リハビリテーションのための
ニューロサイエンス
[Web動画付]
脳科学からみる機能回復
定価 5,280円(税込) (本体4,800円+税)
- B5判 296ページ 2色(一部カラー),Web動画 9本/計4分
- 2015年9月29日刊行
- ISBN978-4-7583-1684-2
電子版
序文
「奇跡のリハビリテーション」は,この世に存在するのだろうか。
通常では改善しないと思われていた患者の症状が,予想に反して劇的な回復をみせた場合に,われわれは奇跡という言葉で表現する。そこには,リハビリテーションに携わったセラピストや,それまでの経緯を温かく見守ったご家族,そして何より回復を成し遂げたご本人に向けられた畏敬の念が込められている。
本書で紹介するBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)の手法や最新ロボットを活用したリハビリテーションなど,近年急速に発展してきた新たな介入方法は,奇跡をもたらしてくれるのだろうか。反論を恐れずに言うならば,近年のリハビリテーション神経科学が教示してくれるのは,われわれが「リハビリテーションによる障害からの機能回復」という現象に対して,如何に知らないことが多いかという事実である。そのため,リハビリテーションの臨床に従事するセラピストや神経科学者は,未だに奇跡といわれている回復現象に焦点を当て,それを解明する努力をしなくてはならない。通常では考えられない機能回復が起こった場合,その通常から外れたレアケースに注目し,その背後にある回復機序を理解する努力を続けなければ,もたらされた奇跡は単なる偶然か,不思議な現象として終わってしまう。
本書は,理学療法士・作業療法士・機能訓練指導員などリハビリテーションに携わるセラピストを対象に,神経科学の最新の知見を取り上げ,リハビリテーションの介入による機能回復に潜む神経メカニズムの理解を試みるものである。1章では神経科学の基礎的事項を整理し,2章ではリハビリテーションによる脳の変化,3章では近年の新たな介入方法について最新の知見を紹介する。最終章では,典型例として中枢神経疾患のケーススタディをもとに,神経科学の知見から症例をどのように捉えればよいのか,セラピストと神経科学者の両方の立場からリハビリテーションを俯瞰していく。リハビリテーションによる機能回復に,神経科学の手法で切り込んでいくことにより,いつの日か奇跡ではなくなることを願っている。すなわち,確かな理解と技術によって患者に向き合い,患者とご家族にとっての奇跡を,セラピストにとっては偶然ではなく確実なものとして届けられることを願うものである。
2015年9月
西条寿夫
伊佐 正
浦川 将
通常では改善しないと思われていた患者の症状が,予想に反して劇的な回復をみせた場合に,われわれは奇跡という言葉で表現する。そこには,リハビリテーションに携わったセラピストや,それまでの経緯を温かく見守ったご家族,そして何より回復を成し遂げたご本人に向けられた畏敬の念が込められている。
本書で紹介するBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)の手法や最新ロボットを活用したリハビリテーションなど,近年急速に発展してきた新たな介入方法は,奇跡をもたらしてくれるのだろうか。反論を恐れずに言うならば,近年のリハビリテーション神経科学が教示してくれるのは,われわれが「リハビリテーションによる障害からの機能回復」という現象に対して,如何に知らないことが多いかという事実である。そのため,リハビリテーションの臨床に従事するセラピストや神経科学者は,未だに奇跡といわれている回復現象に焦点を当て,それを解明する努力をしなくてはならない。通常では考えられない機能回復が起こった場合,その通常から外れたレアケースに注目し,その背後にある回復機序を理解する努力を続けなければ,もたらされた奇跡は単なる偶然か,不思議な現象として終わってしまう。
本書は,理学療法士・作業療法士・機能訓練指導員などリハビリテーションに携わるセラピストを対象に,神経科学の最新の知見を取り上げ,リハビリテーションの介入による機能回復に潜む神経メカニズムの理解を試みるものである。1章では神経科学の基礎的事項を整理し,2章ではリハビリテーションによる脳の変化,3章では近年の新たな介入方法について最新の知見を紹介する。最終章では,典型例として中枢神経疾患のケーススタディをもとに,神経科学の知見から症例をどのように捉えればよいのか,セラピストと神経科学者の両方の立場からリハビリテーションを俯瞰していく。リハビリテーションによる機能回復に,神経科学の手法で切り込んでいくことにより,いつの日か奇跡ではなくなることを願っている。すなわち,確かな理解と技術によって患者に向き合い,患者とご家族にとっての奇跡を,セラピストにとっては偶然ではなく確実なものとして届けられることを願うものである。
2015年9月
西条寿夫
伊佐 正
浦川 将
