。さらに,精神科医療において重要とされている精神療法,認知行動療法をはじめ,近年において実用性が具体的になったリワークプログラムや認知リハビリテーションについても詳しく解説しています。本書が精神科作業療法の発展に寄与し,臨床や教育において活用されることを願います。
文末になりましたが,本書においてご協力いただきました作業療法士の方々,本書においてご助言くださった恩師の方々に深くお礼を申し上げます。
2018年2月
早坂友成
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目次
Ⅰ章 精神科作業療法の意義
1 精神科作業療法の歴史・関連法規 照井林陽
精神科作業療法の歴史
関連法規と精神科作業療法
診療報酬と精神科作業療法
2 医学モデルと生活モデル 黒川喬介
医学モデルとは
生活モデルとは
精神科作業療法における医学モデルと生活モデルをどうとらえるか
精神科作業療法の過去と未来
3 精神疾患の理解 稲富宏之
はじめに
統合失調症はどのようにして診断されるのか
統合失調症は医学的にどのように理解されているのか
ほかの精神疾患はどのようにして理解されるのか
4 精神科におけるチーム医療 德永直也
チームについて
チーム医療
チーム医療の一方向性と双方向性
精神科チーム医療を構成するメンバーとそれぞれの役割
精神科作業療法の専門性と特殊性そして臨床チームにおける役割
まとめ
Ⅱ章 精神科作業療法の役割
1 精神科病院 稲垣成昭
施設の役割
精神科病院における作業療法士の役割
2 総合病院 長島 泉
はじめに
施設の役割(対患者,対社会)
施設の仕組み(構成要因)
作業療法士の役割
3 精神科診療所(精神科クリニック)の機能と役割 高橋 健
施設の役割
施設の仕組み
作業療法士に求められる役割
4 デイナイトケア 福家亜希子
デイナイトケア等の役割
デイナイトケア等の仕組み
作業療法士の役割
5 訪問リハビリテーション:精神科アウトリーチ 佐藤嘉孝
施設の役割
組織の仕組み
作業療法士の役割
6 就労移行支援 髙橋章郎
はじめに
障害者総合支援法
精神障害者の就労支援における作業療法士の役割
7 復職支援 芳賀大輔
復職支援(リワーク)とは
作業療法士の役割
事例
8 グループホーム 宮崎宏興
共同生活援助(グループホーム)とは
共同生活援助の利用に際した費用の考え方
さまざまな支援との関連性
実践例
作業療法士の役割
おわりに
9 医療観察法病棟 南 庄一郎
施設の役割(対患者,対社会)
組織の仕組み(構成要因)
医療観察法病棟における作業療法士の役割
Ⅲ章 精神科作業療法の治療構造 早坂友成
1 作業療法の手順
各工程の対応と方法
作業療法の心得
2 作業療法の仕組み
4重の治療構造
対応法と構造化(治療計画)の要素
3 評価と治療の原則
患者・対象者のとらえ方
回復段階
治療段階
4 作業療法の原理・原則
Ⅳ章 各精神疾患の精神科作業療法
1 統合失調症 森元隆文・岩根達郎
はじめに
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
2 うつ病 髙橋章郎・岡崎 渉
はじめに
評価法
治療法
事例(典型例)
3 双極性障害 田尻威雅・木納潤一
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
4 神経症 織田靖史・芳賀大輔
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
5 依存症 佐藤嘉孝・南 庄一郎
はじめに
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
6 摂食障害 稲垣成昭・長島 泉
はじめに
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
7 認知症 照井林陽・黒川喬介
評価法
治療法
事例
8 発達障害圏 中村泰久・宮崎宏興
発達障害の疾患特性
発達障害の二次障害としての精神疾患
社会参加状況
評価法
治療法
事例
9 早期精神疾患 田中友紀・龍 亨
精神疾患の早期介入について
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
10 その他の精神疾患 早坂友成
パーソナリティ障害
身体症状症
不眠障害
Ⅴ章 各理論と精神科作業療法
1 精神療法 稲富宏之
精神療法
精神療法の分類
精神科作業療法への活かし方
2 力動精神医学 織田靖史
力動精神医学とは
作業療法への活かし方
留意点
3 地域生活支援 木納潤一
精神障害リハビリテーションとリカバリー
地域生活を支援するうえでの心構え
精神科退院前訪問指導
長期入院患者への生活支援
長年にわたる生活支援
4 認知行動療法 森元隆文
認知行動療法とは
精神科作業療法への活かし方
留意点
5 社会生活技能訓練 中村泰久
社会生活技能
6 認知リハビリテーション 岩根達郎
認知リハビリテーション
7 運動療法 田尻威雅
運動療法とは
精神科作業療法への活かし方
運動プログラムの流れ
介入のポイント
各運動の目的と効果
留意点
8 リワークプログラム 芳賀大輔
リワークプログラム
精神科作業療法の活かし方
留意点
1 精神科作業療法の歴史・関連法規 照井林陽
精神科作業療法の歴史
関連法規と精神科作業療法
診療報酬と精神科作業療法
