症例動画から学ぶ
婦人科腹腔鏡手術
合併症対策とその予防
エキスパートからのメッセージ
定価 12,100円(税込) (本体11,000円+税)
- B5判 200ページ オールカラー,写真540点,イラスト21点,DVD-Video付き(8本/計106分)
- 2017年3月24日刊行
- ISBN978-4-7583-1742-9
電子版
序文
内視鏡である腹腔鏡が,検査や処置のためではなく本格的な手術器機として用いられるようになったのは,1990年前後のCCDカメラの登場と進化にある。その発端は,何といっても外科領域での胆囊摘出術である。術式と器具・器材などをパック化したことにより,短期間で爆発的に普及した。
一方,婦人科領域では,以前より体外受精のための採卵や,受精卵の移植の手段に腹腔鏡が導入されていたが,その時期が早すぎたため,当時の器機や器具では手術が出来るものではなかった。ちょうどその頃,精巧な経腟超音波が登場し,腹腔鏡の衰退に滑車をかけた。
そのような黎明期ともいえる時期に,卵巣囊腫に対する“伊熊法”を考案し,腹腔鏡手術は誰にでも出来る技法として世に出した。しかし,当時は術式から技法,器材・器具も無い中で,様々な経験をした。その解決法として,手技・手法の習得,習熟はもちろん,術式の改善や新たな概念の導入,器具・器材の考案,製品化に至るまで関わってきた。また,同時期に患者へのインフォーフドコンセントが導入され,腹腔鏡手術は保険適用外であることへの対応など,多くの課題にも直面した。
それから,四半世紀を過ぎた現在,ロボット手術の導入,実践的な単孔式手術の普及,NOTESといった新しい概念への取り組み,またそれに付随する機器・器具・器材の改良・開発,教育や人材育成など,内視鏡手術を取り巻く環境の変化には目を見張るものがある。
しかし,変わらないものもある。それは手術方法ではなく,手術内容を如何に安全で確実に行うか,また,考慮すべき合併症やトラブルから回避できる手法を習得することである。
これまでにも腹腔鏡手術の適応拡大に関わってきた。また,従来の手術内容を腹腔鏡手術に切り替えていく中で,想定外な事例に出くわすこともあると,身をもって体験した。腹腔鏡手術ならではの良いこともあったが,合併症を含めた各種トラブルもあり,“光と影”の存在を認識した。健全な内視鏡手術の普及は,“影”に焦点を当てる必要があり,日本産科婦人科内視鏡学会と日本内視鏡外科学会を通して普及活動にも携わってきた。腹腔鏡手術はその内容を映像に残すことができる。手術全体を撮影し,可能な限り鮮明に,そして必要時にはビデオ編集も出来る。そして,手抜きはしないこだわりが技術上達への近道とする信念の下,継続してきた。皆様にも役立つであろう内容を動画と共に本書でも解説している。
腹腔鏡手術は“Pure Technique”が基本と考える。しかし,固執した考えにより,とんでもないことに落ち入る報告も散見される。それは,腹腔鏡手術では術者の技量が問われるが,その場に応じた対応も必要である。以前は,“補助:assist”が認められていたが,現在では“純:pure”が求められ,それに捉われ過ぎブラックホールに陥ることがあると思われる。その回避法として“Hybrid”の考え方が芽生えてきたのである。それは,卵巣囊腫摘出術や,筋腫摘出術,子宮全摘術に対しても同じである。本書では,長い道のりで辿り着いた“Hybrid”の概念も合わせて公表することにした。
ただ,同じような事例は他施設でも起こり得ると予測し,これまでを振り返りながら,新たな概念を紹介したいと考える。
ビデオの構成から編集に至るまで全て自身で作成している。また,合併症やトラブルシューティングの解説では,表現に制限もあるため至らぬ点があることをご理解いただきたい。本書を手にされた皆様のお役に立てれば幸いである。
最後に,出版に当たり,推薦文を頂いた日本産科婦人科内視鏡学会理事長 竹下俊行先生,執筆頂いた明樂重夫先生,浅川恭行先生,北脇城先生,楠木泉先生,子安保喜先生,棚瀬康仁先生,山本泰弘先生に感謝致します。
2017年2月吉日
日本産科婦人科内視鏡学会名誉会員
日本エンドメトリオーシス学会顧問
日本内視鏡外科学会名誉会員
淀川キリスト教病院顧問
伊熊健一郎
一方,婦人科領域では,以前より体外受精のための採卵や,受精卵の移植の手段に腹腔鏡が導入されていたが,その時期が早すぎたため,当時の器機や器具では手術が出来るものではなかった。ちょうどその頃,精巧な経腟超音波が登場し,腹腔鏡の衰退に滑車をかけた。