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目次
1章 脳の機能と損傷による変化
1 脳神経科学の基礎理論
リハビリテーションと神経科学の研究領域
神経細胞とその周辺システム
リハビリテーションにかかわる神経システム(神経制御機構)
中枢神経障害後の経時的変化(損傷によって何が起こるか)
機能的変化をさぐる(短期的変化・長期的変化)
リハビリテーションによる機能回復(神経機構)の概念
2 運動機能・感覚機能〜運動にかかわる大脳皮質と皮質下脳領域の役割〜
運動の出力系
脳幹を介する出力系
感覚入力系
制御系
運動の動機づけ(覚醒,記憶,情動,本能,自律神経,内分泌系)
運動の熟達
3 運動にかかわる大脳皮質各領域の役割
運動制御における7つの問題
運動関連領野の役割
前頭前野群
頭頂葉群
まとめ
4 神経損傷後の神経回路再編成
脳梗塞巣近傍領域における神経回路再編成
グリオ細胞における変化
健常半球における神経回路再編成と機能代償
おわりに
5 記憶のダイナミクスとそのメカニズム
恐怖条件付け学習
記憶の固定化(短期記憶から長期記憶へ)
記憶の再固定化(想起による記憶の強化・更新)
記憶の消去学習
記憶のアップデート機構(過去の記憶をもとにした新たな記憶の形成)
記憶のシステムレベルの固定化と海馬の神経新生
おわりに
2章 リハビリテーションによる脳の変化
1 生体外部からの刺激がもたらす効果:動物実験による基礎研究
豊かな飼育環境がもたらす大脳皮質の形態変化
脳における神経細胞の新生(脳損傷のない場合)
脳損傷後の神経細胞の新生
外界からの環境刺激がもたらす脳損傷後の神経細胞新生への影響
2 サル脳損傷からの回復過程にみる脳内変化
脳損傷モデル動物としてのサル
脳損傷後の運動トレーニングがもたらす把握動作の回復
どのようなリハビリテーション課題がより回復を促進するか
機能回復を生み出す脳活動の変化
機能回復を生み出す神経回路の変化
機能回復を生み出す遺伝子発現の変化
3 手指の機能回復を可能にする神経回路の解明
脊髄部分損傷後の機能回復モデル
機能回復に対する上位中枢の関与
神経経路の機能同定における分子遺伝学的手法の有効性
ウイルス2重感染法によるサル脊髄固有ニューロンの手指巧緻性における機能の解明
サル脊髄固有ニューロンが脊髄損傷後の手指の巧緻運動の回復において果たす役割
4 ミラーセラピー:鏡を使ったリハビリテーション
ミラーセラピーの背景と効果発現機序
鏡による錯覚を利用したリハビリテーションによって脳内で起こっていること
ミラーセラピー研究の今後について
5 手指の拘縮に対するリハビリテーション〜手からの刺激が如何に重要か〜
手指の拘縮では何が起こっているか?
拘縮に対する取り組み
高反発力クッショングリップは拘縮治療の新兵器
手に自然な心地よい刺激が入ることの重要性
3章 リハビリテーションの新たな戦略
1 BMI(brain-machine interface)によるリハビリテーション
中枢神経損傷後の回復
頭皮脳波の分析技術
運動出力型BMIの臨床研究
運動機能の回復と脳の可塑性
BMIによる神経リハビリテーションの試み
BMIによる機能回復のメカニズム(仮説)
これからの展望
2 ニューロフィードバックを用いたリハビリテーション介入
脳機能からみた脳損傷後のリハビリテーション
運動想像を用いたリハビリテーション
ニューロモジュレーションによる機能回復
ニューロフィードバック
ニューロフィードバックに用いられる脳機能測定技術
脳機能測定技術としての近赤外分光法(NIRS)
NIRSを用いたニューロフィードバック
NIRSを用いたニューロフィードバックの脳卒中後片麻痺への応用
脳卒中後片麻痺患者以外への応用
3 ロボットによる歩行リハビリテーション
通常歩行に関与する神経制御機構
歩行のリハビリテーション再考
ロボットを活用した歩行へのリハビリテーションアプローチ
歩行のリハビリテーションにおける上位中枢
おわりに
4 人工神経接続によるリハビリテーション
脳神経損傷後に残存している神経回路網
機能的電気刺激
神経活動依存的電気刺激
人工神経接続による機能再建
人工皮質脊髄路による皮質脊髄路のシナプス結合の強化
おわりに
4章 リハビリテーションの実践と脳科学
臨床での実践で,脳に何が起こっているのか
臨床での取り組みを脳科学者と相互ディスカッションする意義
症例A:歩行障害
症例B:上肢機能障害
症例C:認知(高次脳)機能障害,高齢者
1 脳神経科学の基礎理論
リハビリテーションと神経科学の研究領域
神経細胞とその周辺システム
リハビリテーションにかかわる神経システム(神経制御機構)
中枢神経障害後の経時的変化(損傷によって何が起こるか)
機能的変化をさぐる(短期的変化・長期的変化)
リハビリテーションによる機能回復(神経機構)の概念
2 運動機能・感覚機能〜運動にかかわる大脳皮質と皮質下脳領域の役割〜
運動の出力系
脳幹を介する出力系
感覚入力系
制御系