2 医学モデルと生活モデル 黒川喬介
医学モデルとは
生活モデルとは
精神科作業療法における医学モデルと生活モデルをどうとらえるか
精神科作業療法の過去と未来
3 精神疾患の理解 稲富宏之
はじめに
統合失調症はどのようにして診断されるのか
統合失調症は医学的にどのように理解されているのか
ほかの精神疾患はどのようにして理解されるのか
4 精神科におけるチーム医療 德永直也
チームについて
チーム医療
チーム医療の一方向性と双方向性
精神科チーム医療を構成するメンバーとそれぞれの役割
精神科作業療法の専門性と特殊性そして臨床チームにおける役割
まとめ
Ⅱ章 精神科作業療法の役割
1 精神科病院 稲垣成昭
施設の役割
精神科病院における作業療法士の役割
2 総合病院 長島 泉
はじめに
施設の役割(対患者,対社会)
施設の仕組み(構成要因)
作業療法士の役割
3 精神科診療所(精神科クリニック)の機能と役割 高橋 健
施設の役割
施設の仕組み
作業療法士に求められる役割
4 デイナイトケア 福家亜希子
デイナイトケア等の役割
デイナイトケア等の仕組み
作業療法士の役割
5 訪問リハビリテーション:精神科アウトリーチ 佐藤嘉孝
施設の役割
組織の仕組み
作業療法士の役割
6 就労移行支援 髙橋章郎
はじめに
障害者総合支援法
精神障害者の就労支援における作業療法士の役割
7 復職支援 芳賀大輔
復職支援(リワーク)とは
作業療法士の役割
事例
8 グループホーム 宮崎宏興
共同生活援助(グループホーム)とは
共同生活援助の利用に際した費用の考え方
さまざまな支援との関連性
実践例
作業療法士の役割
おわりに
9 医療観察法病棟 南 庄一郎
施設の役割(対患者,対社会)
組織の仕組み(構成要因)
医療観察法病棟における作業療法士の役割
Ⅲ章 精神科作業療法の治療構造 早坂友成
1 作業療法の手順
各工程の対応と方法
作業療法の心得
2 作業療法の仕組み
4重の治療構造
対応法と構造化(治療計画)の要素
3 評価と治療の原則
患者・対象者のとらえ方
回復段階
治療段階
4 作業療法の原理・原則
Ⅳ章 各精神疾患の精神科作業療法
1 統合失調症 森元隆文・岩根達郎
はじめに
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
2 うつ病 髙橋章郎・岡崎 渉
はじめに
評価法
治療法
事例(典型例)
3 双極性障害 田尻威雅・木納潤一
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
4 神経症 織田靖史・芳賀大輔
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
5 依存症 佐藤嘉孝・南 庄一郎
はじめに
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
6 摂食障害 稲垣成昭・長島 泉
はじめに
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
7 認知症 照井林陽・黒川喬介
評価法
治療法
事例
8 発達障害圏 中村泰久・宮崎宏興
発達障害の疾患特性
発達障害の二次障害としての精神疾患
社会参加状況
評価法
治療法
事例
9 早期精神疾患 田中友紀・龍 亨
精神疾患の早期介入について
評価法
治療法(支援法)
事例(典型例)
10 その他の精神疾患 早坂友成
パーソナリティ障害
身体症状症
不眠障害
Ⅴ章 各理論と精神科作業療法
1 精神療法 稲富宏之
精神療法
精神療法の分類
精神科作業療法への活かし方
2 力動精神医学 織田靖史
力動精神医学とは
作業療法への活かし方
留意点
3 地域生活支援 木納潤一
精神障害リハビリテーションとリカバリー
地域生活を支援するうえでの心構え
精神科退院前訪問指導
長期入院患者への生活支援
長年にわたる生活支援
4 認知行動療法 森元隆文
認知行動療法とは
精神科作業療法への活かし方
留意点
5 社会生活技能訓練 中村泰久
社会生活技能
6 認知リハビリテーション 岩根達郎
認知リハビリテーション
7 運動療法 田尻威雅
運動療法とは
精神科作業療法への活かし方
運動プログラムの流れ
介入のポイント
各運動の目的と効果
留意点
8 リワークプログラム 芳賀大輔
リワークプログラム
精神科作業療法の活かし方
留意点
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新進気鋭のOTが執筆した,新しい精神科作業療法のテキスト。臨床での実践書としても活用できる
わが国のこれまでの精神科作業療法は,社会的入院患者を主な対象としてきた。社会的入院患者の多くは統合失調症患者であることから,精神科作業療法は統合失調症への実践によって研鑽されてきたともいえる。しかし,近年のうつ病や双極性障害の患者の増加,地域医療の推進など,精神科領域を取り巻く環境の変化は著しく,精神科作業療法の治療構造を前提とした,各精神疾患に対応する作業療法の実践がより重要になった。
本書は,近年の傾向に即して精神科作業療法を解説している。臨床と教育の現場で活躍する作業療法士を執筆陣に迎え,これまでの研究を総括したうえで,実際の臨床経験に基づく精神科作業療法の理論と技術を解説している。養成校のテキストとしても,臨床現場での実践書としても活用できる書籍である。