そのような黎明期ともいえる時期に,卵巣囊腫に対する“伊熊法”を考案し,腹腔鏡手術は誰にでも出来る技法として世に出した。しかし,当時は術式から技法,器材・器具も無い中で,様々な経験をした。その解決法として,手技・手法の習得,習熟はもちろん,術式の改善や新たな概念の導入,器具・器材の考案,製品化に至るまで関わってきた。また,同時期に患者へのインフォーフドコンセントが導入され,腹腔鏡手術は保険適用外であることへの対応など,多くの課題にも直面した。
それから,四半世紀を過ぎた現在,ロボット手術の導入,実践的な単孔式手術の普及,NOTESといった新しい概念への取り組み,またそれに付随する機器・器具・器材の改良・開発,教育や人材育成など,内視鏡手術を取り巻く環境の変化には目を見張るものがある。
しかし,変わらないものもある。それは手術方法ではなく,手術内容を如何に安全で確実に行うか,また,考慮すべき合併症やトラブルから回避できる手法を習得することである。
これまでにも腹腔鏡手術の適応拡大に関わってきた。また,従来の手術内容を腹腔鏡手術に切り替えていく中で,想定外な事例に出くわすこともあると,身をもって体験した。腹腔鏡手術ならではの良いこともあったが,合併症を含めた各種トラブルもあり,“光と影”の存在を認識した。健全な内視鏡手術の普及は,“影”に焦点を当てる必要があり,日本産科婦人科内視鏡学会と日本内視鏡外科学会を通して普及活動にも携わってきた。腹腔鏡手術はその内容を映像に残すことができる。手術全体を撮影し,可能な限り鮮明に,そして必要時にはビデオ編集も出来る。そして,手抜きはしないこだわりが技術上達への近道とする信念の下,継続してきた。皆様にも役立つであろう内容を動画と共に本書でも解説している。
腹腔鏡手術は“Pure Technique”が基本と考える。しかし,固執した考えにより,とんでもないことに落ち入る報告も散見される。それは,腹腔鏡手術では術者の技量が問われるが,その場に応じた対応も必要である。以前は,“補助:assist”が認められていたが,現在では“純:pure”が求められ,それに捉われ過ぎブラックホールに陥ることがあると思われる。その回避法として“Hybrid”の考え方が芽生えてきたのである。それは,卵巣囊腫摘出術や,筋腫摘出術,子宮全摘術に対しても同じである。本書では,長い道のりで辿り着いた“Hybrid”の概念も合わせて公表することにした。
ただ,同じような事例は他施設でも起こり得ると予測し,これまでを振り返りながら,新たな概念を紹介したいと考える。
ビデオの構成から編集に至るまで全て自身で作成している。また,合併症やトラブルシューティングの解説では,表現に制限もあるため至らぬ点があることをご理解いただきたい。本書を手にされた皆様のお役に立てれば幸いである。
最後に,出版に当たり,推薦文を頂いた日本産科婦人科内視鏡学会理事長 竹下俊行先生,執筆頂いた明樂重夫先生,浅川恭行先生,北脇城先生,楠木泉先生,子安保喜先生,棚瀬康仁先生,山本泰弘先生に感謝致します。
2017年2月吉日
日本産科婦人科内視鏡学会名誉会員
日本エンドメトリオーシス学会顧問
日本内視鏡外科学会名誉会員
淀川キリスト教病院顧問
伊熊健一郎
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目次
I.手術の各段階において発生する合併症の種類とその対策
1.腹腔進入時,気腹時,閉創時
・アプローチ
基本的なオープン法
腫瘍が大きな場合のオープン法のバリエーション
オープン法のPitfall
VersaStep™を用いた手技・手法
腹腔鏡手術既往のある症例でのアプローチ
・トロカー挿入(第二トロカー以降)と針の出し入れ
Pitfallとリカバリー法
ブレードレストロカー挿入と針の出し入れ時の注意点
・トロカーの抜去
12mm径トロカー孔,5mm径トロカー孔への対処
合併症,PitfallとそのTrouble Shooting
2.術中操作時
・卵巣囊腫の手術
卵巣囊腫に対する手術術式の変遷と新たな概念の導入
体外法の検証
Pitfallと対応策
皮様囊腫の手術手技
著者が考える大きな卵巣囊腫に対する新たな概念の手術手技“Hybrid Laparoscopic Cystectomy”
・子宮筋腫の手術
TLMの基本操作:粘膜下筋腫例から
LAMを進化させたHLMの紹介
LAMで起きた術後合併症例
筋腫回収時におけるPitfallと対応策
・単純子宮全摘術 ①標準術式と合併症
子宮全摘除術の変遷