運動の動機づけ(覚醒,記憶,情動,本能,自律神経,内分泌系)
運動の熟達
3 運動にかかわる大脳皮質各領域の役割
運動制御における7つの問題
運動関連領野の役割
前頭前野群
頭頂葉群
まとめ
4 神経損傷後の神経回路再編成
脳梗塞巣近傍領域における神経回路再編成
グリオ細胞における変化
健常半球における神経回路再編成と機能代償
おわりに
5 記憶のダイナミクスとそのメカニズム
恐怖条件付け学習
記憶の固定化(短期記憶から長期記憶へ)
記憶の再固定化(想起による記憶の強化・更新)
記憶の消去学習
記憶のアップデート機構(過去の記憶をもとにした新たな記憶の形成)
記憶のシステムレベルの固定化と海馬の神経新生
おわりに
2章 リハビリテーションによる脳の変化
1 生体外部からの刺激がもたらす効果:動物実験による基礎研究
豊かな飼育環境がもたらす大脳皮質の形態変化
脳における神経細胞の新生(脳損傷のない場合)
脳損傷後の神経細胞の新生
外界からの環境刺激がもたらす脳損傷後の神経細胞新生への影響
2 サル脳損傷からの回復過程にみる脳内変化
脳損傷モデル動物としてのサル
脳損傷後の運動トレーニングがもたらす把握動作の回復
どのようなリハビリテーション課題がより回復を促進するか
機能回復を生み出す脳活動の変化
機能回復を生み出す神経回路の変化
機能回復を生み出す遺伝子発現の変化
3 手指の機能回復を可能にする神経回路の解明
脊髄部分損傷後の機能回復モデル
機能回復に対する上位中枢の関与
神経経路の機能同定における分子遺伝学的手法の有効性
ウイルス2重感染法によるサル脊髄固有ニューロンの手指巧緻性における機能の解明
サル脊髄固有ニューロンが脊髄損傷後の手指の巧緻運動の回復において果たす役割
4 ミラーセラピー:鏡を使ったリハビリテーション
ミラーセラピーの背景と効果発現機序
鏡による錯覚を利用したリハビリテーションによって脳内で起こっていること
ミラーセラピー研究の今後について
5 手指の拘縮に対するリハビリテーション〜手からの刺激が如何に重要か〜
手指の拘縮では何が起こっているか?
拘縮に対する取り組み
高反発力クッショングリップは拘縮治療の新兵器
手に自然な心地よい刺激が入ることの重要性
3章 リハビリテーションの新たな戦略
1 BMI(brain-machine interface)によるリハビリテーション
中枢神経損傷後の回復
頭皮脳波の分析技術
運動出力型BMIの臨床研究
運動機能の回復と脳の可塑性
BMIによる神経リハビリテーションの試み
BMIによる機能回復のメカニズム(仮説)
これからの展望
2 ニューロフィードバックを用いたリハビリテーション介入
脳機能からみた脳損傷後のリハビリテーション
運動想像を用いたリハビリテーション
ニューロモジュレーションによる機能回復
ニューロフィードバック
ニューロフィードバックに用いられる脳機能測定技術
脳機能測定技術としての近赤外分光法(NIRS)
NIRSを用いたニューロフィードバック
NIRSを用いたニューロフィードバックの脳卒中後片麻痺への応用
脳卒中後片麻痺患者以外への応用
3 ロボットによる歩行リハビリテーション
通常歩行に関与する神経制御機構
歩行のリハビリテーション再考
ロボットを活用した歩行へのリハビリテーションアプローチ
歩行のリハビリテーションにおける上位中枢
おわりに
4 人工神経接続によるリハビリテーション
脳神経損傷後に残存している神経回路網
機能的電気刺激
神経活動依存的電気刺激
人工神経接続による機能再建
人工皮質脊髄路による皮質脊髄路のシナプス結合の強化
おわりに
4章 リハビリテーションの実践と脳科学
臨床での実践で,脳に何が起こっているのか
臨床での取り組みを脳科学者と相互ディスカッションする意義
症例A:歩行障害
症例B:上肢機能障害
症例C:認知(高次脳)機能障害,高齢者
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リハビリテーションスタッフが本当に知りたい脳科学がここにある
近年,脳科学・脳神経学に関する研究は目覚しい進歩を遂げており,臨床現場でも根拠ある治療法として広く活用されはじめている。本書は,神経科学の立場から,脳に損傷を受けたことにより脳内でどのような変化が起きているか,リハビリテーションの一環として動作等を実施している際に何が起きているのか,これまでにないリハビリテーションの戦略としてどのようなことが研究されているのか,といったテーマを中心に解説している。
実験や脳の活動変化などの視覚的な表現を伴う解説についてはイラストや動画を挿入し,最新機器によるリハビリテーションの様子や,リハビリテーション時の患者の変化を示す内容を視覚的に理解することができるようになっている。また,側注に用語解説を設け専門用語をわかりやすく解説しているので,脳科学・脳神経学の入門書としても最適である。
リハビリテーションスタッフが知るべき脳科学研究をまとめた,リハビリテーションスタッフのための脳科学解説書である。