Total Laparoscopic Hysterectomy(TLH)の現在の手順と手技
Hybrid Laparoscopic Hysterectomy(HLH):新たな概念の手法の紹介
・単純子宮全摘術 ②子宮摘出のPitfallと対応
術式の分類
適応の拡大と術式の変遷
TLHの実際
・子宮内膜症による高度な癒着例から:PitfallとTrouble Shooting
避けては通れない子宮後壁と直腸との癒着剥離例
直腸損傷とそのリカバリー
Trouble Shooting
II.合併症の予防対策(安全・確実な手術操作)
・効率の良いドライラボでの縫合訓練
目的
方法
お勧めの訓練法
コメント
・技術認定医ビデオ審査について
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定申請方法
ビデオ審査基準と評価項目
評価項目の採点のポイント
III.合併症の予防とリスクマネージメント
腹腔鏡手術における合併症の予防
合併症が起きてしまったら? そのリスクマネージメント
IV.日本産婦人科内視鏡学会の実技研修会のこれまで
日本産科婦人科内視鏡学会の実技研修会とは
実技研修会の特徴
実技研修会の実際:〜1日目
実技研修会の実際:〜2日目
プライマリコースのカリキュラム
産科婦人科内視鏡学会技術研修会の目指すもの
1.腹腔進入時,気腹時,閉創時
・アプローチ
基本的なオープン法
腫瘍が大きな場合のオープン法のバリエーション
オープン法のPitfall
VersaStep™を用いた手技・手法
腹腔鏡手術既往のある症例でのアプローチ
・トロカー挿入(第二トロカー以降)と針の出し入れ
Pitfallとリカバリー法
ブレードレストロカー挿入と針の出し入れ時の注意点
・トロカーの抜去
12mm径トロカー孔,5mm径トロカー孔への対処
合併症,PitfallとそのTrouble Shooting
2.術中操作時
・卵巣囊腫の手術
卵巣囊腫に対する手術術式の変遷と新たな概念の導入
体外法の検証
Pitfallと対応策
皮様囊腫の手術手技
著者が考える大きな卵巣囊腫に対する新たな概念の手術手技“Hybrid Laparoscopic Cystectomy”
・子宮筋腫の手術
TLMの基本操作:粘膜下筋腫例から
LAMを進化させたHLMの紹介
LAMで起きた術後合併症例
筋腫回収時におけるPitfallと対応策
・単純子宮全摘術 ①標準術式と合併症
子宮全摘除術の変遷
Total Laparoscopic Hysterectomy(TLH)の現在の手順と手技
Hybrid Laparoscopic Hysterectomy(HLH):新たな概念の手法の紹介
・単純子宮全摘術 ②子宮摘出のPitfallと対応
術式の分類
適応の拡大と術式の変遷
TLHの実際
・子宮内膜症による高度な癒着例から:PitfallとTrouble Shooting
避けては通れない子宮後壁と直腸との癒着剥離例
直腸損傷とそのリカバリー
Trouble Shooting
II.合併症の予防対策(安全・確実な手術操作)
・効率の良いドライラボでの縫合訓練
目的
方法
お勧めの訓練法
コメント
・技術認定医ビデオ審査について
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定申請方法
ビデオ審査基準と評価項目
評価項目の採点のポイント
III.合併症の予防とリスクマネージメント
腹腔鏡手術における合併症の予防
合併症が起きてしまったら? そのリスクマネージメント
IV.日本産婦人科内視鏡学会の実技研修会のこれまで
日本産科婦人科内視鏡学会の実技研修会とは
実技研修会の特徴
実技研修会の実際:〜1日目
実技研修会の実際:〜2日目
プライマリコースのカリキュラム
産科婦人科内視鏡学会技術研修会の目指すもの
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腹腔鏡手術のパイオニアから学ぶ安全・確実な産婦人科腹腔鏡手術の実際
本書では,術中に発生する主に手術操作によって生じる偶発合併症を取り上げ解説。術中に起こる偶発合併症の頻度は1%強といわれるが,技術が向上した現在においても減少することなく一定数が発生している。産婦人科領域の腹腔鏡手術のパイオニアである筆者自らが経験した手術合併症を動画とともに公開し,そこから何を学ぶのか,そしてリカバリーの方法,さらには予防法までを十分に解説。産婦人科医必携の書である。